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何かものごとに出会うたび、今の自分が良いと思う選択をしていく。理屈や言い訳よりも、そうやって、ひたすら目の前のことに向き合い続けて見えてくることにこそ、シンプルな答えがあるのかもしれない。
そう工房で働く人たちの話を聞いて、そんなふうに思いました。
そう工房は、主に障害をもつ人のための座位保持装置や車椅子といった福祉機器をオーダーメイドでつくり、販売しています。
座位保持装置とは、自分の力だけで座ることが難しい人のために、姿勢を保持することで、家族と一緒に食事したり学習したりするのをサポートする椅子。
もしかすると、福祉に携わるということをハードルに感じる人もいるかもしれません。けれど、ここで働く人たちも業界未経験からはじめた人ばかり。それでいて、長く勤めている人も多い。
代表の角田篤彦さんもその一人。どうして続けられたのか聞いてみると、こんなふうに話してくれた。
「自分たちがつくったものを使ってもらうということが好きなだけなんじゃないですかね。それで、子どもや親御さんがうれしそうにしてくれると『お、なんだかいいんじゃない?』って (笑)。そんなことを繰り返していたら、いつの間にか17年も経っちゃった」
角田さんたちと一緒に、どんなものをつくっていくかという打ち合わせから、製作まで一貫して手がけていく人を募集します。
船橋法典駅から車で5分ほど。
今から15年ほど前に構えた工房は、まさに町工場という感じ。5月には新しい工房に引越す予定なんだそう。
さっそく代表の角田さんが、工房を案内してくれる。
工房内には、製作中のものから完成間近のものまで製品が並んでいた。できあがったものの形もさまざまだ。
「椅子も、木製と金属製フレームのものとあって。金属製だと昇降機能がついているものもあります。みんなでごはんを食べるときには目線が合う高さにして、家族とリビングで過ごすときは低くしたり高さを変えられます」
パーツである座面一つとっても、脚長差に合わせた形のものもあれば、床ずれしてしまう人のためにお尻の部分を深く削ったものもある。
右しか向いていられない人の耳が押しつぶされてしまわないように、枕のクッション部分を丸くくり抜いたり、体温調節ができない人のために背中部分に小さな換気扇を埋める穴を開けておいたり。
「規格化されたものを改造して仕上げる場合もあるけれど、一つひとつオーダーメイドでつくっていきます」
そう工房の仕事は、病院や福祉施設から依頼を受けて、実際に使う人に直接会うところからはじまる。
理学療法士・作業療法士といったセラピストや患者さんの家族と一緒に、使用する本人の身体の特徴や用途について話を聞き、どういう姿勢を保てるようにするか打ち合わせする。
その内容に沿って製作し、縫製まで行う。ある程度できあがった段階で仮合わせをして、必要があれば調整し、仕上げたものを納品するという流れ。
その人に合ったものをつくるためには、現場でいかに話を引き出せるかが重要になる。
「いろんなことを聞いていきます。身体の情報、使用目的や使用場所、素材によるアレルギー、意思表示方法。好きなことや嫌いなこと、痛いことも」
「そして何より困っている点です。たとえばどうしても姿勢が右に崩れてしまってご飯が食べられなかったり、むせてしまう人もいます。そういったことを、身体の専門家であるセラピストや親御さんと一緒に、時間をかけてインタビューします。それを踏まえて、どんな姿勢にしましょうかとみんなでイメージを共有していく。そうしないと良いものはできません」
話し合うなかで、ときには思いもよらなかったことが解決できる場面もあるという。
あるエピソードを話してくれた。
「重度の身体障害を持つ人が入所している施設があって、その人たちにとっては施設が生活の場になっているんです。このあいだ出会ったのは、40歳をすぎている方で、小さいころからずっと病院のベッドの上で寝たまま過ごしていて、いつしか横になった状態がその人の姿勢になっていました」
セラピストからは、ストレッチャーのような車椅子をつくってほしいと提案があった。
というのも、膝が硬くなっていて足を曲げたり伸ばしたりできないから。けれど、それだと身体を起こせないないまま。足の行き場がないのに無理に姿勢を変えようとすると身体がねじれ、変形につながってしまう。
「ただ、ちょっとした工夫で身体を起こしやすくなることもあるんです。曲がらないなりに膝から下を楽におろせるようにすれば、足の行き場ができる。顔ももう少し前に向けられて、ある程度まで身体を起こせそうだと思って」
デモンストレーション用の車椅子を持って行き、座れるように工夫した。
すると、少しだけ身体を起こして座る姿勢が保てた。
「起き上がって前が見れるじゃん!と、みんなが驚いて。本人も、どこか少し表情がちがうというか。今まで天井しか見ていなかった人が、椅子に座ったかたちで移動できるようになるということは、きっと生活がガラッと変わりますよね。そういう可能性があるんだなとしみじみ感じて」
「ただそれは、僕だけで考えたわけではなく、その場で生まれたこと。提案して、受け入れてくれる人がいて形になっていく。そこに少しでも自分が関われるってなかなかないんじゃないかな。その場にいるから、わかる。それが面白いんです」
そう話す角田さんは、そう工房に入社するまでは、長く仕事を続けたことはなかったとか。
「僕じゃなくても他に得意な人がいるなら任せようと思って。でも、この仕事をして不思議だったのが、たとえ自分の思う通りにいかないことがあっても飽きなかったこと。それは、同じ仕事がなかったからですね」
角田さんがそう工房に入社したのは17年前。現在は製作には携わっていないけれど、営業も製作の仕事も経験を積んできた。2015年に、先代から代表を引き継ぐことになった。
学生時代は工業デザインを学び、卒業後はデザイン事務所に入社。
「デザインしていたのは大量生産するプロダクト。使う人の顔が見えないのが面白くないなと思って、1年で辞めました」
その後、木工家具をつくりたいと思うようになり、職業訓練校に通うことに。
そこで出会った人たちとの縁がつながり、そう工房の先代・神谷さんに出会う。
「家具屋に勤めながら、ときどきアルバイトとしてそう工房の仕事を手伝いました。しばらくして家具屋を辞めたんですけど、子どもができて、仕事しないといけないな…と思って。それで入社するに至りました」
「この仕事をしたいと思っていたわけでもなくて。むしろはじめは障害を持つ人と関わっていく仕事って、良い仕事だとは思いつつ、僕にはちょっと重かった。ただ、苦ではなかったんです」
重度の障害を持っていて、喋ることができない人も少なくないという。どう接したらいいか、はじめはきっと戸惑うんじゃないか。
それでも苦ではなかったというのは、何が根本にあったのだろう。
「何ででしょうね。一つは、つくることが好きだったから。それから今思うと、仕事を転々としていたのも、直接顔が見える関係というものに興味があったからなのかもしれません」
顔が見える関係。
「ハンディキャップを持っているかどうかは関係なくて。一つひとつお客さんに合ったものを製作して、良いものをつくれば喜んでもらえるし、変なものをつくったら『やり直し!』って言われる。自分がやったことに対してダイレクトに反応をもらうということが、シンプルだし、僕にとっては楽しいんでしょうね」
製作スタッフの岡本英史さんも、お客さんに喜んでもらえるものをつくりたいという気持ちを持ち続けている人だと思う。
「仮合わせまでの過程では、打ち合わせのときの採寸表と書き留めたメモを見て、採寸した人の意図をきちんと汲めるように徹してつくります。完成に向けては、どれだけ変なでっぱりがないかとか、使った人の立場になって仕上げていきます。やっぱり、かっこよくおさめたいですね」
岡本さんは入社して12年。
ベテランとはいえ、これまでつくったことのないものに挑戦することも多いそう。
「はじめてのことは時間がかかるので、工程的には厳しくなる。でも、いちばん面白いですね」
最近、岡本さんが手がけたというのが、うつ伏せ姿勢をとる装置。
患者さんのなかには座ると唾液でむせてしまう人もいて、うつ伏せのほうが呼吸も楽だしリラックスできるということで、依頼があったそう。
「サイズが大きい分、持ち運べるように分割するには、どこで分けるのがいいか考えます。加えて、胃に開けた穴にチューブを通して食事をとっているということで、管を取り外ししやすいように、クッション部分をカットすることになって。縫製の仕方を考えるのに悩みました」
凹凸部分は生地を何枚かにカットして縫製する。一枚一枚の縫い目が体に当たらないように気をつけて考えるけど、どうしようもない場合も出てきてしまう。
「どこを優先してどこを我慢してもらうかという判断は、製作スタッフだけではできません。営業と縫製チームと相談しながらより良い方法を考えているところです」
使う人の立場になってより良くするためにどう工夫するかを考えることも好きなんだとか。
岡本さんはどういう人と働きたいですか?
「はじめから向き不向きを決めつけない人かな。途中で手を放してしまわず続けていれば、きっとできるようになる。そのくらい面白い仕事だと、私は思っています」
何があれば、続けていけるでしょうか。
「うーん…やっぱり好奇心ですかね」
「明日になったらもうちょっとうまく削れるかもしれない、もっと喜んでもらいたいとか、そういう気持ち。教科書に書いてあることじゃなくて、体を動かしてわかることがたくさんあるように思うんです」
最初は覚えることもたくさんあるし、やってみないとわからないことだらけだと思います。打ち合わせから製作まで一人で一貫してできるようになるには、5年はかかるという。
けれども、代表の角田さんはこんなふうに話していました。
「緊張はいくらやってもなくならないです。でも、良いものつくっちゃおうかなと思いながら仕事をする。それでね、患者さん本人にも親御さんにも喜んでもらえたら、いいぞ!と思えるんです」
そう語る表情は、楽しそうで、どこか誇らしげだったのが印象的でした。
人と向き合いものをつくる喜びを大切にする。ここには、そんな働き方があると思います。
(2017/12/04取材 後藤響子)