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襟を正して心地よく

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シャツの似合う人って、どんな人だろう。

清潔感のある雰囲気や、きちんとした印象。

シャツが似合うというイメージは、体型や年齢よりも、その人の振る舞いや人柄がつくっているのかもしれません。

吉祥寺にあるcoromo-cya-yaの店主、中臣美香さんと出会ってそんなことを感じました。

coromo-cya-yaは、衣服を扱うショップとカフェを一緒に楽しめる場所。

ショップではシャツを中心としたアイテムを、カフェでは紅茶とタルトをメインに提供しています。

今回は衣服の販売・仕入を担当するスタッフと、キッチンスタッフを募集します。


小さな雑貨屋やカフェなど、個性的なお店が通り沿いにいくつも並ぶ街。

吉祥寺駅から井の頭公園方面の改札を出て3分ほど。大型商業施設の裏手、小さなビルの2階に、coromo-cya-yaはある。

階段を上っていくと、ドアが2つ。ショップとカフェは中でつながっているものの、どちらか一方を楽しみたいお客さんにも入りやすいよう、入り口が選べる。

ショップの入り口から中に入ってみる。

「吉祥寺は、ファッションと生活が当たり前のように混じり合う街なんです。買い物かごを下げて、そのままふらっと寄ってくださる方もいて」

この場所を選んで良かった、そう話すのは店主の中臣美香さん。ストライプシャツがよく似合う。

coromo-cya-yaには、美香さんがデザイナーを務めるブランドのほか、セレクトして仕入れたシャツを中心としたアイテムが並ぶ。アクセサリーやボトムスも、シャツとのコーディネートを考えて選ばれたもの。

「シャツって、着ているだけで姿勢がよく見えるんです。Tシャツでリラックスする時間も必要ですけど、ちょっと背筋を伸ばして、気持ち良く過ごす時間も必要なんじゃないかな」

背筋を伸ばして気持ち良く。そんな思いはカフェにも共通している。

カフェスペースは全部で20席ほど。木のテーブルでゆっくり紅茶を楽しめる。

「専門店に行かなくても、気軽においしい紅茶が飲めるカフェをつくりたかったんです。紅茶にあわせるのは、スポンジの生ケーキよりも焼かれたタルトがいいと思って、メニューは自然に決まりました」

紅茶の香りに合う、優しい甘さ。

強烈に主張するものではないからこそ、それぞれを味わうために、ちょっと意識を研ぎ澄ます。

提供される紅茶のうつわには、コースターの代わりにリネンクロスを使う。白い布を汚さないように、テーブルの上の動作もちょっと丁寧になる。

ラフすぎないからこそ、落ち着く。きちんとしているからどこか心地いい。

「カフェって、忙しい生活の中の“とまり木”みたいなものだと思うんです。レストランより、いろんな時間の過ごし方ができると思うから」

カフェの席からは、ガラス越しにショップの様子が見える。カフェの待ち時間にショップを覗くこともできるそう。

衣服とカフェ。ひとつのお店でふたつのことをはじめることになったきっかけを尋ねる。

美香さんはもともと、アパレルでデザインアシスタントをしていたそう。

忙しい生活のなか、自分でつくったパンケーキを食べて、食べることの喜びを感じたことが、食への興味のはじまりだった。

「飲食の仕事をはじめるとき、もともとやっていた服づくりは辞めるつもりだったんです」

「一方で、食に関わる経験をしていくうちに、それが“つくる楽しさ”という意味で服づくりと共通しているとわかってきて。だから、線引きをしなくてもやれると思いました」

自分の頭の中にあったイメージが、形になる楽しさ。それをお客さんが喜んでくれること。

「形は違っても、大切にしていることは同じです。おいしいものを食べたときって、すぐに表情に表れる。でも衣服の場合はもっと時間が必要で、出会ったときの喜びより、生活に入っていったあとの実感のほうが大事だと思うんです」

たとえば、お客さんが買ったときよりもうれしそうな顔で「着心地いいわね」と、お店を訪ねてくれることもある。

買ったときのワクワク感を裏切りたくない。着たり洗ったりしても長く楽しめる服をつくりたい。

そのために美香さんは、シャツをつくるとき一度生地を洗ってから裁断をはじめる。そのことで、洗濯による製品の縮みを抑えられるからだ。

「こだわりと言うより、単純にやらなきゃいけないこと、ものづくりの基本に忠実にやってるだけだと思います。仕事のときだけじゃなく、日頃からその気持ちを大切にしたい」

「気分の浮き沈みとか生活リズムの乱れは誰でも経験すること。ただ、それが仕事に影響してしまうと、本当にお客さんが心地よく過ごせるお店はつくれないと思うんです」

身も心も清潔に整えて、お客さんを迎えたい。

美香さんの佇まいは、本当に“凛と”という言葉がよく似合う。


「私は、美香さんのつくるシャツを見たとき『省略されていない衣服』という印象を受けたんです」

そう話してくれたのは、販売スタッフの島田さん。coromo-cya-yaで働きはじめたのは3年前のこと。

「当時は服づくりを勉強していたから、襟、肩、バストなど、パーツのつくり方とかを見るのが面白くて。細かいところまで着る人のことを考えて、それでいてつくり手の思いも伝わる服だなあと思ったんです」

初めてお店を訪れたとき、忙しく混み合った店内で印象的だったのは、美香さんの丁寧な対応。

ものづくりと空間づくり、どちらにも共通する丁寧さは、最初に島田さんが感じた印象からずっと変わらない。

島田さんの着ているシャツは、働きはじめた頃にこのお店で購入したもの。店内に並ぶ新品と見比べながら、「随分、着倒しちゃった」と笑う。

「白いシャツってなんとなく制服みたいで、あんまり着ていなかったんです。普段から着るようになったのは、このお店で働いて、素敵なものは普段から身につけていたいなと思ったからなんです」

お客さんの中にも、普段はあまりシャツを着ないという人がいる。

「そんな人にも自信を持ってコミュニケーションができるのって、私たちも美香さんの思いや、つくる過程を知っているからだと思います。誰かの生活にシャツが入っていくきっかけになれるのは、うれしいです」

販売をメインに担当している島田さん。

ショップに立ちながら、カフェが混んできたらホールのサポートをする。お会計やドリンクをつくったりしながら、ショップの様子にも気を配る。

「お客さんとして来たときは、すごくゆったり時間が流れて、完成された空間のように思っていました。入ってみると、まだまだ小さいお店を立ち上げたばかりで、いろんな工夫をしているんだなと感じて」

小さなことから、自分も一緒につくっていく気持ちで働いてくれる人に出会えたら。島田さんはそう話す。


今年で5年目の節目を迎えるにあたり、この秋からcoromo-cya-yaは法人化する。

そんな会社の経営面を担っているのは、美香さんのパートナーである中臣幸次さん。

中臣さんは、アパレルのコンサルタントとして働く傍ら、美香さんと一緒にお店づくりに試行錯誤を続けてきた。

お店をはじめるとき、2人が話し合って決めたことは4つ。

基本を守ること。一手間かけること。丁寧にものづくりをすること。そして季節感を大切にすること。

たとえば、カフェの定番のりんごのタルト。りんごをそのままではなく、きび砂糖で一回ソテーしてから生地にのせる。その一手間で、りんごの味がよく馴染むようになる。

業界から見たら非効率なことも、簡単に省いてしまわず基本に忠実に。

「これは私たち2人が決めたことだし、お客さんと約束したことでもある。これを破るときは店を閉めるときだと思っています」


お客さんに誠実なお店であり続けるために、中臣さんの経営についての視点はシビアだ。

「カフェも衣服も、仕事にしたいと思っている人は多いかもしれません。ただ、夢見ているだけでは事業にならない。逆に事業の利益重視でトレンドに流されると、ナチュラルっぽいだけの偽物になってしまう」

吉祥寺に店を構えた5年の間にも、周りのカフェやショップの入れ替わりは多かった。

現実的に運営を続けていくためには、一人ひとりが成長しながら、事業を一緒につくっていく意識が必要だ。

「現実的な目標を据えて取り組める人なら、うちの店で勉強してもらえることはたくさんあると思います。法人化するのも、ちゃんと人を育てられる環境を整えたいと思ったからなんです」

ショップの担当になる人は、プロのコンサルタントである中臣さんが仕入れのアドバイスをしながら、一緒にバイヤーとしての仕事も覚えていく。

接客の経験のある人なら、その視点を活かすこともできるかもしれない。

「最初は予算書づくりですね。センスがあってもお金の使い方を知らないと利益につながらない。お客さまへの誠実さと、商売への貪欲さ。どちらが欠けてもダメなんです」

その感覚を身につけることは事業のためでもあり、個人のキャリアのためにもなる。

「今のお店の世界に共感するだけでなく、ゆくゆくは自分がお店のリーダーとして引っ張っていく。そんな主体的な意欲があれば、私たちもその人の成長を応援したいですね」

そんなふうに、お店を見守る中臣さんが、最後に、思い入れのある商品の話をしてくれた。

レギュラーシャツを基本とした美香さんのブランドには珍しい、ノースリーブにラウンドネックのシャツ。

中臣さんは以前から、季節や体型を問わずブランドの世界を体験してもらえる機会をつくりたいと、美香さんに提案し続けていた。

一方の美香さんは、長袖以外の形と美しいシャツのイメージが結びつかなかった。きちんと実感しないとつくれないと、まずは自分の生活で半袖やいろんな袖の形のシャツを試しはじめる。

ただ袖を伸び縮みさせるのではなく、その袖だからこそつくれる美しいシルエットがある。美香さんが心から納得できたことで、はじめてのノースリーブシャツは生まれた。

「3年間、私はひたすら待っていたんです。これでまた少し、ブランドの世界が広がった気がします」

基本に忠実に、実感を大切に。

そうやって少しずつ育まれてきたcoromo-cya-ya。メインブランドの“Houttuynia cordata“という名前は、ドクダミの花の学名から取ったもの。

春と夏の間の季節。不意に路傍に現れる白いドクダミの花。

知っているはずの花なのに、緑の深さや白い花の佇まいにハッとすることがある。

普段着のシャツにも新鮮な感動があるといい。ブランドを立ち上げたときに、2人はそんな話をしたそうだ。


少し意識を変えることで、日常の中に静かに息づく美意識を再確認できる。

そんな思いは、coromo-cya-yaという空間全体で共有されていると思いました。

(2018/6/5 取材 高橋佑香子)

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