※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
今回ご紹介するのは、これまでとは違った価値観を世の中に提案する仕事。“フェアトレード”をファッションのひとつとして提案するというものです。
はじまりが“かわいそう”ではなく、“身につけたくなるファッション”という切り口からフェアトレードを知ってほしい。
そんな思いからフェアトレードのセレクトショップ「Love&sense」をはじめたのが株式会社福市。

まずはどのような思いで働いているのか、お話を伺ってきました。
大阪市営地下鉄の本町駅から、大通りから少し入ると公園を見下ろすビルが見えた。このなかに福市の本社オフィスはある。
こじんまりとしたオフィスで働いているのは、今は女性ばかり5人ほど。海外とのやりとりや、webの運営、イベントの企画などを行っている。
こちらが代表の高津さん。鮮やかなブルーのシャツとスカーフが印象的。

フェアトレードの商品というと、アジアン雑貨といったものを想像しがちだけれど、Love&senseの商品はちょっと違う。
使うシーンを問わない、デザイン性の高いアクセサリーや服、ときには少しとがった商品もセレクトしているのが特徴だ。
たとえば、ブラジルでつくられていたこのリサイクルのプルタブでできたバッグ。

商品は、途上国のフェアトレード団体からセレクトしたり、自らデザインをおこしたり。よりよいアイテムを求めて、高津さんは世界各地を飛び回っている。

当時はバブル崩壊後のデフレ真っ只中。消費の波が安いほうへと流れていくのを感じたそう。
「『なんか変やなぁ』って気持ち悪さが、ずっとあったんです」
気持ち悪さ?
「たとえば100円で販売されている商品。その中には原材料だけでなく、人件費・輸送コスト・販促費・お店での販売経費・利益が含まれています。どうしたらこんな値段でできるんだろうと。もちろん企業努力もあると思いますが、どこかにしわ寄せがいってるんじゃないかと感じました」
高津さんは、90年代後半から情報を集めたり、途上国を訪ねたりした。
「現地では児童労働があったり、教育を受けられず働く場所を選べない、あるいは不当に搾取されたり、環境に配慮が無かったり。自分の知らないことばかりで、ショックを受けました」
この現状を何とかすることはできないのか。
「調べていくうちに、多くの問題は貧困が原因だということがわかりました。そして、この貧困を生んでいるのは、安さばかりを追い求めている私たちなのかもしれない、ということに気がついたのです」
「でも、日本に住んでいる私たちは、ほとんどこの現状を知りません」
まずは途上国の現状や貧困問題を知ってもらうこと。そして、気に入った商品を購入してもらうことが、生産者の生活を豊かにすることにつながれば。
貧困のない、笑顔あふれる世の中にしたい。思いを形にするために、2006年に株式会社福市を設立しました。
ファッションという切り口にしたのは、より多くの人の気づきになればという思いから。
「『国際協力、フェアトレードが必要です』『貧困問題をどう考えますか?』って発信するのもアプローチのひとつだと思います」
「一方で、『このかわいいアクセサリー、途上国の人たちの笑顔につながっているんだ』というふうにファッションから入ってもらえれば、もともと興味のなかった人が海外の問題に関心を持つきっかけになりますよね」

「私たちは2つの事にこだわっています。1つはフェアトレードの商品をすてきにすること。もう1つは、より多くの人に届くように、あえて多くの人が訪れる商業施設に売り場をつくることです」
「そうすることで、フェアトレードや貧困に関心を持っていない人にも、届く可能性が高くなると思っています」
しばらくお話したあと、高津さんと一緒に事務所から20分ほどのところにある阪急百貨店うめだ本店に移動した。
2012年のオープンから5年間も百貨店にお店を持ち続けていられるわけは、マーケティング力と魅力的な商品、お店づくりにあるのだと思う。
ここで高津さんが紹介してくれたのが店長をしている岩さん。

インターンを経て今年で入社4年目。明るい声で話しかけてくれる、なんとも愛らしい人です。新しいフルタイムスタッフは、岩さんと一緒にお店づくりをしていく人となります。
あいさつをしている間にも、若いカップルやスーツを着た女性、買い物中のご婦人など、お店にはお客さんが途切れることなくやってくる。
明るいお店は、親しみやすい雰囲気。商品のそばに、そっとものづくりの背景が書かれたポップが置いてあった。

「大学では国際関連の勉強をしていて、海外協力にも興味があったんですけど、私はおしゃれも大好きだったんです」
インターンから社員となり、2年前から店長を務めている。

「Love&senseは、世界で起こっている問題をダイレクトに伝えたり、貧しい村がいかにかわいそうかというお話をするお店じゃないんです」
たしかにフェアトレードを前面に出したお店、という感じではないですよね。
「そうなんです。お店もあえてそういう見せ方はしていなくて」
「気に入った商品のつくられた背景を知ることで、さらにそのアイテムを好きになったり、身につけるときに誇らしい気持ちになれたりする。新しい価値としてのフェアトレードをお伝えする場所だと思っています」
新しい価値としてのフェアトレード。
「せっかく身につけるものを買うなら、誰かの笑顔につながるようなものがいい。そういうスタイルがかっこいい。最終的にはそんな文化ができたらと思っています」
そのためには、どのような販売をしているのだろう。
「かわいそうとか寄付につながるからということは言わないようにしています。そういう気持ちで買っても、次はないと思うんです」
「素材やデザインがかわいくておもしろい商品が多いので、まずは商品の説明をするとお客さまも楽しんでくれる。それを重ねていく。エンターテイメントみたいな感じです」
商品の素材のおもしろさや、デザインの良さを一緒に話しながら、空気を盛り上げていく。その上で「フェアトレードという考え方があって」と少しずつ紹介していく。
たとえば、このかごバッグ。

そんな話を聞いたお客さんが「せっかくならそういう買い物がしたい」と、考え方そのものに共感して買っていくことも。最近はフェアトレードの価値に賛同してくれたリピーターが増えているという。とはいえ、販売ならではの難しさもあるよう。
「売上げをつくって店を継続させないと、商品をつくっている生産者の仕事がなくなってしまう。フェアトレードを伝えることと、売上をつくることのバランス感覚は大事ですね」

どういうことなのか岩さんに聞いてみる。
「店舗での販売・運営だけでなく、海外からの生産者を招いてイベントを行ったり、お客さまの声を商品開発に活かすために会議に参加したり。小さな会社なので、さまざまな仕事を任されるんです」
「もちろん、プロとしての取り組みや成果が前提です。その上で、自ら手をあげてやりたいと言ったらチャンスがある会社です」
岩さんは入社4年目でありながら、海外で開催されたフェアトレードの国際会議に2回も参加している。
仕事が何のためにあって、誰のためにやっているのか。問い続けて行動できる人だったら、垣根を超えて楽しめそうな会社だと思います。
最後にご紹介するのは、イベント担当の伊藤さん。
全国の百貨店などで行なわれるポップアップショップイベントの企画、設営、販売、売上の管理などすべてを担当しています。

言葉のとおり、今回は伊藤さんの仲間となってくれる地域ごとのパートナーを探している。
たとえば、名古屋出展のときだけ、名古屋の近くに住んでいる委託スタッフが入って受け持つという感じ。その人の住んでいる地域にもよるけれど、年に数回、その期間だけお手伝いしてもらうイメージだ。

はじめはイベント期間の販売をしてもらうことになるそう。慣れるまでは伊藤さんと二人三脚で取り組むので安心だ。
「北九州でイベントをしたときに『大阪旅行に行ったときに阪急うめだ本店のLove&senseに立ち寄ったよ』と、お客さまがわざわざ訪ねてきてくださったこともありました。フェアトレードで繋がっているんだなと、思わずうれしくなりましたね」
「将来的には、ポップアップショップの運営や設営といった全体をお任せできたらと思っています」
これは福市にとってもはじめての取り組み。相談しながら進めていくことになりそうです。
福市が目指しているのは「持続可能な社会にむけて行動する人を増やす」こと。買い物にフェアトレードという新しい価値観を提供することで、結果的に世界を変えていきたい。
直接訴えるわけではないからもどかしく感じることもあるかもしれないけれど、やりがいのある仕事だと思います。
(2017/10/27 遠藤沙記)