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リトルトーキョーで木村硝子店のグラスを使いはじめて、1年と少しが経ちました。薄くて軽くて、飲み物をそのまま持っているような、不思議な感じ。洗うときは、割れないように丁寧に扱います。
というのも、代表の木村さんのこんな言葉が頭をよぎるから。
「うちのガラスは割れるよ」

マイナスに捉えられそうなことも、正直に言ってもらえることで逆に安心感につながるし、割れやすいことを知っているからこそ、グラスを丁寧に扱おうという気持ちにもなる。
不思議な引力で人を惹きつける木村硝子店のスタッフを募集します。
仕事内容は、商品の出荷と直営店での販売。出荷専門で担う人も求めています。
「人物優先で柔軟に対応したい」と木村さん。働きはじめてから、別の仕事を任されることもあるかもしれません。そこもいたって柔軟に。
過去の経験よりも「人」をきっかけに興味を持てたなら、きっとここで働く日々は楽しくなると思います。
東京・文京区。
湯島駅から5分ほど歩き、路地を少し入ったところにあるのが、木村硝子店のオフィス兼倉庫兼ショールーム。
昨年の11月からは直営店もオープンしている。

現在は木・金・土の週3日営業している直営店のほか、ネットショップ「zizi STORE」で購入することもできる。
Webサイトを覗いてみると、グラスウェアの紹介だけでなく、出展イベントの情報やグラスにまつわるコラム、関わりのある作家さんやデザイナーさんのインタビュー記事など、じっくり読みたくなるようなさまざまなコンテンツが掲載されていて、ついつい長居しそうになる。
ふらっと訪ねて、自由に眺められる。
そんなあり方は、お店にもサイトにも共通しているように感じる。
「俺はね、何も買わずに帰るお客が大事だからねってよく言ってる」
そう話すのは、木村硝子店の代表である木村武史さん。

「だからうちはショールームもお店も、ほとんど接客しない。自由に見てくれって。それで気に入るものがあれば買ってもらえばいいし、買わない人も『ありがとう』って一言残して気持ちよく帰れるなら、それでいいかなと」
買わなくても、雰囲気は記憶に残りますよね。
「そうそう。また来たくなるでもいいし、あとでよく考えてネットで買うって人もいるだろうし。だから、買わないで帰る人が大事なお客」
なるほど。
「それから、木村のガラスって高そうで買えないけど、あら素敵と思ってる人がいるとするよね。で、たまたまなんかのときにプレゼントでもらう。うわあ木村のガラスだ、うれしい!と思ってくれれば、あげた人もうれしいよね。それが次の売り上げにつながるじゃない」
「目先で考えたら気分悪いもんね。おかげでうちの商売はとても楽チンっていうか、めんどくさい話があんまりない。ネットのクレームもほとんどないし、そういう意味では勤めやすい会社かも分かんないね」

ケースとして多いのは、飲食店をはじめるタイミングでの相談だそう。その場合も、もともと木村硝子店の商品が好きなお客さんが多いから、無理をする必要がないのだという。
「うちは万人受けする商品じゃないから。でも、好きな人は木村のガラスがすごい好きだって言って買ってくれる」
そこへ、ちょうどショールームにお客さんがやってきた。新しくオープンする店に合わせたグラスウェアを探しにきたそう。
木村さんは、飲食のジャンルやお店の規模、予算などさまざまなことを聞きながら提案していく。

「うちのお客が10人いたとしたら、1,2人は普通じゃない使い方しようって言うんだよ。たとえば、ワインをコップで出すとかね」
「その人に対してこっちでしょって答えるのは難しい。俺は長いこと自分でデザインしたり、変わった食器の使い方してるレストランにはちょっと行ってみたりね。そういう蓄積があるから答えちゃうけど。うちに勤めて1年2年でパッと答えられるものじゃないから、そこまでは求めない」
今回入る人も、とくに経験は問わないですか。
「はっきり言っちゃうと、たとえば『もともとバーテンダーでした。ぼくに任せてください』と。そういう人が来ても、たぶんうち、採用しないと思う。偏っちゃうのね」
偏っちゃう。
「プロって、知識と経験に偏りがある。うちはもう少しふわ〜っと商売してれば良いと思ってる。そうするといろんな考え方の人を受け入れやすいじゃない」
「で、行ってみたらなんとなく気持ちがいいし、自分で自由に選べるし、とかさ。そうやって来てくれればうれしいよね。あんまりこっちからこうじゃない?ああじゃないの?って言うのもよくないと思ってるんだよね、俺は」
流れるような木村さんの話は、全体が一本の筋でつながっていて、すっと腑に落ちる。
自分の感覚に正直であること。お客さんとのちょうどいい距離感。ガラスへのこだわり。
かと思えば、意外な言葉を投げかけられて頭に「?」が浮かぶことも。
「うちは手づくりのガラスが多いから、ここで全部検品するんだけど。どうだろう、基準は俺の気分かな」
え、気分ですか?
「そう、それをお客に通しちゃうんだよ。変な会社でしょ(笑)」
気分ということは、日によって変わるんでしょうか。
「変わるね。若いころから散々、自分で自分をチェックしてきたから。毎日違うって自信を持って言える」
「何か基準をつくるとしたら、こーんな本にしても書き足らないと思う。それを読むやつがいるかっつったら、誰も読まないよ」
それでも信頼関係は成り立っているんですね。
「よく話し合うからね。相手の意見も、冗談じゃない、こうしろとは絶対に言わない」
「でもさ、俺は赤ん坊のころから、職人さんもガラス工場も、お得意さんの顔も知ってる。当然、うちもここまでしたら経営が成り立たないってラインがあるわけだよ。そのなかで『これ本当に五千円で買うか?』『うーん、やっぱり買わねえな』とかね。そういう話し合いはしょっちゅうしてる」

ガラスを見れば、職人さんのレベルや機械のメンテナンス状態までわかるという。
本当にガラスが好きなんだろうな。
「好きか嫌いかって考えたことはないけど、好きなんだろうね。俺は小学生のころからガラスをやろうと思ってたし、全然ぶれたことがない。親父が面白い仕事してるのを見てきたから」
もし、家業が硝子店でなかったら?
「クリーニング屋になってたかも分かんないね。大工かもしれない。これ面白ぇなあと思ったらやってただろうね」
「息子も今ここで専務やってるけど、面白かったらやれと。面白くないのにこの仕事してたら、面白がってるやつに勝てないぞって。そう思わない?」
そうですね。木村さんも、面白がっているのが伝わってきます。
「今ちょっと考えてるのは、マシンでつくるオリジナル商品。ガラス業界をおっきな目で見ると、機械でつくるガラスがどんどん良くなってるんだよ」
「ところがね、マシンで頼むと一種類あたり2万個つくらなきゃいけない。今うちでは、すごく売れるやつで3千個ぐらいしか持ってない。そこを商売に乗っけるのは大変なわけだ。うまくやれないかも分かんないけど、そういう目標を持ってやってるね」
そんな木村さんのもとで今年の6月から働きはじめた中村さんにも話を聞く。
美大で織物を学び、歯医者の受付や舞台衣裳づくりの仕事を経験したあと、日本仕事百貨を通じて木村硝子店にやってきた方。

実際に会って、どうでした?
「面接に来たときも、関係ない雑談を2時間ぐらい社長としていて。いつの間にか2時間経ってる!ってびっくりしたのを覚えてます(笑)」
「社長と一対一でご飯を食べに行くときもあります。『今日お昼どう?』と声をかけてもらって、『こういうことやってもらいたいと思ってるんだけど、どう思う?』っていう話をしたり。不思議なフランクさがありますよね」
出荷は、具体的にはどういう仕事なんですか。
「発注を受けたら、倉庫のなかから商品を集めてきて梱包し、大きいダンボールに詰めて運送業者さんに渡すまでが仕事です。パソコンを見れば商品の場所はわかるんですが、最近は少しずつ場所も覚えてきました」

重いものを持ち運んだり、あちこち動き回ったり。体力的な大変さはありそうですよね。
「たしかに、注文が多い日は走り回ってます。でも体育会系ってほどでもないですし、運動を全然していなかったわたしでもやれてるので、たぶん大丈夫です」
「あと、毎日のご飯がおいしくなったなあとは思いますね」
なんだか健康的ですね(笑)。
「そうですね。一緒に働く人たちも、変な緊張感がないです。話しながら作業したりもしますし、笑い声が聞こえることもあります」
とはいえ、ゆるゆるとした雰囲気ともまた違う。
取材中もテキパキと動くスタッフさんたちの姿を何度も見かけたし、メリハリは求められる環境だと思う。

「彼女だって、出荷なんか体もたないだろうし大丈夫かなと思ったけど、ぴしっと仕事できてるしね。ご飯食べる量が増えた?ははは(笑)!その費用、会社が出せよってね」
正直で軽やか。
ここで働く人たちの姿勢は、そのまま木村硝子店のガラスにも表れているように感じました。
一緒に働きたいと思ったらまずは気軽に連絡してください。
(2017/8/7 取材 中川晃輔)