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しあわせに働く社会

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「働くことは収入を得るだけではなく、人に必要とされること。地域や仲間とつながること。自分の可能性に気づき、それを発揮すること。働くことは生きることそのものです」

これは「働くしあわせJINEN-DO(じねんどう)」の石田さんが大切にしている言葉です。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 障がい者就労移行支援事業所「働くしあわせJINEN-DO」は、うつ病など精神疾患を抱える人の再就職を支援する場所です。

このような事業所では学校のように、通いながらパソコンの使い方や面接の方法などのスキルを教えてくれることが多いと聞きます。けれどこの場所で身につける力は、就職をした先で“働くしあわせ”を実現するための方法です。

「一人ひとりが輝き、働くしあわせを感じられる社会へ」

これまでJINEN-DOでは、精神疾患のある方がセルフケアのできる力をつけるトレーニングを提供してきました。

ここで新たにはじまっているのが、就職先とそこで働く人たちのしあわせな関係づくりです。

今回は彼らの就職先を、多様な人材が活躍できる場に変える支援をしていく人を募集します。

  

話を伺いに神奈川県の柿生(かきお)駅へ向かいます。実は電車が遅延してしまい、約束の時間に30分ほど遅れて到着。

この日は週に1度の調理のプログラムがあり、利用者のみなさんがお昼ごはんの準備をしているところ。あわてて挨拶をするとみなさんが明るく返してくれて、気分が落ち着く。

まずは代表の石田さんが、丁寧に話をしてくれた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 石田さんはもともと経営コンサルタントとして働いていた。息子さんが3歳のとき、知的障がいがあるということがわかる。

障がいが見つかるということは、家族にとっても、もちろん本人にとっても経験のないこと。将来を考えたとき、不安になる人は少なくない。

石田さんも息子さんの将来の分まで稼ごうと、寝る間も惜しんで働いた時期があった。

「そんなとき、障がい者をたくさん雇用している一般企業の社長さんにお会いする機会があって。こういう会社が増えれば、息子が働く世代になったときの可能性が広がるだろうと思ったんです」

その後石田さんはコンサルティングの経験を活かし、障がい者が働く場を支援する専門家が集うコミュニティづくりをはじめます。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 共感してくれる仲間も増え、集まる場所が必要になってきたタイミングでJINEN-DOを開設。

「事業の中心は企業の支援と考えていたんです。まずは当事者支援が必要だと思い開始したところ、どんどんのめり込んでしまって」

はじめてすぐ気がついたことは、精神疾患を持つ人たちが多いこと。

たとえば足が不自由な方の場合、車いすで生活できる環境を用意すれば、力を発揮することできる。けれど精神疾患の場合には、目に見えるものではないのでどう関わればいいか迷うことが多い。

「当事者の支援は奥が深い仕事です。あなたのことを想って支援しているんだ、みたいな思いも沸いてくるんですけど、それもエゴだと気がついたり。関わる僕らが自分のあり方に気づき変化成長することで、彼らも変化していくことを学ぶ日々でした」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA JINEN-DOに通う利用者は、うつ病などの精神疾患を抱えた方々。ほとんどの人が一度は働いた経験があり、職場や家庭で過度なストレスを受けてダウンしてしまった人たち。

「適切な医療のサポートなどを受け、回復に向かっていく段階でここに通っているけれど、ストレスがかかればまた再発する可能性は高いんです。そうならないように、セルフケアができる力を身につけます」

セルフケアとは、自分で自分を大切にする技術。JINEN-DOではセルフケアを「5つのチカラ」と定義している。

気力、体力、コミュニケーション力、配慮要求力、そして習慣形成力。

中でもなるほどな、と思ったのが配慮要求力。精神疾患は見た目ではわかりにくい。自分で疲れ具合に気がついて体調管理したり、自分の状態を相手に発信することで周囲の人との関係をつくっていくことができるチカラ。

休憩時間にストレッチや水分補給など、うまくリラックスできる方法を身につけるのもここで学べることの1つ。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「この場所を立ち上げてから5年間、利用者の一人ひとりと丁寧に向き合うことで、彼ら本来の力を発揮できるようにセルフケアができる力を高める支援に注力してきました」

川崎市と協力しながら、培ってきたノウハウを広げる活動も行っている。今では全国各地でこの方法が取り入れられるようになってきた。

「セルフケアの力を持つ当事者の育成方法が構築されてきたので、今後は企業とご本人の関係を支援していくことにも力を入れていきます。ようやく最初にやろうとしていたことに取り組むタイミングにきましたね」

たとえば障がい者を採用して働く環境に配慮をするけれど、本人が給料に見合った価値を発揮してくれないと感じると、それは健全な関係とは言えない。

就職をすればゴール、というわけではない。

就職先となる企業とのコミュニケーションを担当しているのが北村さん。今回入る人は、まずは北村さんのやり方から学ぶことが多いと思う。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「障がいのある方の就職は年々増えています。就職して1年後、どれくらいの人がその職場に残っていると思いますか?」

職場が合わないということもありますよね。8割ほどでしょうか。

「実は精神疾患の方は5割の人が辞めてしまうといわれています。定着をするためには受け入れる上司や同僚がサポートする力、当事者がセルフケアをする力。そして、外部から支援をする力が必要だと考えています」

「けれど、外部支援ありきではじまってしまう関係が多いので、続きません。大切なのは外部ではなく、当事者である現場の同僚や上司とご本人が上手に向き合うことなんです」

JINEN-DOではなるべく早い段階から、支援をしなくても企業と本人で良好な関係が築けることを意識している。ポイントは、事前に丁寧に説明をすること。

「雇う側にも不安があります。そこに対して丁寧に答えていく。事前に状況を説明しておく。内緒にしてもあとで問題が起こってしまうので、たとえば彼らは疲れやすいということをちゃんとお伝えするんです」

くわしく教えてください。

「精神疾患は生まれつきのものではなく、基本的に中途発症です。ストレスがかかることで自分が出したい感情とは違う感情が出てしまったり、思った通りのコミュニケーションができなくなってしまう。僕らよりも気苦労が多いんですよ」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「ある卒業生は仕事中でも急激に眠気が高まり、寝てしまうという症状がありました。会社にも説明をして理解を得ていたけれども、頻度が高くなり困っていると怒られて、本人も落ち込んでしまったことがあるんです」

就業先に赴いて話を聞いていくと、周りのスタッフの士気が下がってしまうことが困るという意見を知ることができた。そこで寝るときには休憩をとれるスペースに行くよう、周りにも声をかけてもらうように提案。その後もいい関係は続いている。

こんなふうに問題が就職後に発生するケースは、昨年はこの1件のみ。セルフケアをする力を高めているから、トラブルが起きることが少ない。

北村さんは、障がいのある人を雇うことに関心がある企業に向けたセミナーを毎月開催している。

「企業の状況や考え方を理解しながら、当事者はもちろん、一緒に働く職場の人達もしあわせにできる世界をつくっています。この関係づくりに、本気になって汗を流せる人と一緒に働きたいでですね」

  

今日は卒業が近い利用者が、実際に企業で実習をした振り返りをしているというので、見学させてもらう。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 実習に行く前にどんな不安を抱えていたのか、実際に行ってみてどんなことを考えたのか。ほかの利用者の前で、自分の口からしっかりと話をしていく。

その場のファシリテーター役を勤めていたのが、2年前からここで働いている外山さん。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「最近は実習生や就活生のサポートを中心に担当しています。小さい組織なので、なんでもやりますよ」

地元は福岡。小学生から大学生になるまで、子ども劇場という活動に参加していた。

「大人は見守るだけで、演劇やキャンプなどの活動を子どもが一からつくるんです。自分で考えて、決断して前進する。ここで主体性の大切さを学びました」

主体性ともう1つ、外山さんが大切にしてきたのが、相手の可能性を無条件に信じること。

「中学生のときの話です。塾の先生がちゃんと私のことを見てくれている。できることを信じてくれている。それだけですごく力が出ました。信じるという気持ちが、相手に勇気を与えることを知ったんです」

この2つのことを大切にしてきた外山さんが2年前に出会ったのが、日本仕事百貨で前回紹介したJINEN-DOの記事だった。

「説明会にきたとき北村が『利用者さんの無限の可能性を信じてるんだ』って話していたんです。私の考えてきたこととまったく同じだということにびっくりしました」

この場所で大切にしている価値観を知らなくてはなにもできないと感じ、まずは利用者と一緒に、5つの力を学んでいくことからスタート。少しずつできることが増えてきた。

「自分を大切にしてしっかり向き合うこと。意見が違うと思ったら、勇気を持って先輩に意見を言うこと。私があたらしい環境で試行錯誤する過程は、利用者さんが就職したあとの姿に重なる部分もあると思っています。自分のありのままを見せることが、私の役割なんじゃないかなって」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「利用者さんが生きやすくなった瞬間に立ち会えたとき、とてもやりがいを感じています」

生きやすくなった瞬間。

「一見何事もなく過ごしていた利用者さんが、面談をしていたときに溜め込んでいた気持ちを爆発させたことがありました。ここに通う方は心のブロックがいくつも重なって、本来の自分が見えない状態になっていることがあります」

「本当の気持ちを出せた瞬間から、自分と向き合い、主体性を持って着実に歩みはじめる。少しずつ自然体の自分を取り戻していく。そんな姿に立ち会うことができるのが、大きな喜びです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 最後に、石田さんがこんなことを話してくれました。

「就職支援を通して、そこで働く人たちのしあわせな関係をつくるのが僕らの仕事です。けれど、相手を変えるのは簡単なことではありません」

「たとえ相手を変えることができなくても、自分のあり方や関わり方を変えることで、相手との関係性を変えることはできます。利用者や彼らの就職先、僕らの手におよぶ範囲の関係であれば、自分たちの心がけ次第で限りなく理想に近づけると思うんです。関わる人や職場に、いい影響の輪を広げていきたいと考えています」

(2017/1/25 中嶋希実)

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