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しあわせを練りこむ

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「小さくてもいいので、幸せが循環するような店にしていきたいんです」

tubameya - 14 岐阜市にあるツバメヤは、わらび餅やどら焼きのような、気軽に食べられる和菓子をつくっている人気のお店です。

募集するのは和菓子の製造や販売をする人。やる気があれば経験は問いません。

ここで和菓子をつくっていくことは、幸せを循環させていくこと。

話を聞いて、そんなふうに感じました。

  

岐阜駅を降りて15分ほどで、柳ヶ瀬商店街にたどり着く。

婦人服の店や喫茶店など昭和の面影を残す店が並ぶ中を歩いていくと、たくさんの人が列をなすツバメヤが見えてきた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「わらび餅の販売がはじまったところです。夕方前には大半の商品が売り切れになるんです」

そう話しかけてくれたのが、代表の岡田さん。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 事前にウェブサイトなどをのぞいてイメージしていたほんわかしたお店の雰囲気とは違い、岡田さんはハキハキとした経営者。

昔から食べることや、お店をめぐることが大好きだったんだそう。

「今月は中華飯って決めたら、どこの中華飯がおいしいんだろうって食べ歩いて。バイト代はすべて食べることに費やすような学生でした」

進路を決めないといけないとき、飲食店経営で成功した実業家の本を読み独立を決めた。

準備期間を経てはじめたのは、ワッフル屋さん。

柳ヶ瀬商店街の一角に店をオープンするとあっという間に人気店になったそう。

その勢いで人が集まるショッピングセンターにも出店し、多いときには10店舗以上を経営していた。

順調のように見えていたけれど、ふと気がついたとき、たくさんのひずみが生まれていた。

「1円でも売上を伸ばさなくては。それが経営者として正しいことだと思い、とにかく大量につくることだけを優先していました。でもそうすると煩雑な部分が出てきてしまう。お客さんにもそれは伝わってしまうんですよね」

「利益のために原料をなるべく安く仕入れようと、仕入業者を買い叩いたりもしていました。調子のいいときはみな何も言わないけれど、いざ経営状態が悪くなると簡単に切られてしまうような関係で仕事をしていたんです」

がむしゃらに働いた。けれどうまくいかないことが重なって、自分自身もつかれきってしまった。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「そんな食生活をしていたら身体をこわしますよ」

穀物菜食を勉強していたスタッフがある日、岡田さんを見かねてお弁当を持ってきてくれた。

仕事が終わったあと薄暗い倉庫でひとりで食べたお弁当で、岡田さんの人生が変わる。

「感動しました。味がおいしいこと以上に、そのお弁当に生命力を感じたんです。食って本来こういうものなんじゃないだろうかって」

それをきっかけにオーガニックや穀物菜食、農業について学んだ。試しに食べ物をできるだけ自然のものに変えてみると、みるみるうちに身体が軽く楽になっていった。

いちからやりなおそう。

そう考えた岡田さんはほかのワッフルの店舗を売却。残した柳ヶ瀬の店をオーガニックカフェに変えて再スタートをきった。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA そんなときにまわりから耳にしたのが、商店街が衰退傾向にあるという話。最初は自分には関係ないように感じていたそうだ。

「ショッピングモールの会議は当たり前ですが効率的でした。けれど商店街では感情論になったり、ときには下ネタが飛び交ったり。非合理的。でもあたたかみがあるというか、人間らしさがあるなと思うようになったんです」

「柳ヶ瀬ブルース」という美川憲一さんの歌が出るくらい、一時は全国的にも知名度が高く人であふれていた街。

「時代と逆光したような、おもしろい店があります。この街に新しいお店が増えていけば、ノスタルジックとクリエイティブが共存する時代にあった商店街へと変わっていけるんじゃないかと思うんです」

今では、振興組合の副理事長をつとめるほどにもなった岡田さん。

街のこと、食のこと、そして学んできた農業のこと。どれも大切にできるようなお店をつくりたいとはじめたのが、ツバメヤだった。

「10年20年続いていくような、人が集まってくるような場所。小さくてもいいから、幸せが循環していくお店をつくっていきたいと思うようになりました」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA お店の厨房では、小さなスペースの中で4人の職人さんが休むことなくきびきびと動き続けている。

その手の中で、わらび餅が次々と丸められていく。透きとおるわらび餅にたっぷりのきな粉がまぶされて、あっという間に箱におさまっていく。

お店に出すわらび餅ができあがったあと、ツバメヤで2年ほど働いている松口さんにお話を伺うことになった。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「両親が働いていたこともあって、小さいころから料理をするのが好きでした。ある日、いとこのお姉さんがホットケーキをつくってくれて。すごく感動したんです」

松口さんにとって料理は生きていくためのもの。お菓子はなんだかうれしい、特別な感覚があった。

パティシエとして10年ほど洋菓子店で働いたあと、ツバメヤにやってきた。

同じお菓子でも、洋菓子と和菓子ではまったく違う世界。

はやく仕事ができるようになりたいと思い、家で包装の練習をしたり、休憩も早々にきり上げて働くこともあった。

「奥が深いんです。最初は自信がなかったけれど、最近ようやく胸を張ってツバメヤで働いていると言えるようになってきました」

  

しゃきしゃきした印象の松口さん。家では2児の母なんだそう。

「子どもが生まれてから、食べるものの素材に気を使うようになりました。たまごはたまご屋さんから買う、野菜は地元産のものを選ぶ。自分ではこだわっているつもりだったけれど、ツバメヤではその先があることを知ったんです」

ツバメヤに並ぶお菓子は、おやつ職人として活躍している「まっちん」こと町野仁英さんがプロデュースしたもの。

「全国各地から食材を選び抜き、ときにはつくり手に会いに行き、すべて信頼できる相手から仕入れています。それってすごいなって」

十勝産の特別栽培小豆、化学精製されていない粗糖、石臼挽きの小麦全粒粉、平飼い有精卵、低温殺菌牛乳、自然塩。

体に優しい素材、安心できる素材を使い、その美味しさをシンプルに生かす。

「まっちんさんは、小麦全粒粉や粗糖など、ふつうは和菓子作りに使わないような材料を使うんです。そして、どこにもない味をとことん研究します。素材の力強さと優しさを感じていただけるような、ツバメヤだけのお菓子です」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA ここでは春に名古屋駅前にできた、大名古屋ビルヂング店の商品もつくっている。

限られた人数で協力してできる範囲でつくっているけれど、食べたいと並んでくれるお客さんには応えていきたい。

「むちゃくちゃいそがしいですよ。地味にコツコツと、毎日続ける仕事です。気をつけていないと工場みたいになってしまう。けれどここでは店にお客さんの顔が見える。だから成長したいと思えるんです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 午後の仕込みがはじまるころ、柳ヶ瀬商店街を離れ大名古屋ビルヂング店に向かう。

電車の中で、岡田さんが今考えていることを話してくれた。

「ワッフルのときには外ばかり見ていました。今は中を見ている。お店の中もそうだし、自分自身の内面も振り返るようにしています。迷いながら進んできた中で軸ができてきたんです」

「人が増えて余裕が出てきたら、みんながやりたいことに挑戦したい。喫茶を併設したような店にすることもいいな、って思うんです」

日々せわしなく過ぎる中で、なかなかスタッフと将来のことを話す機会が持てていないと感じているそう。

2店舗になり人数も増えてきたので、組織のあり方も考えはじめているところなんだとか。

「ツバメヤを知ってもらって柳ヶ瀬に来てくれる人を増やしたい。そう思って名古屋に店を出しました。今のところ、これ以上店舗を増やしていくつもりはないんです」

大名古屋ビルヂング店で待っていてくれたのが大石さん。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA ホテルやレストランでの接客、チョコレート専門店での販売など、心強い経験を経て、春からこの店舗の店長を任せられている。

「自分がおいしいと思ったものを売りたいんです。ツバメヤの和菓子は安心してお客様に届けられる。そう思ってここにきました」

カウンター型になったお店を見渡すけれど、岐阜で聞いたような食材へのこだわりが店頭にかかれているわけではない。

いいものを使っているけれど、それを前面に打ち出しているわけではないんですね。

「先入観なく食べていただきたいと思うんです。どうしてこんなにおいしいんだろう。そう思って聞いていただけたあとのほうが、大切なことがより伝わるような気がします」

もちろん訪ねてくれる人には、どんな商品なのかをちゃんと説明する。人によって関心の強さは違うから、まずは「おいしい」と思ってもらえればいい。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA お店の前にいると「今はわらび餅ないのかしら」とたくさんの人が声をかけてくれる。

岐阜の店舗と同じように、朝と夕方のわらび餅の販売に合わせてたくさんの人が列をつくる。あっという間に売り切れてしまうので、1時間も前から待つ人も少なくない。

「今は緩急がはげしくて、お祭りみたいです。だからといってただ手早く売るだけでいいとは思いません。1人と接することのできる時間はとても短いけれど、ちゃんと感謝の気持ちを込めるので毎日が真剣勝負です」

ずっとこのような毎日が続くかはわからない。そのときの状況に合わせて、ツバメヤの和菓子を食べたいと言ってくれる人にちゃんと向き合っていきたい。

tubameya - 15 取材を終え、私もいそいで夕方の列に並ぶ。スタッフへのお土産に「名古屋あんこサブレ」をいただいた。

おやつの時間に広げると、おいしくてあっという間に食べてしまう。みんなでわいわいと食べるあいだ、その場にほっとした雰囲気がただよった。

  

重いものを運ぶこともあれば、スピードを求められることもある。決して楽ではない仕事だと思います。

その中で、毎日たんたんとしあわせが練りこまれていました。

まずはぜひ、ツバメヤの和菓子を食べてみてください。

(2017/3/15 中嶋希実)

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