「働きはじめた人は、その後どうしているんですか?」
日本仕事百貨を見る人から、そんな声を聞きます。
私たちは、仕事のよいところだけでなく、大変なところもありのままに伝えるように心がけています。
というのも、仕事を見つけてもらうのではなく、よりよい生き方・働き方をしてほしいと思うから。
今回は、コラム「その後、どうですか?」の第5回目です。
第5回目は、株式会社ライジングプレナーで働く、赤津ちひろさんと小野原梢さんに話を聞きました。
ライジングプレナーは、アンティーク家具の買い取り、修復、そして国内最大級のECサイト「ラフジュ工房」での販売などを一貫して手掛ける会社です。
自然ゆたかな茨城県・常陸大宮に、それぞれI ターン・Uターンしてきたおふたり。
赤津さんはライターとして。小野原さんは、ライターとインテリアコーディネーターとして広報に携わっています。
2人はどんなふうにこの仕事に出会い、いまどんなことを考えているのか。
茨城県常陸太田市の工房に伺いました。
(聞き手:インターン生 野村暁)
―はじめに、ライジングプレナーに出会うまでのお話をきかせてください。
赤津 茨城県内で高校まで過ごした後、進学で上京し、卒業後は大学の事務をしていました。そこに7年半くらい勤めたんですけど、もっとわかりやすい仕事がしたいと思うようになったんです。
―「わかりやすい仕事」って?
赤津 簡単に言えば、ものづくりのように、目に見える何かに関わるということ。
ちょうどそのころ、知り合いに日本の手仕事によってつくられたものを販売する雑貨屋さんを紹介してもらったんです。私も仕事がお休みの日に手伝うようになって、“日本の手仕事”というキーワードが自分のアンテナにひっかかるようになりました。
―日本の手仕事。
赤津 そう。それで一度、都内でものづくりをやっている別の会社に入りました。
そのころ、仕事百貨でライジングプレナーを見つけて。何度か掲載されているし、地元である茨城の会社なので気になっていたんです。工房や職人さんが近いことと、やっていることがわかりやすいというのが魅力でしたね。
ライター経験はなかったです。
けれど、アンティーク家具のことをお客様に伝える橋渡しと考えたら、挑戦できるかもしれないと思って応募しました。
―そうだったんですね。小野原さんは、どうしてライジングプレナーに?
小野原 もともと福岡の大学で公共空間のデザインを学んでいて、卒業後は大阪にある高速道路のサービスエリアを開発している会社に就職しました。
でも、実際に働き始めると、あまりデザインやつくることに関われなくて。インテリアのように、もっと暮らしに身近なところで、ものづくりやデザインに関わる仕事がしたいと思っていたときにここの募集をみつけて、応募を決めました。
―ライジングプレナーでは、入社面接時に1日トライアルがあるそうですね。
小野原 そうです。私はインテリアコーディネーターとライターへの応募だったので、家具のコーディネートと、ライティングの課題をやりました。試験のような感じです。
赤津 ふつうの会社って、面接しかないところが多いと思うんです。けれど、面接はお互い少し装っているところもあるし、会社の中って見えないですよね。トライアルがあったことで会社の雰囲気とか、一緒に働く人たちの様子を知ることができました。びっくりしたのが、朝礼と昼礼があること。おかげで、仕事にすごくメリハリがあります。
それから、しっかりと挨拶することもおどろいたかなあ。社長が挨拶を大事にしているんですよね。
前の職場で朝礼などはなかったのでおどろいた部分もあったんですけど、トライアルに来てみて、「やれそうだな、なじめそうだな」と思いました。そういう意味では、入社前と入社後のギャップはあまり感じなかったですね。
―実際に入ってみて、どんな雰囲気ですか?
小野原 仕事の進む速度は速いというか、テンポよくポンポンとものごとが進みます。「あれもやってみよう、これもトライしてみよう」って。そう言うと活気があるイメージを抱かれるかもしれないですけど、がつがつ前のめりというよりは、穏やかな人が多いです。ミスをしても、厳しく怒るんじゃなくて、きちんと対応をしてくれる。
赤津 そうだね。社長はよく日々の業務の中で「お客さま第一優先を大切にすること」と言います。そこをはずさなければ間違いない。目的がはっきりしていて、その範囲の中であればわりと自由にやらせてくれる。だから仕事は進めやすいと思います。
―今、どんなお仕事をしているか聞かせてください。
小野原 今はメディアサイトに掲載する記事を書く仕事と、アンティーク家具をコーディネートする仕事を、半々くらいの割合でやっています。いろんな仕事があるので、どれを優先させるかを考えながら進めています。
ライティングとコーディネートのふたつの仕事を行ったり来たりするのがいいこともあるんですよ。記事の執筆で煮詰まったとき、コーディネート案を考えることで頭を切り替えたり、逆にコーディネートで得たものをライティングに生かすこともできます。
―赤津さんはどうですか?
赤津 私は記事の執筆が主な仕事です。
実は、一つ一つの記事を書くにはすごく体力を使うんです。アンティーク家具についてプロとして知っている情報は、すべてお客様にお伝えしたいから。
椅子ひとつとっても、歴史や装飾スタイル、素材、お手入れ方法など、ありとあらゆる側面から情報を提供しています。
書いているときは沢山調べものもするし、すごく集中するので、書き終わるといつもへとへとなんです(笑)。
知識を得るために本やインターネットで調べたり、すぐそばに社長の席もあるので、「社長、ちょっといいですか!」って質問します。社長はアンティーク家具にとても詳しいんですよ。
―おふたりはそれぞれIターン、Uターンとして茨城の常盤太田の地に来ています。この土地で働く、暮らすってどうですか?
小野原 私はIターンで、もともと佐賀から福岡の大学へ、そして就職で大阪へと移動していたので、茨城に引っ越すことにあまり抵抗はありませんでした。新しい土地に行ってもいいかな、くらいの感覚で。
実際に面接で初めて常陸太田に来たとき、正直ちょっと不安になりました。田んぼや畑が広がっていていいところだなあとは思ったんですけれど、実際住むとなると不便なんじゃないかって。でも、車があれば、日々の暮らしは全然困らなかったです。どこにいっても緑があるから、四季はすごく感じられますよ。
わたしは九州での生活が長かったからか、冬はとくに寒いなと思いますね。
―赤津さんはUターンですよね。地元に帰るといった感覚でしたか?
赤津 地元のまちは常陸太田から少し離れた場所にあるんです。なので、Uターンといってもあまり地元に帰るという感覚はなくて。ただ、茨城県出身だからここの田舎ぶりはよく知っていて、どれくらい生活が変わるのかは予想がついていました。
友だちや人とのつながりも東京にあるので、常陸太田に来たらさみしくなるなとか、そういう思いはありました。
でも、何か満足いかないままずっと都内にいるよりも、場所じゃなくて、自分のやりたいことをやってみようかなと思って。大きな決断ではあったけど、あまり迷いはありませんでした。
―住んでみてどうですか?
赤津 夜がちゃんと暗いから、生活がすごく規則正しくなりました。
定時の18時に帰宅していると、帰り道でだんだん空が薄暗くなっていくのがわかる。東京にいたときはこんな時間の感覚はなかったです。いつも明るくて、電車が動いているし。ここは、夜がすっごく静かなんです。こっちにきてから、1日の時間を肌で感じるようになりました。
―四季や時間を肌で感じる生活なんですね。働き方は、転職前と比べてどうですか?
小野原 前の仕事をしていたときは、土日のために働いている感覚が強かったんですが、それがあまり好きではなくて。
今、人に自分の仕事について話すとき「こんな仕事をしてるんだよ!」って、自信を持って言えるようになりました。
自分でも、仕事が好き、っていうのがわかるんです。
つらかったりすることももちろんありますけど、総合的にみてやっぱり今の仕事が好きだなって思います。
―仕事が好き、いいですね。
赤津 私も小野原と同じで、前は土日のために働いていました。土日がゆっくり休めるようにと事務の仕事を選んだはずなのに、平日仕事で感じる満たされない思いのようなものが、土日のお休みに影響していたように感じます。仕事と休み、切り離せるはずなのに、できていかなかった。
だから、今はストレスフリーなんです。
―ストレスフリー?
赤津 つい先日、友達に「仕事の愚痴言わなくなったね」って言われたんです。
仕事は大変でも、自分がやりたいことをやっていて、自分の仕事をちゃんと誰かに説明できる。
不思議と、平日と休日をはっきり分けられるようになりました。平日は集中して仕事。休みの日は仕事とは全然違うことを考える。もやもやがなくなりました。ここには満員電車も、長い残業もないですしね。
―今後はどうなっていきたいですか?
赤津 ひとつひとつ、出来ないことをできるようになっていきたいです。たとえば、画像の編集スキルを身につけたり。
それから、やっぱりもっと家具のことを知りたいと思います。
実は、入社時はアンティーク家具そのものにはまったく興味がなかったんです(笑)。ゼロベースだった。でも今は興味のアンテナがたっています。
ライジングプレナーには家具のリペア職人が沢山いますが、いずれはいちから家具をつくる職人さんの話も聞いてみたいですね。
―小野原さんはどうですか?
小野原 今度、会社の敷地内に新しくハウススタジオが出来るので、コーディネートの幅が広がっていきそうなんです。今まで専用のスタジオがなくて叶わなかった、キッチンのコーディネートなどもしていきたいです。
社長はよく「好きこそものの上手なれ」と言いいます。
やりたいことを認めてくれる環境があるから、色んなことに挑戦しようって思えるような気がします。もちろん、自分自身がインテリアが好きというのもあるんですけど。
―なんだかすてきです。
赤津 そうですか?(笑)でも、過ごしているのは、日々平凡な日常なんです。
仕事が大変な時だって、もちろんあります。だけど、いい意味で仕事百貨の記事を読まなくなりました。
小野原 わたしもです!ここで働き始めてから…。なんだかすみません(笑)。
―今の仕事と暮らしがフィットしている、ということなのかもしれませんね。
赤津 そうですね。ここに落ち着いた、って思います。
―ありがとうございました!わたしもここで働きたくなりました。
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