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時を超え、続いていくもの、途絶えていってしまうもの。長く続いてきた伝統や文化がこの先残っていくかどうかは、今このときを生きる私たちの手にかかっているのかもしれない。
創業から110年、奥順株式会社が守り伝え続けてきたのは、日本を代表する絹織物「結城紬」。
日本全国さまざまな絹織物はあれど、この結城紬の歴史は約2000年。ユネスコ無形文化遺産にも認定された最上品です。
本場結城紬は、けして安いものではないけれど、手つむぎ糸によって生まれる独特の風合いと、そでを通すたびに柔らかくなっていく素材の味わい深さは、着物通たちが憧れてやまないものなのだそう。
今回は、そんな結城紬を今に伝えるミュージアム“つむぎの館”をマネジメントする人の募集です。
織物や着物の知識は今はなくても構いません。重厚な伝統を残していくために、やわらかな感性でいきいきと働いている人たちを取材しました。
電車に揺られ、東京から2時間ほどで到着したのは、結城紬のふるさと・茨城県結城市。
このあたりは、室町時代から続いた城下町の景色が色濃く残る。蔵や古い商店が並んでいる静かな通りが続いていて、のんびりと散策したくなる雰囲気。
しばらく奥へ進むと見えてくるのが、つむぎの館だ。
広い敷地内には、資料館に染織の体験施設、オリジナルの着物や小物を買うことのできる店などがあり、国の有形文化財に指定されている貴重な建物も多い。
まずは明治初期に建てられた蔵をリノベーションしたカフェ「壱の蔵」で、4代目社長の奥澤武治さんにお話を伺う。
「世界に類を見ない、手でつむいだ撚り(より)のない糸。ここに結城の生命があるんだよ。糸が空気を含む結城紬は、軽いのにあたたかい。あの風合いは機械じゃつくれないんだ」
結城紬は、真綿からていねいにつむぎだされた手つむぎ糸のみで織りなされる。1着分の糸をつむぐだけでも2、3ヶ月はかかるのだそう。
途方もない時間をかけてつくられる結城紬の話を、武治さんは熱っぽく語ってくれる。
明治40年、奥順は産地問屋として結城のまちで商いを始めた。武治さんはその一家に生まれ、営業マンとして全国の百貨店や呉服屋に結城紬の魅力を伝える毎日を送っていた。
そんな日々のなか、「そもそも結城紬って何なの?」「生産過程を見せてほしい」という声を聞くようになった。
「結城紬はこれだけ古い歴史や技術を持っているのに、その資料は本当に少なくて。まちの人でも知らないことが多いんです。結城紬を伝えられる場所があったらいいのに、という思いからこのつむぎの館という施設は始まりました」
40年前に、まずは資料館「手織里」を設立。さらに一般の人が来ても楽しめるよう、小物を販売する店や、生地を見て触ることのできる「陳列館」をつくった。
イベントも企画しながら、結城紬を伝えるミュージアムとして日々、さまざまな進化を重ねている。3年前には自社でデザインする着物ブランド「結城澤屋」も展開した。
「結城という場所に、先人がこの結城紬を残してくれたわけです。私たちは今、2000年続いてきた歴史の一点に立っているんだ。私はその代表として、次の時代にきちっとした形で結城紬を残していきたいんです。そういう使命感を持っています」
結城紬を残していくことこそ、奥順が変わらず目指していること。武治さんはそう話してくれた。
現在つむぎの館をマネジメントしているのは、専務の奥澤順之(よりゆき)さん。武治さんの甥で、次期社長にあたる方です。
今は専務でありながら、さまざまな部署をかけもちしている状態。今回は、つむぎの館をより充実した場所にするために、順之さんに代わる部門長を募集することになった。
つむぎの館のマネジメントを始めて1年ほど。運営の方針や具体的なやり方も、試行錯誤をしながらここまでやってきた。
「部門長は接客もするし、資料館で案内もしますよ。僕もまだまだ目の届かない部分があるけれど頑張っています。7、8名をマネジメントするイメージですね」
つむぎの館では、たとえば営業部門や体験部門、企画、仕立てなどそれぞれの部署に分かれて仕事を担当している。部門長はそれぞれの担当者の業務に対して企画や予算などのアドバイスをしたり、チームが円滑に回るよう指示を出しながら全体を取りまとめるのが仕事になる。
各部署とコミュニケーションをとりながら、施設の一貫した方向性を示し続けて、つむぎの館全体を引っ張っていけるような人に来てもらいたい。
順之さんが考える、つむぎの館の方向性を聞いてみた。
「ユネスコや国の遺産に登録されているからと言って、結城紬を知っている人は全国的に見ても本当に一握りしかいないというのが現実だと思います」
「伝統や技術さえあれば生き残れる、という時代ではないということは産地の人間もみんな分かっているんです。だからこそ、今つむぎの館が必要だと思っていて」
つむぎの館はどんな役割を担っていくんでしょう。
「今はいろいろなことに無駄がなくて、効率がいいですよね。衣食住にこだわりがなくても生きていくことができる。そのなかで、結城紬もただ高いだけのものだと思われてしまうんです」
「生活へのこだわりや時間のかけ方。結城紬が伝えられる価値観があると思っています。伝えるべき相手に届けるためにも、展示や商品企画、イベントなどを行い、発信をしていくことが必要なんです」
結城紬が日本の美意識から生まれた文化だということを伝えていくために、今後はアートと結城紬を掛け合わせることも考えているそうだ。
「まずは結城紬のもつ価値観を知ってもらいたい。その結果、購入いただくことも必要です。そうしないと残っていきませんから」
価値観を伝えるための試行錯誤を続けてきた結果、少しずつではあるものの、手応えを感じるようになってきたそう。
日々お客さまと接し、価値を伝える役割を担うみなさんにもお話を伺います。
オリジナル着物ブランド“結城澤屋”を任されているのが、伊藤さん。
伊藤さんは、以前掲載された日本仕事百貨の記事を見て入社した方。つむぎの館のなかにあるお店のディレクター・店長になって1年が経つところです。
「私は、自分でビジョンを持ってそれに向けて走りたいっていうタイプ。ここでは澤屋担当として多くを任せてもらえるので、いろんなことを実現できています」
オリジナル商品の企画や仕入れといった仕事のほかに、ニュースレターを企画編集したり、ご自身が講師となってワークショップを開いたり。入社1年目とは思えないほど活躍している。
「ただ結城紬だけを扱っていればいいということではないんですよね。結城紬の持ついろんな可能性を、さまざまな分野と結びつけて発信していけたらと思っています」
「たとえば、今後はこちらの壱ノ蔵でラウンジイベントを企画しています。地元の団体や企業さんたちからの協力を得た、クラフトビールと音楽のイベントです。私たちがすてきだな、格好いいなと思うものと一緒に、柔軟な感性で結城紬に触れてもらうきっかけをつくりたくて」
一方的に結城紬の良さを守り発信するだけではなくて、素直にいいと思えるスタイルは取り入れていく。つむぎの館では、結城紬にいろんな角度からスポットを当てられる。
すごく自由な発想で仕事をされているように思います。
「結城紬という絶対的な存在があるので、不安はないんです。より興味を持っていただける方に伝えていくことができれば、結城紬をライフスタイルの一つとして選んでもらえる可能性は大いにあると信じています」
続いてはつむぎの館全体の企画や広報を担当している榮(さかえ)さんにもお話してもらいます。榮さんは去年の秋に入社しました。
「もともと着物に関わる仕事をしたいと思っていたんです。でも結城紬に関しての知識は全然ありませんでしたね(笑)」
「モノがつくられる現場を知っていただけて、ここがすごいということをちゃんと伝えられる仕事っていいなと思って入社しました」
つむぎの館として今は、展示施設「陳列館」にも力を入れたいところ。榮さんは、順之さんと一緒に月ごとの展示についても考えている。
常時200点以上の結城紬の反物が展示されている陳列館。風合いや軽さを大切にする結城紬だからこそ、直に触れることのできる陳列館は貴重で、訪れる方もよろこんでくださるそう。
「以前、ずっと憧れていた奥順の結城紬がほしいと、高知から息子さんと一緒に来てくれたお客さまがいらっしゃいました」
陳列館にやってきたその方は、ずっと憧れだったという結城紬に興味深々。榮さんは資料館にも案内して、真綿に触れてもらったり、工程を詳しく説明した。
「『本当に手間暇かけてつくられているものなのね』ってすごい感動されて。結局すべての工程を手作業で完成させる、とても高級な生地をお買上げいただきました」
「高級品であればあるだけ、ポンって出せる金額じゃない。だからこそ、モノができあがるまでや手に入れるまでのストーリーすべてが、いい思い出として残ってほしい。ここは背景を知ったうえで触れられる、納得してモノを手に入れられる場所だと思いますね」
結城紬のことは、どうやって学んでいったんですか。
「最初は資料館を見ても全然分かりませんでした。人が説明しているのを聞いたりですとか、本を読んで勉強しました」
「専門性の高いものを扱うので、最初はどうしても大変かもしれないですね」
新しくはいる方も知識は必要ないとはいえ、自分で勉強をしていく必要はありそう。
もちろんわからないことは、みなさんが丁寧に教えてくれるので大丈夫。
「なぜか職場に来てるって雰囲気じゃないんです。私はなんだか居心地がよくって。自宅その2みたいな感じですね」
すると隣で聞いていた伊藤さん。
「老舗の割にかなり自由な雰囲気なんです。だから、人に言われてやるって人よりは、自分からこうしなきゃいけないっていう目標をつくれて、それに突き進んで行ける人じゃないとモチベーションが維持できない。その厳しさはありますよ」
専務の順之さんも加わります。
「マネジメントと言うと大げさに聞こえるかもしれませんが、野球の監督と同じです。何でもできる必要はないとは思うんですよね」
「着物に興味があったり、マネジメントの経験はあるにこしたことはないけど、それよりもつむぎの館をこういう場所にしたいということが自分の頭で考えられる人がいいな」
2000年のその先には、どんな未来が待っているのだろう。ここで、一緒に未来をつむいでいける仲間を求めています。
(2017/7/29 遠藤沙紀)