波佐見に移り住んだ人
オープンハサミ参加者コラム

前回のオープンハサミでは、10名の参加者のうち3名がインターンを通じて波佐見への移住を決めています。

そのうちのおふたり、重松さんと千葉くんに話を聞きました。

どんな経緯で参加したのか。何が決め手になったのか。移住してみて、仕事や暮らしはどんな感じ?

今回のプログラムに参加を検討している方にとっては、おふたりのリアルなお話がきっと参考になるはずです。

 

まずは、手描きの絵付けを得意とする窯元「一誠陶器」に入社した重松さんから。

福岡県出身で、直近は東京に8年ほど住んでいた重松さん。

そろそろ九州に戻りたい。できれば都会からちょっと外れた田舎に住みたい。

そんなふうに考えていたなかで、たまたまオープンハサミのことを知ったそう。

「窯元の仕事には興味があって、伊万里に弟子入りの見学に行ったり、波佐見の求人もいろいろと見たりしていました。でも、いきなり飛び込むのは怖いなって。だからオープンハサミはすごくいい機会だったんです」

専門学校でデザインを学び、東京でもデザインに関わる仕事をしてきたものの、パソコンに向かい合うのは苦手だった。手仕事を求め、波佐見へ。

インターンに参加してみて、どうでした?

「一誠陶器は、現場にいきなり入れられるスタイルで。インターン生だからといって特別扱いもされず、本当に黙々と、現場の一員となって仕事をこなしていく感じでした」

リアルな日常が見えたんですね。

「そうですね。人もみなさんいい方で。お昼とかも、集まってワイワイする雰囲気ではないけど、すれ違うときには声をかけ合っていて、距離感が程よいというか。ここなら働くことが想像できるなって、未来が描けました」

インターン後、代表の江添さんと連絡をとって4月に一誠陶器を再訪。2週間ほどみっちり働いたことで気持ちが固まった。

1週間のインターンでいろんな企業を見て、気になる企業を絞ってさらに働いてみる。

参加を検討している方は、重松さんのように、段階を踏んで感触をたしかめていく関わり方もありだと思う。

移住にあたって、不安だったことはありますか?

「車の運転が10年ぶりぐらいで。不安でしたけど、最初に練習して、もう慣れました。なかには自転車だけでがんばって生活している人もいますね」

ただ、その方も最近車を購入したそう。なくても生活はできるけれど、車があったほうが行動の幅はぐんと広がる環境。

「あとはやっぱり、お給料は気になりました。社長には、面接のときから『3Dソフトを勉強してほしい』って言われていて。新しい知識を身につけてもらえれば、お給料も上げられる余地があると」

焼きものに関わることならば、副業も可能とのこと。さらに、工業組合が運営する絵付け教室にも会社負担で通っている。

自分と会社の将来的な伸び代も含めて、希望が持てたと重松さん。

「一誠陶器は手描きの絵付けが得意な窯元で。何十年と働いているおばちゃんたちは、やっぱりすごい絵を描くんです。まだ働きはじめたばかりで、先のことはわからないですけど、そういうところを目指すのもすごくいいなって思います」

もうひとつ気になるのは、住まいのこと。

事前の視察などを通じても、波佐見町には単身者向けの賃貸物件があまりないという話だった。重松さんは、どうしたのだろう?

「意外に物件はありました。4月にもう一度こちらへ来たときに、いくつか不動産屋さんを回って。今住んでいる家は内見せずに、写真と値段だけ見て決めました」

暮らしにまつわる情報は、職場の人に聞いたり、Googleマップで調べたり。

同じくインターンを通じて移住した千葉くんともたまに会って、情報交換をしているそう。会社の同僚の人たちも一緒になって、長崎県内に出かけることもあるみたい。

 

そんな千葉くんにも続けて話を聞かせてもらうことに。聖栄陶器のデザイン室を訪ねる。

「すごくお世話になっているおばちゃんがいて、母ちゃんって呼んでるんですけど(笑)。その方に昨日『ちょっと晩ごはん食べに来ない?』って誘われて、お孫さんも来て、一緒に遊んで。家に帰ったのが夜の11時くらいでした」

お得なスーパーやおいしいお肉屋さんを教わったり、おかずをたくさんもらったり。

仕事面だけでなく、私生活の面でも支えられているという。

「地域内をいろいろと連れ回してもらっています。そこで顔見知りになると、いつ行っても話しかけてもらえる。そこから輪が広がっていく。そういう距離感が自分の肌には合っていますね」

千葉県銚子市出身の千葉くん。インターン時は卒業を間近に控えた大学院生だった。

修士の制作と就活に並行して取り組んだらどっちつかずになると思い、まずは制作に専念。その後就活に向けて動きはじめたものの、時期的にもなかなか自分に合う求人が見つからなかった。

「そんなときに、大学の教授から日本仕事百貨を教えてもらって。たまたまオープンハサミのページを見つけたんです」

参加にあたって、千葉くんは2通りのプランを思い描いていた。

ひとつは、波佐見の企業に就職すること。それまで学んできたプロダクトデザインの知見を、実践的に活かしたいと考えた。

もうひとつは、実家の農業を継ぐこと。4人兄弟の末っ子で、上3人のお兄さんたちはみな別の仕事をしている。昔から畑を手伝うことはあったし、継ぐなら自分だろうと思っていたそう。

「インターンに参加してみて、縁がなければ実家を継ごうと。そういう意味では、結構重たいというか、大事な機会だったなと思います」

家業にも思い入れがありつつ、最終的に選んだ波佐見での仕事。

何が決め手になったのだろう?

「聖栄陶器に藤本さんという契約社員の方がいて。昔は有田焼の職人さんをやられてて、今は聖栄でデザインをやっている方なんですけど。インターンのときにお話しできて、すごく楽しかったんです」

「焼きもの業界のつながりで聖栄以外のお仕事もされたり、絵を描いたり、東京にも頻繁に行ったり、いろいろ挑戦していて。この方と働けたら楽しそうだなと思ったのが一番の決め手でしたね」

入社して半年ほど。

今は藤本さんから仕事を教わりながら、自分でできることを少しずつ増やしているところ。

試作品をつくるときには、版をつくってパッド印刷をし、釉薬をかけるところまで、一通り自分でやることになる。

「焼きもののデザインは感覚的な部分も多くて。呉須が濃いと焦げちゃうとか、絵柄のサイズが小さすぎると潰れちゃうとか。見極めて調整するのがむずかしいです」

藤本さんは契約社員ということもあり、在宅勤務がメイン。デザイン室にはもう一人のスタッフがいるものの、現場によく駆り出されていて、千葉くんひとりで作業することも多い。

業務の引き継ぎや感覚の共有など含め、チームの体制づくりは今後に向けた課題だという。

「来年に向けて工場の移転も予定しています。それに伴って、自社ブランドをつくりたいって話を社長がずっとされていて。そこには携わっていきたいですね」

最近、オリジナルの器をデザインした千葉くん。大学時代のつながりから、関東のイベントに出展して販売もしたそう。

2月に開催したインターンから1年足らずで、実際にそこで働いている人たちの姿を見るのは、なんだか不思議な気持ちになります。

一歩踏み出したことで今の状況がある。実際に携わってみて、リアルに感じる壁や困りごともあるだろうけれど、いい顔で働いているように感じました。

次回のプログラムでは、ひと足先に移り住んだ先輩たちも懇親会などに参加してもらう予定です。詳しい話は、ぜひ現地で直接聞いてみてください。