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おじいちゃんおばあちゃんが
最期までかっこよく
あるために

「入院していたおばあちゃんに、『お食事です。食べてください』って言ったら、『食べてじゃなくて召し上がってください、のほうがいいわね』って言われたことがあるんです」

助産師として病院で働いた経験のある方が、取材の中でそんな話をしてくれました。

耳が遠かったり、体が不自由だったりすると、つい大きな声で子供に話すような口調になってしまうこともあるけど、本当は人生の大先輩。

「高齢者」という画一的な捉え方では、彼らからいろんなことを教わる機会を逃しているような気がします。

自分もいつかは当事者になる介護や福祉のことを、ちょっと立ち止まって考えてみたい。

そんなふうに感じている人に、知ってほしい取り組みがあります。

岡山県の西粟倉村で、地域福祉を研究するローカルライフラボ福祉コースの研究生。

2019年の4月から、原則1年間。村の施設や地域の人と関わりながら、これからの福祉に必要なことを考えていくプログラムです。

大きな組織や、決められた職務の中では難しいことも、人口1500人という小さな村だからこそ、試せることも多いと思います。



岡山県・西粟倉村。

岡山県といっても、兵庫と鳥取の県境。車なら大阪から2時間程度。

鉄道なら、新幹線の姫路駅からJR在来線と智頭急行線を乗り継いで1時間ほど。「あわくら温泉」という駅で降りて川沿いを10分ほど歩くと、ピンク色の外壁が目印の旧影石小学校が見えてきた。

平成11年に廃校になったこの小学校の校舎は、帽子屋や酒屋、食堂など、この村で起業した人たちの仕事場として使われている。

この小さな村に集まる起業家たちのハブであり、今回の研究をサポートするエーゼロ株式会社の事務所も、この小学校の中にある。

待っていてくれたのは、担当の高橋さん。東京からこの村に移り住んだ移住者のひとりだ。

「ローカルライフラボ福祉コースでは、決まったカリキュラムはありません。“自分×地域福祉”というテーマのなかで、連携施設で研修を受けたりしながら、事業所での実践や地域の中でのヒアリングなど、それぞれの計画に沿って活動を進めてもらいます」

村の中だけではなく、ほかの地域の事業所で研修や視察を行ったり。研究生という立場を生かした活動をしていくこともできる。

選択肢が充実しているだけに、本気で取り組んでいたら課題を見つけるだけでも1年くらいはかかってしまいそう。

「1年の期間を修了して、村で自分の活動を続けることができます。その間村の事業所で介護の経験を積めば、国家資格も取得しやすくなりますよ」

もし、独立して介護サービスづくりに取り組んでいく気になれば、ローカルベンチャースクールを通じて起業を目指していくこともできる。

「必ずしも大きなテーマの研究じゃなくても大丈夫です。西粟倉で働いてみたいという人でもいいし、未経験の人が福祉に出会う場になってもいい。福祉の現場を経験してきた人なら、今までの枠組みでは実践できなかった気づきをかたちにしてみるとか」

「まずは、あのおじいちゃんの様子を見に行こうくらいの活動でもいいと思うんです。今まで気になっていたことをやってみることが、福祉を考えるきっかけになる気がして」



今の西粟倉村の福祉について知るために、エーゼロの事務所から車で5分ほどのところにある村役場にやってきた。

話をしてくれたのは保健福祉課の井上さん。

「単純に人手不足でもあるので、介護福祉士やケアマネ、看護師、理学療法士、作業療法士の方が興味をもってくれたらすごくうれしいです」

「それに、介護保険料の問題は村の財政規模から見ても深刻で。村には社会福祉協議会が運営する訪問介護と通所介護、小規模多機能型居宅介護しかないので、在宅生活を支えることができるサービスが提供できているとはいえません。だから、村外の施設に入所する方が増えています」

高齢者自身も地域と切り離されてしまうし、村の外にお金が出ていく一方になる。

「現在、増加傾向にある西粟倉村の高齢者人口は2025年の38.1%をピークに下がっていくと推測されています。それは、国の数十年後を歩んでいるようなものなんです」

今、西粟倉で福祉の流れを変えることができれば、日本の将来、つまり自分たちが高齢になるころの状況を変えることができるかもしれない。

そんな未来のモデルともいえるこの村の課題は、在宅生活を支えるための事業所の機能を生かしきれていないこと。

「今までは、通所介護でまったり安全に過ごしていただければいいと考えていました。ただ、それだけでは身体機能が低下するばかり。介護保険を使いながら要介護度が悪化するって、本末転倒ですよね」

「本当は、もっと高齢者が望む暮らしにつながる介護サービスを地域につくりたいんです」

病気や加齢によって低下した生活機能を補うためのケアだけでなく、自分でできることを増やすためのリハビリ的なアプローチも積極的に行えれば、自宅での生活を取り戻せる人を増やしていける。

介護予防に関する取り組みは、すでに村でもはじまっているものの、意識はまだ低いのだそう。

「特に男の人は、健康教室をやっても参加してくれないんですよ。やっぱり本人が楽しいことや、収入につながる活動ができて、その結果として健康につながるコミュニティが必要なのかな。楽しくて、儲かって、元気になるみたいな」

村の高齢者の中には、現役で畑仕事をしている人や、木材加工の技術を持っている人もいる。

デイサービス利用者の中にも大工さんだった人がいて、壊れた雨樋をもどかしそうに眺めていることがあるのだとか。

「技術は持っているんですけど、脚立に上がれないんですよ。僕らが何か手伝いながらでも、そんなふうに高齢者が自分の得意なことで社会貢献ができたら一番いいんだけど」

「高齢者が一方的にサービスを受けるだけじゃなくて、どっちも楽しい関係性が築けたらいいですよね。たとえば、デイサービスでおばあちゃんが子守をしながら絵本を読むとか」

住み慣れた地域の中で、自分らしい老いを迎えるために。

同じく保健福祉課で働く中野さんは、保健師としてその課題に向き合ってきた。

「自分の家で暮らしたいと思いながら、事情があって施設や病院から退院できない人もいる。だから口では『病院にいたい』って言うんですが、僕は『この人のいるべき場所はここじゃない』って、いつも思っていました」

村が高齢者を対象に行った調査でも、「ずっと村で暮らしたい」という回答が89%、「どこで最期を迎えたいですか」との問いに「自宅」と回答された方が70%という結果だった。

多くの高齢者がずっと村で暮らし、最期を自宅で迎えたいと希望していることがわかる。

一方で、突然心身の不調は突然起こることも多いので、支える家族は突然のことに気持ちが追いつかず、混乱してしまうことも少なくない。

「元気だったときに地域や家族とうまく関係性をつくれている人は、不調になってからもまわりの人たちが支えてくれるので、地域の中で生活できることが多いです」

「一人ひとりが、地域の中で感謝される体験を積み重ねていく。その手助けをしていくことも、福祉の役割なのかもしれません」

とはいえ、定年まで地域の外で働いていた人が、いきなり地域に飛びこんで関わりをつくっていくのは、ちょっとハードルが高いかもしれない。

たとえば「誰かに必要とされる」いろんなコミュニティがあれば、そこを糸口に地域に参加していきやすい。

ケアだけでなく、そんな仕組みをつくることをテーマに福祉を研究する人がいてもおもしろいかもしれない。



今、西粟倉で研究生の先輩として活動している人にも話を聞いた。

都内の病院で助産師をしていた経験を持つ猪田敦子(いのだのぶこ)さんは、ローカルライフラボの研究生1期生。

「最初はエーゼロさんに紹介してもらって、村の人にヒアリングをしました。最近は、赤ちゃんや産後のお母さんがいる場所に自分から出向いています」

お産の話から日常のことまで、ヒアリングを続けた猪田さん。

今は、村で子育てをする人たちが集まれる場づくりの計画を温めている。

妊婦さんのための体操教室、離乳食について気軽に情報交換ができるランチ会、気兼ねなく愚痴をこぼせる“いらいらカフェ”など、アイデアは尽きない。

この日も村の赤ちゃんと、スキンシップをとっていた。

生後4ヵ月から継続的にベビーマッサージをし、発育を学ばせてもらっているのだそう。

「東京で働いているときは、そんなふうに地域に目を向けたり、考えを整理したりする時間もなかったんです。外来は一人30分とか、限られた時間の中で次々向き合わなきゃいけないから、効率のことばかり意識していました」

一方で目の前の問題だけを見ていては、根本的な解決にならない。

猪田さんは都会で働いていたころの違和感を解きほぐすように、いろんな考えを自分のペースでまとめてきた。

「子供の成長で悩んでいるとか、ちょっと辛そうにしているお母さんの話を聞くと、家族や会社が育児に協力的じゃないケースが多い。その子の幸せを考えるためには、地域や社会を全部見ないと解決できないんですよね」

地域の高齢者は、育児にどんな関わり方ができるでしょうか。

「たとえば…これはわたしの夢なんですが、いつかおじいちゃんと妊婦さんが一緒に薪割りできたらいいなと思って。全身運動だから妊婦さんにもいいし。赤ちゃんが生まれたら見せに行って、『おー』って喜ぶ顔が目に浮かぶでしょ(笑)」

それに西粟倉には、もともと薪の需要がある。

村のゲストハウスで冷泉を温めるために薪を使ったり、山間の地域には薪風呂を使っている人もいる。

子育てと福祉だけでなく、地元の産業とも結びついたコミュニティに育てていけるかもしれない。

「なにより薪割りしているおじいちゃんが、かっこいいじゃないですか。若い人に『かっこいい!』って言われながら体を動かすほうが、ただその辺を散歩するより絶対いいって」

「この人は何をしているときに生き生きしているだろう。そんなふうに一人ひとりの表情を見られるのも、小さな村だからこそなんですよね」

もともとは旦那さんに誘われて研究に参加した猪田さん。

研究生としていろんな人と接するうちに得た気づきを、新しい仕事として実現する方法を探している。

「最初は漠然と『田舎で助産所ができたら』と思って来たんですが、お産はお医者さんがいないとできないし。もう少しいろんなところに顔を出しながら、赤ちゃんのために助産師としてできることを探していこうかなと思っています」

「村に来る前にあれこれ考えても、思い通りにはなりません(笑)。まずは真っ白な状態でここに来て、ここの人たちと一緒に考えていければいいと思う」

活動をはじめる前に、村の雰囲気を知りたいという人は、まずは視察の問い合わせからでも構いません。

村の人のエネルギーに、触れてみてください。

(2018/9/28 取材 高橋佑香子)

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