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「西洋からきたチョコレートを日本の感性で捉え直す。そうしたら、チョコレートは新しい文化になると僕は直感的に思ったんです」Minimalの代表、山下さんの言葉です。
ワインやビール、コーヒー…クラフトフードのムーブメントは今や日本中に広がっています。
食べものは生活を豊かにする上で欠かせない要素だから、大切に選んでいるという人もきっと多いはず。
そんななか、日本のBean to Barチョコレートの先駆けとして2014年に生まれたのが、「Minimal -Bean to Bar Chocolate-」というブランドです。

今回募集する職種は、販売職や製造職などさまざま。どの職種も異業種からの転職大歓迎とのこと。なぜなら、この会社の人たちもまったく知らない世界に飛び込み、チョコレートづくりをスタートしたから。
一緒に新しいカルチャーをつくっていく人を探しています。
東京に4店舗をかまえるMinimal。オープン前の富ヶ谷本店を訪ねました。
「最近は店に立つことも減ってきました。僕よりみんなのほうがしっかりしているので、邪魔だって言われちゃって(笑)」

どうしてチョコレートをつくることになったのですか?
「当時僕は20代。これから30、40と働きざかりを迎えるときに、この国の人間として何ができるだろうと考えていたんです」
日本にはどんな資源があるだろうと考えると、頭に浮かんだのは日本人の“きめ細やかな感性”だった。
たとえば、人の話を頷きながら聞くような繊細な気遣い。料理では食材の味を旬ごとに味わう。
たしかに、日本特有のものかもしれないですね。
「外国から観光客を呼んでくるだけじゃなくて、この国の良さをちゃんと活かしながら外貨を得る。そうして日本に雇用を産み出せたらと考えていたときに、出会ったのがチョコレートだったんです」
きっかけは、現Minimal製造責任者がつくったクラフトチョコレート。今まで感じたことのない美味しさに、衝撃を受けた。
チョコレートのマーケットのうち、約70%は欧米で消費される。日本人の感性でつくったチョコレートが世界に受け入れられたら、ビジネスとしてもきちんと成り立つはずだ。

その後、8月に帰国し12月には富ヶ谷店をオープンした。その間、わずか4ヶ月。
日本人の感性でチョコレートを捉え直し、唯一無二のチョコレートをつくる。そのために、カカオ豆の選定から生産、販売まで、すべての工程にこだわりがあるとのこと。
まずは、豆。
Minimalのチョコレートは、産地ごとに味も香りもまったく違う。たとえばベトナムというチョコレートに使われている豆は酸味が強く、お菓子づくりでは倦厭されるものだった。
「僕らはこの酸を短所ではなく、ベトナムのカカオの特徴が出ていて面白いという価値観に変えたかったんです」
だから毎年現地に行き、農家さんと土地の味を出したカカオをつくる方法を考える。

次に、チョコレートの製造。
シンプルにカカオと砂糖だけ。素材の味を最大限に引き出すため、余分なものを引き算していった最小限の材料だ。
「実は使っている機械の半分くらいが製菓用ではないんです。気持ち良く感じる歯触りとか、油っぽくなく香り高い味わいを実現するために、試行錯誤しながら機械を選んでいます」
チョコレートの独特な形も、少量ずつ食べたり、仲間とシェアしたりできるよう考えたもの。パッケージにも生産者の情報や焙煎温度を記載し、興味を持つきっかけをデザインしている。

「僕らが届けるのは、チョコレート体験。モノとして消費するんじゃなくて、新しい楽しみ方を伝えたいんです」
そこで、チョコレートをドレッシングに使うなど、これまでにない新しいレシピを公開。最近では、逆にお客さんにレシピを教えられることも多いのだとか。
こだわりのつまったMinimal。オープン後はメディアにも紹介され、生産が追いつかないくらいお客さんが押し寄せた。ヨーロッパで開かれた品評会では日本ブランドとして初の金賞を受賞するなど、世界でも評価されている。
ここまで聞くと順風満帆なようだけど、「失敗ばかりだった」と山下さんは振り返る。
豆を買おうとして産地で騙されたこともある。小売業も、メーカーも、店舗のデザインやディレクションも何一つ経験がなかった。
「このお店の場所を決めるとき、1週間すぐそばの歩道橋に立ってました。どんな人が、どれくらい通るのか調べたくて。それが正しい方法か分からなかったけれど、自分の目で見て考えたこと以上のものはないなと思ったから」
山下さんは、素人だからできないとは考えない。自分の頭をフルに使い、仲間と知恵を出し合って、それでもわからないことは専門家を訪ねる。
大切なのは、失敗を恐れず挑戦すること。
「僕らが適正な価格を払えばよりおもしろい豆が手に入る。共感してくださったお客様には新しいチョコレート体験をしてもらえて、いただいたお金でまた一緒にいい豆をつくる」

そんな山下さんと一緒に働いているのはどんな人たちなんだろう。
お話を聞いたのは、スタッフの荻野さんです。

Minimalを知ったのは、大手アパレルショップで働いていたときのこと。
「僕はもともと、将来は自分でカフェをやりたいという思いがありました。だから小さな規模で、本当にいいものを扱っているお店で経験を積みたいと思ったんです」
友人の紹介で山下さんに会いにいくと、飛込みにもかかわらず、じっくり2時間も話をしてくれた。この人と一緒に働きたいと心から思ったそう。
最初は、富ヶ谷店の店長として働きはじめた荻野さん。
Minimalでは、販売だけでなく、各店舗で毎週のようにイベントが行われています。
たとえば、参加者と一緒に豆からチョコレートをつくるワークショップや、コーヒーやお酒とのペアリングイベント。

荻野さんも、あるときオリジナルの朝食をつくるイベントを企画。ところが、準備万端で迎えた当日、集まったのはたったの2人だった。
「どうして…としょんぼりしてしまって。でも山下をはじめスタッフは誰も失敗を責めることなく、どう改善していくかを一緒に考えて、アドバイスしてくれたんです」
イベントは自由参加で、HPにも完成品の写真を載せていただけ。少し工夫して、場所の雰囲気がわかる写真や、インスタ映えする写真が撮れるようなコーナーもあると伝えられたら。
「具体的にイベントのイメージができれば、参加する方のハードルも下がる。相手に伝えるということを、すごく学びました。次のイベントは、その失敗を生かして盛況でした」
店舗での経験を経て、現在は白金にあるMinimalの工房でマネージャーとして働いている。チョコレートをつくることも初めての体験だった。
「チョコレートづくりはとてもきめ細かい作業なんです。たとえば型にチョコレートを落とし込むときに入り込んだ空気を抜きます。この作業にもコツがいるんです」

もう一つ、製造を担当する人がきっと苦労するのが、“味”の違いを感じ分けること。
チョコレートの生地は、豆の収穫時期や発酵状況、その日の温度などによって微妙に味が変わる。一口に「ベリー系の酸味」と言っても、「丸みを帯びた酸味」「熟したベリーの酸味」など、さまざまな味があるのだそう。
「僕も最初は、違いがあることはわかるものの、具体的に表現できなかった。他社のチョコレートを食べたり、味覚のトレーニングは日々意識してやっています。知れば知るほど、チョコレートは奥が深いです」
もちろんチームでいいものをつくっていこうという姿勢は販売も製造も変わらない。気になったことは、すぐ伝え合うようにしているそう。
製造が終わったあとには、Minimalのチョコレートを使って思い思いのお菓子をつくってみることもあるのだとか。
「製造未経験の人も、みんな自分で新しいものをつくっていきたいという気概のある人ばかりなので、刺激を受けてとても楽しいですよ」と荻野さんは話してくれた。
こんなふうに丁寧につくられたチョコレートを届ける販売の仕事も、普通の販売職とは違っているよう。
「感覚としては、売るというよりもお客様と一緒に選んでいる感じです。お一人お一人に合わせた提案をするという意味では、バリスタの仕事とも近いかな」
そう話すのは、銀座店で店長を務める亀井さん。ノルウェーのコーヒーショップJavaで日本人初のバリスタとして勤務していた。

よくお店を訪れる常連さんとのエピソードを話してくれた。
「初めて来店されたときに、コーヒーを注文されて。お店では私が好きな珍しい種類の豆でコーヒーを出していたので、その豆をおすすめしたんです」
その方は、その後も定期的に通ってくれるようになった。いつも、旅先で見つけた美味しい豆を携えて。
「この前は、千葉で買ってきたコーヒー豆に合うチョコレートを一緒に選んだんです。あの人に聞けばいいもの勧めてくれるっていう、信頼関係を築けているのがすごく楽しいですね」

そのためにも、 Minimalでは出勤したら、毎日試食をしているそう。感じた味の変化や、店頭での売れ筋情報も、常に製造側に共有している。
創業当時から続く月に1回の勉強会では、すべてのスタッフが集まる。産地の様子も知ることができるから、チョコレートに込められている想いも見失うことなく働けそうです。

(2018/1/29 取材、2018/11/13 再掲載 並木仁美)