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「自分の中に“こうしたい”があることってすごく素敵なことだと思うんです。それが叶わなくて悔しい想いをしたとしても、やっぱり私たちのやっていることは、それだけの熱量があってはじめて完成するお仕事だと思うから」これは、株式会社エンの西口さんが話してくれたこと。
株式会社エンは、北海道を中心にファッションやライフスタイルを提案する12のセレクトショップを運営する会社です。
店舗は、一つひとつが異なるコンセプトで運営されています。
なぜなら、そのときの流行を追いかけているのではなく、お客さんの声や働く人たちの個性を活かして、お店が生まれていくから。
だからこそ、自分がどんなことをやってみたいのか、お客さんは何を求めているのか。常に考え、感じ取っていく姿勢が求められます。
そのなかでも、今回はクリエイターとお客さんをつなぐnouer(ヌエ)というお店で働く人を募集します。
販売の仕事というよりも、自分の感性や周囲の声を活かして空間づくりをしていく仕事だと思います。
向かったのは、北海道・札幌市。
nouerは、大通駅から歩いて10分ほど。大きな商店街のアーケードから1本脇道に入り、喧騒からは少し離れた通り沿いにある。
扉をあけると、「こんにちは」と落ち着いた笑顔で統括ディレクターの西口さんが迎えてくれた。
このnouerを立ち上げた人であり、現在はすべての店舗のマネジメントをしている方でもある。
「株式会社エンは、今年で8年目を迎えます。ただnouerは前身の会社のころから運営をしていて、エンのなかでも15年という長い歴史を持つお店なんですよ」
前身の会社は、40年アパレル店舗のフランチャイズ運営を主な事業として行ってきた。自社以外のメーカーやブランドと協業するなかで、少しずつ店舗を増やしてきたという。
エンはその事業を引き継ぎ、自社編集のセレクトショップの運営に加え、今でも販売代行・フランチャイズとしてTOMORROWLANDやROSE BUDの店舗を運営している。
時代の流れに合わせ、業態や運営方法も変わり、会社も生まれ変わった。そんななかでも、働く人たちがずっと変わらずに大切にしている想いがあるという。
「それは『私たちの仕事はものを売ることではない、お客様一人ひとりの自己表現を支援することだ』という想いです。お客様と接するときには、いつもこの言葉を胸に置いて、徹底的に実践してきました」
身に付けるものは、自分を表現する手段のひとつ。
もちろんトレンドに合わせることもいいけれど、お客さんにとってどういうものが必要なのか、何を求めているのかを突き詰めていきたいと考えている。
そのために大切にしているのが「会話」。
「うちは店内でも、積極的にお声がけするほうだと思います。でも的外れな提案をしたり、嫌な思いをさせてしまっては意味がないですよね。だから会話の精度を上げるために、観察力なども含めて身につけるようにしています」
たとえば、お客さんが手触りを確かめるようにレザー商品を触っていたら、「レザーとは思えない柔らかさですよね」と声をかける。触っているものがコートばかりなら「そろそろ冬支度の季節ですね」と話すことも。
目には見えない気持ちを、動きや髪型、着ているものなどさまざまな視点から想像を巡らせて、かける言葉を選んでいく。
それぞれの気持ちに寄り添うから、きっとお客さんも心地いい。
ちなみに社内研修が充実しているので、こういった力は経験がなくてもしっかりと身につけられるそうだ。
訪れる人たちとの会話を大切にしていると、「こんなものがあったらいいのに」「こんなとき何を身につけたらいいだろう?」というさまざまな声が聞こえてくる。
その想いに応えたいというスタッフの気持ちやそれぞれの個性から、新たなお店が生まれていく。
たとえば、旭川にあるショップ「SAJI」。
「現場の最前線でキャリアを30年近く積んできた、古株のスタッフがいて。長く働くうちに、お客様も一緒に年齢を重ねていく。すると『最近、似合う服がない』というご相談をたくさん受けるようになったんです」
その声を拾い上げ、大人の女性に向けたお店をつくってみることに。扱う商品も、年齢層が高めの方を意識したサイズやデザインを考えたという。
結果、多くの支持を受け業績もとてもいいのだとか。
話はそこで終わらない。働く人たちは、お店のあり方を常に問い直している。
「そもそも大人って誰だろう?というところから、そのスタッフは考えていて」
「1年間お店を運営してみて、自分たちが勝手に年齢で区切ってしまっていたことに気付いたそうなんです。だから今後は、すべての女性に楽しんでいただけるエイジレスなお店づくりを目指しているんですよ。素材や着心地にこだわったオリジナル商品の開発もはじめています」
ほかにも、ランジェリーを扱っているお店では、「レースで肌がかゆくなってしまう」という声からボディケアクリームを仕入れるようになったり、別の店舗では男性スタッフが自分の趣味を活かして店舗でDJイベントを開催したり。
「効率は良くないかもしれないけれど、お客さまもスタッフもどちらの想いも組み込んでつくるものは、長く根付いていくと思っています。意思あるお店づくりをしていきたいですね」
もちろんうまくいくことばかりではなく、中には目標の予算に届かないものや、ニーズと合わなくて終了してしまったものもある。
「でも失敗だとは思いませんし、意見をあげてくれたスタッフにも感謝です。とにかく売れればという考えではなくて、丁寧に気持ちに寄り添ってきた会社だからこそ、安心してビジネスもできているんだと思います」
実際に働いている人たちにもお話を聞いてみたい。ご紹介いただいたのは、nouerの店長である東野さん。
どんなお店なのか聞いてみる。
「nouerはつくり手とお客さまとを結ぶというコンセプトで始まったお店で。ものづくりにこだわりのあるブランドを多く扱っています。背景まで知って本当にそのものづくりを伝えていきたいと思うもの、自分たちも好きだと思えるものしか置いていません」
ハンドメイドで1点ずつ刺繍をした洋服や、バッグなどの小物、アクセサリーまでさまざまな商品が並ぶ。
なかでも、東野さんが紹介してくれたのはMAD et LEN(マドエレン)という香りのブランド。
旬の素材しか使わず、パッケージも香水のブレンドも、すべて手作業でつくられている。
「はじめてこの商品に出会ったときに、nouerで伝えていきたいと強く思いました」
「nouerは、何をどんなふうに提案するか、というところをゼロから考えていきます。だからどういう形でも、生み出すことや発信することに面白さを見出せる方だといいですね」
今後は、東野さんとブランドの展示会にも同行してほしい。さまざまなつくり手に出会い、核となる想いをしっかりと感じるチャンスがあると思う。
「人と接するのが好きなのか、愛情が込められたモノが好きなのか。それともモノを提案する空間づくりが好きなのか。働いてくれる方が何を好きなのかによって、開けていく道は違っていくと思います」
店長の東野さんと二人三脚でお店をつくっているのが佐竹さん。
モノの魅力を伝える空間づくりが好きな方。東野さんいわく、「nouerの大道具担当」なのだそう。
クリスマスに、ショーウィンドウのディスプレイをしたときのことを話してくれた。
「まずはイメージを膨らませるために、Instagramとかで画像を探してみて。プレゼントの箱を積み重ねることにしました。華やかすぎる包装紙だとお店の雰囲気にマッチしないので、どんな見せ方をしていくか考えましたね」
ディスプレイはただ華やかにするのではなく、隣に飾られる洋服が主役。洋服を引き立てながら、クリスマスを感じられるデザインにしたかった。
コンセプト決めから、スケジュール管理、人手の確保などすべて佐竹さんが中心となって進めたという。試行錯誤の結果生まれたディスプレイは、nouerらしいクリスマスを表現できた。
ところで、佐竹さんはこんなふうに空間づくりに関わった経験はあったのでしょうか。
「ありませんでした。むしろ空間づくりが好きだと気づいたのも、nouerに入ってからで」
聞けば、nouerにやってくる前は製菓・製パンの専門学校に通っていたそう。
なぜここで働こうと思ったのでしょう。
「専門学校に入って、仕事として調理を続けていくのはなんとなく違うなと思って。もともと人と話すのがあまり得意ではなかったので、これから生きていくのにもう少し人と接していく仕事をやってみたいなと思ったんです」
たまたま佐竹さんのお母さんが、エンの運営する店舗で買い物をしていたこともあり、入社を決めた。
とはいえ、今でも接客に難しさを感じることがあるという。
「nouerに来てくださるのは、40代、50代の女性の方も多いです。自分の年齢との差も結構あるので、洋服を着たときの感じ方も少し違うんです」
お腹が出てきたとか、腰回りが気になるといった加齢に伴う体の変化。自分には実感がないことでも、お客さんの反応を見ながら感覚を擦り合わせていく。
ときには、うまくご希望に沿えないこともある。そんなときは、その日のうちに二人で共有する。
どのサイズをご提案すればよかったのか。どんなものを求めていたのか。もう一度、自分たちで試着をするそう。
なんとなく、で流してしまうのではなく、できるだけ話し合う。毎日そんな時間をとれると、気持ちよく働けそうだ。
すると店長の東野さん。
「逆に、ここまでやってしまっていいのかなって思うことも多いです」
それはどういうことですか?
「見せ方とか伝える方法とか、話している時間が本当に長いんですよ。佐竹はイメージしていなかったことだと思うので、ギャップになってしまったんじゃないかなと…」
通販などで買う選択肢もあるなか、せっかくお店に足を運んでくれるのだから、その時間を大切にできるような空間にしたい。
より良くしていきたいという想いが強いから、ときには作業に没頭して残業になってしまうことも。
佐竹さんはどう感じているのだろう。
「私はその時間も楽しいので、そんなに気になっていないです。店長は、なんかお母さんみたいな感じで(笑)話をしっかり聞いてくれて、人の得意分野を生かしてくれるのをひしひしと感じます。服にも人にも愛がある人なんですよね」
正直に気持ちを伝え合う二人を見ていると、普段から健やかな関係性を築けているんだなと実感する。それがこのお店の居心地の良さにもつながっているように思う。
モノを紹介するもっと手前のところから。
自分たちで考え、手を動かし生み出していく楽しさをここでは感じられると思います。
(2018/2/8 取材 並木仁美)