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染織の可能性

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何でもかんでも自分たちでやる。

それは一見、手間も時間もかかって大変に思えるかもしれないけれど、自ら経験したほうが得られるものは圧倒的に多い。

一歩ずつでも、着実に経験を積み重ねていける環境がここにはあると思う。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 小島染織工業株式会社は埼玉県羽生市にある染織メーカー。

この地に伝わる伝統工芸「武州正藍染(ぶしゅうしょうあいぞめ)」を軸に、現代的な手法を取り入れた様々な“染め”と“織り”を行っています。

募集するのは営業職。

自社工場以外にも、全国各地にある協力工場と連携しながら、お客さんの染織に関するあらゆる相談事に応えていく。

専門知識を得るために、まずは2週間から1ヶ月間、自社工場の現場で実際に染めと織りを経験することからはじまります。

営業アシスタントや染織職人も合わせて募集するので、興味のある人は続けて読んでみてください。


東武伊勢崎線・南羽生駅から車で5分ほど。

田畑が広がるのんびりとした風景のなかに、1本の大きな煙突が見えてくる。小島染織工業のものづくりを象徴するトレードマークだ。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 古いノコギリ屋根の木造の工場は昭和初期に建てられたもので、まわりの工場建屋や事務所も味のある建物ばかり。

小島染織工業は明治5年の創業以来、140年余りにわたって、藍染をはじめとした様々な織物をつくり続けてきた。

「ここへ来るまで田んぼが多かったと思いますけど、このへんは昔から農作地帯なんです。うちももともと農家で、創業当時は食べものも衣服も自給自足に近い時代でした。農閑期に副業として野良着の生地を藍染でつくりはじめたのが、創業のきっかけだといわれています」

そう話すのは、代表の小島秀之さん。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 現在の北埼玉周辺は昔、「武州」と呼ばれ、この地域では江戸時代後期より藍が盛んに栽培されるようになったのだそう。

藍染が一大産業として成長した最盛期には、200軒以上もの藍染屋があった。

時代の変化とともに数は減り、羽生近辺で藍染をしているところは現在4軒のみ。そのうちのひとつである小島染織工業は、この地に由来する伝統的な藍染方法にこだわり続けてきた。

「よかったら工場の中をご覧になってください」

小島さんに連れられて、まずは藍染の工程を見せてもらうことにした。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 小島染織工業の藍染は、染める前の準備段階からはじまる。

最初に“綛(かせ)上げ”といって、仕入れた綿糸を木枠に巻き取り直す。使う機械は木板・ベルト・歯車・モーターだけを組み合わせたようなとてもシンプルなつくりで、機械というより道具のようなものだ。

巻き取り直した綿糸を、今度は職人が手作業で“綾出し”する。引っ張ったり伸ばしたりするこの工程は、一見単純なように見えて絶妙な繊細さが求められる。熟練の職人さんでないと、すぐに糸が切れたりして仕上がりに影響してしまうという。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA “綛上げ”と“綾出し”は、藍色を糸の芯まで染み渡らせるようにするために欠かせない工程。これによりできあがった生地は深みのある藍色になり、擦れても白くなりにくい。

染色では、糸の束を機械に吊り下げ、藍の染料液のプールに浸す。絞っては浸し…と繰り返すうちに、糸はきれいな藍色に染まる。

その日の気温や湿度、季節によって染め具合は微妙に変化するため、職人は染料液を毎日管理し、糸の束を一つひとつ手でほぐしながら作業をしている。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA こうした染色工程を“綛(かせ)染め”という。

効率化が求められる現代において、手間のかかる綛染めをしている工場は全国でもごくわずかだ。

さらに小島染織工業では、綛染めした糸を昭和40年代製造の古いシャトル織機を使って生地にしている。

故障が多く、扱うのも大変だけど、微調整を効かせながら最新の機械には出せない柔らかい風合いの生地を織ることができる。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 職人技と機械の融合により、小島染織工業では高品質な藍染織物の量産を可能にしている。藍染織物の量産をやっているのは、日本全国でも小島染織工業だけ。

今ではほかの藍染メーカーが減少したことも影響し、お祭りの半纏や剣道着の生地をつくるトップメーカーになっている。

また小島染織工業は、顧客の要望に応えるため化学染色を扱う染色機も多数導入し、藍染と並ぶ事業へと成長させている。

「染色加工の委託やオーダーメイドのOEMなど、藍染を含めた様々な“染め”や“織り”に対応できるのがうちの強みです」

たとえば以前、誰もが知るような海外トップブランドから依頼があったとき。

最初に藍染の剣道着用の生地を提案すると、藍染は色落ちするという理由からNGだった。でも、どうしても小島染織の藍色がいいという熱烈な要望。

そこで小島さんは化学的な染色で藍色を再現し、相手が納得のいく生地を納めることができた。

「本物の藍染とはこうあるべきだっていう会社さんもいると思います。けど、うちは藍染を含めた広い意味での染織の可能性を追求したいんです」

「今の日本の繊維産業は衰退していると思います。だけど、織物が好きとか、ファッションが好きとか、そういう人はまだまだいっぱいいる。そういう人たちに届く仕事の受け皿にもなっていきたいと思っています」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA また、秀之さんは代表に就任した2005年以降、社内改革を積極的に進めてきた。

自社工場だけでなく、全国各地の協力外注工場との連携によって、どんな染めや織りにも対応できるのは小島染織工業の強みである一方、多くの仕事は下請けのため、受注元の都合によって業績が左右されたり、どんなにいいものをつくっても会社の名前が知られることはなかった。

そんな状況から抜け出し、さらに武州正藍染をより多くの人に身近なものとして使ってもらおうと、小島さんは自社商品づくりを進めてきた。

「商品をつくるにしたっていきなりは無理だから、最初は社員全員で展示会へ見学に行こうって。僕の親世代の職人さんもいるなかで、工場を1日止めるくらいならものづくりしていたほうがいいよって声もありました」

「だけど、そういう考え方を少しずつ変えていかなきゃいけないし、言われたものを言われた通りにつくるんじゃなく、お客さんがほしいものを自分たちで考えてつくれるようになろうって。だから、自社ブランド『小島屋』の商品は、全部社員たちと一緒につくってきました」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 自社ブランドの『小島屋』は藍染商品が中心。

はじめは、いいものなら売れるだろうとオーバースペックなものをつくってしまったり、量を多くつくり過ぎて在庫を抱えてしまったりと、いろいろなことを経験した。

外部のコンサルタントを入れたり、名のあるデザイナーに依頼すればいいのでは?という意見があるかもしれないが、小島さんは「そうじゃない」という。

「自分たちで知恵を絞ってつくったり売ったりしたことは、すべてが経験値になる。失敗は多いけど、一つひとつ積み上げていくことが、うちの体質に合っているんですよ」


企画担当の根岸さんも、そうやって0から経験を積み上げてきた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 根岸さんはもともと事務スタッフだった。

以前イタリアの洋服を扱う会社に勤めていたことに加え、ものづくりをやってみたい気持ちもあって、自社ブランドの企画メンバーに抜擢。

外部の商品開発セミナーに通ったりしながら自身でも勉強を重ね、3年前に『KASE by KOJIMAYA』という新ブランドを開発した。

「そもそも私は羽生に藍染があることすら知らなかったので、もっと広く知ってもらいたいっていう気持ちから、うちの糸や生地自体が注目されるようなものをつくろうって。もともとあった青縞という生地にちょっと変化を加えてみて、色が落ちることもポジティブに捉えてもらえるような商品をつくりました」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 根岸さんの活躍もあって自社ブランドの売り上げは年々伸びている。

ただ、それでもまだまだ厳しいと、代表の秀之さんはいう。

「いま自社ブランドは再スタートの時期に来ています。けど、それはネガティブな意味ではなく、現場のものづくりの質が上がってきたからなんです」

「染めも織りも若手の職人が増えてきていて、世代交代がうまくいっている。これまでは先輩の仕事を覚えるだけでも大変だったのに、若い職人たちはさらに技術を伸ばそうと本当に貪欲なんですよ」


ものづくりの質や職人の意欲がどんどん高まっていけば、もっと多様な染織の要望に応えていけると思う。

実際に営業はどんな仕事をするのか、営業部課長の菊地さんに話を伺った。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA トップセールスを誇るベテランながら、とても物腰の柔らかい菊地さん。

取引先のお客さんにとって菊地さんは「あの人に頼めば必ず解決策が見つかる」という存在で、ぜひ菊地さんのような仕事を目指してほしいと、代表の秀之さんは話していた。

「ひとつの会社に藍染と染色の工場があるだけでもめずらしいのに、うちは外部の協力工場さんと連携して、自社工場を使わずにすべて外注で完結することもある。いわば商社的な立ち位置なんですね」

「お客さまはコスト重視だったり、納期重視だったり、はたまた品質重視だったり様々です。そんな多様なお客さまの要望に合わせて、いろんな切り口から提案しています」

たとえば以前、ナイロン生地をどうにかして藍染にしてほしいという相談があった。

ただ、藍染は綿や麻といった天然繊維に施すのが一般的。ナイロンのような化学繊維ではうまくいかない。

「うちの技術スタッフと相談して試してみたんですけど、やっぱり色が薄くなっちゃって。化学染料なら単に染料の量を増やせば色が濃くなるんですけど、藍染は酸化還元反応で色がつくので違うんですよね」

「それからもいろいろ試してみたら、どうやら硫化染料を配合したらうまくいきそうだと。配合する量を調整したり、染め方も工夫をして、なんとかご希望通りの色に染めあげることができました」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA お客さんからは藍染のことで問い合わせがやってくることが多いという。

ただ、藍染は摩擦で色があせたり、太陽光で焼けてしまったりする特徴もある。

そこで別の染色や生地を提案したり、そもそも新たな染料を開発したり。ときには外部の工場とも協力したりと、ありとあらゆる切り口からお客さんの要望を叶えていく。

最近では、合成皮革を染められないかという相談もやってきたそう。

「現物を触ってみて、お客さんの要望を聞いて、うちの設備を考えたら、これできそうですねって」

できるって、すぐに分かるんですか?

「それはやっぱり現場での経験があるからですね。私は営業になる前に5年間、工場で染めと織りを経験させてもらったんですよ」

小島染織工業では基本的に、営業もものづくりの現場を研修で経験するようにしている。

菊地さんのように長い年数ではないけれど、職人たちと一緒に染めや織りの作業をした経験は、その後の営業の仕事に必ず活きてくる。

「扱っているものは藍染以外にも幅広いし、仕事は多岐に渡ります。なので、何かにとらわれない好奇心のある人がいいなと思います。何でもやってみようって」

最近は海外からの問い合わせも急激に増加しているそう。

たとえ営業経験の長い人でも、まずは小島染織のものづくりを知ることからはじまる。

まずは目の前のことからコツコツと。経験の少ない人でも、会社と一緒に自分も成長できる環境だと思います。

代表の秀之さんはとても親身に相談に乗ってくれる方だと思うので、まずは一度会いに行ってみてください。

(2017/10/20 森田曜光)

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