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駅ビルってどんな場所だろう。急いでお弁当を買うこともあれば、雨が止むまでちょっとカフェに入ったり、人と待ち合わせてそのまま食事をしたり。
日常の通過点のようで、思い返すと自分の生活のいろんなシーンに関わっている。
地元の駅で改札を出たときに感じる安心感は、実は駅ビルの風景がつくっているのかもしれない。
今回は、そんな駅ビルを拠点に、食というコンテンツで新しいコミュニティづくりに取り組む人を募集します。具体的には、各店を統括する「フロアマネージャー」と、ビルを飛び出して、まちの人たちともイベントを企画する「イベントディレクター」、さらに飲食店で働く「オペレーションスタッフ」です。
舞台になるのは、リニューアルで生まれ変わる茨城県・土浦の駅ビル「PLAY atre」です。
レストランフロアを手がける株式会社バルニバービは、レストランなど飲食店の企画経営をしている会社。近年は全国の自治体と連携して、食を通じた地方創生のプロジェクトにも多く携わっています。
“駅ビルの飲食”と聞くと、土浦でなくてもできると思うかもしれませんが、今回のリニューアルは、駅ビル単体というより土浦のまちづくりに関わる事業。
食を通じて人とのつながりを考えていく。飲食の経験者もそうでない人にも発見の多い仕事だと思います。
東京・天王洲アイル。モノレールの駅から5分ほどのところに、バルニバービのレストランがあります。
土浦PLAY atreのレストランフロアは、2019年の1月にオープン予定なので、今回はここでプロジェクトリーダーの坂本さんに話を聞きました。
「入社してからは、長い間バルニバービが運営するレストランで働いていたんです。3年くらい前から、いろんな地方のプロジェクトに関わるようになって。今は“なんでも屋”みたいな感じです」
入社したのは14年前。最初はアルバイトとして働いた。
「社長が企業理念として掲げていた“なりたい自分になる”っていう言葉に惹かれました。お客さんに尽くすっていうことだけじゃなく、スタッフも目標を持って働くことを大切にしているんです」
ホールでお皿を一度に3枚運べるようになりたい。ワインの知識を身につけたい。
最初はサービスに関わる小さな目標から、坂本さんもスキルアップを目指してきた。そして、いつかは店長になりたいと思うように。
ところがその目標を達成すると同時に、挫折を味わうことになる。
「店長になってみると、何をしていいかわからなかった。結局、僕が目指していたのは役職だけだったんです。中身がないからお店も流行らなくて、売り上げも落ちてしまいました」
もう一度キッチンから出直し、本当に自分がやりたいことが何なのか、あらためて考える日々が続いた。
そんな中、レストランに来るお客さんの姿を見ていて、坂本さんはあることに気がつく。
誕生日を祝うカップル、久々の再会を喜ぶ友人たち、記念日に集まる家族…。
「大切な時間を過ごすときには、必ずと言っていいほど“食事”というコンテンツがついてきますよね。たとえば、結婚式のように。いいお店の役割って、おいしい食事を提供するだけじゃなくて、お客さんの期待以上の“シーン”を提供することなんじゃないかと思ったんです」
今度こそ自分のつくりたいお店を実現しようと、あらためて店長に挑戦した。
「店長として5年間働きました。うちの会社は、同じ名前のお店でも、店長によって中身が違うので、働き方もさまざまなんです。一人で何店舗も運営している人もいれば、ずっと同じ店を守っている人もいる。ただ、僕はどの働き方もピンとこなくて」
その思いを社長に相談したことがきっかけで、今の“食”を通じた地方創生プロジェクトに取り組むようになった。
「たとえば、東京でもっと地方の魅力を伝える場を設けようということで、虎ノ門ヒルズの前に“旅するスタンド”をつくったんです」
旅するスタンドはそれぞれ10席ほどある「屋台」のようなものが、路面に4つ並んでいて、それぞれ3か月ごとにいろいろな土地の食材や郷土料理をお酒と一緒に提供している。
「新潟県長岡市を特集したときは、有名な長岡の花火の尺玉を器にして、地元で採れた枝豆を出してみたらすごく好評でした。普段尺玉に触る機会もないし、枝豆もすごく美味しくて」
食を楽しむことが、土地の魅力を知るきっかけになる。
「その土地の名物より、朝市で安く売られている普通の野菜のほうが美味しいこともあります。地方の魅力って地元の人にとっては、当たり前すぎて気づかないものだったりするんですよね」
地域の人と話すなかで新しいレシピが生まれるなど、現地での出会いがヒントになることもある。
一方で、地方にはヒントだけでなく課題もある。
坂本さんたちのプロジェクトは、メニューやお店をつくって終わりではない。本来のミッションは、食というコンテンツを使って、地域を元気にすること。
今回PLAY atreができる土浦には、どんな課題があったんでしょうか。
「土浦は、もともとは茨城の中でも活気のある街だったんですが、つくばエクスプレスができてから、常磐線の利用者が減ってしまって。駅ビルも駅前も寂しくなっていました」
そこで今、周辺地域が一体となって取り組んでいるのが、霞ヶ浦を中心としたサイクリングルート「つくば霞ヶ浦りんりんロード」の整備。
土浦駅に直結する駅ビルであるPLAY atreは、レンタサイクル店などを含む、ひとつの観光拠点のような役割も担っている。
その飲食部門を担うことになったバルビバーニでは、土浦の女性がカウンターに立つスナックや、家族連れで楽しめるレストランなど5つのお店を出す予定。
そのほか、イベントスペースや地元の学生が自習に使えるカフェも設けられる。
「メインになるのは飲食店の運営ですが、目的は店舗の収益だけではなくて、街をどう盛り上げるかということ。僕たちのコンセプトは外から来るサイクリストも含めて、人が集まれるような“日本一の待合室”をつくることなんです」
待合室?
「いつもは通り過ぎるだけの駅だけど、今日はあそこでごはん食べて帰ろうかみたいな。溜まり場というか、関わりあう人の流れをつくるのが僕らの仕事だと思うんです」
「駅ビルをリニューアルするとなれば、最初は目新しさで人が集まるかもしれない。ただ、本当に土浦の人に必要とされるお店でなければ、1〜2年でまた同じ道をたどってしまう。街の課題を残したまま続けても、いいお店にはならないと思うんです」
とはいえ、人の流れを変えるのは簡単ではない。飲食店が担う課題としては、ちょっと重いような気もする。
「たしかに、都内のレストランと同じような仕事をするだけなら、わざわざ土浦に来る意味は薄いかもしれません。ただ、地方を元気にするというミッションがあるからこそ、僕らの中だけで完結しない、やりがいもあるはずです」
「たとえば、農家の人が『美味しい土浦の野菜を、もっと食べてほしい』と思うのと、僕らが『街を盛り上げたい』という気持ちの向かうところは一緒なんです。だから普通なら“仕入先”でまとめてしまう人たちとも、より深い関わり方ができる」
土浦のJAと一緒に地元の子どもたちの食育に取り組むプログラムも考えている。
今後はPLAY atreのイベントスペースを使って、つくった野菜を販売したり、地元の方達とのイベントなどに展開していく話もある。
「フロアマネージャーだからといって、カフェレストランの営業を見るだけじゃなくて、お客さんや地域の人とつながりをつくりながら、街に対していろんなきっかけを生み出してほしいですね」
今回のPLAY atreと同じように、バルニバービは以前にも駅ビルの再生に関わったことがある。
滋賀県・大津の駅に直結する“ザ・カレンダー”。土浦との共通点もあるので、ここですでにはじまっている取り組みが、仕事のヒントになるかもしれません。
「大津は県庁所在地で、京都からも電車で10分というアクセス条件。それにもかかわらず、駅前はシャッター商店街で寂れていました」
現在の大津市長が本格的に活性化事業をはじめることになり、バルニバービが駅ビルのリニューアルに関わることになった。
“ザ・カレンダー”には、レストランやカフェの他、カプセルホテルや観光案内所、卓球場やイベントスペースが併設されている。
「毎朝、地元のおじいちゃんが集まってラジオ体操をしています。最初はその後カフェを利用してくれたらと思っていたんですけど、本当にラジオ体操だけして帰っていきます(笑)。でも、それはそれでいいんじゃないかなと思って」
お茶を飲むカップル、卓球を楽しむ地元の人、出張でカプセルホテルを利用するビジネスマン。フリースペースでは、将棋大会などのイベントも開催されている。
今まで駅を通り過ぎるだけだった人たちが、ちょっと立ち止まり、同じ時間を共有できるようになった。
取り組みは少しずつ、街の中にも広がってきている。
「うちの広報スタッフが中心になって、観光案内所も運営しています。近隣の酒蔵の見学ツアーを企画したり、街全体のお祭りの企画・運営をしたり、駅以外の場所にもコンテンツを持ち出すことができるようになりました」
すごくめずらしいものでなくても、もともとそこにあるものを見直すことで、少しずつ人の流れが変わってきた。
土浦は、今ゼロからそれを生み出そうとしているところ。これから入る人はどんな働き方になるのでしょうか。
「マネジメントやイベントの企画も、入っていきなり一人でやるわけではありません。最初は僕らと一緒にやっていく。あとは同じアトレに入る自転車屋さんとか地元の人と一緒にイベントをやってもいいし。技術の面では、バルニバービのネットワークが役に立つと思います」
これから採用される人は、まずは都内の各レストランで2か月ほど研修を受ける。その期間で会社のシステムや、飲食のノウハウを覚えることができる。
「それぞれの店舗にシェフやパティシエ、ソムリエ、バリスタなどのスペシャリストがいます。彼らと一緒に仕事をした経験があると、実際に土浦で何かやってみたいと思ったときに、相談もしやすいし、研修はきっと自分のためになる」
バルニバービでは今後、土浦や大津のほかにも、食で地方創生に取り組めるチームをつくろうとしています。
今回採用する人はずっと土浦で働いてもいいし、きちんとした意志と考えがあれば、バルニバービの社員として、いろんな地方の事業に関わることもできるそう。
お腹を満たし、日常に人の輪をつくりだす。
食べる楽しさの基本に、立ち帰れる仕事かもしれません。
(2018/8/28 取材 高橋佑香子)