これはしごとゼミ「文章で生きるゼミ」に参加された、小河彩菜さんによる卒業制作コラムになります。


「和三盆ラム酒」(※)のことを、地元の酒造メーカーに初めて相談したときは、驚かれましたね。その酒造からしたら、うちの会社は工業製品を扱う会社として、昔から取引してきたし、なにせ私は酒づくりの素人でしたから。
和三盆ラム酒を思いついたのは、妻の実家の工場で見た糖蜜がきっかけでした。妻の実家は、江戸時代から香川で和三盆をつくっている「三谷製糖」という会社をやっていて、糖蜜は和三盆など、砂糖をつくるときに出る副産物のことです。
私も香川出身だから、三谷製糖のお菓子はずっと身近にあったんですけど、和三盆がどうつくられるか、結婚するまで知りませんでした。
あるとき、お義父さんが工場を案内してくれることになって、そこで大きな甕に大量に集まった糖蜜を見たんです。しかも、そのほとんどが捨てられると聞いて、衝撃でした。「もったいない、何かに使えないかな」と、思いましたね。
たしかラム酒の原料が糖蜜だったことを、そのとき思い出しました。もともとお酒が好きで、大学時代によく通ったバーのマスターから、お酒の雑学を教えてもらっていたんですよ。
和三盆とラム酒、意外なものがくっついたら、面白いんじゃないか!
お義父さんに話したら、「糖蜜、使っていいよ」と言ってもらえたので、そこからラム酒づくりについて調べ始めました。でも、知れば知るほど、一からお酒をつくるのは簡単じゃないなって思いましたね…。
悩んだまま1〜2年過ぎたころ、家族旅行で沖縄に行ったんです。偶然、伊江島という島でラム酒づくりの工場見学があることを知り、見てみようとなって。
見学中、工場の方にどこから来たか尋ねられ、香川ですと答えると、「この間、香川の会社から和三盆でラム酒をつくりたいって問い合わせがあったんですよ」って話をされたんです(笑)。まさか、同じ考えの人がいたとは!と、焦りましたね。
でも、一人じゃつくることができない…。悩んでいたら、ふと、三谷製糖の砂糖で梅酒をつくっている「西野金陵」が頭に浮かんで、「これだ!」と。
相談したら、金陵さんもちょうど新商品をつくりたいと考えていたらしく、とんとん拍子で話が進んでいきました。なんと半年で試作品が完成。さすがプロだな、と思いましたよ。
今は、ラム酒の木桶熟成にチャレンジ中ですが、実はその木桶も、偶然見つけたもので(笑)。以前、金陵さんの工場で見た、ほこりを被っている特大の木桶がずっと頭の中に残っていたんです。
日本酒業界でも木桶仕込みがなくなってきていると聞いて、「昔ながらの木桶でラム酒を熟成したら、面白いんじゃないか」と考えました。
和三盆ラム酒は、とにかく思いつきでここまできたから、「とりあえずやってみよう!」と。徳島の樽職人の手により、木桶は熟成用として使えるようなものに見事に変身しました。
まずは、3年寝かせてみようと思っています。きっと、おいしいラム酒になってくれるって信じています。
※正式名称は、「和三盆を作るときに出てきた糖蜜を蒸留してできた ラム酒」
(聞き手・書き手 小河彩菜)

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