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今、清掃業を取り巻く環境は厳しさを増しています。インターネットの発達やグローバル化、女性の社会進出などに伴い、多くの人にとって仕事の選択肢が増え、働き方に対する価値観も多様化してきました。
そんな流れのなかで、清掃業は地味で給料もあまりよくない、大変な仕事というイメージが生まれているのも事実だと思います。
追いうちをかけるように、これまで業界を担ってきた高齢者が次々に退職していき、負の循環が続いてしまっているという現状もある。
ただ、すべてを悲観的に捉えることはないのかもしれません。
「清掃業が大変な状況にある今だからこそ、社会に対して説得力をもって提案できることがあると思うんです」
真島ビルサービス代表の眞島宏和さんは、そう話します。
たとえば、ユニフォームを1から自分たちでつくったり、清掃員のインタビューを取り上げた雑誌を発行したり。
ゆくゆくはオフィスビルやマンションをはじめ、公共空間にまで清掃の視点を盛り込んで提案していくことも考えているそう。
清掃を軸に、さまざまな分野や価値観を横断して社会と関わることのできる仕事なのだと思います。
今回は、日々の清掃から学びつつ、このビジョンを一緒に実現していく清掃員になる人を募集します。
掃除するのが好きな人も、なんとなく面倒だと思っている人も、ぜひ続けて読んでみてください。
東京・文京区。
地下鉄の江戸川橋駅から5分ほど歩くと、ひっそりと佇む赤茶色の細長いビルが見えてくる。
ここが真島ビルサービスの事務所だ。
代表の眞島さんは、3代目。先代のお父様が亡くなり、代表を引き継いだのは最近のこと。
「それからずっとバタバタしてますね。業界全体としても、作業員の高齢化が進み、人手が足りなくなってきている。今まさに、時代の転換期を迎えていると思います」
そんな転換期にあって、必要なこととはなんだろうか。
「ぼくからみんなに言っているのは、どれだけ付加価値をつけられるかっていうことなんです」
付加価値?
「たとえば、オリジナルのユニフォームをつくること。機能性やファッション性だけでなく、心への作用という視点からも服づくりを提案していけたらと思っています」
眞島さんは、もともと洋服のアシスタントデザイナーやパタンナーとして働いていた方。
その経験を活かし、ファッションと清掃を結びつけていきたいと考えている。
「ぼくらはいつも制服を着てますので、それ自体がひとつの表現なんです」
制服が変われば周囲の見る目も変わり、清掃員自身の意識や振る舞いもより洗練されてくる。
「まずは自分たちをモデルに営業をかけ、コンサルティングもしていきたい。そうやって少しずつデザインや建築関係の人にも仲間になってもらい、いろんな提案力をつけていきたいですね」
もうひとつ、個人的な夢でもあるというのが雑誌の制作だ。
「文章をスタッフに寄稿してもらったり、ベテラン清掃員のインタビューを載せたり。清掃の視点から『生き方』や『老い方』を考える雑誌をつくったら面白いかなって」
そうやって少しずつ自分たちのことを知ってもらい、信頼を積み重ねていけたら、オフィスビルやマンション、さらには公共空間のプランニングにまで知見を活かせるようになるかもしれない。
「上から目線の押しつけではなくて、ぼくらは下からの目線で社会のあり方を提案していきたい。そうすれば、弱者や負け組としてこぼれ落ちてしまう人も自然と少なくなっていくと思うんです」
とはいえ、いきなり理想通りに進めるのは難しい。
世の中のさまざまな価値観や文化、歴史への理解がなにより大事だと眞島さんは言う。
「たしかに、社会は多様になりました。ただ、傾向としてポップなもの、フィクション性の高いものに目が向きやすくなっている。それは、社会全体の足元が揺らぎはじめている兆しにみえます」
「多様性というのは、本来共有すべき“土台”の上で、はじめて成り立つものです。ぼくらはその“土台”にこそ、価値を見いだしたい」
本質を見極め、“土台”の価値を伝えていく。
そのために最近おこなっているのが、研修会というもの。
清掃の仕事は、ゴミ回収などの関係から午前中に入ることが多い。午後が空いている日には、さまざまな価値観に触れ、自由に議論するための時間を設けているのだそう。
研修会で日本民藝館を訪れたときのことを、清掃員の武藤さんが話してくれた。
「最初は特になにも言われず、一通りなかを見て回りました。見終わってから、みんなで長椅子に腰かけて『どんなことを感じたか?』話し合う。そんな会です」
あれはああだった、こうだったと論じ合うというよりも、自分が感じたことを素直に言葉にする場だそう。
たしかに眞島さんも武藤さんも、自分の感覚を確かめながらじっくりと話す感じが印象に残る。
「みんなが共通して口にしていたのは、“ほっとする”という言葉でした」
ほっとする。
「民藝の品々っていうのは、人々の暮らしのなかで生まれたものです。長い年月をかけて繰り返しつくられていくうちに、余分なものがそぎ落とされていくんですね」
「そうしてできあがったものは、すごく自然な姿をしている。だからほっとしたんじゃないかと思います」
となりで聞いていた川村さんは、「ほっとするっていう言葉が出てきたときに、清掃したあとのきれいな感じってそれだなと思ったんです」と一言。
「きれいな空間のほうが落ち着く、ほっとするっていうのは、割とどの人も思うことかなと思って。普段は目につかないことが多いけれど、掃除することでその空間を守っている人は必ずどこかにいるんですよね」
そんな清掃員の存在が、昔からどこか気になっていたそう。
「前勤めていた会社にも、毎日トイレ掃除やゴミ収集にきてくれる人がいました。その人を見かけたときにはお願いしますって一言かけたりして、ちょっと心の拠りどころにしていたんです」
前職では「るきさん」という漫画の主人公に憧れて、医療事務の仕事を8年続けた。
「るきさんは30代の女性で、一人暮らし。部屋は片付いているし、ご飯もちゃんと家でつくって食べて、切手を集めるのが趣味で。彼女のように人に流されない、秩序のある生活になんとなく憧れていたんですよね」
「でも実際のわたしの部屋は散らかりっぱなしで、それどころじゃなかったんです」
理想と現実のギャップにもやもやしていたとき、日本仕事百貨で以前の真島ビルサービスの記事を見つけ、衝撃を受けたという。
「これだ!と思ったんです。いろんな意味で、わたしがこれまで思っていたことを覆されました」
実際にここで働いてみて、ギャップはありませんでしたか?
「ある程度は予想していたけれど、想像以上に体力的な大変さはありますね」
オフィスビルの清掃の仕事は大きくふたつに分かれる。
トイレや給湯室、エントランスなどの共用部を日々きれいにする日常清掃と、ガラス窓や広い床面など大がかりな部分を定期的に掃除する定期清掃の2種類だ。
毎日清掃を行ったとしても時間が経てば汚れはたまっていくものだし、頑固な汚れは一筋縄では落ちてくれない。
毎朝の出勤もはやくなることが多い。
体力面だけでなく、精神的な忍耐力も必要な仕事だと思う。
「それでも、なんかいいなと思ってたところは、やっぱりなんかいいよって言いたいですね(笑)」
なんかいい、というのは?
「清掃することで、見知らぬ人をちょっといい気分にさせられる仕事だと思うんです。そのささやかさ、地味さにぐっときたというか」
ここで再び武藤さん。
「たしかに、清掃ってエンドレスだと思うんですね。虚しい仕事でもありますが、そこに哲学があるというふうにも思っていて」
清掃の哲学。
「たぶん汚れというものは、無意識的に人間にとって悪い影響を与えています。ぼくには、便器の汚れひとつひとつが危険の芽にうつるんです」
「清掃は、その危険の芽をひとつひとつ摘む仕事だと思うんですよ」
成果を数値やグラフで表すことは難しく、小さな汚れはなくなったことさえ顧みられにくいもの。
けれども、その積み重ねが暗い気持ちを増幅させ、大きな犯罪にまでつながっているのかもしれない。
「会社としてのキーワードのひとつが『共生』です。ぼくたちって、人からいろんなものを受け取ったり、もたらされたりしながら日々生きていると思うんですね」
「受け取っている身だから、やっぱり別の人にもなにか贈りたい。ぼくが汚れを拭き取ることによって安心を贈れたり、ほんの少しでも秩序を保てているんだなと思えるので、それがやりがいにもなっています」
それは清掃員同士の間でも言えること。
武藤さんは、高齢の清掃員さんからパワーをもらうことが多いという。
「日常清掃は6時半からはじまるのですが、高齢の清掃員さんはその時点でエンジンが温まってるんですね。声も大きくて響くし、よく通る」
「それに、よく笑うんです。そっち側へ引っ張られて、ついつい笑顔になっちゃいます」
眞島さんも、若い世代と高齢の清掃員さんとの交流をもっと増やしたいと考えている。
「はつらつとしているとか、粋であるとか。川村さんの話にあったるきさんもそうですけど、そういう人間の根源的な強さみたいなものが昭和世代の名残として残っているのでしょう。ぼくたちがそこから学ぶべきことはたくさんあると思っています」
「話したがりの方が多いし、食事会を開いたら楽しそうですよね」
最後にどんな人に来てほしいかたずねてみた。
「会社の方向性は、スタッフの能力や志向とともに自然と変化していくものなので、なにより価値観を共有できる人がいいですね」
取材を終え、歩いて帰っていると、道端に空のペットボトルが落ちているのが目についた。
拾って近くのゴミ箱に向かいながら、ふとその日聞いた話を思い出す。
とても厳しい状況にあるのは確かなのだろうけれど、形を変えていくことはあっても清掃の仕事、清掃の哲学がなくなることはきっとないんだろうなあ。
外面のきれいさだけじゃなく、見えない部分でも暮らしを支えてくれる仕事。
当たり前の日々が続いていくのは、その支えがあるおかげなのかもしれない。
もしも今の働き方や身のまわりの価値観に違和感を感じているのなら、ここで働きながら考えてみるのもいいと思います。
(2015/12/19 中川晃輔)