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突然ですが、三河屋のサブちゃんを知っていますか?
アニメ「サザエさん」の登場人物のひとりで、酒屋さん。アニメを観たことのある方なら、勝手口を開けて「ちわーっ、三河屋です」と現れる場面を思い出す方が多いと思います。
サブちゃんの仕事を一言で表すなら、地域の御用聞きと言えるかもしれません。
町内のおうちを訪ね、足りないものや困りごとがないか聞いて回る。配達の合間に世間話をしたり、頼まれごとをしたり。
仕事と生活の区切りがあるようでないような、ちょっと不思議な仕事。
今回は、そんなサブちゃんのような働き方に惹かれる人にこそ読んでほしいです。
舞台は神奈川県横浜市。
保土ケ谷区の上星川という町で温浴施設「天然温泉 満天の湯」などを運営する株式会社モリヤマの地域貢献担当を募集します。
相鉄線の上星川駅南口を出てすぐのところに、モリヤマの本社はある。
東京駅から電車で40〜50分、横浜駅からなら10分とアクセスもいい。
エレベーターで2階まで上がると、代表の森山さんが迎えてくれた。
捺染と呼ばれる染物を製造・販売する会社として、65年前に創業したモリヤマ。
すぐそばを流れる帷子川(かたびらがわ)の水を使って染物を洗っていたものの、川の汚染につながるとして問題視されるようになり、井戸を掘ることに。
「60mほどで水が出てきたんですが、これが温泉で。染めにはまったく向かない茶色の水でした。その井戸はほっぽらかし、300mほど先に湧いていた自然水の権利を買いまして、パイプでビューっと引いて使っていたわけです」
3万円以上もする雨傘やドレス、洋服など高級志向の製品をつくり、バブル期までは業績も好調で、国内外に工場を増設。
ところが、次第に雲行きが怪しくなってくる。
「わたしの大好きな山口百恵がモノトーンの服を着だしたんですよ。白黒って、捺染屋さんにとっては天敵みたいなファッションで(笑)。華やかなものが売れなくなっていきました」
拡大した工場は次々に閉鎖。
本社も捺染からは手を引かざるを得ない状況になっていた。
「そこで考えたんです。掘ったまま捨て置いた温泉と自然水を使わない手はないなと。この本社を転用し、温浴施設『満天の湯』をはじめました」
現在はこの満天の湯と、茨城工場を転用したプリント配線基板の製造、不動産賃貸業の3本柱で成り立っているという。
ところで、今回募集する地域貢献担当は、どんな経緯で採用することになったのだろう。
「捺染工場だったときから、地域の皆さんには有形無形のご迷惑をかけているはずです。そのお詫びの意味も込めてですね、この町を良くすることを金銭度外視でやっていかなければならない。わたしはそんな信念を持っているんです」
森山さんが取り組みはじめたのは、駅前商店街の活性化だった。
幸い、シャッター商店街にはなっていないものの、後継者のいない店がほとんど。放っておけば、商店街がなくなるのも時間の問題だった。
「この町で商売をやりたい!という空気を、今のうちにつくっておきたい。それは一人ではできません。思い切って弊社に地域貢献担当を置き、地域のみなさんとがっちりスクラムを組んでまちづくりをやっていこうと決めたんですね」
そんな森山さんの言葉を受けて、「本当に、ぼくもまるっきり同じ想いで」と話すのは、株式会社VMD JAPAN代表の天野さん。
商店街の一角にオフィスを構え、チラシや名刺、ホームページのデザインや販促企画を中心にオーダー家具や雑貨の販売を行うかたわら、地域団体「FM上星川」を設立。さまざまな地域貢献活動に取り組んでいる。
「ぼくらがこの世からいなくなったとしても、町は残っていきます。長い歴史の一部を担うわけなので、どうしたら子どもや孫のような次の世代が町を好きになり、ここで仕事をしたいと思ってもらえるか、日々考えていますね」
並々ならぬ想いを伝えてくれる天野さん。
実は、上星川が地元というわけではないそうだ。
「出身は八王子市です。上星川には何度か来たことがあって、満天の湯もその度に入っていて。何かしらのご縁があったんですよね」
当時すでに横浜で今の会社を経営していた天野さんは、結婚して家を買うタイミングで上星川を選んだ。
上星川には、横浜市で唯一の渓谷である「陣ヶ下渓谷」が存在する。満天の湯の隣を流れる帷子川では鮎を見ることもできるそうだ。
その一方で、横浜駅から相鉄線で10分というアクセスのよさも魅力のひとつ。浄水場のある丘を登っていくと、富士山やみなとみらいの夜景まで望むことができるそう。
いろんなよさがあるなかで、天野さんがこの町を選んだ決め手は、やはり商店街だった。
「小さいころ、家から少し離れた商店街に買いものに行っていたんです。その記憶とリンクしたのかもしれません」
「途中で知ってるおじちゃんおばちゃんに挨拶したり、お店でも会話が生まれたり。ここにはほどよい昭和感が残っていたんですよね」
大都市の大きな商店街ではないからこそ、人と人との距離が近い。
情報発信をするにしても、SNSを使わない方法が効果的なこともある。
「ぼく、駅前にパン屋さんがないのを不思議に思っていたんです。聞いてみると、二十数年ない。じゃあ探しちゃおうということでオフィス前に張り紙を出したところ、問い合わせがあって。これから商店街にオープンするんですよ」
今もカレー屋さんの出店希望があったり、天野さんとコラボレーションし、そろばん教室をはじめる人もいる。
この町でやりたい、という声は少しずつ増えてきているという。
店舗誘致のように目の前の町をつくっていくことはもちろん、天野さんは10年30年、100年先までを見通した計画も立てている。
「パン屋さんはまだオープン前ですけど、地域の小学校と連携して、総合学習の時間にパン教室を開いていて。みんなでつくった『きずなパン』をグランドオープン日に販売する予定なんです」
「町の人たちが楽しみにしているパン屋さんに、自分のつくったパンが並ぶ。それは子どもたちにとってもうれしいことですよね」
その体験を経て、将来パン屋さんになりたいと言ってくれた子が2人いたそう。
小さいころの夢のひとつに過ぎない、という考え方もあると思う。でも、この夢がいつ芽吹くかはわからない。小さな成功体験はその子の自信につながるだろうし、町の見え方にも少なからず影響を与えるんじゃないだろうか。
「将来的に1人2人でもね、一緒にこの商店街で働く子が出てきてくれたらと思っていて。実はうちでアルバイトしている子、パン教室に参加した子のお兄ちゃんなんです。まだ就職先も決めていないそうなので、うちに入れば?って言ってるんですけどね」
「まちのなかに人材はいると思うんです。いろんな業種があれば、それだけ選択の幅も広がるし、当てはまる人も増える。今こうして積み重ねていくことで、10年20年後にもっと面白くなっていくんじゃないかなって」
満天の湯でも、地域の農家の方々とタイアップして地元の野菜を使ったメニューを開発し、期間限定で販売したり、入浴剤を子どもたちと一緒に開発したり、お風呂の仕事を体験してもらったりもしている。
「まあ、すごく先の話ではあるけれども」と森山さん。
「町がよくなれば、地域の人口も増えて、活気が出てくる。とどのつまり、うちの商売もよくなるわけですよ」
「入浴剤にしたって、お風呂でちゃんと使います。そうなれば、つくった子は親と入りに来るでしょう?値下げして呼ぶのではなくて、喜んで来てもらいたい。そういう販促をしていきたいんだよね」
今回募集する人は、株式会社モリヤマの社員として地域と企業の接点を見出し、イベントやコラボレーション企画などの形にしていくことになる。
天野さんが代表を務める団体「FM上星川」や商店街の各店舗のほか、地域の消防団や学校、上星川にクラブハウスを構えるJリーグ横浜FCとの関わりも深めていけるかもしれない。
また、隣町で同じくまちづくりに取り組み、スリッパ卓球大会を横浜市全域の商店街に広めた「チーム和田街」との連携も。
拠点はあくまでも上星川に置きながら、保土ケ谷区や横浜市全域の地域活性まで考えることができるし、実際にここでの取り組みを波及していくことだってありえる。
目の前のことに向き合いつつ、広い視野と長いスパンで関わる姿勢が大事だと思う。
具体的にはどんな仕事をすることになるのだろう。
そう投げかけると、満天の湯の統括支配人を務める久下沼さんが答えてくれた。
「三河屋のサブちゃんみたいな仕事だと思います」
「いわば地域の御用聞きですよね。常にあっちこっち飛び回って、ニーズを拾っていく。その人の振る舞いがモリヤマのブランドそのものになっていく仕事です」
ノルマを数字で設定し、それを目指すような仕事とは種類が異なる。
「この間雪が降ったときも、FM上星川のメンバーが集まってきて一気に商店街の雪かきをしたりとか」
雪はめったに降らないけれど、たとえばイベントを開くときにどれだけ主体的に動けるか。
災害が起きたときに、どう対処するのか。
あらかじめ決められた仕事はほとんどないからこそ、自分から動く姿勢が求められる。
「仕事と生活の境目は曖昧かもしれませんね。受け身の人は、何をやっていいかわからなくなると思います。裏を返せば何をやってもいいし、やった分だけ返ってくる。今いる社員全員にその道はひらけています」
とはいえ、地域貢献の仕事だけで1日が終わるわけではない。
およそ半分以上の時間は、満天の湯の運営支援や本社ビルの管理などといった、裏方の仕事も担うことになる。
施設内の清掃や、照明・消防設備の点検、草むしりに害虫駆除、帳票管理や避難訓練の段取りを行ったり、駐車場管理や不動産賃貸業の物件清掃まで。
これらの業務は、久下沼さんが自ら必要を感じて担当してきたものだそう。
「以前はぼくがほとんどひとりでやっていたことですし、毎日やるわけではない業務も含まれているので、それほど大変ではないんじゃないかな」
「まちづくりと言ったら言葉はきれいですが、見方によっては庶務全般ですよ。人に担がれたいと思うなら、できない仕事だと思います。”縁の下の力持ち”を楽しみながら自分のポジションをつくっていける、ポジティブで人懐こい人に来てほしいですね」
泥臭いこと、なかなか報われないなと感じることも、きっとある。
それでもきっと誰かが見ていてくれて、ふとした瞬間に「あなたがいてよかった」と言ってもらえる。じっくりと、うれしさを噛みしめるような仕事だと思います。
町の雰囲気が知りたいと思ったら、ぜひ一度訪ねてみてください。商店街や渓谷をぶらぶら歩いたあと、満天の湯に浸かりながら考えるのもいいですね。
(2018/2/1 取材 中川晃輔)