株式会社loop&loop
本社:奈良県奈良市
従業員数:35名
事業内容:
NAOT、entwa(エントワ)、POSIPOSY(プスプス)、ループ舎、fuai(ファイ)
靴の販売を行うNAOT、オリジナルのアパレルブランドentwa、fuai、POSIPOSY、出版レーベルのループ舎。
「会社って、木のように育っていけるんだ」
奈良にある株式会社loop&loopを訪ねると、働く一人ひとりの「やってみたい」が芽吹くように、仕事が生まれていた。
35人が働いており、東京と名古屋にも店舗がある。
「『この会社おもしろそう』という感じで愛知、東京、北陸、岐阜…いろいろなところから人が集まっています。今では関西出身者のほうが少ないくらい」
近鉄奈良駅から徒歩12分。loop&loopのオフィスは、ならまちにあるオフィスビルの3階にある。
「わーいいね」「すばらしい!」
入口のドアを開けようとすると、中から楽しそうな声が聞こえてきた。
角部屋ということもあり、オフィスの窓からはパノラマビューが広がる。奈良市でもっとも高い興福寺五重塔も見える。730年に建立された、50.937mの建物。
大阪や京都にいるとなかなか感じることがないけれど、奈良の3階はとてもぜいたくだった。地面に近いところで暮らしているからかな。
オフィスを借りたのは、2022年のこと。事業の成長にともない、以前の事務所が手狭になりつつあったloop&loop。みんな通りがかるたび「あそこ、空いてるみたい」と気になっていたらしい。
事務所移転にかかる費用は最小限に抑えられた。引っ越しは、自分たちで行うことに。車に荷物を積んで、階段を運んでいった。机や什器は、以前の事務所で使っていたものを持ち込んだ。
大きく改修を行ったところが一つだけある。借り上げた隣り合う2室。隔てるあいだの壁を抜くことで、自由に行き来ができるように。
カーテンの奥は倉庫になっていて、ときに商品撮影を行うスタジオにもなる。
ここでまちのことも聞いてみたい。全国5位の訪日外国人数をほこる奈良県。オフィスのあるならまちエリアは、多くの観光客が行きかう。
ならまちで働くって、どんな感じですか?
「朝はほんとに静かなんですよ。ならまちは観光地ですけど、住宅地でもある。わたしたちは観光地と住宅地の“あいだ”でお店をしているという感じ」
きれいな髪色の森本さんは、以前京都に住んでいたそう。出版社で営業から編集まで広く仕事をしてきた。家族の都合で奈良へ移ることになり、仕事を探すなかでloop&loopと出会う。現在は靴の「NAOT」と、出版レーベルの「ループ舎」を中心に仕事をしている。
「おなじ観光都市でも、京都と奈良はまた違う。京都はとにかく人が多くて、人混みになってしまうこともあるけれど、奈良はちょうど良いにぎわいが生まれている。新幹線に乗ってきたひとたちが、京都で一回ふるいにかけられるというか。ほどよいですね」
育児中でもある森本さん。奈良市の住環境についてはどうでしょう。
「奈良は広いんですよね。空が広い。道が広い。家が広い。そして、一軒家に住みたいと思ったら住める。空間が広いから、子育てもしやすい。子どもたちに『走り回っちゃダメ』『しずかに!』と叱ることもなくなりました」
「絶対に奈良に住みたい!というわけじゃなかったし、正直、奈良への期待値はそれほど高くなかったんです。だけど住んでみるとすてきなところもあるし、仕事もある。それでいて、京都大阪も近い。24時間都会じゃなくていいんです。行きたいときに行けるのがいい」
森本さんも働く出版レーベル「ループ舎」は、2018年に一人の社員が立ち上げた事業。立ち上げた本人である、服部さんにも話を聞いてみる。
「以前は関東のメーカーでグラフィックデザインの仕事をしていました。loop&loopで働くなかで、『出版やってみたい』って思った。まったく経験はなかったから、知り合いの出版業界の方に相談しながらの立ち上げでした」
メインの事業であるイスラエル製の靴「NAOT」の販売にもちなんだ「靴のおはなし」「120%くつラヂヲ」「地球に靴で乗る」や、気になるあの人に会いに行くインタビューシリーズ「気になってるん!」など、すなおな書籍が並んでいるループ舎。
「今期流行りそうだから」とか「こういうニーズがあるから」出版するというよりは、働く一人ひとりやloop&loopという会社を掘り下げていく出版だと思った。たんに「生産者ー消費者」として市場をとらえていないから、本を入口として靴を買う人が現れたり、求職者とつながることだってある。
なんだか本とみなさんはどこか似ている。オフィスでおやつを食べながら話していたら盛り上がってそのまま本になってしまった、そんな印象を受ける。あとから知ったのだけれど「おしゃべりが わになって 本になる」というコンセプトにうなずいた。
2022年にはオリジナルブランドのentwa(エントワ)、23年にはfuai(ファイ)が立ち上がる。
どれも、各シーズンのトレンドに合わせてプロダクトをつくるものではない。「この生地いいね」「この色いいね」というおしゃべりから、プロダクトが立ち上がっていく。なんだか気持ちのよい生きかた・働きかたと出会った気がした。
2024年9月にはビルを借り上げ、ループ舎、fuai、entwaのプロダクトが集まる「シロビル」がオープンした。
2階はカフェになっていて、ドリンクと軽食が楽しめる。loop&loopで働く人たちは、おいしいごはんが大好きということで、日ごろから自分たちが食べている食材も店頭に並ぶ。
出版、アパレル、フード、そして靴。
やっていることは一見ばらばらだけれど、どれにも共通しているものが伝わってくる。それは働く一人ひとりがまずは気持ちよく生きること。そして「すき」から「仕事」を育てていく。
これはきっと、広告やアナウンスに溢れかえった東京では成しえないことなんじゃないか。ほどよくまちで、ほどよく自然で、ほどよく今で、ほどよく歴史のある奈良。
その空気がそのまま洋服とか本とか靴といったプロダクトの形になっている。
「おーい」という声が聞こえて窓の外に目をむけると、シロビルの屋上からみんなが手を振っていた。
(2024/11/20 編集 大越はじめ 撮影 奥田しゅんじ)
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