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木を料理する

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

「すべてが曖昧につながっているイメージです。仕事も、暮らしも、社内の役割分担も。そうでないと、いいものづくりはできないという信念があります」

そう話すのは、オーダーメイドの木工家具工房「laboratory」を主宰する田中英一さん。

狭山丘陵に位置し、「東京の水がめ」と呼ばれる狭山湖からもほど近い、自然豊かな環境。木の香りと静けさに包まれたアトリエで汗を流し、ランチはみんなで長机を囲む。集中して木を削っていると、気づけば夜。そのまま飲み語らう日があったり、家族同士でキャンプに行く休日もあったり。

laboratoryでの日々をさらりと紹介するなら、きっとこんな感じ。

ただ、英一さんの言う“曖昧なつながり”の意味を本当に理解するには、生業と暮らしを構成する一つひとつの要素をつぶさに、真剣に見つめ直す必要があるようです。

「木だけを触っててもダメなんですよ。キッチンで鶏肉を触ったり、暖炉に火をくべたり、窓を開けて風を流したり、布団を干したり。それを丁寧に、しかも真剣にやることで、ようやく木が削れるんです」

「10年20年木工やってますって人で、どれだけ技術があってもね。本質を見抜いて取り組めないと、うちには合わないんだと思います」

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芸術家であり美食家の北大路魯山人は、著書「料理王国」のなかで「元来『料理』とは、理(ことわり)をはかるということなのだ」と記しています。食材を切ったり煮たり、味付けをして提供する行為自体が料理なのではなく、道理を見出し、表現することが「料理」なのだと。

laboratoryのものづくりの姿勢を表す「木を料理する」という言葉。これもまた、理をはかることを意味するのだそう。

料亭の料理人が客の好みや体調まで気を配り、腕を振るうように、相手の本当に求める暮らしやその先に想いを巡らせながら、あるべき姿に木を削り出して届ける。

そんなlaboratoryの職人と、ブランディングに関わるスタッフを募集します。

西武池袋線の小手指駅前は、商業施設や飲食店がほどよく立ち並び、周辺には公共施設や公園も多い。住みやすそうなまち、という印象を受ける。

狭山湖に向かって車を南西に走らせると、地形は次第に山なりに。里山の風景が広がり、ぶどう畑が見えてくる。

駅から15分ほどで、laboratoryのアトリエに到着した。

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1階が作業場、2階は主宰の田中さん一家の住まい兼ギャラリー。少し離れたところにもうひとつの作業場があり、職人さんは二手に分かれて作業するという。

この日、職人のみなさんは外の現場に出ているということで、機械だけが待つ部屋は少し寂しさを感じるほどに静かだった。

そんなアトリエと対をなすように佇むのが、「むすひ」という名の離れ。お客さんとの打ち合わせや、スタッフ全員でランチを囲む際に使われる空間だという。

なかに入ると、迎えてくれたのはlaboratory主宰の田中英一さん。

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laboratoryが主に手がけているのは、オーダーメイドの家具や木製食器。

個人宅や施設建築における家具制作のほか、横浜で800年続く「善了寺」のお堂で使われる椅子や机を制作したこともある。

6年ほど前からは、保育園向けの作品づくりを開始。都内に1200ある私立保育園のうち、およそ120園でlaboratoryの家具が使われているのだそう。

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「家具は、あくまでも使う人たちが主役です。だから常に相手ありき。相手のいないものは基本的につくりません」

その原点は、英一さんがお子さんのためにつくった「ファーストスプーン」にある。

「離乳食用のスプーンって世の中にたくさんあるんですけど、1歳以降も使えるように、さじ面がでかいんですよ。生後半年の子には大きすぎてしまう」

「だから、お食い初めから安心して使えるようなスプーンをつくりたかったんですね」

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さじの彫り込みを浅くすることで、上唇のうまく使えない赤ちゃんがすんなり食べられるように。

独特なフォルムは、親の手の内側に重心が残り、指みたいに安心して扱えるように。

ひっくり返せばさじ面が宙に浮くので、片腕で抱っこをしながらでも衛生的に使える。

はじめは我が子のためにつくったファーストスプーン。その後も身近な人に向けてつくっていると、口コミで評判となり、贈りものとして全国から問い合わせが来るようになった。

2009年、キッズデザイン賞を受賞。2010年には、各国の要人が集まるAPECの展示会でJAXAの衛星やトヨタの車と並んで展示されるなど、注目を集めた。

そんなものづくりをしてこられた英一さんは、どんな道を歩んできたのだろう。

「ぼくは、若いころは絵描きになるつもりで。一般企業で財務や経理の専門職をやりつつ、油絵の制作を続けていました」

30歳を目前に、ものづくりで生きていくことを決めた英一さん。

二次元の絵画世界から三次元の木工の世界へとフィールドを移し、一年半の修行を経て独立。今年の10月で独立して丸14年になるという。

でも、なぜ絵画ではなく木工の道に?

「表現という意味では同じなんですよ。今やっていることも、別に木にこだわってるわけではなくて。文章でも料理でも、表現ができればいいんです」

その言葉通り、英一さんの取り組みは幅広い。

「こどもと食」をテーマにコラムを連載したり、ものづくりの体験ワークショップを開いたり。

詩と絵を合わせた絵本も制作中だそう。

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料理の腕もプロ顔負けで、まかないとして鹿一頭を使ったソテーやリゾットを振る舞ったこともあるとか。

「未だに財務経理の伝票を打ったりしますし、絵も描きますよ」

木工職人であり、経営者でありながら、父親でもある。

はたから見ると別々のように思えることも、英一さんはごく自然に、地続きのこととして捉えているようだ。

「たとえば100年保つ家具をつくっても、誰に、どのように引き継ぎ、メンテナンスしていくかまで考えなければ、100年保つわけないじゃないですか。そこには職人の技だけでなく、経理も経営も現場管理も、すべての視点が必要なんですよ」

たしかに、言われてみればそうですね。

「本当は職種も分けたくないんです。職人も事務方も、本質的には変わらないので」

今回募集するのは、木工家具の職人とブランディングを担当するスタッフ。

とはいえ、両者の間に明確な線引きはない。職人も数字や規模感を把握できていたほうがいいし、ブランディングスタッフもつくり手の想いや都合に理解があったほうがいい。

「会社っぽくはないと思いますよ。子どもが熱出たって言えば、そこの床にマット敷いて寝かせながら働いたり。仕事も暮らしも一体として捉え、みんなが“我ごと”として動いている状態が理想なんですね」

ときには、打ち合わせを終えたお客さんとそのままお酒片手に語らうこともあるし、スタッフ同士が家族ぐるみでキャンプに出かけることもある。

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「見方によってはのんきに生活している人たちだなって捉えられるんだけど、実はすごくシビアで。お金の面も含め、どう暮らしていこうかっていうことを日々考えています」

下請け仕事は基本的にないし、値下げもしない。銀行の担当者が決算書を見て驚くほど、健全な経営体制を維持しているという。

一方、すべてが地続きであるということは、365日探究が続くことも意味している。

「家具にしても、納得したものを出してるんでしょ?とか、楽しいからつくってるんでしょ?って言われてきたんですよ。でもね、その言葉がすごく苦しかった。ちっとも納得してないし、楽しいだけじゃないから」

「もちろん、納得したふりをして届けるけど、もうちょっとこれ、こうできたんじゃないか?とか。苦しいなと思いながら日々過ごしてますね」

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できあがったときには「よかったな」とか、うれしい気持ちになったりしませんか。

「その瞬間にはほとんど思いませんね。器だったら、何年か経って料理を盛り付けて食べてみて、あ、結構いいものつくったなってようやく思えたり。久々に見たら、いい漆の塗り方してるじゃんとか。そんなもんですよ」

そんな英一さんと一緒に働いているのはどんな人だろう?

続いて話を聞いたのは、事務スタッフの秦さん。

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お店を経営したり、学校の先生をしたりと、いろいろな仕事を経験してきた秦さんは、7年前にlaboratoryの一員となった。

「入ったはいいものの、ぼくは家具の図面も描けないし、職人としての修行も一切していない。ちょうど隣のアトリエを建築中だったので、なんでもやります!ってことで、外壁の左官をしたり、室内のフローリングを貼ったり、とにかく動いていました」

それらは、今の仕事とはまったく関係のない仕事だった。

「でもね、」と秦さんは続ける。

「今から考えると、外壁の左官仕事を見た英一さんが何かを感じて『もっと入ってこい』って流れになったと思うんですよ。そこから図面を描くことを覚え、折衝を覚え、数字のことや保育業界のこと。学びながら幅を広げてこれました」

「何もできませんが学ばせてください、ではずるいじゃないですか。まずは自分のできることを開示することからはじまると思います」

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それは、仕事に直結しないように思えることかもしれない。

けれども、その一つひとつをおろそかにしていては、いいものづくりができないというのがlaboratoryの考え方。

「面接者が来たときに面白いのが、英一さんと一緒にキッチンに入ってもらったりするんです。そのときの身のこなし方、整理の仕方を見たり、話したり。あとは、いきなり花を生けてください、とかね」

「この花も、彼女、ゆかさんが庭から今日摘んで生けてくれたものなんです。ぼくには全然そういうセンスはないですけど(笑)」

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具体的には、1日どんな働き方をしているんですか。

「日が出ている明るい時間帯を活用できるように、8時から仕事をはじめます。職人は、午前中ガーッと集中して作業して。我々事務方の場合は、図面を持ってお客さんとの打ち合わせに出たり、実際に家具を納める現場やお宅の現地確認に行くこともあります」

「お昼は全スタッフがここに集まって、弁当を食べます。ときには英一さんが季節の料理を振る舞う日があったり。食べ終えたら身の回りをさっと掃除して、またそれぞれの仕事場に戻ります。夜は近隣の迷惑にならない時間まで仕事をして帰宅ですね」

生業と暮らしが近い環境だから、なるべく近くに住んでいる人、引っ越せる人がいい、と秦さん。

英一さんも、最後にこんな言葉を残してくれました。

「常に本質を貫いてやれているかというと、まだまだ試行錯誤中なんですよ。はじめて14年なんだから、そんな簡単に本質に辿りつけるとは思ってなくて。ぼくらの世代では無理だろうし、次の、その次の世代かもしれない」

「でも、それを知りたいし、実践したい。自分では辿りつけなくても、次の世代につなげられる場所にしていきたいです」

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laboratoryでは今日もまた、英一さんが木を料理しています。

(2017/8/10 取材 中川晃輔)

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