株式会社narrative
本社:奈良県奈良市
従業員数:12名
事業内容:古民家を、次の世代に持続可能なカタチで継いでいく「事業」にする
古民家を地域の記憶と営みをつなぐ媒体と位置づける株式会社narrative。
地域に息づく物語を読み解き、持続可能なまちづくりに向けて、古民家を銭湯、オーベルジュ、カフェなどに生まれ変わらせている。
地域のグランドデザインを描くところから、古民家改修、そして施設運営まで。息の長いプロジェクトに取り組んでいる。
2024年9月には、若草山のふもとでオーベルジュ「VILLA COMMUNICO(ヴィラ コムニコ)」を開業した。
もとは築70年の古民家だったという。
古民家の改修には、新築以上の時間とお金とコミュニケーションコストがかかることもある。けれども、そこに積み重ねられてきた時間を受け継ぐことが新しい価値を生み出し、これから訪れる人を喜ばせてくれる。
narrativeのオフィスは、近鉄奈良駅から徒歩8分のところにある。
2018年に一つ目のプロジェクトとしてオープンした「NIPPONIA HOTEL 奈良 ならまち」。その斜向かいにある蔵を改修した2階建。
改修そのものはミニマムで、思いのほか地味な印象を受ける。
「わたしはアトリエのような雰囲気があってすき」
そう話すのは、プロジェクトマネージャーとして働く小井沼さん。
「ここは舞台裏なんです。華美な装飾は求めていません。narrativeの表舞台に立つのは、お客さまを目の前でもてなすシェフやホテリエ。わたしたちは黒子としてサポートします」
東京出身の小井沼さんは、美大卒業後、いくつかの大企業でデザインの仕事をしてきた。
前職ではどんなオフィスで働いていましたか?
「東京湾が見えるオフィスビルでした。カーペット敷きのフロアに事務机といすが並ぶ、ごくふつうのオフィスでした。音で表すと『カサカサ』かな?」
カサカサ。
「今のオフィスは、温かみがあります。うーん、土っぽさを感じます」
今では奈良県内で5エリアの拠点を運営しているnarrative。メンバーは、各拠点での打ち合わせも多い。小井沼さんは、御所市や橿原市へ電車で移動をする。
「オフィスの立地もいいんですよ。観光地のならまちにありながら、日常生活を営んでいる人たちのなかで、仕事をしている感じ」
持続可能なまちづくりから、改修、そして施設運営までを手がけるnarrativeには、日本各地からの依頼も増えている。小井沼さんも東京や山陰へ行くことがある。近鉄奈良駅から京都まで特急で30分。そこから新幹線へ。出張に際しても、特段不自由は感じていないという。
ここで「オフィスがあるっていいですね」としみじみ話してくれたのが、浦山さん。
大阪出身で、2022年6月にnarrativeへ。
「入社後は、県内の拠点を転々としながら、バックヤードでパソコンを広げて作業をすることが多かったですね」
2023年にこのオフィスが完成したとき、浦山さんは感動した。
「オフィスがあることで、メンバー同士のコミュニケーションが増えました。それまでもオンラインミーティングで用事を打ち合わせることはできました。だけど、無目的な“空気的会話”がむずかしいんですよ!」
空気的会話。
「これまでこんな仕事をしてきたとか、前の会社での仕事の進め方はこうだったとか。勉強になることがすごく多いし、そういうことを気軽に聞けるのはめちゃくちゃ大きい」
浦山さん自身は、前職で大手鉄道会社に勤めていた。
「narrativeのオフィスにいると、知らないことが減っていきます」
土造の蔵の壁はそのままに、改修を行っている。空調設備は後付けしたものの、断熱性能は劣る。すき間風も吹くから、冬場は寒さも感じる。夏になれば、虫が遊びに来ることもある。
不便さも感じながら働くなかで、得た気づきもある。そのことが、拠点運営の仕事に気づきをもたらしている。
「大きい会社にいると、オフィスのデスクも、エントランスのカーペットやお手洗のトイレットペーパーだって、誰かが用意してくれます。平成生まれのわたしは知らないまま生きていけたのかもしれない。けれど、便利さの背景には、人が介在している。その気づきが、ゆたかさを与えてくれたと思います」
narrativeの仕事は、建物を直し、地元の人、お客さんと一緒に営みを守ること。だからこそ、気づきが大切な場面も多い。
「前職をふりかえってみると、同じことだったんです。毎日いろいろなトラブルがありながらも、電車はダイヤ通りに人を運んでいました。それを支えているのは、現場で働く人たち同士の明文化されていないやりとりでした」
何かが起きたときに、おのおのが自律的に動きつつも、連携していけるのは日々のコミュニケーションがあるからだと思う。
narrativeでも、社員のライフステージに合わせてリモートワークも取り入れつつ、できるだけ集まってのコミュニケーションを大切にしている。
「オフィスがあるってすごいことなんですよ」と繰り返す浦山さん。こう続ける。
「古民家って、環境も建物も同じものは一軒としてありません。わからないことが多いから、社員同士が膝を突き合わせて、物件情報をみんなで読みとき、話し合い、考えていくことが大事なんです」
最後に、現場での打ち合わせから戻った英武(ひでたけ)さんに話を聞いた。設計士として入社後、最初の仕事がこのオフィスの改修だった。山が好きで、休日になるとオーベルジュのある若草山へ出かけることもあるという。
「以前は古民家を取り壊す側の人間だったかもしれません。ハウスメーカーで集合住宅の設計をしてきたので。その仕事をやり切ったときに、『次は手ざわりのある設計がしたい』と思ったんです」
転職して、竣工という言葉の意味が変わったという。ハウスメーカーでは、竣工は仕事の終わりを意味した。だけど、narrativeにきてからは、竣工が持続可能なまちづくりのはじまり。施設運営まで手がけるからだ。
古民家改修で大切にしているのは、そこに残っているものをできるだけ残すこと。竣工後の手直しも視野に入れ、ギリギリを見極め、ミニマムの改修に留める。
英武さんにとって、古民家や寺社仏閣の多いならまちはどんなエリアなんだろう。
「新築はきれいすぎて、空間が肩肘張っているように感じることがあります。そこにいる人の関わりもかたくなる。古民家は、そこにいる人の関わりもほぐれていきます」
「奈良はちょっと歩けば世界遺産があちこちにある。まちが散らばっているから、自分も肩肘張らずにいられるんですね。」
ここで1階からは笑い声が聞こえてきた。
2023年の春に完成した当時はゆとりのあったオフィスも、事業の成長に伴い、オフィススペースの増床を話し合う時期に来ている。
古民家というアーカイブをいかし、そこにある物語を受け継ぐ。観光のグランドデザインを描き、古民家を改修し、運営までを行う。
narrativeは、奈良をベースに、求められる場を増やしています。
(2024/11/8 取材 大越はじめ)
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