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有機農業でつなぐ
1000人のまちの未来

島根県の西部、山間にある弥栄(やさか)町。

人口はおよそ1000人。コンビニエンスストアも、信号機もないまちです。

静かな山里ですが、ここにはたしかな熱量を持った産業があります。それは、有機農業です。

農薬や化学肥料に頼らず、自然の循環のなかで作物を育てる。

弥栄町は20年以上前からこの農法に取り組み、地域のなかでも有数のオーガニックの産地として知られています。

今回募集するのは、このまちで有機農業を中心とした「食の産業」に携わる人。

ひとつの農家だけで働くのではなく、複数の事業所を行き来しながら働くマルチワーカーという働き方です。

農業の経験がない人も大歓迎。作物をつくるだけでなく、ゆくゆくは加工や販売にも一緒に取り組む人を求めています。

 

萩・石見空港から車で1時間ほど。

山道を抜けて町に入ると、稲刈りを終えた田んぼが連なる景色のなかに、ビニールハウスや民家が少しずつ見えてきた。

到着したのは、マルチワーカーの受け入れ先の一つである小松ファーム。

迎えてくれた浜田市・弥栄支所職員の三浦さんが、まちの状況について教えてくれた。

「町の人口は、年間に自然減も含めて40人くらいが減っていくペースです。このままではいけないという危機感もあって、外から人を迎え入れて、産業を回していかないといけない。その核になるのが、弥栄が長年積み重ねてきた有機農業なんです」

近年はオーガニック先進地としても注目を集める弥栄町。

生産の現場だけでなく、加工や販売でも、オーガニックの取り組みが始まっている。

「弥栄のおばちゃんたちの手作り味噌から学んで味噌加工を始めたり、有機の材料でドブロクづくりをやってみようと動き出したり。有機農業と昔ながらの農村文化がうまくマッチしていけばと思います」

生産から食卓まで、一貫して関われるのが弥栄の強み。この流れをもっと太くしていきたい。

一方で、人口が減るにつれ、産業を支える働き手の確保が課題になる。

行政と地域の事業者が協力しつつ、海士町などまわりの地域の事例も学びながら、数年前から仕組みをつくり始めた。

そして導入されたのが、季節や繁忙期に合わせて複数の仕事を掛け持ちする「マルチワーク」という仕組み。

その受け皿となるのが、「弥栄町複業協同組合」だ。

 

事務局長の宮原さんは、複業協同組合の立ち上げに合わせて弥栄町に移り住んだひとり。

外から来た人と、地域にいる人をつなぐ調整役として、バックオフィス業務を一手に担っている。

今回募集するマルチワーカーには、どんなことが求められるんでしょうか。

「基本的にはまず、農作業で人手が足りていない部分を支えていただくことになります。だんだんと余裕が出てきたら、新しい商品開発や販路の開拓にも取り組んでもらいたくて」

いろいろな現場に行くことになるマルチワーカー。

いわゆる川上から川下まで、さまざまな仕事を経験するなかで培われる視点が期待されている。

「たとえばお米づくり一つとっても、田んぼの草刈もやるし、収穫したものを梱包したり、米粉に加工したり、デパートに出向いてビラを配ったり。イベントに出張して、営業活動をすることもあります」

現場を知るからこそ、お客さんに伝えられる言葉の深さが変わる。そしてお客さんの声を直接聞くことで、栽培や収穫の現場で気づくことが増えていく。

「いろんな事業所を渡り歩いていくなかで、『B事業所のやり方がいいから、A事業所でも取り入れられるんじゃないか』みたいなアイデアもきっと出てくる。マルチで働くからこそのメリットを最大化できる人になってほしいですね」

もちろん、未経験から始める場合、最初は農作業が中心になる。現在の受け入れ先は4つで、これから有機農業を軸にさらに増やしていく予定だそう。

「制度上はずっとマルチワーカーでいることもできるんですけど、3年くらいをめどに、受け入れ先に直接就職したり、独立して起業したりするのもいいと思います。弥栄町にいてもらえたらもちろん嬉しいですが、たとえば地元に戻って農業をやりたいという人もいるかもしれませんね」

単身でも家族連れでも受け入れられるように、シェアハウスや社宅を整えたり、この1年で準備を進めてきた。

最低限、車の運転はできないと難しいけれど、農業に関しては、これといったスキルがない状態でもいい。

 

マルチワーカーの受け入れ先の一つである小松ファームを経営するのが、複業協同組合の代表理事の小松原さん。

「露地栽培もありますが、ビニールハウスを建てて、葉物野菜を中心に育てています。今の季節だと小松菜、春菊、ルッコラ…あとダイコンとにんじんも。もともと有機でやっていた先輩から習って、自然と有機で始めましたね」

地元の人はもちろん、インターンで弥栄町に来た人や、海外から来た研修生など、15人ほどが一緒に働いている。

生まれ育ちも弥栄町で、ずっとここで暮らしてきたという小松原さん。以前は土木系の営業職として働いていたそう。「実は農業、好きじゃないんです」と言われて驚いた。

好きじゃない農業を、どうして始めようと思ったんですか。

「ぼくは都会に全然憧れがなくて。やっぱり地元が好きなので、『地元を何とかしたい』っていう思いで農業を始めました。特に弥栄の…そうですね、究極言えば、空気が好きなんですよね」

弥栄の空気。

「空気感というか、空気ですね。春の青々と茂った草や、秋の稲刈りの始まる匂い。人がいるから、生活の匂いもある。でも田んぼが荒れてくると、そういうものも感じなくなる。それが、なんか寂しいなって」

社会人になって地域の運営に関わるようになり、お祭りなどの行事で担い手不足に気づくようになった。

地域のためにできることをしたい。だけど一人でやるんじゃなくて、いろんな人を巻き込みたい。そう思ったときに、農業という方法に行きついた。

「農業って肉体的にきついこともあるけど、それをみんなでやることによって、楽しさに変えられる。この方法なら土地も守れるし、豊作を願うお祭りとのつながりもあるんです」

弥栄町は「石見(いわみ)神楽」で有名な石見地方のまち。秋になると毎週のように各集落のお祭りと神楽の奉納があるそうで、「昨日観た神楽がとってもよくて、まだ余韻が抜けないなあ」と笑う小松原さん。

「なんとか、1000人のまちを維持したい。もっと少なくなると、集落ごとの祭りや神楽が維持できなくなっていきます」

「ただ、人口を大幅に増やしたいわけではなくて。まち全体のフットワークも今ぐらいが動きやすくて、新しいチャレンジもしやすいんですよね」

農業の担い手を受け入れる機運は高まっていて、30代、40代の農業の担い手も、少しずつ増えている。

 

1人目のマルチワーカーとして働き始めた永浦さんも、農業の取り組みと弥栄町の暮らしに魅力を感じて、移住を決めた。

「もともと農業や田舎に興味があるとか、ルーツがあるとかは全然なくて。社会人2年目で映像関係の仕事をやめたときに、自然が近いところに行きたいって思ったんです」

短期インターンの予定で初めて弥栄町にやってきたのは、雪深い2月。

「地元の埼玉は、雪が積もることは全然ないので、びっくりしました。日々、やったことがないことばかりで。農業もまったくの未経験だったので、朝のビニールハウスってこんなにきれいなんだとか、土触るのってこんな感じなんだとか、すごく新鮮でした」

滞在中に複業協同組合立ち上げの話を聞き、最初のマルチワーカーとして参画することが決まった。

「働くなかで、農業にも、マルチワークっていう仕事自体にも興味が出てきたんです。ずっとひとつの場所にいるだけじゃなくて、いろいろできたら楽しいかなって」

「消費者の方がいて、今までの仕事よりも身近に誰かの役に立っている感覚がある。農業ってそれがいいなと思います。未経験でも入りやすい受け皿があって、そこにいさせてくれるっていうのもありがたいですね」

腰をすえて働き始めた今は、自分の成長を感じられると同時に、地域にお返しをしたいという気持ちも強くなってきたそう。

弥栄町の暮らしの、どんなところが好きですか。

「よくご近所の方が、『これ食べんさい』って野菜を持ってきてくれるんです。食べ物を人にあげるって都会だったら全然ないじゃないですか。これあの子にあげようって思ってくれる人が存在しているって、すごく温かいなって思うんですよ」

しめ縄づくりなど、地域の伝統行事にも一緒に参加する。外から来た人が「やってみたいな」という気持ちでその場にいることで、地域の人たちもちょっと元気になるそうだ。

小松ファームでも、永浦さんが発案した収穫体験とピザづくりをセットにした企画のアイデアをあたためている。

永浦さんや、これまで短期で地域の外からやってきた人たちを受け入れながら、一緒にまちの変化をつくってきた弥栄町にとって、ここからが新たな正念場。

足りない人手を埋めるためではなくて、新しい視点や刺激をもたらし、未来を見据えて仕掛けていける人をまちは望んでいる。

 

「0.5+0.5=1以上になる」ことを目指したいと、宮原さんは言う。

生産・加工・販売。分断されがちなそれぞれの現場を、ひとりの人間がつなぐことで生まれる気づき。それを一緒に育み、形にしていくためにチームがある。

「このまちが変わらないために、変わり続けていかないといけない。その人自身の成長はもちろん、弥栄町の産業をブラッシュアップしたり、アップデートするような役割が、マルチワーカーと複業協同組合にはあると思うんです」

仕事はもちろん、日常の暮らしのなかでも、自分自身の興味や地域の人との会話から、やりたいこと・できることのアイデアを膨らませて生きていくことができそう。それを受け入れる土壌が、弥栄にはある。

インタビュー後半になると、永浦さんや宮原さんが参加するバンド「タンボマスター」の話で盛り上がる。地元の人と外から来た人が一緒に始めたバンド活動。もうすぐ開催される音楽祭が、初めての本番なのだそう。

小松原さんも三浦さんも、周りの人も誘って観にいくのを楽しみにしているそうだ。ついつい一緒に観てみたい気持ちにかられて、ポスターの写真を撮ってみた。

ストイックな一直線の成長とも違う、温かなまちの空気のなかで育んでいく、地域が生き残るための挑戦の在り方。

模索し、磨いていく現場に、飛び込んでみませんか。

(2025/11/17 取材 瀬戸麻由)

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