求人 NEW

美しい集落

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「持続可能な暮らしが今世界で求められている。そのヒントが日本の里山にあるんじゃないかと思って。私たちにはここでの生活がすべてかっこよく見えるんです」

旧暦に沿った生活。きれいに耕された畑。継承される祭り。大工の技術。湧き出る澄んだ水。四季に合わせていただく野菜。

脈々と受け継がれてきた生活は、意味があるから続いているように思う。けれど続けることは簡単なことではない。だからこそ、美しいのかもしれない。

tanekura - 4 (1) 株式会社美ら地球は「クールな田舎をプロデュースする」というミッションを掲げる会社。「SATOYAMA EXPERIENCE」というブランドで、飛騨古川を拠点にサイクリングツアーなどを企画して、訪れる観光客にこの場所の暮らしを感じられる機会を提供しています。

今回募集するのは、美ら地球が新しく取り組みはじめた「板倉の宿 種蔵」に関わる人。

腰を据えて取り組んでくれる人はもちろん、たとえば自分で農業をしながら宿を手伝う人、振る舞う料理づくりのアシスタントとして関わる人、ガイドとして飛騨を巡りながらここでの役割をつくる人、オンシーズンだけこの場所を訪れる人。

「種蔵」という場所が好きになれる人であれば、さまざまな関わり方があっていいそうです。

  

北陸新幹線に乗り富山駅へ。2車両しかない高山本線に乗り換えると、大きなバックパックを背負った外国人観光客が多いことに気づく。

みんな高山駅を目指しているそうだけれど、わたしは少し手前の飛騨古川駅でお別れ。城下町の趣が残る街を歩き、美ら地球のオフィスへと向かった。

待っていてくれたのは、旦那さんとともに会社を立ち上げた山田慈芳(しほ)さん。さっそく宿のある種蔵集落へ、30分ほど車を走らせつつ話を伺う。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA はきはきと話をしてくれるしほさん。前職は東京でコンサルティングの仕事をしていたと聞いて、なんだかしっくりきた。

「仕事をやめて、主人と一緒に2年くらい旅をしたんです。子どもを土が触れられる場所で育てたくて、帰国したら田舎に移住しようと決めていました」

いくつかの場所を見て回るうちに、人づてで辿り着いたのが飛騨古川。白川郷などすでに観光客が多く訪れる場所から一歩引いた、生活の文化が残っているこの場所に縁を感じ、その日のうちに来ることを決めた。

「旅をしていて、有名な観光地を巡るより、より小さな街の文化や暮らしを体験するほうが印象に残っていたんです。外国人観光客を視野に入れてサイクリングツアーを模索しはじめたのが2009年のことです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 地元の方との交流や、その場所のことを丁寧に紹介しながら巡るツアー。今では「トリップアドバイザー」の口コミが450件を超え、評価は星5つをキープし続けている。その他に、古民家を活用する事業なども行っているそうだ。

ツアーに参加した外国人観光客の宿泊先の1つとして紹介していたのが、種蔵にある宿だった。

この宿を運営することになったのが昨年のこと。市の指定管理施設としての運営を集落の人から引き継ぎ、美ら地球として、まずは3年間運営をすることになっている。

  

ここは今、8世帯20人ほどの人が暮らす小さな集落。手入れが行き届いているからか「限界集落」という言葉のイメージとは違って、清々しい空気を感じる。

tanekura - 3 (1) 板倉とは、穀物などの保存に使われてきた小さな建物のこと。

「家は壊しても板倉は壊すなっていう言い伝えがあって。昔は1年分の食料がここに蓄えられていたそうです。火事になってもいいように家と離れた場所につくられているんです」

周辺の集落に災害が及んだときに板倉に残った種を分け与え、食糧難を回避したことから「種蔵」とも呼ばれるようになったそう。

宿は集落の入り口に近い所に建っていた。1階には囲炉裏、2階には4つの客室がある大きな建物だ。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 着物姿で登場したのが、この宿の女将のような役割を担っている佐々木美由紀さん。笑顔がとても似合う、親しみやすい方です。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「小学生のころに習字を習ったことからはじまって、お花やお茶、日本語まで。日本の文化全般に興味があるんです」

大学を卒業して就いた仕事は国語の先生。青年海外協力隊としてパラオで暮らした経験もある。

「仕事でも生活でも、日本の文化を勉強できる環境に身をおきたいと思って。京都で2番目に古い旅館に、飛び込みで履歴書を持って行ったの」

1週間後、本当にそこで働きはじめたという。行動力にびっくりしつつ、話を聞いていく。

「しばらくして高層マンションで生活することになったけれど、土がない生活に違和感を感じるようになって。そのころに仕事百貨を読んで、前に出ていた美ら地球の求人に出会いました」

飛騨では営業やワークショップのコーディネート、オススメスポットの地図づくりなど、さまざまなことを担当していた。

ある日突然、種蔵のヘルプとして呼ばれてから、いつの間にかここを守ることが自分の役割になっていた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「宿の仕事がいやでやめたわけじゃなかったし、人をもてなすのは好き。いろいろな業務をするのも性格的に合っているからたのしいです。でも、今年は自分の畑の世話や習い事をする時間がへってしまったのが大変だったかな」

今、宿の仕事は主に2人で行っている。掃除をして、花をいけて、お客さんを迎えに行って。料理を出しつつ室温に気を配る。お風呂の様子を気にしつつ、この場所の話をする。気をつけないと、朝から晩までずっと働きっぱなしになってしまうこともある。お客さんが続くと、なかなか家に帰る時間もとれないこともあった。

「衣食住に関わること、普段のことはできるだけ自分の手でやったほうが健全だと思う。いそがしいけれど、昔の人はそれができていた。宿の仕事をしながら、自分の手や体を使って生活をしていく力をキープしていけたらと思っています」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA この集落には買い物をするような場所もないし、宿にはテレビもない。ここを訪れる人は、ただただ、何もない時間を過ごすことになる。

「この場所で育まれてきた暮らしの知恵が、お部屋の準備やお料理を出すときににじみ出て伝わっていくようにしたい。野菜を収穫したり、蕎麦を打ったり。ワークショップや、ここを拠点にしたツアーもはじめています」

宿としてはまだまだこれから、どんなふうにしていくのかを考えている段階なんだと思う。けれどこの場所を訪れたことが、その人の生活を少しでも豊かにするきっかけになるかもしれない。

  

豪雪地帯ということもあり、昨年までは12月から春までは休館をしていたそう。

「寒くないように」と温めてもらった部屋で待っているといい匂いがただよってきて、美由紀さんが次々とお料理を運んできてくれた。種蔵で採れたミョウガの手まり寿司や蕎麦の実のだんご、豆腐の味噌漬け。

ぱちぱちと鳴る囲炉裏を眺めながら1つ1つを噛みしめていただく食事は、動物性のものは使っておらず、すべて飛騨の食材。つくりかたも、この集落で学んだことを活かしている。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA この料理を1人でつくっているのが、せんちゃん。

「地球を守りたいと思っていました。この環境をどうにかしたいって」

柔らかい空気をまとっているけれど、話す言葉にはすごく意志が込められている感じがする。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「まずは自分が好きな生き方をして、賛同してくれる人がいて、それが勝手に広まっていけばいい。山奥で山羊を飼いながら生活するようなおばあちゃんになれたらいいなって」

マクロビのお店を手伝うことがきっかけで、料理に関わることになった。植物性のものでも満足した食事ができるよう、おいしい料理をつくる方法を考える日々を送っていたけれど、お店が続けられなくなったことを知らされる。

「いやされる空間だったから、引き継ぐことにして。近所のおばちゃんたちに手伝ってもらったりして、いろんな人たちが使う場所になっていったんです。6年経ったころには、このまま一生続けていこうと思ってました」

tanekura - 5 (1) 隣でうどん屋を営む高齢のご夫婦から「年金も十分にない中で、家賃も払い続けないといけないから、お店を閉めようにも閉められない」という話を聞いた。「わたしも将来ああなるのかな」と思ったせんちゃんは、うどん屋の家賃を下げて欲しいと家主さんに交渉をしたそうだ。

「お前には関係ないだろうって。そりゃそうだよね。そんなこと言うならやめたほうがいいと言われて。私も感謝して家賃を払ってないし、向こうも感謝して貸していない。悪循環だと思って、もうやめることにしたんです」

  

家賃に追われずに自分のペースで暮らせる場所を探そう。そう思っている中で紹介されたのが種蔵だった。

「2回目に来たとき、すごく晴れてぽかぽかで。水が豊かで山菜もある。夜も星がめっちゃ見えるだろうと思った。自然の恵みがありすぎて、宝ものの宝庫に感じたの。全体が見渡せる規模のこの場所なら、なにかを変えていけるような予感もして」

tanekura - 2 (1) 以前若い人たちがここに移住してきたことがあった。みんなで面倒を見ていたけれど、厳しい冬が来る前にここを去ってしまったそうだ。せんちゃんも最初はなかなか受け入れてもらうことができなかったけれど、少しずつ交渉をしてここで暮らせることになった。

「ふと見える景色が美しくて、それだけで幸せになるんです。見ているだけで元気になるような場所が、この集落にはたくさんある」

そんな場所、なかなか出会えないと思う。

「正直、100%見切り発車みたいな状態から宿がスタートして。1年目はたのしかったっていうより、過ぎていったっていう感じ。この村から買わせてもらったものをもっと料理に使いたいんだけど、そこまで手が回っていなくて」

動物性のものを使わない料理は、味をしっかり出すために手間と時間がかかる。

自然農の田んぼもはじめてみたいけれど、今までとは違うやり方をするには、まずは集落の人たちに納得してもらわないといけない。この景観をずっと大切に守ってきた人たちだから、新しいことを受け入れてもらうには時間をかける必要もある。

「草刈りもすごく大変で。最初はそこまでって思っていたけれど、どうしてやる必要があるのかわかってきた。お互いの価値観が、少しずつ近づいていくといいなと思っています」

遠くない将来、この場所をどうしていくか、ということを話さざるをえないときが来るのかもしれない。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 話し込んでいたら、すっかり夜が深くなっていた。先にお風呂に入って、夢も見ずにぐっすり眠った。

  

翌日目を覚ますと、台所からは食事の支度をする音が聞こえてくる。部屋はすでに暖められていて、2人の気配を感じた。

おいしい朝ごはんをいただきながら、ここに来れてよかったな、とじんわり思う。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「安全とか、食とか。金銭的な価値でない豊かさがここにはあります。もう都会に未練はないし、困っていることもあんまり思いつかないかな」

ここでの「豊か」という言葉の意味が、少しわかったような気がしました。この日から、食事の時間を今までよりも大切に過ごせているような気がします。

今は雪の季節だけれど、ぜひ訪れてみてほしい場所です。

(2016/1/27 中嶋希実)

おすすめの記事