コラム

2017年、大切にしたいことばたち
(第1回)

年始コラム

私たちは日々取材を通してさまざまな方たちと出会い、いろいろな生き方・働き方に触れます。

2017年も、心の込もった言葉たちにたくさん出会いました。

スタッフそれぞれの印象的だった言葉を聞いてみると、どこか共通点もあるような…。

そこで、もう少し先まで話してみることにしました。

全3回でご紹介する「大切にしたいことばたち」。1回目となる今回は、編集スタッフの遠藤沙紀、森田曜光、後藤響子による鼎談形式でご紹介していきます。

 

 

何にもやらなんだら、はじまらないっていうのが、やっぱりあるんちゃうかな
京都府与謝野町役場/大上さん 「やらなんだら!」より

与謝野町

かつては丹後ちりめんの生産地として発展してきた京都府与謝野町。時が過ぎ、過疎化していく町をなんとかしようと、町民が手探りではじめたシルクプロジェクトを取材したときに、役場職員の大上さんがくれた言葉です。

 

後藤:どうしてこの言葉を選んだのですか?

遠藤:日本仕事百貨ではよく地域おこし協力隊を募集するよね。でも、実際は人がなかなか集まらなかったり、入職しても続かず辞めてしまうというお話も聞いていて。いい協力隊、地域おこしって何だろう。そんなことを考えていたときに聞いて印象に残っているんです。

後藤:どういうところが?

遠藤:もともと与謝野は丹後ちりめんという織物の一大生産地だったの。でも時代が変わり、需要がなくなって町の勢いがなくなり若い人たちが減っていっているというのが現状で。

そこで、役場の人や商工会の有志が集まって新たな産業をつくろうとシルクプロジェクトというのを立ち上げたんです。完全に純与謝野町産のシルクをつくって、それで6次産業品をつくったりできるんじゃないかと。

絹織物の町だけど、シルク自体は90%以上を輸入してきたから、みなさんシルクなんてつくったことがないまったくの素人。地域住民からいろんなことを言われながらも、何か未来に可能性があるならやってみようって言って動いてる。

後藤:本当に手探りなんですね。

遠藤:私たちの親世代、しかも守りに入ってもおかしくない立場の人たちが、次の世代のために、失敗するかもしれなくても批判があろうとも、どうにか町を変えていかなきゃって行動してるのは、感じるところがあった。

後藤:今はどんなことを思ってる?

遠藤:丸投げされる協力隊ってうまくいかないんじゃないかなって。過疎化しているどの地域でも、何とかして変えていかなきゃっていう意識は感じる。いろんな地域で協力隊を募集するのは、変えてくれるんじゃないかっていう期待からなんだと思う。

でも、地域住民にしか分からない事情や保守的な考えもあったりするから、お互いを理解して協力しながら進めないとうまくいかないと思うの。自分が担当した記事で入った方が辞めてしまったことがあって、それを聞いてとても残念だった。同じ方向を向いて、一緒に町を良くしようと動いてくれる地域の人がいないと。

後藤:何かを頼む/頼まれる側ということじゃなくて、同じ土俵に立つ。そういう関係性は、やっていて正直でいられそうな気がします。

森田:丸投げってある意味、期待していませんよって言っているような気がしていて。本当に良い結果を出したいと思ったら、協力隊に丸投げなんてしないで、一緒に協力してやっていくはず。だから、本当にまちのことを考えているのかな?とも思う。

最近感じるのは、協力隊を受け入れる担当者さんの熱量が高いところはうまくいっているなって。同じ熱量、同じ土俵でやっていくことが大切なんだと思うな。

 

 

こういう人はお客さんじゃないとか、これは儲からないとか、そういうことじゃなくて。一人ひとり大事にしっかり向き合っていくしかないんですよね。
車椅子工房輪/浅見さん 「人を信じるということ」より

輪・浅見さん

車いす工房輪さんは、主に電動車椅子をお客さん一人ひとりに合わせてオーダーメイドしている会社。お客さんは重度の障害を持つ方ばかりで、人によって症状が全然違うので、何度も調整や打ち合わせを重ねながら車椅子をつくっています。

 

遠藤:なんでこの言葉を選んだの?

森田:代表の浅見さんの人柄が、この言葉にすごく出ていて。浅見さんの人としての向き合い方が、そのまま会社のあり方になっているんだよね。

遠藤:浅見さんの人としての向き合い方。

森田:たとえば浅見さんは、好きになるまで10年かかったお客さんがいる、と話していたのが印象に残っていて。めちゃくちゃこだわりが強いお客さんで、要望する部品をつけるためだけに新しい機械も導入したし、1回の打ち合わせに10時間もかかる。手間もお金もかかるから、浅見さんはハラワタ煮え繰り返りながらやっていたって。

じゃあなんで断らなかったんですか?って聞いたら、自分もそういうのが好きなんでしょうねって言うんです。人に対してすごく真面目で実直なんですよね。

それである日、気づいた。車椅子って利用者さんにとっては単なる道具とか乗り物じゃなくて、なくてはならない体の一部なんだって。だからそのお客さんはわがまま言うんだってことが分かったら、その人を好きになったと浅見さんは言うの。さらに、その人の要望に応えることで自分の技術が上がったから、結果的にはその人に育ててもらえたんだと思えたって。

普通の人なら、そもそもそんなお客さん断わると思う。でも浅見さんが断らないのは、仕事というより、浅見さん自身のあり方というか、生き様なんだなって感じて。

遠藤:今の話を聞いていて、浅見さんの人間くさい感じや人との向き合い方みたいなものが、車椅子を通して形になった気がする。方法が車椅子づくりじゃなかったとしても、きっと浅見さんはどんな仕事をしてもこういう人なんだろうね。

森田:たしかにそうだろうな。尊敬するし、羨ましいなと思う。

後藤:羨ましいというのは、そういう仕事ができるということに対して?

森田:やっぱり効率とかお金のことって気になっちゃうと思う。もちろん浅見さんもそこを考えているだろうけど、でもそれを振り切るくらいの強い信念を持っている。浅見さんは独立する前にこの仕事を天職としてやっていこうと決めたんですって。そういうのもいいなぁって。僕も日々いろんな仕事を取材して、自問自答しながら模索しているので。

 

 

僕らはまだ形になっていないものでも、とにかく自分たちがすごいと思うものをつくりたい。大事にしているのは、冒険してみるということ
株式会社グリッドフレーム/田中 稔郎さん 「スクラップ・アンド」より

グリッドフレーム

グリッドフレームは、様々な店舗の内装を設計から施工まで一貫して手がけている会社。つくる過程にこの会社の特徴があります。設計や制作などを担当するそれぞれが自分のアイデアを加えて、リレーをしていくように空間をつくっているんです。

 

森田:どうしての言葉を?

後藤:取材をしていると、自分の好きなことを大切にしている人には、ぶれない軸のような強さを感じることが多くて。田中さんの言葉からもそうした力強さを感じました。

グリッドフレームの空間づくりは、お客さんからのヒアリングをもとに空間を提案するのは他社と同じでも、最初に書かれた図面通りに形にするのではなくて。設計・制作・施工の各担当者には20%ほどの自由度が与えられて、それぞれのアイデアを積み重ねてリレーしていくようにつくっている。その過程が面白いと思ったんです。

この方法だと、基本となるコンセプトのうえに各担当者の裁量を与えているから、自分の意図以外のものが多く入ってくると思うんです。それって自分のイメージから離れていくかもしれないけれど、田中さんはそれさえ楽しんでしまっているようでした。

森田:後藤さんは日本画を描くよね。その一部分を他人に任せるってどう?

後藤:そうですね。そのままにはしておけないかもしれません。

森田:なんで田中さんはそれを楽しいと思えるんだろう。

後藤:田中さん曰く、多様なもの・自分が把握しきれないものと関わることによって、人はもっとすごくなれるんじゃないかとおっしゃっていて。

グリッドフレームの仕事でいえば、一般的には空間の中にないような要素を取り入れることで、その場所を訪れた人の頭が活性化するような空間づくりを目指していると。

そのために大事にしているのは、1人の創作に閉じていかないこと。各担当者が自分のアイデアを活かしてつくっていくことを尊重している。「創造性の連鎖」と田中さんは表現しています。

森田:自分で考えたら自分以上のものは出てこない。田中さんはそっちに楽しさを感じているんだろうね。

後藤:そうですね。田中さんは竣工後に現場に行って、おぉ!と思わされるのが楽しみだと言っていました。自分の想像とは違うものができあがってくるのを一緒に楽しめる感覚っていいなと思うんです。

森田:寛容でもあるし、貪欲な人だなって気がした。自分だけがつくることに飽きちゃってもいて、もっと刺激を欲しているような。不安要素を抱えてでも求めたくなる、極端に言えばそんな感覚があるのかも。

後藤:そうかもしれませんね。

遠藤:想像していなかった新しいアイデアが生まれていくことが楽しい。そうやって楽しみたいというスタンスが、田中さんらしい仕事の仕方をつくってきたんだろうね。

 

 

どの仕事にも感じられるのが、行動にその人の生き様が現れて、さらにまわりの人たちが感化されていくこと。

それは一緒に働く人たちだけでなく、取材をしている私たちにも影響しているように感じました。

ほかにもたくさんの素敵な言葉たちに出会えました。ありがとうございます。2018年もどうぞよろしくお願いいたします。

スタッフがそれぞれの「大切にしたいことば」を持ち寄りました。ぜひご覧ください。
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