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木村硝子店のグラスをいつかリトルトーキョーで使いたいと思っていました。ただ、そんなに安いものではないからなかなか決断できません。そんなときに木村硝子店から求人掲載の依頼をいただきました。
話を伺ってあらためて思うことは、やっぱり木村硝子店のグラスがほしい。それって、なぜなんだろう?今でもはっきりとはよくわからないのですが、そう思いました。
この仕事も同じ。きっと一緒に働きたい人はいると思います。
役割は商品管理です。在庫を確認して、梱包して、発送していく仕事になります。
湯島駅を降りて、秋葉原や神田明神のほうへ歩いていくと、木村硝子店のオフィス兼倉庫兼ショールームがある。末広町駅からも近い。
入口から入って挨拶すると、ショールームへ案内いただいた。
しばらく待っているといらっしゃったのが木村硝子店の代表である木村武史さん。
早速、ガラスの話になった。
「俺は絶対硝子感みたいなものをもっているのよ」
絶対硝子感?
「ガラスを見たら、どういうガラスかパッとわかる。ずっと子どものころからたくさんのガラスを見てきたからね。職人さんのレベルもわかるし、ガラス工場でつくっているなら、職人さんが機械をどうメンテナンスしているかもわかるんだよ」
メンテナンスがわるいと、それはグラスに現れてくるんですか。
「出る。もう完全に商品に出てくるから」
そしたら、どこに頼めば欲しいグラスをつくれるかもわかるんですかね。
「世界中、ぜんぶ知っているわけじゃないけど、お付き合いしている会社だったら、どういうふうなものができるか大体わかる」
「ただ、職人が技術的につくれるものでも、採算を考えると注文は受けられないなんてことはあるよ。やれるんだけど『おたく、これ一個一万円払うつもりあるの?』って言われたりね」
納得してつくってもらったものの、品質がよくないことはあるんですか。
「あるよ。不良だと思うものは仕入れ先に返品するわけだ。うちが販売したあとに返されることだってある。でもうちが納得できないときは『これは不良ではない』と言うよ。これを不良にされると経営が成り立たないと」
「眼鏡のレンズと同じくらい傷がないってことを望むだろうけど、眼鏡のレンズじゃないんだからそこまでの基準で物をつくる気がない。このグラス一個5万円で買ってくれるっていうんなら、眼鏡のレンズに近い基準で検品しようと」
なるほど。そうですよね。
「ところがうちの持っている基準と工場の持っている基準のグレーゾーンっていうのがあって、これを工場に返すのはいくらなんでもかわいそうだけどね、これお客さんに買い取れっていうのもちょっとな、っていうのがあるわけ」
「それはもうバーゲンセールで売っちゃおうと。喜んで買ってくれる(笑) まあそんな感じだね、やり方として」
なんだか落語を聞いているような感覚。
あと印象的だったのが「うちのガラスは割れるよ」とおっしゃること。ほかにも木村硝子店の商品をネット上で売りたいという人が現れても「売れないよ」と言ったりすることも。
普通ならそんなネガティブなことは言わないのでしょうけど。
「うちのガラスを売りたいって言われても、よく売れているのは安いガラスだって答えるよ。木村のガラスは高いから難しいよ、って言ってね」
なんでそう言うんですか?
「だって本当に売れないからね。売れるガラスと思ってないよ、俺」
それなら売れるガラスってなんでしょう。
「それはやっぱり安いガラスだね。木村のガラスは高いからそんなに売れないわけですよね。だけど、うちが商売成り立っているのは、手づくりのガラスの良さを肌でわかる人たちが買っていってくれるからだよ。うれしいことに、もちろんつくってる俺もこれは良いって思うものをつくって売るわけだよ」
自分が信じるものをつくっているんですか。
「まあ信じるといえば信じるなんだよね。ただ、まあ俺の感覚はどっちかっていうと信じるとか信じてないっていうより、好きなものをつくってる、っていう感じだな」
好きなものをつくってる。
「そうだね。ものをつくるっていうのも思いつきだし。でも人によっては、俺が思ってることが思いつきじゃないのかもね。どうなんだろうね、わかんないね」
なんて言うんでしょう。話していると、とてもよくわかるんです。論理的だし、その都度考えたほうが、決めつけて行動するよりも結果もよくなるような気がします。
でも判断結果だけ聞くと、まわりで働く人たちは大変だと思うかもしれません。朝令暮改ですからね。
「もう朝令昼改っていうんだってさ。こないだ誰かに聞いたよ。木村さん、それだと時代に追いつかないよって言われて、俺の会社は朝令昼改夜撤回だからさって言われて。いいね、それって言って(笑)」
今思っていることについては正直なんでしょうね。
「うん、今思ってることについては正直だよね。たとえば、今話していてなにか新しい刺激をもらったとするよね。そしたら、へえ、そうなのかって思って、考えが変わる可能性はあるよね。で俺は変わっていいと思ってんの。全然問題ないから。あんた一貫性ないねって言われようが、今この情報が入った以上、俺は変わるよ」
「でもスタッフの意見はなかなか聞けないんだよな」
聞けないんですか?
「だって俺の石頭がそう簡単に人の意見聞けないよな。俺はこういう状況の中で頑固一徹にやっているわけだよ、人が何と言おうが」
「でも一応聞くよ。真面目に言ってきたやつの意見は、俺も物覚え悪いけど覚えていて、あいつあんなこと言っているけど『なんなんだ、あれは』っていうように。それは結構思い続けるね」
心には残るんですね。
「残るね。どうでもよさそうな話かもしれないし、でも選んで話しているわけだから。これは俺にもわからないね」
スタッフの方とは、どんなやり取りをするのだろう。すると木村さんがあるエピソードを教えてくれました。
ショールームを小売店にしようと計画しているときのこと。
「そしたら『何考えてんですか、社長!』とかいうの。『何考えてるんですかって、何も考えてねえよ』ってのが俺の答えで。『ちゃんと計画、たててるんですか!?』って言うから『計画なんかたててねえよ』と」
「悪いけど小売店やったこともないし、経験もないし、計画たてようもないし、どうやって計画たてていいかもわかんない。それなのに実現できるかもわかんない計画たてて、満足して、計画通りいったとかいかないとかってことも考える気もないって言ってね」
計画通りにいくのが目的じゃないですもんね。いい仕事をするのか、好きなようにやるのか、いろいろあるでしょうけど。
それに、やってみないとわからないですもんね。
「そうだよ。やってみなきゃわかんねえよ、って言ったら、『そうですか』って黙ったけど」
「あとなんか盛んに言うんだよね『ちゃんとやろう』って。ちゃんとって何なのかよくわからないから、俺は俺のやり方でやると」
ただ、木村さんは自分の意見を押し付けていないように思います。
「そうだね。押し付ける気はまったくないね。自分も納得できないことは聞かないけど、納得させろよって言うつもりもない。でも会話が増えていけば、お互いに理解してないところを理解できてくるよね。そのなかで『それ、いいな』ということがあるかもわかんない」
「それに少なくとも命令口調で俺は言ってないと思うよ。それからたぶん文句も言っていないと思うの。怒ったりすることもないと思う。まあ、冗談だって100%伝わるときは言うよ、俺も。でも相手が本気で受け取るときは絶対に言わないね」
こんな木村さんのもとで働くのはどういう人たちなんだろう。
話を聞いたのは五十畑さん。もともとパン屋で10年間働いていた方。
「パン屋は朝早いし、製造だったのできつくなってきて。もっと続けられる仕事がしたいなと思っていたら、叔母に東京ドームのテーブルウェア・フェスティバルでアルバイトしないかって言われて誘われたんです」
そのときに木村さんと出会ったことがきっかけになって一緒に働くことになったそう。
はじめの印象はどうでしたか?
「まあ、なんか個性的な人たちで。でも悪い会社じゃなさそうだなって思って。今はもう丸2年経ちました」
今はどんな仕事をしていますか?
「商品管理ですね。在庫を確認して、梱包して発送する」
仕事を見ていると役割分担しているようにも見えたんですが。
「そうでもないんですよ。基本的には一人ですべてを担当します」
「中津さんはずっとあの場所にいるけど、もともとは同じようにやっていたんですよ。だから全部わかるんです。あと青柳さんは検品もやっている。メガネの髪の長い方」
はじめはどんな仕事なんですか。
「はじめのはじめは、品物の場所をおぼえるところからでしょうね。まあ、おぼえなくてもパソコンに書いてあるので、自然とおぼえちゃう感じなんですけど」
「あとは立ち仕事で、重いものもあります。ただ、体は締まりますね。私は太りましたけど」
木村社長のことはどう思いますか?
「まあ、変わっていますよね。変わっていませんか?」
そうですね。ただ話は論理的だし、意見を押し付けないし。話は聞くけど、聞かないような感じもします。
「そうそう。社長が話すときは、もう社長のなかで決定している感じですね」
一緒にいると緊張感はありますか。
「あまりないかな。私のなかでは全然ないです」
怒ることもないって言ってました。
「怒られたことないです」
なんだか変なストレスみたいなものはなさそうだ。食事に行くこともあるそうで、家族のような温かさを感じる。
けれども、木村さんにそれを確認してみると、それは違うとのこと。
「みんなで家族的な雰囲気でやりましょうっていうのは嫌なんだよね、俺」
でも家族的な感じも受けます。
「だろうと思うよ。よく人に言われるよ。だけどそうしましょうっていうのは嫌なんだよ」
そうしましょう、は嫌なのか。
決めつけて行動しない。だれかに自分の意見を押し付けない。その代わりでもないだろうけど、今の自分の思いに正直でありたい。これは一貫しているように思いました。
そんな姿勢はガラスにも現れているように思います。
自分に正直にガラスをつくっている。それがいいという人が手に取ればいい。
ここで働く人も同じだと思います。
ぼくは木村さん好きですよ。もし興味があるなら連絡してください。
(2017/05/15 ナカムラケンタ)