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都市や場所と
対話する建築をつくる

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「イタリアは500年前にはすでに今の都市が完成されていた。だから、新しい建物をつくるときも、その場所との関係性の中で考える必要があるんです。そうやって世界遺産数世界一の国ができました。その場所性という感覚は、僕が日本で建築をする中でも大切にしていること」

建築家の新井秀成さんが、話しながら見せてくださったのは、付箋がたくさん挟まれ、年季の入った分厚い本。西洋建築の歴史について書かれたこの本は、ご自身のバイブルでもあるという。

新井さんは、イタリアでキャリアをスタートさせた建築家。今は日本に事務所を構え、住宅や店舗、ホテルなどの建築やマスタープランの設計に携わっています。

今も、現代建築の礎を作ったヨーロッパで学んだことを大切にしながら、建築や都市に向き合っている。

今回募集するのは、新井さんの事務所AE5 Partnersで、一緒に設計に携わる人。

少人数の事務所なので、ときには自分で考えたり調べたりしながら動くことも必要です。

その分、プロジェクトの全体に関わりながら仕事ができると思います。


東京・大門。

駅を出て、小さなビルの間を5分ほど歩いて行くと、AE5 Partnersの事務所のある建物に到着。階段を上がり、2階のドアをノックして中に入る。

ミーティングスペースと事務所を隔てる書棚には、雑誌から洋書まで建築に関する本がずらり。

代表の新井さんは、そのうちのいくつかを手に取りながら、話をしてくれた。

「僕も本では結構勉強したんですが、建築って、文字とか写真を見ているだけでは空間を感じられない。実際に現地を見てみようと思って、留学したんです」

新井さんは日本の大学で経済を学んだあと、ミラノへ。現地の大学を出て、磯崎新さんのイタリア事務所に勤務。その後、2009年にイタリアの仲間と一緒に、建築家として独立した。今でも、フィレンツェで活動するメンバーとは一緒に仕事をするパートナーシップが続いている。

日本で事務所を構えたのは、2010年。

「イタリアには学ぶべきものがたくさんあるんですが、財政的な理由もあって新しい建築の需要が少ないんです」

新井さんが日本で仕事を受けるクライアントには、シンガポールや香港など、海外の投資家も多い。潤沢な資本のもと、着実に実績を重ねてきた。

「たとえば、最近よく仕事をするのが、北海道のニセコです。この前も、ホテルの設計をしました」

ニセコは、冬場にスキー客で賑わうリゾート地。建物の多いエリアもあれば、何もない大自然が残っているところもある。

羊蹄山という大きな山の眺望も美しい。

ホテルの室内からニセコを感じられるように、大きな窓をしつらえた客室を設計した。

「比較的新しい街なので、“ニセコらしい建築”というスタイルはまだ確立されていません。これから建つ建物がニセコの街並みをつくっていくんだっていう責任も感じます」

「クライアントはあくまで投資として案件を捉えているので、建物ができることで生じる街への影響は、僕らがきちんと考えたい。景観を損ねるような建物が乱立しても、誰もうれしくないですよね」

クライアントが求める経済効果だけではなく、地域に暮らす人が誇りを持てるような街をつくりたい。

建築を考えるときにはいつも、その場所を深く理解することが大切だという新井さん。

ただ、日本では10年単位で建て替えが起こることも珍しくなく、周りの状況が変わると景観が変わってしまうこともしばしば。

「日本の人は建物に執着がなく、土地を重視する文化がある。そういう地域性がヒントになることもあります」

気候や地形だけでなく、そこで育まれた習慣や生活意識を汲みながら、人が過ごす空間を考えていく。

新井さんは、石川県のある町で母屋と同じ敷地に、離れを設計する仕事をしたときのことを話してくれた。

「北陸の人は、昔から大切な人を自分の家でしっかりお迎えしたいという奥ゆかしいおもてなしの文化を持っているんです。だから、住まいを考えるときにプライバシーを守ることを大事にする面があります」

ところが、設計することになった敷地にもともとある母屋の玄関は幹線道路から丸見え。だから、離れは母屋を守るような配置に、かつ、長方形ではなく少し“くの字”にすることで、母屋との間に対話が生まれるように計画された。

「この町の民家には、プライバシー確保のため近所との間に蔵を設けることが多い。だから、外観は現代的な表現ですが、プロポーションはその地域に根付いている蔵のような姿をしています」

母屋だけでなく、地域との間にも深い関係性を感じさせるような、場所性を重視する建築が完成した。

「建物は僕たち建築家だけのものではないので、そこに住む人や街のためになることを考えることが大切です。自分のスタイルを決めてしまうより、建物が建つその場所を理解してその都度答えを探すほうが、大事だと思う」

「大切なのは、場所と“対話する”建物をつくることです」

対話する?

わたしには調和という言葉がしっくりきました。

「すでにある建物の高さやかたちに合わせれば、調和は簡単につくれる。建築家の仕事は、色や形、素材がまったく違っても、共存できる景観をつくっていくことなんです」

石川県の古い民家が立ち並ぶ山間の街並みに、素材や表現が違っても共存する現代建築。

「もともとあるものと同じものをつくるだけなら建築家は必要ない。もちろん景観を壊すほど目立つものをつくっても意味がない。答えが一つではない場所や街と対話する建築のあり方を考えることって大事だと思います」

“対話”という感覚の理解に少し悩んでいると、新井さんはスペインやイタリアなど、いろんな国の写真を見せながら、説明をしてくれた。

長い時間をかけてその美しい景観をつくってきた街のこと。

西洋建築史の考え方が、現代の日本に必ずしも置き換えられるわけではないけれど、時が経っても変わらない普遍性を学び取ることはできる。

「大学で勉強しているときはみんな夢を持って、すごくクリエイティブなものづくりを目指しているんですけど、就職を前にすると、安定を求めて大手志向になりがちですよね」

新井さんはなぜ、それを選ばなかったんですか?

「一から十まで言われた通りにやるのって、つまらないなと思って。それに規模が大きすぎると、一人では掌握しきれないプロジェクトに関わることになる。自分のデザインしたドアノブが、どこの部屋のノブになるのかわからない。そんな仕事に違和感があったんです」

「僕が最初に働いたのはアトリエ系の事務所だったけど、給与も福利厚生もちゃんと考えてもらって、働きやすかった。自分がしてもらってうれしかったことは、うちで働く人にも同じようにしたいと思っています。少人数なので、多少泥臭い仕事もありますが」

会社をはじめた当初は予算の少ない依頼が多くて、自分たちのDIYでカバーすることもあったそう。

「天井の仕上げに、ちくわみたいな断熱材を一個一個切って、何千個も自分たちで張り付けたこともありました。今はそんなことないですけどね」

新井さんは懐かしそうに笑う。


そんな時代から、新井さんと一緒に働いているのが皆川さん。

出張で事務所を空けることも多い新井さんに代わって、メール・電話対応、お施主さんとの打ち合わせに、図面やCGの作成まで幅広く対応しているそう。

その仕事量に驚きながら、働く環境としてどうですか?と尋ねると、「楽しいですよ!」と迷いなく即答された。

実は、皆川さんはこの夏から1年間休職してメキシコへ留学する。今回入る人は、その仕事を引き継ぐことになる。

新井さんの信頼も大きい皆川さんの代わり、というとちょっと荷が重い気がする。

「僕が入ったときは、本当に新井さんと2人きりだったから、わからないことは自分で調べながらやってました。だけど、今は事務所のメンバーも増えたし、最初から一人でなんでもできる必要はないと思います。僕も留学するからノータッチというつもりはないし、メールなどでサポートしていくつもりです」

現在、社員として働いている皆川さんのほか、3人の非常勤のスタッフがいる。不動産や建設などの仕事をしながら、設計を学びたいという熱意で働いている人もいる。

皆川さんが、ここで働きはじめた当時はまだ大学院生だった。

「学生である僕も一緒にデザインに関わらせてもらって、本当にたくさん勉強させてもらいました」

最近は、皆川さん自身が建築家として依頼を受けることもあるそうだ。

「もともと、友人と一緒に、店舗の内装の仕事を受けたりすることはあったんですが、複合施設の設計のような大規模な案件は、やっぱり僕個人では受けられない。会社としてやらせてもらえるのは助かります」

「社内には面白いプロジェクトが色々あるし、自分でデザインや設計ができるようになりたいっていう人なら、一から覚えられると思います」

新井さんのパートナーでありつつ、自身も一人の建築家として歩みはじめた皆川さん。

空間づくりにどんな思いがありますか?

「居心地のいい空間って、光の陰影や移ろいのような、時間との関わりまで考えられていると思うんです。空気感とか素材感とか、ずっとそこにいたくなる、そんな環境をつくりたいなと思いますね」

建築家同士、それぞれの哲学があるからこそ、社内で意見が対立することはないのだろうか。

「意見が食い違っても『なるほど、そういうアイデアもあるんだ』って思えるから。いろいろな人と共同でやるからこそ、前に進める気がします」

どうしても決まらないときは、仕事を取ってきた人の意見を立てる。新井さんと皆川さんの間には、経験の長さに関わりなく対等に、そんな暗黙の了解があるそうだ。

「やっぱり、いい提案がしたいし、コンペに勝って先に進みたいという思いもある。ただ、小さい事務所でマンパワーには限りがあるから、必要に応じて土日に出勤して後で休みを取る、そういう裁量が自分でできたほうがいいかもしれません」

皆川さんの話を聞いていると、事務所の中でも頼りにされているのがわかる。

新しく入る人のこと、代表の新井さんはどう思っているんだろう。

「もちろん最初から、今の皆川と同じようにできるとは考えていません」

「手取り足取り、CADの使い方から教えるというのは難しいけど、ビギナーでも熟練者でも、建築が大好きで興味や意欲を持ってやってくれる人がいいですね」

新井さんが今後、意欲を傾けたいと思っているのは、美術館や図書館など公共建築の設計。

一般に、公共建築のコンペは10回に1回勝てばいいほうだと言われていて、マンパワーの限られる中でそれに向き合うのは、相当大変なことでもあるそう。

「たしかに大変なんだけど、諦めたらそこで終わりだしね」

「だからこそ、建築を勉強しているときに感じた情熱や目標を忘れない人と一緒に働きたいんです」


(2018/7/5 取材 高橋佑香子)

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