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取材でさまざまな土地を訪れるとき、その土地ならではの食べ物を味わうのが楽しみの一つです。地域が違うとこんなに食文化が違うんだ、と驚くこともしばしば。
その土地に根付いた食は、地域の文化や風土を知る、大切な要素の一つなのだと思います。
今回紹介する高知県にも、豊かな食文化があります。
鰹や柚子は特産品として全国に知られている。その一方、野菜やこんにゃくなどが寿司ダネになった“田舎寿司”や、サツマイモの天ぷら“いも天”、特産の生姜と砂糖を合わせたシロップ“冷やしあめ”など、ここでしか味わえない郷土料理も多い。

高知の人がお酒に強いのはよく知られている。宴会が好きで、観光名所の一つ“ひろめ市場”では、席が隣になれば知らない人とでも杯を交わすそう。
食文化の中にも、高知人のオープンな気質がうかがえます。

訪問するのは、高知市をはじめ、南国市に香美(かみ)市、香南(こうなん)市と、県の中心部に近いエリア。田舎すぎず都会すぎない、ちょうどいい高知暮らしが体験できると思います。
通常の移住体験ツアーと同様、空き家見学や先輩移住者との交流の時間もありながら、商店街やオーガニックマーケットの散策、酒蔵見学に郷土料理づくりなどの企画も。食と酒にフォーカスして、地域を知れるようなツアーになっています。
美味しい地酒や郷土料理と一緒に、高知県の人や地域の魅力を、まるごと味わうことができると思います。
羽田空港から高知龍馬空港までは、飛行機で1時間と少し。
最初の目的地である香美(かみ)市は、空港から車で20分ほどのところにある。
高知市からそう遠くないせいか、車通りも多く、市街地という印象が強い。
到着したのは、小さな工場のような建物。
ここで話を聞くのが、大阪出身の瀬戸口さん。”TOSACO(トサコ)”というブランド名で、クラフトビールの製造・販売を行なっている。

メーカーでは多くの人がものづくりに関わるから、「自分がこれをつくった」とは言いづらかった。
自分が本当につくりたいものが何かを考えたとき、辿りついたのがビールだったそう。
「僕、ビールが大好きなんですよ。それでいろいろ調べるうちに、自分でもつくってみたくなって、島根県のブルワリーで一から修行してビールづくりをはじめました」
その後高知に移住してきて、高知県のビジネスコンテストでも入賞。この「高知カンパーニュブルワリー」を設立した。
日々、数人のスタッフと一緒に3種類のビールを製造し、地元のお店やインターネットで販売している。
現在、高知県にあるクラフトビールはTOSACOだけで、ビールの醸造所もここ一軒。
高知県産のお米や山椒、柚子や文旦などの地元食材を加えたビールは、出荷すればすぐに売り切れてしまうほどの人気ぶりなんだとか。

「もともと妻のお兄さんが住んでいたんです。何度か高知を旅行しているうちに、自然の豊かさに惹かれて、高知に住みたいなと思いはじめたんです」
「香美市に決めたのは、移住相談会で偶然お会いした香美市の相談員の方が、すごく雰囲気のいい方で。吸い込まれるようにここに来ましたね」
いきなり知らない土地で起業するのは、簡単なことではないと思います。
「最初は一人で事業をはじめて、近所の人にも知られていなくて。話をする相手もほとんどいませんでした」
転機となったのは、瀬戸口さんの取り組みが高知新聞に取り上げられたこと。
「新聞を読んだ近所の人が『なにか手伝うことないか』って訪ねてきてくれたんです」
「そのころ、寝る間を惜しんで一人でラベル貼りをやっていたので、手伝ってもらいました。ありがたかったです。そのあとは、『お手伝いさん募集』って回覧板も回してくれたり、会社の看板もつくってくれたり。びっくりしましたね」

株式会社土佐山田ショッピングセンターの社長・石川さんも、瀬戸口さんのビールづくりを支えてきた一人。

「いろんな人が、瀬戸口くんの応援してやってくれって声かけてきてね。スーパーの中にTOSACOの売り場をつくって」
「入荷した日のうちに売り切れることもありますよ。高知県は発泡酒の全国消費量1位、ビールが3位。そんなまちに地元のクラフトビールができるっていう状況が素敵ですよね」
実は、瀬戸口さんの醸造所は、もともとバリューの食品加工所だった。
こんなふうに地域の理解や協力を得られたら、新しいことをはじめるのも心強い。
ツアーでは、バリューに立ち寄る時間もある。TOSACOのほか、地元の食材に触れることで、その土地ならではのリアルな食生活を知ることもできる。
「2000年くらいから、地元の生産者がつくった野菜や果物を委託販売するスペースを設けました。店全体の売上が上がったり下がったりするなかで、ここだけはずっと売り上げが伸びているんです」

「うちのスーパーは、創業56年です。以前は地域のものはほとんど置いていなくて、県外から安く仕入れた商品ばかりを売っていました」
あるとき、近隣の農家さんから、なぜ地元の牛乳を置かないのかと尋ねられた。
「それまでは、自分たちが飲んで育ってきた牛乳じゃなくて、ほかの県の安い牛乳を置いていた。その農家さんの意見を聞いて、試しに高知の牛乳を置いてみました。そうしたら、ほかの牛乳に比べて50円くらい高いのに、すごく売れはじめたんです」
その牛乳は、いまは一番の売れ筋商品になっている。価格でない部分に価値を見出して買う人がたくさんいることが、当時はすごく新鮮だったそう。
「たとえば地元のお豆腐屋さんとか、次の世代に残したい地域の食べもの。そんな商品がぽつぽつとあることで、ただ必要なものを調達するだけじゃない楽しさが出てくるんです」
自分たちのすぐそばで暮らす人たちが、大切につくったもの。
そんな実感を持って食材を選ぶことも、豊かな食生活の一部なのかもしれない。
「そういうものに、お客さん自身に気づいてもらいたい。そのための手の込んだポップだったりするわけです」

きっかけは、石川さんがサンフランシスコのスーパーマーケットに視察に行ったときに、店内に料理教室がある仕組みを目にしたこと。
「そのスーパーの人たちが掲げているのは、食を通してコミュニティをつくること。お店は、食べ物を売るだけの場じゃなくてコミュニティなんです。いろんな人がくる、公民館みたいなものなんですよ」
「地域の食文化とか、おばあちゃんがつくってきた伝統的な家庭料理。バリューが、そういうものを継承する場所になったらいいなと思っています」
地域の食材を売るスーパーマーケットが、コミュニティをつくりだす。
ここには、香美市の文化がたくさん詰まっているように感じた。
15分ほど車を走らせ、隣の香南(こうなん)市へ。
香南市では、「どろめ祭り」というお祭りが有名。毎年4月に浜辺で行われるこのお祭りのメインは、大杯飲み干し大会。男性は一升、女性は五合のお酒を一気に飲み干し、その速さと飲みっぷりを競うという。

六代目となる、高木一歩さんにお話を聞いた。

「家業を継ぐってはっきり決めたのは大学在学中でした。自分がお酒を飲めるようになってその面白さがわかったのもあるし、アルバイトでの経験もきっかけの一つです」
アルバイト先は、高知県のアンテナショップ内にあるレストラン。高知の食材やお酒を提供し、その魅力をお客さんに伝える経験をした。
「高知出身の方が訪れてくれることもあって、高知への懐かしさも感じました。それに、県外の人に高知のものをアピールすることも面白くて。うちの仕事は、高知県の米を加工して県外に売っていくという業態なので、通じるものがあるんです」
現社長は、お父さんの直之さん。代々続く家業を継ぐことに、プレッシャーもあるように思います。
「周囲が思っているほどではないんですよ。目の前のことをやらなきゃいけないって気持ちが先にあるので、あんまりプレッシャーを感じないのかもしれません」
目の前のこと?
「六代目というよりは、日本酒業界全体を若手として盛り上げなきゃいけない。そういう使命感に似た部分が先にあります。いずれは会社を背負って立つことにはなるんですけど、それよりも先に、今何ができるかを考えています」

「他の酒蔵の方と一緒に、県外にアピールすることもありますね。高知県の酒蔵は、それぞれ製造で出たデータを公開してシェアできるようにしてあるんです。いいところはそれぞれ盗んで、お互いのレベルを上げましょうって。めずらしいと思いますね」
普段仕事で関わるのは、年長者が圧倒的に多い。70代でも現役でお酒づくりをしている人もいる。
「50年以上前に同じ大学を出た先輩がいたりします(笑)自分はそんなにお酒は強くないんですけど、飲むのは好きなので、お酒の席でいろいろ話すこともあります。やっぱりお酒がつなげてくれる部分はありますね」
お酒を酌み交わしながらのコミュニケーションは、高知県ではよく見られること。必ずしも酒豪でなくても、みんなの気持ちがほぐれる場だからこそ話せることもある。
ツアーでは高木酒造の酒蔵を見学しながら、地酒も堪能できる。
一歩さんに、東京との暮らしぶりの違いを聞くのもいいと思う。
今回の取材では、お客さんとしてレストランで食事をしたり、お酒を飲むだけではわからない、つくり手の思いを感じることができました。
美味しいものを囲みながら、地元の人や移住者の人の話を聞く一泊二日。
高知の人や文化を知るには、もってこいのツアーだと思います。
(2018/07/27、08/02取材 増田早紀)