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イーハトーブにワインが灯る

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

『注文の多い料理店』や『銀河鉄道の夜』で知られる宮沢賢治。

その美しい世界観が育まれ、賢治も理想郷「イーハトーブ」と名付けた土地、岩手県・花巻市が今回の舞台です。

実は、ぶどうとワインの産地としても名高い花巻市。

その気候や土壌はフランス・ボルドーにも例えられるほどで、市内3つのワイナリーでは様々なワインが醸造され、なかには国内外のコンクールで受賞するワイナリーも。

ところが知名度はまだまだ低いのが現状。そこで今回は、ワインツーリズムを中心とした花巻産ワインのPRを担う人を募集します。

花巻市は、岩手県の中ほどに位置する人口9万5千人の街。

東京からは新幹線と在来線を乗り継いで2時間半ほど。訪れた4月中旬はちょうど桜が咲きはじめたころで、春風を感じながら駅を降りる。

まず訪れた市役所では、6次産業推進室の吉田さんが待ってくれていた。

「今回の舞台は、市内の大迫(おおはさま)という人口5千人ほどの小さな地区です。12年前に合併するまでは、ひとつの町でした」

江戸時代には、宿場町として栄えた大迫。

もともとぶどうよりも葉タバコ栽培が盛んだったものの、およそ75年前、台風による葉タバコの栽培難をきっかけにぶどう栽培を拡大。

ぶどう栽培で知られるフランス・ボルドー地方に、気候や石灰質の土壌が似ているのが決め手だった。

「当初からキャンベルアーリーやナイアガラといった生食用ぶどうをつくっています。ただ、なかには食味は良いけど出荷基準を満たさないものもある。その活用のため、およそ50年前にぶどう酒の会社を設立したんです」

当初は生食用ぶどうでワインづくりをはじめたものの、徐々にヨーロッパの醸造用品種を取り入れたことで改良が進んだ。

現在はワイナリーも3つを数え、なかでも『エーデルワイン』というワイナリーでは国内外数々のコンクールで入賞するまでに成長している。

「リースリング・リオンにメルロー、ツヴァイゲルトレーベといった本格的なワインから、濁りのあるどぶろくのようなワインまで。同じぶどう品種でも、ワイナリーごとにワインのつくりかたや風味がまったく違って、比較しながら楽しめますよ」

ただ、と吉田さん。

「日本ワインといえば、山梨に長野、新潟に北海道。花巻産ワインは本格的なものからデイリークラスまで幅広く揃っているんですけど、産地としてはあまり知られていなくて」

PRに注力する直接のきっかけとなったのは、約1年半前のこと。

花巻クラフトワイン・シードル特区といって、ワインやシードルを醸造しやすいエリアに認定されたことだった。

「新たにワイナリーをつくりたいという方も既にいらっしゃって。あらためて花巻をワインの街としてPRしていこうと、今回の募集に至りました」

今回募集する人は、地域おこし協力隊としてワインツーリズムを中心とした花巻産ワインをPRしていく。

ワインツーリズムはもともと山梨県ではじまった取り組みで、観光客がワイナリーやつくり手を巡りながらワインを味わい、さらにその土地を散策しながら食や文化・景観など、産地の魅力すべてを楽しむ観光だ。

実は、温泉地としても知られる花巻市。ワイナリーを訪れたあとに温泉に入ってもらうなど、地域の資源を掛け合わせて新しい花巻像を拡散していきたいという。

「そのために、まずはワイナリー、飲食店、酒販店、そして温泉など、資源を持つ方々との対話をしていただきたいです。ワインをきっかけとして、花巻の魅力を一緒に考えてもらいたいなと」

言うなれば、ディレクターのような役割。

最初はプレイヤーと顔合わせしつつ、ワインツーリズム先進地での研修も受けながらノウハウを獲得する。

「着任前に、役所側がプレイヤーへのお声がけや事前説明を行います。ご紹介や顔つなぎもするので、そこは安心してほしいです」

着任初年度は、具体的なツアー施策など、ワインツーリズムの取り組みを手伝う。同時にぶどう栽培やワイン醸造について知識を深め、地域のつながりをつくっていく。

そこで得られた経験をもとに、2年目以降につなげていきたい。

「ワインも含めた地域の魅力を楽しめるよう、様々なPR方法を一緒に考えたいです。1回盛り上がっておしまいではなく、生きたノウハウを培っていきたい」

ワイナリーや飲食店、温泉での会話や観光体験。

ワインを軸に花巻で生の体験をしてもらうことで、ブームに流されない根強い花巻産ワイン、ひいては街のファンを獲得できるかもしれない。

「現実はそう甘くないとも思うんです。ただこの取り組みをきっかけに、地域で稼ぐビジネスモデルを一緒につくってみたい」

お昼を挟んで、大迫地区を案内してもらうことに。

案内役を務めてくれたのは、地域おこし協力隊として大迫のぶどう農家をサポートする鈴木寛太さん。

皆から「カンタ」と呼ばれる、人懐こい笑顔がまぶしい26歳だ。

生まれも育ちも東京都。大学生のころ、震災支援ボランティアに参加したことをきっかけに、岩手県を訪れるようになった。

「街並みや人々に触れるうち、いつしか岩手が特別なものになっていて。僕には故郷がないので、もう一つの居場所を探していたのかもしれないです」

卒業後は神奈川でSEとして勤めるものの、いつかは岩手に、と考え続けていたそう。そのなかで、花巻市の協力隊募集を知る。

「ぶどうで地域を盛り上げるというミッションを見た瞬間、いいな、行きたいなって。友だちも似合っていると言ってくれたし、農業もやったことがなくて面白そうだなって」

「ただ、葛藤はありましたよ。でもこのまま東京にいても、自分はどうなっちゃうのかという気持ちもあって。給料が安くてもいいし、失敗したら戻ればいい。やってやるぜって思いで応募しました」

着任後は、ぶどう農家117戸を全戸訪問してデータを集めたり、「ぶどうつくり隊」という生産者支援ボランティアの調整役を勤めたりした。

さらに岩手大学連携のもと、大学公認サークル「岩手大学ぶどう部」をつくり、大学生を大迫に呼び込むなど精力的に活動している。

「今はぶどう愛がすごいです。もう生活の一部ですね。知れば知るほど、どんどん可愛く思えてきて」

「何より大迫のぶどうはすごい。手間はすごくかかるんですけど、本当に丁寧につくられているんです」

たとえば大迫では、水に弱く、雨に当たると粒が割れたり、病気にかかってしまうぶどうのために、雨よけのビニールをかけるのだそう。

「正直、すごく面倒な作業なんです。でもそのぶんいいぶどうがなって、いいワインができる。上等なぶどうでなければ、いいワインは絶対にできない。騙しがきかないものなんです」

「実際に一日中ぶどう畑にいると、すごい疲れるしへこたれる。けど農家さんは丁寧に手を抜かずにずっと向き合っていて。芸術品をつくる職人のような人たちなんです」

もうすぐ協力隊としての任期である3年を終える寛太さん。

これからは自分の畑を持ち、栽培者となる予定だという。

「ずっとぶどうづくりは自分に向いていないなって思っていたんです。お金もそんなに稼げるわけじゃないし、体力仕事で辛いし、土日も遊びに行けないし」

「でもここでぶどうに取り組むうちに、やっぱり栽培してわかる面白さがあるんじゃないかと。ずっとここにいられるかは、正直まだわかりません。ただ今は頑張る目標、居場所を見つけた気がしています」

新しく入る人にも、これまで寛太さんが培った経験や人脈を分けたいという。

「農家さんもワイナリーさんも自分の顔を覚えてくれて、何かあったときには助けてくれる関係性ができています。協力できるところは、どんどんしていきたいですね」

この日最後にお会いしたのは、同じく地域おこし協力隊の有原さん。

仕事内容は重ならないものの、働き方について詳しく教えてもらうことができた。

出身は盛岡市。これまでは都内のアトリエ系デザイン事務所で、建築やインテリアのデザイナーとして働いていた。

「当時、石巻工房というプロジェクトに担当者として関わって。被災地で首都圏の建築家やデザイナーたちがデザインを提供し、家具をつくる、売るといった活動をしている工房です」

まだ被災して間もない時期。ホームセンターなどで容易に手に入る材料だけでデザインせねばならなかった。

「東京だったら簡単に揃えられる材料がそもそもなかったり。でも地方って案外どこもそうだよなって、不便には思わなくて」

「むしろこんな限られた状況で面白いものをつくれたらもっとすごいなと楽しかったんです。もともと抱いていた地方に戻って仕事したいという気持ちが、さらに強くなりました」

そんなある日、偶然が重なり花巻市の都内説明会に参加する。

「戻りたいと懇親会で話していたら、役所の方がすごい親身に聞いてくれて。自分が地方で活動するためのスタートアップの3年だと思って花巻を使ってみなよ、と言ってくれたんですよね」

担当は、シティプロモーション。

協力隊としての仕事の枠をはみ出た仕事は、副業として営むデザイン事務所で受けているそう。

「シティプロモーションだから仕事はここまで、とは一切考えていなくて。打ち合わせや話し合いには、お金が出なくても自分からガンガンまざっていく」

「アイディアを出して終わることもあるし、お金が発生する仕事、たとえばデザインや設計であれば個人で受注していて。判断が難しい場合は役所の方に相談しています」

新しく入る人にも、副業を勧めたいという。

「たとえばPRの仕事をしてきた人だったら、これを機にローカルでのPRを極めていけばいいんです。かえってワインツーリズムしかやらないよりも、活動の幅も広がると思う」

「『PRだったらお手伝いできます』というスタンスだったら、相談や仕事はどんどん来るはずですし。何かのプロであればどんな職種だって大丈夫。活躍できると思いますよ」

転職というよりも、ひとつ生業を増やす感覚に近いかもしれない。

「のんびりした田舎暮らしに憧れていたら、正直厳しいかもしれないです。地域の集まりだってあるし、22時には真っ暗だし、知らない人も話しかけて来るし(笑)良くも悪くも、関係性は強いです」

有原さんも、仕事とプライベートの境目はほとんどないそう。

遊びに行こうと誘われた先で仕事の相談をされたり、かと思えば「彼女はできた?」と聞かれたり。

「もうすべてが地続きなので。全部が全部、仕事とも遊びとも言える働き方だと思います。自分はここで挑戦したいという思いがある人なら、きっと面白く働けるんじゃないかな」

「全部ひっくるめていいところだと思いますよ、花巻は」

まだ形になっていない取り組みです。いきなりの成功は難しいだろうし、様々な人と対話するなかで失敗することもあるかもしれません。

それでもここには、挑戦できる土壌と仲間がいる。

イーハトーブに新たな魅力を灯してくれる人を、待っています。

(2018/4/19 取材 遠藤真利奈)

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