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ふろしきマジック

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

目の前には一枚の四角い布。

その一枚の布は、どんなかたちのものも包み込むバッグや、かわいらしいラッピング、なんと服にもなってしまう。

目の前でスルスルと変化する布を見て、まるで魔法を見ているよう。

P1000595 魔法の舞台は東京・神宮前。

以前にも取材をしたふろしき専門メーカー山田繊維株式会社が持つただひとつの直営店、ふろしき専門店「むす美」です。

一枚の四角い布にたくさんの可能性を包みこみ、魅せるようにはたらく販売スタッフを募集しています。


明治神宮前駅を出て原宿通り方面に歩いていくこと10分。にぎやかな若者たちのファッションストリートを抜けるとしずかな通りに出る。

そこから少し歩くと、ウィンドウのいろどりが楽しい「むす美」に到着した。

店内にはいると“ふろしき”という言葉からイメージしていたものとはかけ離れた、現代的でおしゃれな商品たちがならんでいる。

musubi_01_fuminari_yoshitsugu 取材した日は月に1度のディスプレイ変更の日。

ディスプレイ監修のために毎月京都の本社から東京へやってくるという、3代目社長の山田さんにお会いすることができた。

P1000584 山田さんが山田繊維に入社したのは28歳のとき。

新卒で大手アパレルメーカーに就職したあと、前社長である父親が東京に営業所をつくったことをきっかけに実家に戻ってきたそう。

家業を継ぐことは決心していたけれど、あらためてふろしきを見た当時は愕然としたといいます。

「その当時のうちのふろしきといったら誰が使うんかなぁというような昔ながらのものばかりでした。使いたいと思えるものがほとんどありませんでしたね」

そのころの山田繊維は京都から東京へと販路を拡大している最中だった。いつのまにか売れないふろしきではなく、和雑貨とよばれるような布小物をつくるようになっていったそう。

当時営業をしていた山田さんは、和雑貨のアイテムやテイストが広がりすぎて会社の軸を見失いかけていることに危機感をおぼえたといいます。祖父の代から山田繊維がつくってきたふろしきに、もう一度戻らなくてはと感じたそう。

38歳で社長に就任すると、その2年後には山田繊維のコンセプトショップとして、ふろしき専門の直営店「むす美」をオープンさせました。今から11年ほど前のことだそうです。

どうして本社のある京都ではなく東京なのでしょう。

「神宮前ってトレンドが集まっているところでしょう。そういうところに来る人から見ても、いいねと思ってもらえるものをつくりたいと思ったんです。今でもこの街にセンスを磨いてもらっていると思います」

たしかに伝統的なふろしきを売っているはずなのに、どれも洗練されていて、11年間トレンドの発信地に店をかまえ続けられたのもうなずける。

扱うものは伝統的なのにあたらしい。なんだか不思議な気がします。

「伝統産業というと、技術や歴史を知って欲しいとかそういったことを考えると思うけど、僕はそれが一番ではないんです」

それでは一番は何なのでしょう?

「一番は今使いたいなと思うふろしきを作りたいということ」

「四角い布をつかって今の生活を楽しむということを僕は提案したいと思っています。だから色・デザイン・素材は現代的であっても良いと思います」

P1000514 むす美を拠点に生活の中の四角い布=ふろしきの可能性を発信したい。

撥水加工のものやポップな柄も、今の生活に合っていればつくってしまう。

京都の人は伝統を重んじるんじゃないのかと聞くと山田さん。

「僕のなかでは変えてる意識はないですよ。ふろしきという四角い布やったらなんでもええやん」

京都弁で楽しげに話す山田さんを見ていると、伝統的な「四角い布」のふれ幅はとても大きい気がします。


続いては販売スタッフの三宅さんにお話を伺いました。

P1000572 三宅さんは子供のころから日本の伝統工芸が大好き。着物の販売職を経験したあと、もっと気軽に身につけられるものを求めてむす美のスタッフとなりました。

むす美に入ってみてどうですか。

「正直言うと大変です」

大変?

「はい。布一枚といってもいろんな包みかたや使いかたがあるので、覚えないといけないですし、来店されたお客さまにあった包みかたを紹介するというのがすごく難しいと思います」

むす美の販売員はただふろしきを売るだけが仕事ではない。ふろしきを生活のどのシーンで活用できるのか、お客さんにあった使いかたを提案することがメインの仕事。

「通りすがりに来店したというお客さまには本当に包みやすいシンプルパックを提案したり。ギフト用でお探しのかただったらアレンジした包みかたを提案したり。何を目的に来られたかというのを聞くことが多いです」

聞いてみると、ふろしき一枚が傘やヨガマットのバッグになったり、丸や四角、花のかたちに包装できたり、何通りにも変化するという。

何かやってみてほしいと伝えたら、最近外国のお客さんがしていたという斬新な使いかたを教えてくれた。

「大きめのふろしきを前かけみたいに垂らして巻きこむとトップスになるんですよ」

スルスルとふろしきを結ぶと、目の前で一枚の四角が服に変わった。

P1000559 これなら介護の現場やこどものちょっとした前かけにもなるかもしれない。

むす美にいると、いろんな生活シーンになじむふろしきの可能性におどろかされる。

ここでふろしきに出会うお客さんは、まるで魔法を見ているような気分になるんじゃないかな。

このようにあつかい方を披露することはよくあることだそう。スタッフが講師となって、お客さん向けにふろしきの結びかた講習会も開催している。

「先日贈りものがしたいと言ってお酒のボトルを包む風呂敷を買いに来た男性がいらっしゃって。上手い包みかたがわからないと言うので講習会をご案内したらよろこんで来てくださいましたよ」

海外からの観光客やテレビ番組の影響もあって、日本文化が再注目されてきている。

包むというひと手間をかけることにあたたかさを感じる人も増えているようだ。

ふろしきの講習会は毎回反響がおおきく予約が必要なほど好評なのだそう。

包みかたの研修はあるんですか?

「個人的な研修はありません。そのかわりお客さん向けにやっている講習会を受けて、先輩に教わりながら覚えます。あとは自分で練習です」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 何通りも変化するふろしきのあつかい方を覚えるのは大変そう。

「包みかたがわかっても綺麗に仕上げないとお客さんにはいいと思ってもらえないんですよ」

山田社長は四角い布ならなんでもいいと言っていたけれど、四角い布でうつくしく包むという行為自体に、日本人の美意識がつまっているように思います。

山田繊維のふろしきの実用性が、今の生活スタイルにも日本の美を落としこんでいくかもしれない。

日本には1300年も昔から、四角い布で包むという文化があったそうだから、ふろしきと日本文化はやはり切り離せないように思います。


続いてご紹介したいのはむす美の店長・高橋さん。

やわらかな笑顔のなかに芯がある、明るい印象の方です。

P1000526 高橋さんは大学・大学院でろうけつ染めを学び、新卒で山田繊維に入社しました。いちど退職したのち、縁あって2年前にむす美の店長としてもどってきた人。退職前は京都本社でふろしきの開発をしていたといいます。

新しくはいる人には高橋さんのサブとして、むす美を引っ張っていって欲しいそう。

高橋さんはどんな仕事をしているのでしょう。

「毎日変わりますよ。接客もやるし、月1で社長とディスプレイを考えたり、企画展や講習会の講師をしたり。ホームページにあげる記事や会員用メルマガの内容を考えたりしています」

そのほかにも在庫管理や事務仕事、むす美の販売の仕事は多岐にわたります。

「仕事量は多いかもしれないですね。でも、新しくはいる人には最初は商品を覚えてもらったり、顧客リストを入力してもらったり、簡単なことからやってもらいますよ。最初は手間取って残業になってしまうこともあるかもしれません」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 大変だけれど、どんどんふろしきが好きになるという高橋さん。

今年から店舗で力をいれていきたいと話す企画展のお話しをしてくれました。

「ふろしきは一枚の布ですから、いろんなものとコラボをしやすいアイテムなんです。これからはむす美を通してものづくりの作り手のことをもっと紹介していきたいと思っています」

山田繊維ではオリジナル商品にくわえて作家やデザイナーと、ふろしきを通してコラボすることが結構あるのだそう。

コラボする作家の紹介やワークショップなどを開催することは、むす美というお店の可能性をひろげてくれるという。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「折り紙作家のコチャエさんとコラボしたときは、コチャエフェアをやりました。ディスプレイに折り紙を飾って、作家さんにも来ていただきました。折り紙とのコラボだったので、ふろしきとは縁がなかったというお母さんや子ども、外国人の方が興味を持っていらしてくれたりしましたね」

お客さんの層がいつもと変わるんですね。

「ふろしきをきっかけに知らなかったことや人を知ることが出来ますし、その逆もしかり。人と人もそうですし、モノと人との出会いをむす美でつくれたらなと思っています」

ふろしきをきっかけにたくさんの人やモノ、知識にふれられる。それはむす美での働きかたにも通じることのように思います。

四角い布が何通りにもかたちを変えるように、ふろしきの可能性は限りがない。

むす美というお店は、ふろしきの可能性をすべて包みこんで発信する場所なんだと思います。


最後に、高橋さんがこんなことを話してくれました。

「正直ただの販売員とはちがうと思います。ふろしきって、単なる四角い布のようでいて、じつはものすごい可能性があって歴史もある。知識やスキルなど覚えることがたくさんあります。私生活でも日本文化を知ることを楽しんでくれるような人がいいですね」

ふろしきという四角い布をつかって、自分だったら何を生みだせるだろう。

魅せかたの可能性もたくさんあるように思います。

2/23は「つつみ日」。

むす美ではこの日に合わせたイベントを開催しているそう。

ふろしきにかかる魔法を見に、いちどむす美を訪れてみてはいかがでしょう。

(2016/2/13 遠藤沙紀)