「なにかを変えるって、すぐにできることじゃないと思うんです。探りながら道を進むなかで、気持ちが伝わったり、関わる人が増えていったり。社会が変わるって、そういうことの積み重ねなのかなって」
「アドボカシー」という言葉を聞いたことはありますか?
「声をあげること」を語源とするこの言葉は、社会的に不利な立場に置かれている人の権利を守るため、その声を聞き、ともに声を上げ、ときに代弁するという意味でも使われます。
一般社団法人子どもの声からはじめようは、「子どもアドボカシー」を実践する団体。
児童相談所に保護されていたり、児童福祉施設や里親家庭で生活していたりする子どもたちの声に耳を傾け、一人ひとりの意思や気持ちが尊重されるようサポートしています。

今回、団体を中枢から支える事務局メンバーを募集します。
一つ目の募集職種は、子どもの権利やアドボカシーについて伝えたり、現場で子どもたちと協働する「アドボケイト」を養成する研修事業の運営担当。
二つ目は、アドボケイトやその調整役であるコーディネーターたちを束ねていくリーダー候補。
最後に、経営管理としてバックオフィスを担当し、組織としての基盤構築をともに行っていく人。
この分野に馴染みのない人でも大丈夫。知識や経験は、働きながら身につけることができます。
社会の役に立つ仕事がしたい、誠実に人と向き合いたいという人に、ぴったりの環境です。
普段はリモートワークで働く、子どもの声からはじめようのみなさん。
今回の取材場所は、東京・清澄白河にある日本仕事百貨のオフィス。
「つい喋っちゃうんですよね」と笑う代表の川瀬さんは、ユーモアを交えながらも、一つひとつの問いに丁寧に向き合ってくれる方。

団体が主に対象とするのは「社会的養護」のもとにある子どもたち。
社会的養護とは、さまざまな事情から親元で暮らすことが難しい子どもを、社会全体で育てていくこと。
設立した2018年当時、国は、社会的養護について、児童養護施設よりも里親家庭を優先していく方針を示していた。
「私自身、里親家庭で生活した経験がありますが、あまりうまくいきませんでした。政府の方針を知ったとき、社会的養護を経験した子どもや若者の声はほとんど聴かれることなく、『家庭ようなところにいれば幸せになれる』と決めつけられたように感じたんです」
当時、児童自立支援施設の教員でもあった川瀬さん。
施設での生活がつらい子がいれば、心地よいと感じる子もいる。里親家庭になじめる子がいれば、そうでない子もいる。子どもたちの現実と、政策の方向性にギャップを感じたことから、子どもの権利について学ぶ勉強会を開催。
そこで出会ったのが、「子どもアドボカシー」の実践だった。
「社会のなかで抑え込まれがちな子どもの声が、きちんと聴かれる状況をつくりたい。子どもが、自分のことを自分で選べるようにしたい。その思いからはじめました」

草の根の活動からはじまり、2020年に法人化。その後、自治体からの受託事業が増え、活動の幅も広がっていく。
例えば、児童相談所などでの活動。
児童相談所は、子どもに関するあらゆる相談を受けつけ、必要に応じて子どもを一時的に保護し、支援するところ。
子どもにとって重要な決定がなされる場であるものの、これまで自分を抑えて生きてきた子どもが、自らの意見を伝えることは簡単ではない。
また、安全な場である一方で、学校に通えなくなったり、スマートフォンが使えなかったりと、日常生活とは異なるさまざまな制約も生まれてしまう。
「子どもアドボカシーでは、アドボケイトが子どもと協働し、子どもが自らの思いを明確にし、必要な場に伝えるサポートをします」
「早く家に帰りたい」「友だちに無事を知らせたい」「受験勉強がしたい」「将来が不安」
どんな声も受け止め、実現のためにともに行動する。
子ども自らが、自分の人生にしっかり参加できる。それを支えることが彼らへのエンパワーにつながる。
現在は、七つの自治体の児童相談所に加え、児童養護施設や里親家庭など多様な環境で生活する子どもたちに関わっている。アドボケイト養成講座も、定期的に開催しているそう。

こうした積み重ねが認められ、昨年度には、子どもアドボカシーが制度化し、事業も堅調に拡大中。
最近は、小学生向けの子どもの権利ワークショップ、中等教育学校や、医療的ケアを必要とする子どもが入所する施設でのアドボカシーなど、活動の場が広がっている。
「私たちがやっているのは、課題解決というよりも、文化の醸成に近いんです」
文化の醸成?
「いくら法律ができても、それが日常に定着しないと意味がない。この活動は、最初は歓迎されないこともあります。『子どもがわがままになるんじゃないか』『職員の仕事が増えるんじゃないか』って。しんどい現場ほど、そう受け取られやすいんですよね」
「でも、子どもの権利が文化として定着したら、『アドボケイトが来てくれたから話を聞いてもらおう』と思ってもらえる。義務感ではなく、子どもにとって本当に必要なものとして広がっていく。その状態を目指しています」
文化として根付かせるためには、当事者だけでなく、社会全体に「子どもの声を大切にする価値観」を広げる必要がある。団体が事業の領域を広げ続けている理由もここにある。
「いつも意識しているのは、『自分たちが正しい』と思わないこと」と川瀬さん。
「立場が変われば、正義もあるべき姿も変わります。職員や親御さんは、私たちとは別の視点から、子どもを大切にしているかもしれない。それらを排除せず、どうすれば子どもが自らの人生に対して力を発揮できるようになるのか、考え続ける姿勢が大切なんです」
話を続けるのは、川瀬さんとともに組織運営を担う、事務局長の内山さん
「私たちがすごく大切にしている考え方で、『Yes,and…』というものがあります」
「たとえば、自分の意見とは異なる意見に対して、『それいいね!一回やってみよう』と受け入れる勇気をもてるか。そして相手と協働し、よりよい実践を積むプロセスを楽しめるか」

子どもとの関わりのなかでも必要な場面は多いという。予想外の発言や行動があったり、全く知らない話題について意見を求められたり。
「そのときに、どうYes,and…で言葉や行動をを重ねていけるか。アドボカシーの原則の一つは『子ども主導』なので、この考え方が活きてくるんです」
内山さんは以前、子育て世帯を中心とした地域共助の推進事業に関わっていた。
リモートワークや子連れでの出社・出張ができる環境は整ったものの、大人が主体のことも多く、子ども気持ちは、と考えることもあった。
その頃、子どもの声からはじめようの講座に参加。「子ども主導」の考え方や社会的養護を経験した若者たちとの出会いに衝撃を受ける。
より深く学びたいと、児童相談所や一時保護所で6年ほど働き、プロボノを経て団体に参画した。
「ソーシャル事業の推進に長く携わった経験から、この団体で自分の役割は、より効果効率をあげて社会的課題解決のために努めていくことだと考えていました。でも、実際は全然違っていて」
そうなんですか?
「物事が一旦立ち止まることも多いです。それは川瀬さんがさまざまな意思決定に対して、問いを返したり、離れたり、時に関係者全体で一緒に向き合っていく姿勢だから。今は私も、それが大切な文化であり核であると捉え直しています」
それぞれが主体性をもって参画し、ハンドルを握っていく。
それは、子どもの世界がそうあってほしいという願いでもある。
「私自身も日々自分の思考や癖をチューニングしながら、今後は新しいメンバーとともにその文化を醸成していけたらと思っています」

子どもの声からはじめようには、アドボケイトとして現場で活動するボランティアスタッフが60名ほど所属。そのボランティアチームづくりや養成講座の企画・運営などを担当する、業務委託や非常勤のコアメンバーが7名ほどいる。
今回募集する3職種は、内山さんと同じく正職員として、団体やメンバーを支えていく人たち。
いずれも、子どもや福祉分野の知識や経験がない人でもチャレンジしてほしい。

「今はまだ基盤づくりのフェーズで、日々試行錯誤していて、方向性が変わることもある。そこも受け入れられる柔軟な人がいいですね」
仕事はリモートワークが中心。自分で仕事を管理して、必要な役割を見つけていく必要がある。
「大切なのは、全部自分でやりきろうとせず、大変に感じていることや、やりたいこと、自分ができることできないことを、きちんと共有すること。相談することで悩みや課題が解決していけば、結果的にその先にいる子どもたちのためになるはずです」
「子どもの声を聞くことは、自分の声を聞くこと。子どもにかける言葉を通じて、自分の思考の癖に気づかされる。自分の内面と日々向き合っていくのが、この仕事だと思っています」
「この二人とフラットに意見交換ができる人が来てくれたら」と話すのは、業務委託として働く藤本さん。
別の教育系NPOで働くかたわら、事務局運営に関わっている。

数年前、大学の社会人講座で川瀬さんの授業を偶然受けたことから、子どもアドボカシーを知った藤本さん。
養成講座を受講し、アドボケイトとして活動するなかで、徐々に事務局運営を手伝うようになり、今に至る。
「養成講座を修了したものの、最初は、こんな荷の重いことはできないと思っていました。きっとこれから来る方も同じで、児童相談所や児童養護施設のイメージも湧かないでしょうし、想像できなくて怖いとか、自分に務まるのかって不安にもなるのかなって」
「でも実際、子どもたちと接していると、すべては私たちの日常や地域からつながっていて、なにも特別なことではない。どんな言葉を選んで、向き合っていくのか、それは実際にやってみることで理解していけると思います」
子どもだけでなく、関わる大人も多様。子どもたちが過ごす施設や行政の職員、里親さん、ほかのNPO職員やボランティアメンバーなど、いろいろな人たちとのコミュニケーションが苦にならない人が向いている。
「私自身、社会的養護のもとで育ってはいないので、当事者として共感できる部分は少ないかもしれません。でも、その人自身の声や思いは、みんなが大切にされるべきで、それは私も一緒なんです」
「誰にも子ども時代があって、あのとき親や先生にこう伝えたかった、こうしてほしかったって、きっと経験しているはず。『このテーマって自分にも関係があるのかも』と少しでも感じられたら、ぜひ挑戦してみてほしいですね」
むずかしいテーマに向き合う仕事に感じるけれど、働くみなさんは、明るくておだやか。
さまざまな人の思いを日々受け止めているから、受容する柔らかさがあるのだと感じました。
最初はわからないことも多いはず。そんななかでも、子どもたちや一緒に働く人たちと誠実に向き合って、一日一日を積み重ねていくことに、きっと意味があるのだと思います。
(2025/10/30 取材 増田早紀)


