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長く使う道具は、できる限りいいものが欲しい。いいものとは「こんなもんでいいでしょ」というのと真逆にあるもの。
使ったときにしっくりきて、見た目も好みで。あとからジワジワと、つくり手の考えやこだわりが伝わってくるような。
「これをつくった人、すごいな!」という感動は、コストパフォーマンスのいいものを探し当てたときのよろこびよりも、ずっと大きい気がします。
東興がつくるのも、そんな“いい”料理道具だと思う。

長年、プロの料理人たちに道具を企画・開発してきた経験から、今度は家庭向けに新ブランド「Flying Saucer(フライングソーサー)」を展開し、自宅でも美味しい料理をつくりたい人たちに向けて販売しています。
今回募集するのは、新宿伊勢丹の中にあるFlying Saucerのコーナーで販売を担当する人と、中野にある事務所でWEBショップの運営を担当する人です。
料理が好きで、道具にもこだわっている。そんな人なら、ここの道具の良さがすぐにわかると思います。
Flying Saucer中野本店は大江戸線新江古田駅から歩いて15分ほど。西武新宿線沼袋駅からだと10分ちょっとで到着する。
桜並木に面して、クリーム色の建物が見えてきた。

一見カフェのようなお店は、女性建築家の方に依頼してつくってもらったそう。
明かりはなるべく自然光から取り込めるように。風通りのいい間取りにして、商品はお客さんの目の高さに合わせてディスプレイしている。
「業務用は男性が使うことが多いんです。家となると女性も使うので、女性の建築家を紹介してもらって。ああしたい、こうしたいと言ってつくったお店なんですよ」
そう話すのは、代表の清水三樹さん。

「ちょっとこれを見てください」と清水さん。何やらキッチンのほうでゴソゴソ取り出している。
IHコンロの上に置かれたのは、水を張った2種類のフライパン。
手前にあるのが一般的なフライパンで、奥にあるのがFlying Saucerオリジナル商品の“究極のフライパン”。

どういうこと?と思いつつ、指先を当ててみる。
すると手前のフライパンはまだ冷たいのに対して、究極のフライパンはもうアツアツ。
「これは“IHで使える中華鍋”という発想からつくったんですよ。ただ中華鍋って底が平らじゃないからIHが反応しない。それにIHって鍋を離すとスイッチがオフになるから、鍋を振って料理することもできないんですね」
「それで底を平らにして、側面までしっかり熱くなる鍋をつくったんです。これなら鍋を振らずに食材をかき混ぜて炒め物ができる。いわゆる鍋肌が使えるんです」
側面まで熱くなる理由は、鍋の構造にある。
IHで使える一般的な鍋は底が3層構造になっていて、1枚のアルミを2枚のステンレスで挟んでいる。外側のステンレスがIHに反応することで、熱が生まれる仕組みだ。
それに対し、究極のフライパンは底だけではなくすべての面を3層構造にして、全体に満遍なく熱が行き渡るようにしている。
「ただ、中華鍋と同じような大きさでつくったから、鍋自体がけっこう重たい。最初は丸いハンドルを付けていたんですけど、うちの女性陣たちが、それじゃあ滑って持ちにくいから楕円にしてくれと」
「それで楕円にすると、今度は親指の収まりがわるいからヘコませろと言うんですよ。しょうがないなってメーカーの人にお願いするんだけど、これがまた大変でね」

ふたりが「こんなものがほしい!」と発案したものを、代表の清水さんがメーカーと掛け合って形にしている。
ハンドルのヘコみだけでなく、そもそも側面まで3層構造でつくることも、実はとても大変なことなんだとか。手間もコストもかかるので普通だったらやらないところを、長年の付き合いだからとメーカーさんは協力してくれている。
何度も試作を重ねてようやく今の形になったそうだ。
一番大きな30㎝のフライパンにはハンドルの逆側に別の取っ手をつけたりと、実際に使ったときにうれしいポイントがいくつも見受けられる。
そこまで手をかけるなんて、たしかに究極のフライパンだ。
「あれもこれも、うちの女性たちからの要望は全部入れましたからね」と自信たっぷりな清水さん。
「そのかわり金型をつくるだけでもすごくお金がかかりましたよ。だからうちは儲からないんだけど(笑)」
でも、やるんですね。
「そうね。やっぱり、どうせやるからには!っていうことですよ」

今ではキーコーヒーやキッチンジロー、四川飯店など、様々な顧客がいる。
以前からオリジナル商品の提案も行なっていて、たとえば不二家がクリスマスシーズンでケーキと一緒にプレゼントしてる特典プレートは、ここ20年近く東興がつくっている。
「業務用の道具や食器には、家庭でも十分使えるものがたくさんあります。逆に家庭で人気のプロダクトデザイナーがデザインしたものって、日常的に使う道具としてはあまりいいとは言えなかったりするんです」
「たとえばボウルなんかも、業務用のとは全然違うと思いますよ」
よく家庭用に売られているボウルのフチは、折り返して二重になっている。
これは板厚が薄いので切りっぱなしにしては手を切って危ないし、強度も低いからそういった加工がされている。けど、洗ったときにその部分に水が溜まりやすく、長く使うとカビが生えたり細菌の発生源になってしまうのだという。
だから、業務用のボウルは厚い材でつくられている。材料費も高いし、加工もしにくいのだけど、そのほうが使うにはいい。

「業務用の道具はデザインされたわけじゃないけど、一度できあがってからもどんどん研ぎ澄ましていくというか。無駄を省いたり、使いやすくしていった機能美があるわけです」
そんな業務用の道具を、料理好きな一般の人たちもほしがっていた。
雑貨店でもライフスタイル店でもない、料理道具専門のお店を開きたい。そう思った清水さんは、奥さんや知り合いの料理研究家やフードスタイリストの人たちと一緒にプロジェクトチームを結成し、半年をかけてFlying Saucerを立ち上げた。
それが2001年のこと。
最初は既存の業務用の商品を中心に販売していたけれど、お客さんからの要望がたくさん届いて、オリジナル商品も充実させるようになった。
現在、オリジナル商品は約350品目。
今やFlying Saucerを真似た商品が出回るほどの人気だという。ちなみに見た目だけを真似ていても、本質的なところまではコピーされていないから、独自性は守られているそう。

「いま店頭に立っているのはうちのパートさんと派遣さんの2人なんです。最初に出店したときは2週間で終わるだろうと思っていたんですけど、評判がよくて、バイヤーさんからもずっと残ってよって言われちゃって」
「まあ、いつか終わるだろうからいいかなと思ってたら、もう7年目。来月には銀座三越さんからもやってくれと言われてね。それだったら、ちゃんと人を入れようと思ったんです」
新宿伊勢丹は様々なバイヤーが全国から集まる場所のため、いわばFlying Saucerの“顔”となる。
対面販売で拾い上げたお客さんの声は商品開発に活かすことができるから、その意味でもブランドづくりの一翼を担ってくれるような人に来てほしいという。

清水さんは、どんな人と一緒に働きたいですか?
「料理が好きなのはもちろんだけど、道具が好きな人がいいですね。こだわりのある人がいいのかな」
営業部の山本さんは、まさに料理が好きということから、この会社に加わった。

「もともと料理が好きだったし、道具も好きなので、無理に仕事を覚えるっていうよりは好きなものを覚える感覚でした。ここは自分も欲しいと思えるものがたくさんあるというか」
「こだわりが強いものだとそれなりにお値段も上がってくるので、いまだに欲しくても買えないものがあったりするんですけどね(笑)」
そんな山本さんのイチオシ商品は、Flying Saucerオリジナルの玉子焼き器。
エンボス加工だから焼いてもこびりつきにくく、きれいに玉子焼きができる。山本さんも家で使っているのだとか。
「僕はひとり暮らしなので、これを小さいフライパン代わりにして炒め物をするんです。お好み焼きをつくるにもちょうどいいんですよ」
自分で使っていると、お客さんにもいろんな話ができそうですね。
「そうなんです。ただこの商品の場合、玉子焼き以外で使うと別の料理の焦げ癖がついちゃうので、注意してくださいねっていう話もして」
山本さんは自社のECサイトの受注管理も担当していて、web担当の人は山本さんから仕事を教わることになる。
社員は総勢7名と小さい規模の会社のため、日々の運営に手一杯。SEO対策や広告宣伝など、あまりできていないそうだ。
もしwebマーケティングが得意な人がいたら、思う存分活躍してほしいという。

「怒られ慣れている人かな(笑)僕も入った当初は、社長にものすごく怒られたので」
代表の清水さんはときには声を大きくするときもあるから、そういうのが合わない人だとちょっと難しいかもしれない。
ただ理由もなく怒ったり、理不尽なことを言うことはないから安心してほしいと、山本さんは話していた。
きっと代表の清水さんは「こんなもんでいいや」とは思わない人だから、ときには厳しく怒ることもあるんだと思う。
けど、そのこだわりこそが、本物の料理道具をつくっているんだと思います。
(2017/11/6 森田曜光)