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色と暮らしと街と

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

暮らすなかで色はとても身近なものだと思う。身近すぎて、意識することを忘れてしまうぐらい。朝起きてじぶんの顔色を見ることにはじまり、洋服、インテリアに、そして部屋の壁、街並み。

加えて大切なのが質感。色と質感によって、印象づけられていく部分は大きいと思う。

0 今回は、オーストラリア生まれのインテリアペイント「PORTER’S PAINTS(ポーターズペイント)」のSHOPで働く人を募集します。

調色と言って、色を調合してつくることもあれば、オーストラリアからの輸入業務に、ペイントに親しんでもらうためのワークショップを開いたり。

そうして、より多くの人に色のある暮らしを楽しんでもらう仕事です。

渋谷から田園都市線に乗り約15分で溝ノ口の駅に到着。駅前の商店街を抜けると、ポーターズペイントの工房が見えてきた。

1 日本の総代理店であり、不動産・建築事業に取り組む株式会社NENGO(ネンゴ)本社の1階部分に位置している。

工房に挨拶をして、2階の応接間に上がる。

話を聞いたのは、ポーターズペイント店長の山口円(まどか)さん。

7年前に入社した山口さんが働きはじめたのは、自分の家探しがきっかけだったそう。

「以前は美容の仕事をしていたんです。一人暮らしをするにあたって自分の家を探そうと。どうせなら部屋を楽しくしたい。けれど探しても探しても、手を加えられるところはなくて。壁にくぎも打てないんですね。2年間せっかく暮らすのに当たり障りもなく、ちょっと居候するような感じで。なんでだろう?と思っているときに、ペイント可能な物件を知ったんです。」

2 それがNENGOの手がける不動産だった。

「面白いことをやっている会社だな。お客さんとしてではなく、ここで働きたいと思ったんです。」

住まいを探していたはずが、仕事が見つかることになった。

結局一人暮らしはせずに、実家に住まうことになった。そこでリビングをセルフペイントしてみる。はじめは不安がった家族も、仕上がりを見て満足したという。

そんな山口さんは店長となって今年で6年目。

気になっていたことをたずねてみる。

欧米の家では家族でのペイントがごくふつうに行われているけれど。日本では、白を基調とするビニールクロスが一般的なイメージがあります。実際のところどうなんでしょう?

「そうですね。日本はペイントがまだまだ身近ではないと思います。油性でシンナー臭いイメージを持たれていたり、塗り方もよくわからなかったり。」

「新築で家を建てるとき、そもそも選択肢にペイントがないことも多いんですね。ビニールクロスのカタログを見て、そのなかから選ぶのが一般的だと思います。」

そこにも理由があるとか。

「ペイントは工期もかかる分、費用もかかる。加えて、人の手で行うから大変。ビニールクロスは安価で施工が楽なんです。」

それなら壁は無難な白にしておこう、とついついなりがちだ。

けれど、壁って毎日見るもの。与える影響は決して小さくない。

NENGOがポーターズペイントの総代理店となった経緯を、以前に代表の的場さんから聞いたことがある。

「我々が目指しているのは100年後の美しい街並みをつくること。そして美しい街並みは、自分の家に興味を持つことからはじまります。自分の家に興味のない人は、街にも興味を持てない。だから自分の家に興味を持つしかけがほしいと思ったんだ。昔なら大黒柱に身長を刻んだよね。それに代わるものを探したときに、欧米では家族で家のペイントをして。そこで家族が仲良くなる姿を見て。そういう家って大事にするじゃない。また何年か経つと塗り重ねて、愛情がさらに増していく。まずそこからだなと思い、ポーターズペイントをはじめたんだ。」

ペイントは、家と関わる入り口と言える。

3 再び山口さんに聞いてみる。

数ある塗料の中でもポーターズペイントの特徴は、製造から販売までがていねいに進められること。

「創業者のピーターはよく、ペイントづくりは料理と一緒だと言うんですよ。どちらもいろいろな材料を入れてできますよね。大量につくると味気なくなる上に品質も下がる。だからこそ少量をていねいにつくるんです。」

「色のもととなる顔料は16種類を用いています。これ、日本では一番多い種類で調色するんです。さらに顔料の原料は自然由来のものが多いです。だからこそ一年を通して採取できなかったり、季節によって成分が変わることもある。人の目で確かめ、手間暇かけてつくっています。」

製造と同じように、販売もていねいに行っている。

お客さんは、大きく法人と個人の方にわかれる。これから働く人は主に個人のお客さんを担当する。

建築やインテリア雑誌を読んで、あるいはペイントを使用した人からの口コミでのお問い合わせが多い。

はじめに、お客さんには工房への来店をお願いしている。

HP上でのカラーチャートなども公開していない。どうしてだろう。

「一つには色や質感は実物を見ていただかないと、きちんと伝わらないということがあります。モニター上では、どうしても色が変わってしまうことがあります。だから、お越しいただいてカラーカードや、実際の美しい色を見てもらいたいと考えているんです。」

4 お客さんは、これから新築物件を建てる人から、リノベーションですでに図面ができあがっている人まで、さまざま。

多くの人が迷うのが、色の選び方。

「好みの色を聞いたり、身につけている服やアクセサリーの色から、提案をしていきます。色は一緒に決めさせていただいて。実際の住空間で見学会を開き、ご案内することもありますよ。」

その際にはなるべく色々な話を聞くことを心がけているという。

「どこに住まれてるんですか?どうしてリノベーションを選んだんですか?色・質感に限らず、いろいろな角度から話を聞くことで、提案も変わってきます。たとえば光が入らない部屋であれば、明るい色にしてはどうですか?と。」

ペイントが具体的になるにつれ、お客さんの表情もワクワクしてくるという。

ペイントは、塗料を缶に詰めて終わり、ではなく壁に塗られてはじめてポーターズペイントになる。

だからこそ、お客さんがセルフペイントを行う場合には、ワークショップで塗り方もお伝えしていく。

「ローラーでムラなく塗るモノだと思われている方が多いと思うんです。けれど、ムラが表情になるんですね。光が当たったときの陰影がきれいなんです。だからこそ質感が出るように、ハケで、あえて大胆に塗ります。」

5 はじめた当初は月に一度の会にも思うように人が集まらなかったけれど、いまでは週に一回のペースでも満員御礼だと言う。

これまでペイントは、限られた一部の人が選ぶものだったけれど、じょじょに間口が広まってきたことを実感するという。

ここで、一階の工房をのぞかせてもらう。

ティンター(ペイントを調色する人)の鈴木はな江さんに、調色する様子を見せてもらう。この仕事に就いて2年半になるという。

6 これから働く人は、自分で調色することもあれば、鈴木さんにお願いをすることもある。

このときつくったのは、Amulet(アミュレット)という色。空色に近い青で、「お守り」という意味があるそうだ。
はじめに、ベースとなる白の塗料を缶に入れていく。次に調色器から顔料を選び、加えていく。

聞けば色のラインナップは288色以上もあるとか。

「レシピがあるので、それをもとにつくれば大丈夫ですよ。加えて、オーダーメイドで新しい色をつくることもあります。少し加減が変わるだけで色は全然違ってきます。」

色が一通り入ると手でかき混ぜていく。想像以上に、手仕事が多い。

「1回1回がハンドメイド。だからこそ、緊張はありますよ。」

7 顔料が混ざると、缶に色名と質感を記載してふたをする。そして箱詰めをして出荷を待つ。

「オーダーはどうしても連休などに集中するんですね。日本全国すべて、ここでつくって届けているんです。だからこそ、スケジュール管理と、塗料在庫の管理は大事になってきますね。」

オーストラリアからは船便で3ヶ月に一度、塗料を仕入れることになる。オーダーの予想に加え、営業スタッフに販売動向を確認して、発注手配を行っていく。

8 どんな人と働きたいだろう?

「色が好きな人、ものをつくることが好きな人は楽しいと思いますよ。その一方で、調色だけではなく、お客さんとのやりとりもあれば、販路拡大の仕事もあります。日本全国の販売代理店をリサーチして契約を行うんですね。だからこそ色々なことに興味のある人がいいと思います。」

何かをつくりたい。それもずっと工房に一人でいるというよりは、届ける相手の顔を見ながら仕事をしたい人がいいと思う。

工房は、冬は寒く夏は暑い。それに塗料の缶は意外と重い。けれどものづくりの経験がある人なら、どことなく懐かしささえ覚えるんじゃないかな。

それから新しいことを自分でやってみたい、という人はなお楽しめるだろうな。

話を聞いていると、法人営業を担当する事業部の伊藤さんが見えた。新卒で入社して7年目を迎えるという。

伊藤さんは、発泡スチロールに鉄粉入りの黒塗料を塗って何やら実験をはじめた。

「発泡スチロールってとっても軽いけれど、ペイントを施すことで重い印象を受けるでしょう?色と質感でできることはもっとたくさんある。面白いんですよね。」

9 やりとりを見ていると、みんなポーターズペイントが好きなんだな、ということが伝わってくる。

だからこそ、つねに新しい取組みを考えているようです。再び山口さん。

「ペイントを通して私たちが向かおうとしているのは、100年後の美しい街並み。大きいことを目指しているからこそ、もちろん大変なこともあります。けれど、誇りを持ちながらお客さんに売れるのはやっぱり気持ちよく働けますよ!スタッフのみんなでサンプルを見ながら『やっぱこの色いいよね。』『こういう組み合わせも考えられるよね。』そういう話が楽しいので。大変なときも乗り越えていけると思います。」

10 最後に、山口さんは“日本の色”について話してくれた。

「葉っぱの色って世界中にあるんですけど、日本には裏葉色と言って。裏側の淡い色にも名前があるんですよ。それから、かめの水面に映る空の色にも名前があって。瓶覗き(かめのぞき)色と言うんです。」

「日本人は色を楽しみながら暮らしてきたんですよね。その感覚は長けていて、豊かだと思います。できることはまだまだたくさんあります。だからこそ、一緒に暮らしを、街並みを彩っていきたいですね。」(2013/11/11 大越はじめup)