建築家が家を考えるとき、いきなり図面をかくことはしません。
まずはその土地の環境を調べて、暮らしを想像し、長く安心して住めるような土台から考えます。
upsetters inc.(アップセッターズ)は、一級建築士事務所でありながら、事業やブランドの仕組みや進むべき道筋までを、一貫してつくる会社です。
まず、クライアントがもつ可能性や、大切にしていることをじっくりと知る。
その上で、将来の社会にどう届けたら喜ばれるかを考え、長く続いていくような、事業やブランドの「設計図」を描きます。
そして、計画を立てるだけでは終わりません。
事業が動き出したあとも、ずっとそばにいながら、10年、20年という長い時間をかけて、クライアントと一緒に汗をかきながら事業を育てていきます。

upsettersには、大きく二つのチームがあります。
一つは、建物やインテリアといった目に見える「形」にするデザインチーム。もう一つは、事業の立て付けや戦略、運営といった「形になる前と、その後の部分」をつくるストラテジチーム。
今回募集するのは、ストラテジチームのスタッフです。
デザイン、コンサルティング、PRや編集といった経験も活かせますが、特別な経験がなくても構いません。
正しいと思うことに対して、ぶれずに行動する。目的やビジョンに向かって、前進させるための判断を優先する。
そんな性分の人には、ぴったりの仕事です。
原宿駅を出て、線路沿いの道を歩いていく。
にぎやかな通りから一本入ると、あたりは静かな住宅街に。しばらく歩いた先に、upsettersの入るビルを見つけた。
中で迎えてくれたのは、代表の岡部さん。デザインとストラテジ、両方のクリエイティブを統括している。

大学院で建築を学んでいたころに出会った仲間と活動をはじめ、2006年に会社を立ち上げた。
「日本仕事百貨での募集は2年ぶり。あらためて、中長期的に正社員として仕事を進める人を求めています」
「業務委託の場合、それぞれがプロとして自分の専門性分野で仕事をしていく前提ですが、それとは異なり社員は不完全でもいい。プロジェクトを自分ごとのように捉えて、一緒に育てていく熱意がある仲間としてともに学びながら仕事をしたいですね」
これまで数多くのプロジェクトを成功させてきたことで、独自の進め方や考え方が整理され、体系化されてきたという。

「私たちは、できる限り多く、日本中の可能性である中小企業をアップデートさせたいんです。それは、単に売上を伸ばすとか、上場するといった、世間でよく言われている成功のかたちだけでは当然ありません」
たとえば、「新しい店舗をつくりたい」という依頼があったとして。
一般的なコンサルティングなら「どうすれば売れる店舗ができるか」を考える。
けれどupsettersは「そもそも、なぜ店舗が必要なのか?」「もしかしたら商品を改良するほうが先ではないか?」という、根本から疑う。
クライアント自身も気づいていない、「会社、そして社会にとって、本当に幸せなゴール」を一緒に探し出し、そこへ向かうための道筋をつくる。
そのため事業のパートナーとして、10年以上の長い時間をかけて付き合っていくことも珍しくない。
おしぼりのレンタル事業等を行う「FSX株式会社」との取り組みも、そのひとつ。

きっかけは、オフィスの改装について相談を受けたこと。
会社のことを理解し、話を聞いていくうちに、まずは会社の目指す方向性やメッセージを見直すほうが大事だと考え、事業の軸の整理と戦略づくりからはじめることに。
転機はその半年後、軸の一つであるFSX独自の特許技術「VB(ブイビー)」を、ブランド化して世の中に広めていく戦略を立てたこと。これは、おしぼりに抗ウイルス・抗菌機能をプラスする技術。
いまでは、海外や国内の拠点を広げるだけでなく、新しい可能性を探るため飲食店を運営したり、地元の文化芸術ホールのネーミングライツを取得し公民連携の模索をしたり。おしぼり会社の枠を超えて、活動の幅を広げている。
企業の利益だけにとどまらず、地域社会にとっても良い循環をつくる。これこそが、upsettersが目指す「中小企業のアップデート」の一つのかたち。

「戦略を立てるだけでは、絵に描いた餅で終わってしまう。目指すのは、その先の『実行』までをデザインすること。ビジネスとして成果を出しながら、社会にとって良い未来をつくるところまで責任を持ちたい。結果、それがビジネスにとっても一番良いと思っています」
経営の根幹に関わる戦略から、具体的な商品開発や地域への関わり方まで。あまりに領域が広く、聞けば聞くほど難しそうに感じてしまう。
率直にそう伝えると、岡部さんは「最初から全部できる人はいませんし、自分自身日々勉強です」と笑う。
「だからこそ、スキルや能力よりも、『自分が本当に良いと思うことに、ただ邁進したい』という気持ちが重要。目の前の課題に対して考え続ける根気があれば、スキルは後からついてきます」
未経験でも構わない。その代わり、腰をすえてじっくりと向き合ってほしい。
「時代に逆行しているかもしれませんが、キャリアアップのための通過点だとは思ってほしくない。数年では成し遂げられないことを、僕たちはやろうとしているので」
「ゆくゆくは対等なパートナーとして、ビジネスを並走できる人材になってほしい。数年で終わる関係ではなく、変化を受け止めながら、関係性を育てられる、10年先も一緒に面白がれるような。そんな仲間を増やしたいと思っています」
日々、どんな働き方をするんだろう。
未経験からこの世界に飛び込んだ、山路さんに話を聞く。

「もともと、看護師として働いていました。現場の働きづらさや、退院後の患者さんが生活に苦労している姿を見て、この状況を根本から変えたいと考えるようになって」
その手段として空間づくりに関心を持ち、建築事務所を中心に転職活動を行うなかで、upsettersに出会った。
いま山路さんが担当しているのが、新潟にある「NHP」という会社のプロジェクト。
この会社は「加水分解」という、圧力と温度を調整して物質どうしを分離させる特殊な技術を持っている。
たとえば、普段は捨ててしまう野菜や果物の皮を、栄養価を残したまま液体やペーストにすることが可能なんだそう。

「食品廃棄を解決できる可能性を秘めた技術ですが、専門性が高く、言葉だけでは価値が伝わりにくいという課題がありました」
「そこで、この技術を世界中に広めるために立ち上げたのが、チョコレートブランドです」
通常は捨ててしまうカカオ豆の皮を丸ごと使えたり、豆やお米からミルクのようなコクを出すことも可能に。環境に優しく、食物に対して制限がある人も楽しめるチョコレートがつくれる。

「商品を通して、『この技術を使えばこんなことができる』と証明する。最終的に、技術や機械を、世界中の企業に提供していきたいと思っています」
拠点として選んだのは、日本ではなくシンガポール。最近では、工場を併設した実店舗をオープン。2階には現地法人も構えた。
アジアやイスラム圏など、大規模な世界市場への展開を見据えた戦略だという。

大枠のブランド戦略を描くのは、代表の岡部さん。それを実際に形にするのが、山路さんたちストラテジ部門の役割。
「馴染みのない技術だったので、正直、最初はまったく理解できなくて。工場を見学させてもらったり、聞いた話を記事にまとめたりして、必死に勉強しました」
その上で、パティシエやデザイナーといった外部のプロフェッショナルの方々とチームを組み、商品開発や店舗づくりを進めていく。山路さんはほぼそのすべての窓口となり、進行管理を担っている。
「たとえば、パッケージをつくるとき。品質を重視するパティシエと、世界観を重視するデザイナー。それぞれの意見がずれることもあります」
それぞれの意見を聞きながら、「事業の目的は何か」という視点に立ち戻り、全員が納得する着地点を探っていく。日々の調整やコミュニケーションを苦にしない人が向いていると思う。
「今はチョコレートだけでなく、アイスクリームやカレー、豆腐など、技術の活用範囲をさらに広げようと模索しています」
「この仕事の醍醐味は、今までにないものを形にできること。さらに立ち上げて終わりではなく、一緒に成長していく姿を見届けられるのが面白いところですね」
山路さんは、upsettersで培った経験を生かし、あらためて医療の分野に戻り、より広く挑戦していくことを決めたそう。
現在は新たな職場を拠点にしながらも、いくつかのプロジェクトには複業というかたちで関わり続けている。
「担当しているプロジェクトの一部は、今後も複業として継続することになりました。ここで生まれた縁を大切に、これからもパートナーとして関わり続けたいと考えています」
2015年に設計スタッフとして入社した日野さんも、パートナーとして関わり続ける一人。
現在は独立して、業務委託というかたちでプロジェクトを引き継いでいる。

担当しているのは、故郷愛媛県にある砥部(とべ)町の伝統工芸、砥部焼のブランド「白青」。
日野さんは、商品企画から製造管理、売上の責任まで、ビジネスのすべてを担っている。
「砥部焼は丈夫な日常食器として知られていますが、安くて良い食器が溢れるなか、従来のままでは生き残るのが難しくなっていました」
そこで目をつけたのが、「タイル」をつくること。
「タイルなら、既存の窯元の技術で無理なくつくることができます。それに、upsettersの本業である建築のネットワークを使えば、設計事務所や施工会社へ直接売り込むこともできると考えました」
まずは自社の建築プロジェクトで実績をつくり、カタログを整備して営業を行うことに。
難易度の高い建築図面の読み解きや現場との調整を日野さんが担うことで、新たな仕事の流れが生まれた。今では、駅などの公共空間にも採用される事業に育っている。

「目指しているのは、白青というブランドがなくても、産地が自立する状態をつくること。暮らしていたころは接点がなかった職人さんたちと、深く関わることができました」
地元では、「砥部で新しいことをするなら“白青”に」と頼られるほどの信頼関係が築かれているそう。
「ここで得られた経験は、その後の人生においても大きな財産になりましたね」
独立した今も、upsettersと同様に、建物の設計だけでなく、戦略の設計や事業運営まで含めた、広義のデザインに取り組んでいるという。
「プロジェクトの中で『今、何をすべきか』を選び抜く力や、困難な状況でも前に進める推進力が鍛えられましたね」
「自分が『本当にいい』と信じられることに、ブレーキをかけずに突き進める。単なる仕事の枠を超えて、10年、20年とかけて磨いていける、自分のライフワークと言えるようなテーマに出会える場所だと思います」
相手を理解し、話をきいて、共感する。今よりも、もっとよくしたいと考え続ける。
大切なのは、目の前の人や世界とどう向き合うかという姿勢そのものだと思います。
ここでの時間は、自分の人生に、納得感という強い芯を通してくれるはずです。
(2025/11/10 取材 田辺宏太)


