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子どもたちのそばに

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「どういう大人になりたいか、どういう社会に生きたいか。常に自分の頭で考えて行動し、それぞれの道を選択していく。一人ひとりの内にある感性や違和感に向き合う教育を、この場所からつくっていきたいんです」

そう話してくれたのは、NPO法人寺子屋方丈舎の代表・江川さん。

方丈舎は、1999年に立ち上がった福島県会津若松市にあるフリースクール。

7歳から21歳を受け入れ、子どもたちでミーティングをひらいてどんな活動をしていくか決めたり、自分たちのやりたいことを形にするプロジェクトを行なったり。子どもたちがカリキュラムをつくる、主体的な教育を実践しています。

ここで、子どもたちと一緒になって、学びの場をつくっていく人を募集します。

公教育だけではない学びの選択肢を探っていきたい。そう思う人に、ぜひ読んでほしいです。

 

新幹線で福島・郡山へ。電車を乗り継ぎ会津若松へと向かう途中、景色はだんだん雪深くなっていく。

会津若松駅で只見線に乗り換え、隣駅の七日町に到着。

駅から10分ほど歩き、大通り沿いのビルの5階まで上がると、フロアの一角に方丈舎の事務所とフリースクールの教室があった。

迎えてくれたスタッフの方が、まずは教室を案内してくれる。

ここでは、フリースクールに通う子どものほか、通信制高校と学童保育に通う子どもたちも一緒に過ごしている。

午前中は勉強の時間。フリースクールの生徒は、宿題をしたり、興味のあることについて調べたりするんだそう。たとえば、電車やガンダム、プログラミングについてなど、内容はさまざま。

宿題でわからないところがあれば、問題をホワイトボードに書き出し、スタッフとまわりの子にアドバイスをもらいながら解いていくような場面もあるそうだ。

午後になると机を囲んでお昼ご飯を食べる。そのあとは、学童保育の子どももまじって一緒に遊んだり、思い思いに過ごしている。

「よく、江川さんのところって、自由すぎませんか?って言う人もいます。でも、何かをさせるんじゃなくて、あなたが居ていい場所なんだよという空間を保証し続けることが大事。そこから学びが構築されていくんだと思います」

そう話すのは、代表の江川さん。身振り手振りを交え、表情豊かに話してくれる。

「学校に行けない子どもに対して“集団になじめない不届き者”っていう見方をする人もいるんですけど。どっちがいいとか悪いとかじゃない。知識を詰め込んだり、みんな一斉に同じことをしないといけない教育に対して違和感を抱くのも、私は一つの感性だと思っていて」

「それを否定してほしくない。むしろその子たちにもちゃんとした教育の機会があって、感性を伸ばせたらいいじゃん!っていうのが私の主張です」

ここで、「実はね」と江川さん。

「私自身、高校をやめて1年間くらい引きこもっていたんですよ。今はこんなによくしゃべるのに(笑)」

言われたことをそのまま飲み込んでいくような学校生活に、心がざわつく感覚を抱いていたという。

学校に行かなくなった自分に対する周囲からの反応は、冷ややかに感じられた。

「社会から拒否されたと思ったの。当時はずっと『合わない自分が悪い、俺は不適格者だ!』という考えにとらわれていたんです」

家に引きこもっている間、江川さんの頭にあったのは、人の生き方はどのように決まっていくのか?という問いだった。

「好きな歴史上の人物たちの生き方を本で読んだりしながら思ったのが、人は、小さな選択を積み重ねていった結果、仕事や恋愛、ライフスタイルに行き着いているということ。それって、誰がいいとか悪いとかの世界じゃない。その人の選択の連鎖なんだと考えたんです」

限られた価値観の社会からは抜け出して、自分の可能性を探したい。

そう考えた江川さんは、父親を説得し、大学進学のために地元から離れた予備校に通う。

自分の意志で進んだ大学では、興味のある先生のもとへ直接話を聞きに行ったり、友人と自主勉強会をひらくなど、自分から活動していったという。

「そんなふうに主体的に学ぶことの楽しさに気づいた経験が、今の仕事の根っこにはあるんです」

卒業後は地元の民間企業に就職。その後、教育相談員などを経験し、34歳で方丈舎を立ち上げた。

江川さんは、どんなふうに子どもたちと関わってきたのだろう。

印象的だったエピソードを尋ねると、10年ほど前に通っていたある男の子の話をしてくれた。

「すごく不安定で、じいちゃんの耳を噛み切った子がいたんです。はじめのうちは落ち着いて会話することは一切できなかったですよ」

「どうしたかというと、うっとうしく思われても、ひたすら寄り添うということをしていましたね」

そばにいて、何をするでもなく?

「そう。頼りたいときには頼ればいいけど、基本は何もしない。そばにいる。言葉を交わさなくても、雰囲気や相手の呼吸とかが、じわじわっと感じ取れる瞬間があるんです」

「そういう時間をこちらが楽しめると、相手にも伝わったりする。そうすると、お互いが楽しいと思える関係性を築ける。だから、ここで働くスタッフ自身が楽しみながら働くということはすごく大事です」

その男の子の行動はだんだんと落ち着いてきて、自分で発言したり、まわりの子とも一緒に行動するようになっていった。

今ではひとりのお父さんになっているそう。

19年間で卒業していった200人の生徒たちのなかには、同じように母親・父親になっている人も多い。

ときどき話をする機会もあり、当時のことを振り返って、「江川さんみたいな大人がいてくれて気が楽だった」と気持ちを伝えてくれることも。

「大事なのは、“選択する権利は常に自分にある”ということに気づくこと。自分で選んだことに対して、わからないところは質問したり調べていけば、納得もできる。そこから議論する力を身につけていければ、それで十分じゃんって」

「そういうところを一人ひとり丁寧に伸ばしていける環境を、私はつくっていきたいんです」

 

そんな方丈舎では、好きなことからやってみるというスタンスを大事にしている。

それを表している一つが、週に一度行っている子どもミーティング。司会進行を子どもたちが務め、フリースクールでの過ごし方について具体的に話し合っていく。

最近では、OB・OGがやってくる機会に合わせて、じっくり話したり遊んだりしたいという子どもたちからの声から、お泊まり会を企画しているそう。

スタッフは、日程や宿泊場所、集合時間など疑問に思ったことを子どもたちに投げかけるだけ。

実行委員や調べる係、記録係など、それぞれの得意分野に合わせて自ずと役割が生まれ、協力しながら計画を進めているという。

「私たちスタッフは教えるというよりは、子どもたちと対等に学びあい、並走する。ちょっと年上のお姉さんお兄さんみたいな感じで、子どもたちと関わっています」

そう話すのは、入社4年目の大竹さん。子どもたちからは、ぐみちゃんと呼ばれているんだそう。

ミーティング以外にも、子どもたちのアイデアからはじまるプロジェクト学習がある。

最近行なっているのが、ペンタブを使って絵を描くプロジェクト。

スタッフが趣味で描いていたデジタルイラストを見て、子どもたちもやってみたい!と練習をはじめたそう。最終的にはそれぞれの好きなイラストを描こうという目標に向かっている。

なかには、絵を描くことに苦手意識を持つ子もいた。

でも、スタッフがお手本で描いている様子を見ているうちに、デジタルだと元の状態に戻すのも簡単でトレースしやすいことに気づいた。

「試しに描いてみたら、『意外といけるかも!』って。今では『俺、絵描ける!好きなキャラクターを描けるようになりたいんだ!』って言うほど、なんだか目覚めてしまったみたいで」

「少しずつ変わっていく過程を見ていると、おぉっ!って思わされます。小さな『できた!』がいっぱいあるので、たくさんのよろこびに出会える場所です」

子どもたちとのできごとを、柔らかい眼差しで話してくれる大竹さん。

方丈舎で働きはじめたのは、子どもと関わる仕事がしたいと考えたからだった。

「10代のころから自分のことが嫌いでした。大学生のころ、1年くらい引きこもりだった時期があって。家から出ず、昼夜逆転の生活をしていました」

どうにかして現状を変えたいと、新しい場所を求めてはじめたのが、居酒屋のアルバイトだった。

「調理を教えてくれた料理長は、16歳のときから料理の世界に入った方で。『俺にはこの道しかない』とよく口にしていました。こだわりを持った方が身近にいるなかで、自分は何がしたいんだろう?と見つめ直して考えるようになって」

「そのとき、私と同じように自分のことを好きになれずにいる子どもを一人でも減らしたい、という気持ちに気づいて」

子どもと関われる仕事を調べていたときに、方丈舎のことを知る。資格は持っていなかったし、すでに枠も埋まっていたけれど、想いを伝えた。

そうして、方丈舎が手がける環境教育事業や子ども食堂の仕事からはじめ、フリースクールの担当となったのは2年前。

一人ひとりに合ったサポートができているのか?という正解のない問いを抱えながらも、少しずつ前に進んでいるという。

あるエピソードを話してくれた。

「高校3年生の就職を考えている子が、何をやったらいいかわからないと私に相談してくれて。その子の悩みに対して、自分の経験だけでしか私は伝えられないけど、逆に言えばそれはできる。居酒屋のアルバイトを選んだ背景も、この方丈舎に来た経緯も正直に話したんです」

大竹さんの話を聞いたその子は、「働くのはお金を稼ぐためだと思っていたけれど、違う側面もあるのかもしれない」と感想を伝えてくれたそう。

やりたいことがないなら、まずはやりたくないものから考えよう。一緒に掘り下げていくと、少しずつ輪郭がくっきりしていった。

「私があーしろこーしろと言うのではなくて、その子自身で気づいたんですね」

「子どもたちを見ていると、どうせこれをやってもだめだという諦めを感じていることが多いんです。けれど、本当はいつでもチャレンジできる。そのことを教えるというより、一緒に肌で感じていきたいと思っています」

大竹さんはどんな人と働きたいですか?

「試行錯誤しながら、その子にとってベストな状態ってなんだろうと考えられる人。子どものいいところをいっぱい見つけて伸ばしていける人がいいなと思います」

じっくりゆっくり対話していくなかでしか、見つけられない一瞬や表情がきっとある。

そんなふうに子どもたちと過ごす日々を大切にしていきたい。そう思えたら、江川さんたちに会いに行ってみてください。

(2018/02/09 取材 後藤響子)

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