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セッションする庭師
伝統をアップデートして
月に庭をつくる

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「楽しいとか、居心地がいいとか。そういう場所ってずっと残るじゃないですか。空気をつくるのが仕事です。植物との共存を伝えていける庭が、ええ庭なんじゃないですかね」

西海園芸は、長崎県波佐見町にある植木屋さん。地域の家庭の庭の剪定を請け負います。

それに加えて日本各地、そして世界で庭づくりをしてきました。

最近は山全体をデザインするようなプロジェクトにも取り組んでいます。

今回募集するのはデザイナーと庭師。そして、併設する生花店で販売を担う人。

植物への愛情があれば、経験は問いません。これまでまったく別の経験をしてきた人と、お互いに意見を交わしながら仕事をしていきたいそう。

セッションする庭人の話、よかったら読んでみてください。

 

羽田から長崎空港へは2時間弱。この日は台風が近づいていたこともあって、取材の前日、夕方の便で空港に到着した。

「せっかくやから、夕飯でも食べましょうよ」

そう誘ってくれたのは、西海園芸の造園部門をまとめている山口陽介さん。いつも弟子たちと行くという焼き鳥屋に連れて行ってもらう。

「おっちゃん、適当に盛り合わせで」

巻きたばこを吸いながら、波佐見のことを教えてくれる陽介さん。 お酒が進んで饒舌になってきたところで、庭師になるまでのことを聞いてみる。

「僕は洋服屋か美容師になりたかったんです。造園をやってた親父がまあ1回やってみいやって言うから、1週間くらいやって、やっぱ無理やったって言うのが親孝行かなと思って。18のとき、京都に修行に行きました」

すぐに辞めて古着屋ででも働こう。そう思っていた陽介さんにとって朝から晩までの力仕事は辛い以外のなにものでもなかった。

やる気もなかったから、植木に水をやることもサボっていたそうだ。

「今になれば水をやってるかやってないかって、土の跡や葉の感じなんかですぐわかるんですよ。でも当時の親方はなんにも言わなかった。そしたら1週間で植木が枯れて。めっちゃ怒られたんです」

「これは命なんだって。それまでは植物をモノとしてしか見ていなかったんですね。命を犠牲にして、命を教えてくれた。生きてるんだっていうのに気づかせてもらったんです」

そこからぐっと庭の世界にのめり込むことになる陽介さん。

京都の伝統的な庭をつくる技術や思考を、どんどん吸収していった。

「自然に人の感性が入ることで空間ができたり、いい空気が流れたりするのがおもしろくって。庭って自然を模写してるわけですよね。人が美しいと感じる自然のあり方は、どういうものなのかを考えるようになりました」

山で育つ木々を見たり、掛け軸に描かれた自然はどう切り取られているかを考えたり。落語で表現される自然の描写や、ときには着物のデザインに反映されている自然のあり方を観察する。

「木の成長を想像しながら、空間のバランスをとるように手を動かすんです。木そのものをつくれるわけじゃないから、見える角度とかを考えながら植えていく」

「人間よりも寿命の長い植物とか、何万光年もかけてつくられた石を組み合わせる。庭をつくるっていうより、空気をつくるっていう感じですね」

光がどう差し込むのか、水はどんな音で流れるのか。土の状態、植物の様子、それぞれの関係性で全体の空気は変わっていく。

空気をつくるために、ときには命を殺すことも大切だという。

「活かし合うためには、死ぬ命が大切なこともわかっておかんといけんのです。隣の木がよく生きるために、自分は落ち葉や木くずとなってそいつらの肥料になる。それが山の摂理なんです」

「木と会話しながら、弱っていたらはさみの回数を減らすこともある。今日も台風で倒れてる木が多いのって剪定していないからなんですよ。森は全体で支え合うけど、庭はそれができないから。枝を切ることで倒れることを防ぐこともできるんです」

京都で5年間修行した後、ガーデニングの本場を見ようとロンドンへ。

そこでは新しい発想で庭づくりをしているデザイナーやクリエイターたちとの出会いがあった。

伝統的に築かれてきたものを大切にしつつ、現代の感性にアップデートしていきたい。 そう考えて帰ってきた波佐見では、試行錯誤の日々が続いた。

たとえば庭木の剪定では、伸びた部分を均一に刈るのではなく、1本1本の木や庭の空気を読みながら整えていく。 手間がかかっても、よりいいと思う仕事をする。これまでとやり方を変えたことで、職人さんたちと意見が衝突することもあったそうだ。

 

それから14年が経ち、今では仕事内容もシフトして、1年以上先まで依頼が埋まっている状況なんだとか。

古文書を紐解きながら1200年の歴史ある寺院の庭をつくることもあれば、幼稚園の遊具の代わりに自然のなかで子どもたちが遊べる園庭をつくることも。仕事は多岐に渡るそうだ。

「庭を好きになってくれる人が増えたらいいと思ってるから、仕事は基本断りませんよ。来週からは1ヶ月、シンガポールとドイツに行きます。海外では大会にでることも増えましたね」

実は陽介さん、海外で開催される庭づくりのコンテストで何度も賞を受賞されている方。

海外の第一線で活躍するクリエイターと組んで作品をつくっていく。庭師というよりも、アーティストと呼ぶほうが似合うような気もする。

「僕はどこでも、波佐見の植木屋だって言うようにしてるんです。それで日本人がつくる庭が認められるようになれば、田舎の植木屋に夢を持ってもらえるんじゃないかと思うんですよ。俺の夢は月で枯山水の世界をつくることやね」

え、月ですか?

「何百年前には枯山水っていう日本人の究極をつくったわけですよね。今、日本人らしいスピリットを突き詰めていって、日本人の庭師ってすげーと思わせるには、月に砂紋を書くことだと思ってるんですよ」

ちょっと冗談にも聞こえるかもしれないけれど、すでにNASAの人と関係もあるという。

月に枯山水を考えるきっかけは、なんだったんですか。

「日本庭園っていう、何百年と培われてきた技法や技術、ルールも大切です。でもそれをアップデートしていく必要がある。名前すら、日本庭園と呼ばなくてもいいかもしれん。あたらしいものをつくっていきたいですね。そのほうが、楽しいじゃないですか」

「もう、こうすればいい庭ができるなっていうのは想像がつくようになってきてしまって。俺自身がまだまだあたらしい世界が見たい。だから全然違うことをやってきた人と一緒に庭をつくることで、あたらしい風を入れたい。ライバルが欲しいんですよ」

たとえばファッションや家具など、まったく違う視点を持った人と一緒に空間をつくるとどんな庭ができるのか。一緒に意見を交わしていく人と出会いたい。

基本的な考え方や技術は教えられるので、経験は問わないそうだ。

 

焼き鳥屋さんでゆっくり話を聞いたあと連れて行ってもらったのは、波佐見に帰ってきたころから通っているというジャズバー。

常連さんが集まって、代わるがわるセッションをしていく。

心地よさは空気がつくる。気持ちのいい場所は続く。

楽しそうに演奏をしているみなさんに混ぜてもらって、そんなことを考える。

「おいもしたか!」とサックスを手に取る陽介さん。

音がなかなかでなくて「なんでもすぐにやりたがる、アーティスト気質だからね」とみんなに笑われていた。

 

翌日も長崎は大雨。

どしゃぶりの中、倒れている木がないかを確認して回っていたのが、庭師の弟子として働いている松くん。

入社して日が浅いころ、陽介さんがつくった庭を見せてくれる機会があったそうだ。

「車で植木畑に向かっているときに、俺はこの山を見て育ったんだって話してくれて。ここの植生がわかるから、これを庭に取り入れてるんだって」

「たとえば石がここにあるから、木はそれをさけて生えてくる。それが自然で美しいと感じる。不自然に曲げるのは違和感になる。気づかないくらいが自然なんだって、ぼそっと言われて。そこからは、自然を見る目が変わりました」

植木の水やりから植栽、駐車場にコンクリートを流すことまで。西海園芸ではできることはなるべく、自分たちで行っている。

松くんのガタイの良さから、日々のどれだけ力仕事をしているのかが伝わってくる。

 

陽介さんは打ち合わせや各現場の確認などで飛び回っていて、同じ現場でずっと長い時間、一緒に作業ができるわけではない。

先日連れて行ってもらった京都出張で1ヶ月現場をともにしたことが、とても印象的だったと話してくれた。

「陽介さんが足袋をはいて作業着をきると、空気が変わるんです。できていく植栽を見て、ほかの職人さんが『これは他の人には真似できないぞ』って言っていて」

「2日前につくりはじめたのに、そこにずっと植わっていたかのような感じになるんです。自然なんですよね。1本1本の枝まで細かく見ていくことと、全体を見る力がすごいんです。陽介さんのつくる庭には、すべてに理由があるんですよ」

松くんのように弟子として働いているのは3人。ほかにも社員として働いているスタッフが17名ほどいるそうだ。

森田さんは設計や図面制作を担当している方。今回デザイナーとして入る人は、まずは森田さんからやり方を教えてもらうことになる。

「山口が表で、僕が裏方のような役割分担です。まあそれが、いいバランスなのかもしれませんね」

陽介さんと一緒に進めることもあれば、森田さんが担当して進めていく案件もある。どんな場合でも最初は、庭をつくりたい人の話をじっくり聞くところからはじまるそうだ。

「人によって心地よさは違うんです。図面だけでは同じものを想像するのはむずかしい。いろいろな庭の写真を見てもらったりして、イメージを共有していくことを大切にしています」

建築物とは違って木1本ごとの個性も違うから、できた空間を100%想像するのはむずかしい。イメージをお客さんと共有して進んでいくことが、その後もいい関係が続くコツなんだそう。

「自分の個性を出したり、こだわったりはしません。予算や条件のなかで、お客様が心地いいと感じる空間をつくっていくんです。いつまでも勉強ですね」

取材が終わったころには台風が近づいてきて、外では激しい雨が降っている。

松くんたちスタッフも、風で倒れてしまった木がないか電話をしたり、補修に行ったりと大忙しの様子。

水量が増した川はうねり狂っていて、今にも流されそうな木もちらほら。あちらこちらで水が溢れている。

その様子をみながら、なんだかワクワクした表情の陽介さん。

「自然ってすげえんだな」と、独り言のように出た言葉が印象的だった。

 

陽介さんたちと、冒険をしていくような仕事なんじゃないかな。そんなふうに感じました。

9月14日には陽介さんが東京にいらっしゃるタイミングでしごとバーを開催します。

働いてみたいと思った人も、陽介さんと飲みたい人も。ぜひどうぞ。

(2018/7/6 取材 中嶋希実)

しごとバー詳細はこちらから しごとバー「月で庭をつくらナイト」

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