株式会社ソルトコ
本社:奈良市(兵庫県宝塚市から2024年に移転)
従業員数:8人
事業内容:「企業の強みを引き出す」というコンセプトのもと、空間、地域のブランドづくり、商品開発、Web、展示、流通までをデザインする。国内外のパートナーと共に、プロジェクトに応じたフレキシブルなディレクションを行う。
「そもそも奈良を“地方”だと捉えていなくて。日本国内だと、どこに住んでいてもそんなに遠いところはないと思うんです。むしろ大事なのは出会い。それがちゃんとあれば、仕事は成り立つし、どこに住んでいても発信できるんじゃないかな。好きな場所を選ぶのが一番だと思います」
そう話すのは、ソルトコ・福嶋さん。
手に持つのは、最近デザインした「tane」の食器。ベビー・キッズ向けプロダクトブランドだ。このデザインが生まれるまでに、100パターン試している。
はじめに厚紙をハサミで切り、大まかなモックアップをつくる。次に3Dプリンターで試作品をつくり、食事の際、子どもに使ってもらう。
手ざわりはどうか、落としてしまわないか、一人でちゃんと運べるか。観察をもとに「もう2mm大きいほうがよいのでは」「ぼこぼことした手ざわりにしてはどうか」と試作を重ねること100パターン。
「子どもが一番のユーザーです。トレイの色を検討する際に、気づかされたことがありました。彩度の高い色で試作したところ、子どもが『まぶしい!』と言ったんです」
プロダクトデザインをベースに、企画の立ち上げから流通までを広くデザインするソルトコ。
「中小企業が手がける新規ブランドをデザインすることが多いです。プロダクトの企画、試作、パッケージ、流通、販路開拓までを企業とともに話し合いながら、方向性を描いていきます」
新規ブランドの立ち上げは、クライアントさんにとって新たな船出ともいえる。期待と同時に、不安を感じる場面も多い。
たとえば販路開拓。どの展示会に出展したら、商談につながるのか。展示のレイアウトはどうしたらよいのか。クライアントさんが乗り上げそうな暗礁を取りのぞき、スムーズな船出を実現する。デザインを通じて水先案内人のような関わりをすると、長いお付き合いが生まれやすい。
SNSの運用についても依頼されることがあるそうだ。
2024年に、兵庫県宝塚市から奈良市へ本社移転したソルトコ。出会ったのは、鉄骨造の築37年の中古物件だった。
「関西でましかくの建物を探していたんです。なかなか見つからないので、新築も視野に入れていましたね」
改修にあたっては、図面を引くところから各部の材料選びまでを自社で手がけた。コンセントの位置を1センチ単位で調整し、エアコンの配管やコンセント周りを隠せるように。
そもそも、どういうオフィスを求めていたのだろう?
「プロダクトデザインは、“試すこと”が大事です。いくつもの試作品をバーっと広げられる机や、それらをもとに話し合える打ち合わせスペースをしっかり確保したかったんです」
こちらもパッケージデザインの試作の一つ。
滋賀県の洋菓子の「CLUB HARIE(クラブハリエ)」が、千葉舞浜にある商業施設「イクスピアリ」の店舗に合わせた新規出店する際、パッケージ、包装紙などのリニューアルに伴ってデザインを依頼された。お店のコンセプトは「お菓子の採掘場」。ソルトコでは、ボイドテープを用いたパターンなども提案。
最終的に、スクラッチ印刷のデザインが採用されることに。
そんなソルトコのオフィスには、いくつかの“島”が分散して設計されている。だから、スタッフは一人ひとりが居心地のよい場所を選んで、パソコンを広げられる。
8人のスタッフは、全員が毎日顔を合わせるわけではない。大阪・心斎橋PARCOで運営するコミュニティ型ワーキングスペース「SkiiMa(スキーマ)」に通勤する人も多い。
働き方だって多様だ。
「ワーキングスペースの運営をしながら、グラフィックデザインをする。マーケティングの会社で働きつつ、ソルトコのマネジメントを行う。スタッフは、いろいろな働き方をしています」
福嶋さん自身は奈良をベースにしつつ、週3日は大阪へ通勤している。
出張も多い。
「関西圏は1/3ほどです。最近でいうと山形、群馬、埼玉、千葉、東京の仕事をしています。奈良は日本の真ん中ぐらいでわりと移動もしやすい。まあ飛行機を考えると、伊丹空港まで30分で行ける宝塚の方がよかったんですが。東京へのアクセスは変わりませんね。神戸三宮も一本で行けるので」
奈良の印象をたずねてみる。
「ぼくは滋賀県出身なんですが、“日帰りで訪れる観光地”ぐらいのイメージしかありませんでした。引っ越してから日が浅いし、まだまだよさを語れる段階ではないのかな」
そんななか、オフィスをかまえたことで、奈良市のサポートを受けられるように。10月には、奈良市役所の兎本(うもと)さんに声をかけられ、日本最大級の展示会「メッセナゴヤ2024」に出展。会場で産業政策課の方につないでいただきました。これから打ち合わせていき、プロジェクトとして進めていくかを検討していきます。
住むことで意識は変化していく。
「周りも元気になることができたらと思っています。これからなにができるかな」
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(2024/10/30 取材 大越はじめ)