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奥州はここから

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「何かを生み出そうとしている人がいるんです。数は多くはないけれど、前向きに、まっすぐ、いいことがはじまってる。その匂いを嗅ぎつけて来てくれたらと思いますね」

岩手県奥州市。

このまちは、いわゆる地域活性化の先進地域ではありません。どんな場所なのか、知らないという人も多いかもしれない。

でも今、ワクワクするような取り組みが少しずつはじまっている。

この記事を通じてぜひ知ってほしいし、ピンときたら飛び込んでほしい。

奥州市で磨かれてきた伝統工芸や自然の循環を、体験型のツアーやイベントという形で表現するプロジェクト「Walk on Soil」のツーリズムコーディネーターを募集します。

また、台湾への販路開拓や情報発信、交流などを担うコーディネーターも募集中。

奥州市を訪ねて詳しくお話を聞きました。


東京から新幹線に乗り、北へ。2時間と少しで水沢江刺駅に到着する。

都内もずいぶん冷えるようになったけれど、岩手の地は比べものにならないほど寒い。直前の週末に降った雪がうっすらと積もり、一面に白い世界が広がっている。

駅まで迎えに来てくれたのは、株式会社COKAGE STUDIOの宮本さん。

宮本さんの運転する車内で、まずは今回の募集の概要を聞いた。

「地域おこし協力隊の募集を奥州市とCOKAGE STUDIOが共同で進めることになりました。そこで、Walk on Soilという観光プロジェクトを立ち上げて。今回はこれを中心となって進めていく人を募集したいと考えています」

テーマは“大きな観光から、小さな観光へ”。一般的にバスツアーに組み込まれるような名所・名物だけでなく、この土地に根づいた魅力を肌で感じ、五感で体感できる観光プログラムを企画運営していく。

「奥州の魅力って、人だったり、脈々とつくられてきたものだったり…。そこに目を向けていただきたいという想いがあります」

COKAGE STUDIOは、Webマガジン「奥州ライフ」や冊子「RELIFE」の制作を通じて、奥州市で活躍する企業や人との関係性を築いてきた。

「今回のプロジェクトでは、そのつながりを活かして、地元の企業や団体さんの力もお借りすることになっています」

たとえば、スポーツウェアメーカーのデサント。2010年のバンクーバー冬季五輪の日本代表公式ウェアにも採用された水沢ダウンは、奥州市の水沢工場で生産されている。

また、伝統工芸を現代の食卓に提案する南部鉄器メーカーOIGENや、岩谷堂タンスの端材をブローチなどの小物として加工・販売しているIwayado craftなど、個性豊かな6社の協力のもとにプロジェクトは進んでゆく。

「そんな企業のうちのひとつが、これから向かうファーメンステーションさんです」


車は、田んぼと民家が並ぶなかを走る。お隣の胆沢地区まで行くと、民家同士の間隔はさらに離れ、全国でも珍しい「散居」と呼ばれる景観が広がっているのだそう。

しばらくすると、ファーメンステーションの看板が見えてきた。

事務所から顔を出して「こんにちは〜」と迎えてくれたのが、代表の酒井さん。朗らかでハキハキした雰囲気の方だ。

東京から来ました、と自己紹介すると「わたしもですよ」と酒井さん。

「普段は東京にいて、今朝も新幹線で来ました。こっちに来るのは月に3回ぐらいのペースかな」

聞けば、生まれも育ちも東京だという。銀行やベンチャー企業、外資の証券会社に勤めたあと、30歳を過ぎて東京農業大学に入ったそう。

「自分にしかできない仕事がしたくて、発酵に目覚めたんです。卒業後にファーメンステーションを立ち上げて。バイオ燃料に関わる事業をしたいと考えていました」

一方そのころ。奥州市では、お米からバイオ燃料を生み出す計画が動き出していた。全国の3分の1の田んぼが使われていない現状に危機感を抱いたある農家さんが立ち上がり、市役所や大学の教授を巻き込みながらはじめた取り組みだった。

「本当にすごい農家さんで。食用米の需要が減っていくなかで、それ以外の策を考えるべきだと。そこで実際にアメリカのバイオ燃料工場まで見学に行ったんだそうです」

それから何度も視察や勉強会を重ね、実証実験に入ろうというタイミングで、東京農業大学に声がかかった。

「わたしも半ば強引に仲間に入れてもらって。3年間、毎週のように奥州へ通いながら、ほとんど休みなく実証実験を繰り返しました」

ただ、燃料をつくるにはどうしても膨大なコストがかかってしまう。

そこで代案として挙がったのが、化粧品用のエタノールの製造。

油にも水にも溶けるエタノールは、化粧品の原料として一般的に使用されている。しかし、従来はサトウキビやトウモロコシなどの輸入原料がメインで、国産のエタノールはほとんど存在していなかった。

「それならということで、ファーメンステーションで事業を引き継いだのが2013年のことです」

以来、お米からつくる消臭スプレーや洗顔石けんなどを製造・販売してきた。

「農家さんが無農薬で栽培したお米を発酵・蒸留させてエタノールをつくる。残った絞りかすは化粧品の原料にもするし、鶏のえさにもなる。その鶏から生まれる卵はすごくおいしいんですよ」

「で、その鶏糞を田んぼに入れてお米を育てたり、畑に入れたら野菜とか果物もつくることができます。今話しているのは、ひまわりを育てて油を絞れば、卵と合わせてマヨネーズができるよねって。養鶏家さんも農家さんも、みんなが面白いアイデアを持っている方々なので、話が次々に進んでいくんです」

いくつもの循環が連鎖し、お互いにいい影響を与えている。

こうした循環を体験できるようなツアーやイベントを考え、運営していくことこそ、今回募集するコーディネーターに求められる役割だ。

「実はわたし、この会社とは別で『マイムマイム奥州』という団体のメンバーもやっていて。過去にも何度かツアーをやっているんですよね」

田植えや収穫体験をしたあとに、南部鉄器で炊いたお米を食べたり。大学の教授や海外からの研修生が来たときには、フィールドワークや座学を交えながら、夜は飲み会をして雑魚寝したり。

訪れる人に合わせて、提供できる体験プログラムは無数にあるという。

「勉強好きな人はひたすら農家さんの話を聞いたり、発酵好きな人だったら、ぷくぷく発酵してる様子をじっくり眺めたり。アロマやヨガが好きな人は、うちの化粧品を使ってワークショップしたいとか。この循環からいろんな広がりがありえますよね」

農業や発酵に限らず、カヌーやラフティング、サイクリングのようなアクティビティと絡めたり、キャンプや民泊などの体験も考えられる。

「コンテンツはいくらでもあって、足りないのは人の力だけでした。だから、今回の募集がとても楽しみなんです。もちろん、協力隊として3年の任期を終えたあとも続けていけるように、事業化に向けたサポートはわたしたちも惜しまないので」

たしかに、お話を聞く限りでは十分に事業化できる内容だと思う。マイムマイム奥州が積み上げてきた企画運営のノウハウもあるし、酒井さんが普段東京にいることもあって、集客しうるネットワークも幅広い。

実際、発酵や循環に興味を持った人から問い合わせを受ける機会も多いとか。

酒井さんは、どんな人に来てもらいたいですか。

「知らないことに何でも興味を持てたり、学ぶことが好きな人。あ、ブラタモリが好きな人とかいいですね」

「あとは裏方の実務が得意な人にも来てほしいです」

でも、バリバリ仕事をさばける人、ではないような気もします。

「ああ、そうですね。わたしたちの仲間って、もの好きばっかりなんです(笑)。だって、儲かるかどうかわからないことに何年も取り組んでたり、ワークもライフも同じように楽しんでいたり。あまりにも合理的な人は、肌に合わなくて大変かもしれないですね」

一見めんどくさいことも、楽しみながら乗り越えていける。そんな自信と好奇心を持った人には、とても魅力的なフィールドなんじゃないかな。


ファーメンステーションをあとにし、今度はCOKAGE STUDIOの運営するCafe&living Uchidaへ。
一階は託児所を併設したカフェスペース、二階が古道具店とCOKAGE STUDIOの事務所。

代表の川島さんの地元はまさにこのあたりで、小さいころからの遊び場だったという。

「いろんな世界を見たくて、世界一周して。盛岡の古着屋さんで販促部門を経験したあと、子どもが生まれるタイミングで奥州市に帰ってきました。ここは、もともと額縁屋さんだった建物をDIYでリノベーションしたんです」

世界を見て回って、結局帰ってくることにしたんですね。

「たしかに、楽しいまちはたくさんありましたよ。ただ、『帰る』って表現できるまちはここしかない。そんなまちが盛り下がっていくのは、自分にとっては寂しいことなんです」

「それに、自分ができることをやりはじめたら、関わってくれる人が少しずつ増えて」

デザイン・編集の仕事を通じて出会った地元の生産者さんやマイムマイム奥州のみなさん、ファーメンステーションやOIGENなどの企業さん、それから役場のみなさんも。

いろんな人たちの協力のもと、川島さんたちは歩みを進めている。

「今回のプロジェクトを通じて、みなさんの取り組みをもっと外に伝えていきたい。そんな気持ちもありますね」

ちなみに、Walk on Soilというプロジェクト名にはどんな意味があるんですか?

「直訳したら『土の上を歩く』ですよね。都会の人って、アスファルトばかりで、土をあまり踏まないんじゃないかなと思うんです」

「Webやテレビで映像を見たら、旅した気分になれる。もちろんありだと思うんですよ。ただ、冬がこれだけ寒いこととか、その場所に行かないと感じられない空気感、風土ってあると思っていて。自分の足で訪ねて何か感じとってほしいっていうのが、このプロジェクトの一番の部分なんです」


Cafe&living Uchidaでカフェスタッフをしている植山さんは、その“何か”を感じとってきた方かもしれない。
地元の京都や徳島県の神山町で食にまつわる仕事をしたあと、縁もゆかりもない奥州市にやってきた。

「はじめて来た当時はDIY中で、床を削ってましたね。わたしも一緒に削って、真っ白になったり(笑)」

ということは、完成された空間で働きたいわけじゃなかったんですね。

「ここなら、自分が入り込める余地があるなって。それに、一緒にやろうとしてくれる人も多い。そういう意味ですごく面白いまちやな、と」

自分もまちも、これからの可能性があるというか。

「そう、結局人だと思うんです。どんな人がいるかが、まちにとってすごい大事やと思う。このまちには面白い人がいっぱい関わっているし、わたしもまだ知らないことだらけなので。こんなこともできんねや!って可能性を、一緒に見つけたいです」

ここには、背伸びしない等身大の人たちがいます。

着々と力を蓄えてきた種が、春を迎えて芽吹くような。そんな予感もある。

このまち、そして自分自身の可能性にワクワクしたい人は、ぜひ応募してください。

(2017/11/20 取材 中川晃輔)

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