編集長の中川です。
2018年の夏から3年にわたって務めてきた編集長の役割を、このたび引き継ぐことになりました。次なる編集長は、ぼくと同い年の編集スタッフ・稲本琢仙くんです。
三重県出身、お寺が実家の彼は、あまりほかで見ないほどきれいに刈り込んだ坊主頭で3年前に入社してきました。ひょろっとしていて、もの静かで、穏やか。いつもちょっと体調がわるそうだけど、機械周りのトラブルを嗅ぎつけてはささっと直してくれる、頼もしい一面も持っています。そして、修行時代の逸話や何気ない日常の話が面白い。抑えた声で淡々と語るから、余計にじわじわくるのです。
そんな稲本くんと、代表のナカムラケンタと3人で、編集長や日本仕事百貨の今とこれからについて、ざっくばらんに話しました。その様子を今回はお届けします。
ちなみにここ、清澄白河のリトルトーキョーの5階です。飲食も対面でのイベントも、しばらくお休みしていますが、リニューアルオープンに向けて絶賛工事中。
それぞれの新たな日々に向けたゆるやかな鼎談、よければご覧ください。
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ケンタ:まず、日本仕事百貨はどんなメディアだと思うか。ここから話しましょうか。
稲本:これはケンタさんがずっと言っていますけど、いろんな生き方働き方を紹介するメディアだと思っていて。記事も、応募してもらうためっていうより、人とか仕事をどう伝えたら一番いいのかなって考えて書いている。だから求人サイトではあるけど、求人求人していないというか。人と仕事を紹介していくっていうところに重きを置いているのかなって思います。
ケンタ:なるほどね。中川くんはどう思う?
中川:正直なメディア、みたいなことは意識していますね。
「あるがままに伝える」っていう表現もありますけど、最近はちょっと違いを感じていて。あるがままっていうのは、相手がこうですって言ったことをそのまま伝えるイメージ。その言葉を聞いて、疑問に思ったり、引っかかったりした感覚も含めて反映するのが正直。ちゃんと違和感を拾って投げ返したり、あるいは読んでる人に向けて「ここ、やっぱ気になるよね」みたいなことを差し込んだり。それが、ぼくらが第三者として介在して伝える価値だと思っています。
ケンタ:取材をしていて、「うちってこういう会社だったんだ」というような感想もいただくよね。ときには本人たちも気づいていない、その会社らしさみたいなものが引き出されているというか。
中川:思い通りにしゃべってもらうより、話し手も読み手も、自分たちにも、新鮮な気づきがあるような時間がいいですよね。あとは、自分の会社について足りてないと思ってることとか、こんな理想があるんだけど、そことの差分がまだこれだけある、みたいなことの意味。それって求人の基本というか、だからこそ人を求めるわけで。そこをしっかり言葉に起こしていくことで、読みものとしての厚みも一段階変わってくる気がしています。
稲本:インタビューでありつつ、社内での壁打ち、ワークショップみたいな。そういう場にもなっていますよね。
ケンタ:やっぱり求人サイトだっていうところがまず大きいよね。話し手の方々もいい人を採用したいし、切実だから、結構深いところまで話していただける。読者側の目線で言うと、第三者の話じゃなくて、求人を通じて当事者にもなれるんじゃないかっていう予感があるから、そこに面白さがあるのかもしれないよね。
稲本:ぼくも切実に読んでました。仕事百貨で仕事を探してたので。
中川:探してたんだ。どれぐらいの期間?
稲本:本当に探そうと思って読んでいたのは3、4ヶ月ぐらいですね。
ケンタ:そもそも仕事百貨を最初に知ったきっかけは?
稲本:大学のときですね。求人サイトを検索して知ったんだと思います。
ケンタ:なるほど。でも、すぐに応募したわけではないじゃない? 入社したのは2018年だったよね。それまでも見ていたの?
稲本:大学のときにちょくちょく見てて。ぼく、その後は寺へ修行に行ってて外界の情報に触れられなかったので。家に帰ったあとに、もっぺん見始めましたね。仕事探すのに。
ケンタ:お坊さんの修行期間としてはまっとうしたの?
稲本:一応は。どれだけ長くいてもいいんですけど、ぼくは1年ちょっとで終えて。実家に帰って、結局あんまりやることがなかったので、何か別の仕事しようかなっていうときに読んでました。
ケンタ:それで仕事百貨の文章ゼミに参加して。声をかけられ、入社して。入ってからのギャップって何かあった? 外から見たイメージと、なかに入ってからと。
稲本:ぼく、話を聞くのは結構好きだったんですよ。インタビューも、大学のときにちょっとやっていたので、それはよかったんですけど。仕事として書くっていうのは、結構しんどいなと思いましたね。
ケンタ:しんどい。
稲本:うん。それは思ったかな。あとはなんだろう。自分が実際に足を運んで話をさせてもらって、こんなに世の中いろんな仕事があるんだなっていうのは、記事を読んでたとき以上に感じましたね。
ケンタ:なるほどね。中川くんはインターンからだよね。いつからだったっけ?
中川:ぼくは2014年。大学3年の終わりに知って、4年に上がるタイミングで入ったんです。就活の一般的なリズムからすると遅いっていうか。
ケンタ:そうだね、もう内定がとれてるかもしれないぐらいの時期。就職活動に対してはどう感じていたの。
中川:なんだろうな。自分自身の動機ではない何かに動かされる、みたいな感じがあって。もっと自分の想いとか、やりたいことの延長線上に仕事を選ぶってことが、ちゃんとつながっていくような出会い方ってないのかな、みたいに思っていたんですよ。
あとは単純に、何十社とか、そんなに行きたいところないよなと思って。
ケンタ:今はどうかわからないけど、就職活動で何十社と受けるとか、当時は普通だった。別に珍しいことじゃなかったなあ。自分も10社以上は受けたかな。
中川:それが一般的になってるのって、いったいどういうことだろう。なんか不思議だなって。そんなふうに思いながら仕事百貨を読んでいたときに、ちょうどインターン募集の記事が出てきて。ここなら、なんらか納得感のあるつながり方ができるんじゃないかなと思って応募したんです。
ケンタ:その1年半後に、晴れて社員になったんだよね。インターンから含めて今何年?
中川: 7年半ぐらいですかね。
ケンタ:早いね。おじさんになるとだんだん時間の流れが早くなるな。
ケンタ:それで、編集長をやることになったじゃない。3年前か。どうでした?
中川:「別に何かができるから編集長になるわけじゃない」って話は、もともとケンタさんからされてましたけど、自分にできるかな、みたいなプレッシャーはありました。
そのなかで、校正っていう仕事は、大事な要素になっていきましたね。仕事百貨が今まで、営業せずにご依頼をいただき続けられているのも一つひとつの記事ありきだし、その質をまず上げていくこと。もう一方で、3年ぐらいで編集者が退職するリズムもあったので、その要因は何かなっていうと、やっぱりちょっと苦しい。書くのが大変、みたいな声もあったので、そこはどうにかしたいなと思って。編集者のアウトプットをもっとスムーズにするために、自分が関われたらとは思っていました。
ケンタ:ぼくも13年やってきたけど、3年ぐらいの周期で、ある種のスランプ、踊り場とかマンネリみたいなのが起きるっていうのはわかるな。
一般的な編集長って、広告塔的なイメージもあるよね。中川くん的にいうとそれは、ある種のファシリテーターだったのかね。
中川:うーん、みんなのエネルギーが、ちゃんと自分のやるべきこと、やりたいことに注げる環境をつくる感じですかね。いい環境をつくれば、日々アウトプットする記事もよくなっていくし、みんなも持続的に働けるし、っていう。
編集長だった3年のうち、半分ぐらいはコロナ禍に重なって。去年の4月とか、ぱったりご依頼がなくなったときはどうしようと思いましたけど、そこでより内側にぐっと意識が向かう感じはありました。
ケンタ:いろんな仕事を取材する仕事でもあるし、自分のやりたいことが見つかったら、それは応援して送り出したいっていうのが基本スタンスだけど、一方で長く働けるような会社でもありたい。組織も関わる人も、どうしたら持続可能になっていくか、みたいなことは自分もよく考えているかも。
稲本くんはまだこれからですけど、どんな編集長になっていきたいですか。
稲本:ぼくの今の感覚は、中川さんの最初の感覚とたぶん似ていて。自分がめちゃくちゃ記事を上手に書けるっていう感覚はないし、今中川さんがやっていることをそのまま同じようにできるとも思えないので。何をしていきたいのかっていうよりも、自分に何ができるかなっていう感覚ですね、今のところは。
中川:ぼくはこの1年半、フルリモートで働きながら、会社の真ん中に物理的に会える人がいるっていうことの意味を考えていて。自分が出社していたときを振り返っても、話しかけやすくはなかったと思うんです(笑)。その点稲本くんは、いつ話しかけてもいい感じがあるし、本人的にそれをどう感じてるかわからないけど、いろんな情報がまず集まってくる、というか。その役割ってケンタさんでも難しい気がするんですよ。年代的なものもあるだろうし。
ぼくは、その人のもとにいろんな声が寄せられるっていう部分がすごく、編集長というか、メディアの核を担う人としては大事なのかなと。それを稲本くんに必ずしもやってほしいってわけじゃないけど、そういうことなのかなと理解しています。
ケンタ:そうね。やっぱり稲本くんは、いろいろ目を配って、先回りしていろんなことを気にかけてくれる人なので、そういう意味では編集長にも向いてると思うし。中川くんは、仮だけどね、ローカルライター長になるわけじゃない?
中川:語呂わるいな…(笑)。
ケンタ:自分で取材して自分で書く編集の仕事は、リモートワークに結構向いてると思っていて。ローカルライターのみなさんは全員リモートなわけで、そのチームをつくっていくのはある種の実験、チャレンジだからね。
中川:面白くなっていく予感はありますね。今年からようやく始動して、取材の数もちょっとずつ増えてきているし。今まで自分たちも、書き手同士の個性を真似したり盗んだりしながら、書けることの幅を広げてきた感じはあるんですけど。やっぱりその地に根ざしているからこその言葉があるし、「今までの仕事百貨的にはあんまりこういう書き方はしなかったけど、ありかも」っていう発見があったりして。それはすごく面白いですね。
ケンタ:やっぱり内側から見えない部分もあると思うから。外から見えることをフィードバックしてほしい。役割として、ふたりは太陽と月みたいな感じかな。
あれ、そういえば移住先は決まったの?
中川:決まりましたよ。長崎県の東彼杵町に行きます。自分もこれからはローカルライターの一人として、「東京スタッフに負けねえぞ」みたいな感覚もありますね。
今全国に9名いるローカルライター、みなさん前向きにというか、面白がって取材もしてくれているので。そのエネルギーがほかのスタッフにもいい刺激になったらいいなと思っています。
ケンタ:そうだね。ローカルライターチームの今後も楽しみだな。
じゃあ最後に、これからどんなメディアにしていきたいか。
中川:どんなメディア…。まあ、ぼくはやっぱり最初に立ち戻るんですが、「正直」っていうところにまだまだ可能性を感じているというか。ローカルライターさんも、仕事百貨っぽいやわらかさでコーティングされていない、ゴツゴツした原稿を書いてくれていて。それを全部磨いてまるく均一にせずに、読みごたえのある記事をもっともっと増やしていきたいですね。
ケンタ:そうね。仕事百貨の文章はこうじゃなきゃ、って決まりは究極ないというか。武道の守破離じゃないけどね。型はあるけど、絶対に守らなきゃいけないものは、突き詰めたら何一つない。
自分もマンネリ化しそうなときはあったんだけど、今でもフレッシュに一つひとつの記事を書けているのは、毎回答えはいかようにでもあるから。その追求は面白い。
中川:基本を逸脱したときに、それがいいのかどうかはフラットに判断できるメディアでありたいなと思います。
ケンタ:稲本くんはどんなメディア、どんな会社、どんなチームにしていったらいいと思ってますか?これは今後の行動を拘束するものではないから、今思ってることでいいです。
稲本:最近すごく思うのが、誠実なメディアでありたいなって。それは正直と似てるかもしれないですけど。話し手が「これ書かれたら、ちょっとマイナスかもしれないな」って思うようなことも、ちゃんと書く。読んでくれる人に対して誠実に伝えるっていうのが、書く側の意識としてはすごく大事だなと。
稲本:こういう意図で、こう書いてますっていうふうに、ちゃんと自分で説明できれば、話し手の方も納得してくれるんですよね。やっぱり、誠実に伝えられるメディアになっていくのがいいんじゃないかなっていうのは、今話を聞いていて思いました。
ケンタ:うん。あとはなんていうか、役割が人を育てることは大いにあると思います。まずは一個一個積み上げていけばいいのかな。
ぼくには、明確な狙いはないから。つまり、役割って、おのずと何かしらの方向に人を育ててくれるものだから。ぼくもその役割によって育てられたところも大きいので。まあ、楽しみですな。
稲本:そうですね。ぼくは自分からこういう役割に手を挙げる人じゃないので、これまでの人生振り返っても。今回機会をもらったので、頑張りたいなと思っています。
ケンタ:はい。じゃあ、一緒に頑張っていきましょう。
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というわけでみなさま、3年間ありがとうございました! 途中でさらりと話しましたが、ぼくは長崎県へ移住して、ローカルライター長(いい名前を考えないと…)になります。
新編集長の稲本くん、そして日本仕事百貨を、これからもどうぞよろしくお願いします。
(2021/9/15 中川晃輔)
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