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静岡県西部の遠州(えんしゅう)地域は、古くから綿花の栽培で栄えてきた織物産地です。
世界的な有名ブランドでも使われるような高級コットンやリネン生地をメインに、多様な生地がつくられています。
ほかの織物産地と比べても、昔ながらの貴重な道具や機械が多く残っているのが大きな特徴。
効率を重視する最新鋭のものと違い、機械を扱う職人の手間と技術を必要とします。そうしてつくられる生地には、遠州産地でしか出せない「風合いの良さ」があります。
そんな遠州産地で、9月18日〜21日に開催されるのが「遠州のトビラ」。
地域に滞在しながら、さまざまな繊維関係の仕事を実際に体験できるというインターンシッププログラムです。
ものづくりの経験はなくても、繊維の仕事に興味があれば大丈夫。
手に職をつけた「職人」という生き方に憧れがある人。
ものづくりの仕事に関心はあったけれど、今までそれを活かせる職に出会えていなかった、という人。
古い道具や機械を大切にメンテナンスしながら、大胆さと繊細さを持って丁寧に仕事に取り組みたい人。
ピンと来た人は、ぜひ読み進めてみてください。
ーまずは、今回のインターンプログラム「遠州のトビラ」を企画した、遠州産地の若手グループentrance(エントランス)代表の浜田さんに話を聞くことに。
浜田:
「遠州のトビラ」は、遠州の繊維業に関わるいろいろな「現場」が実際に体験できる初の取り組みです。
これまで日帰りの工場見学バスツアーはやっていたのですが、今回は3泊4日。産地の魅力や職人さんたちの技術をもっと深く知ってもらいたいと考えています。
ー参加者は期間中どう過ごすのか、具体的なスケジュールを教えてください。
浜田:
1日目は朝浜松駅に集合して、そこから1つ目の事業所へ分かれて行ってもらいます。参加企業は、染め、織り、布の生産管理や卸など、業種はさまざまで、参加者は希望の事業所を選ぶことが可能です。
夕方まで体験したらホテルに集合して、その日の振り返り会。1日目の夜は参加者だけでの懇親会です。
参加者それぞれが別の事業所に行くので、経験したことや感想は、ぜひ共有し合ってもらいたいですね。ひとりで産地に飛び込むのはなかなか勇気のいることだけど、“同期”のような存在がいれば心強いんじゃないかなと。
ー「インターン仲間」ですからね。もし実際に就職することになっても、「あのとき一緒に頑張ったよね」と言い合える人がいたら頼もしいと思います。
浜田:
2〜3日目は別の事業所をそれぞれ体験していただきます。また3日目の夜は、定期的に開催している「遠州さんちの未来会議」に参加してもらおうと思っています。
未来会議は、参加したい人が自由に参加するというラフな雰囲気で。産地の今後についてやイベントの企画、出展についてなどを話しています。
参加者は、遠州産地の若手繊維事業者を中心としたentranceメンバーをメインに、行政、組合のメンバーや、クリエイター、繊維事業者など。
産地を盛り上げたい! という人ばかりなので、気兼ねなく相談できる雰囲気もありますよ。
ーインターンで行った事業所以外の人とも、ざっくばらんに話せるのは良いですね。
ー浜田さんは、どういった経緯で遠州産地に関わることになったんですか?
浜田:
私は昔から布が大好きで、ファッションの専門学校で布の勉強をしていました。在学中に 自分で連絡を取って、ヨーロッパの繊維産地なども巡っていたのですが「あれ、日本の布のほうがすごいんじゃないか?」と気付いて。
数ある産地をまわって、日本の綿織物最高峰である遠州産地に飛び込んでみました。
ーすごい行動力です。
浜田:
それで働きはじめたのが古橋織布。古い「シャトル織機」を使い、ゆっくりコツコツ高密度な生地を織る会社です。
ほかにはない柔らかな風合いが特徴なのですが、知れば知るほど、遠州産地にあるほかの会社も別の角度でそれぞれすごい。こんなにすごい産地なのに、遠州の人にはそのすごさが伝わっていない…。
そのもどかしさを感じて、「遠州の魅力を発信をしながら、繊維事業者がお互いの悩みを共有できるゆるやかな場をつくりたい!」とentranceの活動をはじめました。
ー浜田さんが働いていた古橋織布の代表、古橋さんにも話を聞いてみる。
古橋:
私は実家が古橋織布だったので、小さいころから工場には親しみがありましたが、「継いでもらいたい」とは一切言われずに育ちました。
大阪で会社員をやっていたとき、実家である古橋織布に、新卒の浜田さんが入社したことが衝撃的で。改めて家業を見直したんですよね。
ーそれで実家に戻ってきたと。
古橋:
とりあえず入ってみたというか(笑)。一人娘だったし、いつか帰るなら若いうちからやってみようかなって思って。
覚悟みたいなものはほとんどないまま、軽い気持ちで継ぐことを決めました。
ー古橋さんの会社は、ヨーロッパなど海外との取引も多いと伺いました。
古橋:
そうですね、会社売上の20%くらいは海外です。もともと外国語大学に行っていたので、そのころから父と一緒に海外の展示会に参加していました。
そうしたら「お世話になっている取引先」として紹介されたところが超一流ブランドばかりで…。「うちってこんなにすごかったんだ」って、そのとき初めて知りましたね。
ー世界中から愛されている生地なんですね。
古橋:
でも、うちだけが元気でも仕事は続けられません。生地を織る前には「糊付け」や、たて糸の準備、織った後には染色や「整理加工」など、それぞれに職人さんの仕事があります。
遠州は、職人さんたちの仕事が分業で連なっている産地なので、どれか一つでも欠けてしまったら今のような生地づくりはできなくなってしまう。「その人にしかできない、こだわりの技」だからこそ、後継者問題も出てきているんです。
ーまずはインターンで遠州産地のおもしろさに触れて、この技術を継承してみたいと思ってくれたらうれしいですね。
ー今回インターンを受け入れる、浜名染色の尾上さん。もともとアパレルの営業マンだったそうですね。
尾上:
僕も最初は継ぐ気がなかったのですが、結婚を機に家業に入りました。古橋織布さんの布も、うちで染めているんですよ。
ー具体的にはどんなことをしている会社なのでしょうか?
尾上:
主にアパレルブランドからの依頼を受けて、遠州で織られた生地を染めています。
0.01グラムのような、ほんのわずかな染料の配合がカギになる世界。こだわりのブランドほど色に対する要求も高いので、責任感はありますが、うまくいったときの達成感はものすごいものがありますね。
染色機械も古いものばかりで、大切にメンテナンスしながら使っています。
ーシャトル織機と一緒ですね。
尾上:
品質としての均一性や効率化を求めるのであれば、新しい機械を使えばいい。でも生地の風合いや味を求めるために、古い機械を使い続けています。
時間も手間もかかるけれど、古い機械だからこそ、遠州らしい「いい生地」ができる。大切にしているのは、そういう感覚なんです。
ー浜名染色のインターンではどんなことをするんですか?
尾上:
大きな機械を使って布を染める工場ということもあり、なかなか1日で実作業までしてもらうのは大変だと思うので、使っている機械や、染める工程を見てもらいます。
大胆さと繊細さどちらもありながら、こだわれる人に来てもらいたいですね。
計算してつくるので理数系の人が向いていると思いきや、染めてみると計算通りにはならない。実際に目で見ながら、細かく調整を重ねていくので、柔軟性も大切なポイントです。
ー同じくインターンを受け入れる参加企業のひとつ、タケミクロスの竹内さん。どんな人にインターンに来てもらいたいでしょう?
竹内:
うちは、遠州産地の染めや織りの工場を10軒ほど管理している会社なので、比較的どんなタイプでも受け入れられるんじゃないかな。
「産元(さんもと)」といって、生地専門の地域の商社というような立ち位置。ざっくり言うと、アパレルブランドさんと機屋さんの橋渡しのような役割ですね。
ブランドさんから「こんな生地でこんな洋服がつくりたい」という要望を受けて、「それならこの機屋さんや、この染工場さんの技術が活かせるんじゃないか?」と、生地を企画する仕事です。
インターンで来てもらう人には、糸を巻くところから、布ができるところ、流通販売するところまで、一通り見て体験してもらおうかなと思っています。
ー浜名染色さんと比べると、入門編という感じ。どちらから体験してもおもしろそうです。
竹内:
今回のインターンでは4日間、浜松に滞在してもらいますが、浜松は東京や名古屋から近い利便性もありながら、自然が豊かで暮らしやすい街です。海にはすぐ行けるし、山も川も近いので、釣りやキャンプも楽しめるんですよ。
繊維関係の仕事だったら、ほとんどが17時には仕事が終わるので、自分の時間が持てるのもいいんじゃないかな。
ちなみに僕は、仕事の前後で朝夕2回行くくらいサーフィンが好きで。仕事と趣味の両立という面でも、浜松はすごくおすすめですよ。
ー最後に話を聞くのは、ファッションブランド「HUIS(ハウス)」の松下さん。松下さんは、どういった経緯で遠州産地と関わるようになったのでしょうか?
松下:
僕はもともと浜松出身で、浜松市役所で働いていました。そこで遠州織物のおもしろさを知り、アパレルブランド「HUIS」を妻と一緒に立ち上げて。今は、関東を中心に全国6ヶ所のショールーム展開と、全国年間100ヶ所くらいでイベント出展を行っています。
ー年間100ヶ所はすごいですね。
松下:
いろんな百貨店さんなどからお声掛けいただいていて。ありがたいことに、全国にHUISファンが増えています。着心地の良さや、遠州産地ならではの生地の風合いにハマってくれる方が多い印象ですね。
遠州って実はすごい産地で、「日本中、もしかしたら世界中探しても、この職人さんにしかつくれない布がある」場所なんです。
そんな遠州産地の魅力を伝えたいとはじめたブランドなので、共感してくれる人がこんなにたくさんいるんだ! とうれしい反面、今は生産が追いつかないような状況にもなっていて。
これだけ評価されているのに、今後後継者不足でつくれなくなってしまう、というのはもったいないですよね。
「日本や世界で唯一の技を継承できる可能性がある」というのは、今回のインターンの魅力のひとつなんじゃないかと思います。
今回のインターンの参加者募集に合わせて、清澄白河のリトルトーキョーでお酒を飲みながら会話するイベント「しごとバー」も開催します。
染めたり、織ったり、卸したり。
ユニークなメンバーと唯一無二の技術、古くてかっこいい道具や機械たちが、遠州であなたを待っています。
気になった方は、ぜひ遠州の扉を叩いてみてください。
(2024/7/26 取材 今井夕華、荻谷有花)
主催:遠州産地振興協議会
事務局:浜松市役所産業振興課
協力:株式会社HUIS、株式会社糸編、entrance
※イベントに関するご質問、お問合せはentranceにお願いします。
9月4日(水)に、entranceの浜田さん、HUISの松下さんをゲストにしごとバーを開催します。実際に会って、話ができる機会です。
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