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ブナの原生林に、町をぬうように走る清流。夏は虫の声が鳴り響き、冬は3メートルもの雪が降り積もる。福島県・只見町(ただみまち)。
今なお自然の色濃く残るこの町が、今回の舞台です。
只見町が今まさに向き合っているのが、空き家問題。人が減り空き家が増え続けるなかで、なんとか町の資源にできないかと考えています。
そこで今回は、この空き家の問題に向き合う地域おこし協力隊を募集します。
具体的な活動内容は、空き家の情報を集めて発信したり、物件と借りたい人をマッチングしたり。ゆくゆくは地域を盛り上げるためのイベントや空き家の利活用を、町の人と一緒に企画・実行していってほしい。
建物だけでなく、広くまちを見ていくような仕事だと感じました。
東京から福島へ電車に乗ること3時間。会津田島駅で降りると、事前に予約した乗合タクシーが待ってくれていた。
只見町は、ここからさらに1時間ほど離れたところにある。雪などで運休の心配がなければ「絶景の秘境路線」と呼ばれる只見線を使うのもおすすめ。
待ち合わせ場所の町役場でまずお会いしたのは、空き家の利活用を担当している吉津(きつ)さん。
3人のお子さんを持つお母さんで、初対面ながら気さくに話してくれる。
「わざわざこんな遠くまでありがとうございます。アクセスはお世辞にもいいとは言えないんですけど、そのぶん自然はすごく豊かなので。ちょっとでも楽しんでいってください」
東北でただ一つ、ユネスコエコパークに認定されている只見町。
ここでは人々の暮らしと雄大な自然が深く結びついている。伝統の知恵や芸能、民芸品など、今でも大切に受け継がれているものが多いそう。
吉津さんもこの町に生まれ育った方。関東の大学を卒業したのち、Uターンしてきた。
「小さい町なので、周りとの距離が近いことがずっと窮屈で。戻るときもだいぶ悩んだんですけど、紅葉がきれいだったり、すごく空気が澄んでいたり。やっぱりいい町だなって、ちょっとずつ思えるようになりました」
只見町のキャッチフレーズは『自然首都』。
東京23区より広い町にはコンビニもないし、信号機も4つだけ。面積の9割以上が山林で、冬になると豪雪で閉ざされる。
一見不便に思えるかもしれない。それでもビジネスホテルの代わりに手厚くもてなしてくれる旅館があるし、おいしい山菜や魚はもちろん、きれいな星空も間近にある。
都会の便利さとは正反対のところで、長く日本の原風景を守ってきた町なのだと思う。
「只見を気に入って定期的に遊びに来てくれる方や、なかにはご自身で古民家を改装して住まれる方もいて。外から来た方たちに町の魅力を教えてもらうことで、中に住む私たちもだんだんと自信を持つようになったのかなと感じます」
そんな町は今、空き家の問題を抱えている。
若者が町を出たり、高齢化が進んだりと人口が急速に減っていて、今は200戸ほどが空き家だそう。
「何より只見は雪が2〜3メートルも積もるので、ほかの地域に比べて家が傷むスピードが早いんです。放っておくと雪の重みに耐えられずに軒が折れてしまうこともあります」
「町内でも心配の声が高まるなかで、まずは情報調査をしようという動きが生まれて。その第一歩として、2年前に空き家バンクがはじまりました」
空き家バンクとは、自治体が運営するウェブサイトのこと。
空き家を貸したい、売りたい所有者から情報を集めて、これから住みたい、使いたいと考えている人に紹介している。
今回募集する人は、この空き家バンクの運営から活動をはじめることになる。
「空き家バンクに載せているのは所有者の許可を得られた物件だけで、実際にはその何倍もの空き家を調べています。まずは、その調査にあたってもらいたいと思います」
まずは吉津さんや集落をとりまとめる区長さんと一緒に地域を回ったり、役場で帳簿を調べたり。
そうしてまとめた空き家の情報を、データベースに残していくのが大きな仕事。
空き家が増えていることに危機感を抱いている人も多い。集落ごとに「なんとかしよう」という動きが起きていて、精力的に集会も開いているのだとか。
まずはそうした場に積極的に参加することも大切になってくると思う。
地域のことが掴めてきたら、少しずつ移住・定住にかかわる仕事もはじめていく。
都市部のような不動産業がない只見町。知らない人に家を貸す文化もないので、空き家バンクが移住希望者の入り口となっているのだそう。
「空き家バンクを見た方から問い合わせを受けて、打ち合わせや内見に行くこともあります。どんな町かを紹介するためにも、これから担当となる人は普段から地域を歩いてほしいですね」
「それに、そもそも町のPRが不十分だと感じていて。どんな活動をしたか、何を感じたか。何気ない生活もSNSなどで発信したり、町のPRイベントなどで話してもらえたりすると嬉しいです」
とはいえ、課として地域おこし協力隊を募集するのははじめてのこと。
任期終了後に約束できるキャリアは、正直なところまだ描ききれていない。
「ただ一つ強く思っているのは、来てもらったあとのことを一緒に考えないのは来てくれた方に失礼だなって。せっかく縁あって只見に来てくれたからには、今後について一緒に考える時間は大切にしていきたいと思っています」
続いてお話を聞いたのは、今回募集する人の前任となる大竹さん。
およそ1年間、地域おこし協力隊として空き家や移住に関わる活動をしてきて、出産を機に1年前に退職した方。
ふわりとした雰囲気で、にこやかに話してくれる。
結婚を機に、九州から只見に移住。もともと林業に関わる仕事をしていたこともあって、空き家には関心を持っていたのだそう。
「只見のお家は豪雪にも耐えられるように、北五葉という木材を使っているところが多いんです。それが手放しになって危険家屋になっているのもあると知って、興味がわきました」
まずはどんなところから仕事をはじめましたか?
「空き家について考える有志の会におじゃましました。月に一度、地区の方がお仕事を終えたあとに集まるんです。『あそこに住んでいる大竹さんか』『よく来てくれた』って、皆さんすごくウェルカムでした(笑)」
メンバーは、地元の農家さんから只見に移住してきた方まで。今井博さんという一級建築士をリーダーに、空き家の使い道やイベント開催などについて話し合ったそう。
「あとは各地区の区長さんにもお会いして、地域のことを教えてもらいました。たとえばお花を栽培されている方は、すごく明るくて『何かあったら俺に連絡してくれ』って言ってくれたり。地域の方と関係を築くのはとても大切です」
そうして地域の人に顔を覚えてもらいながら、空き家調査を進めていく。
区長さんの紹介や、役場の帳簿をもとに空き家の所有者に連絡をとり、図面や詳細な情報をまとめる。
ときには、所有者本人から空き家の相談に乗ってほしいと連絡がくることもあるという。
「『よくわからないけど空き家スタッフがいるんでしょう?』と相談に来てくれる方もいます。話を聞いていくと、書類がわからずに困っていたり、空き家を手放したくても親戚の合意が得られずに悩んでいたり。背景はさまざまなので、まずは相手に寄り添うことが一番です」
ただ、空き家は私有財産。行政の思いだけでは入り込んでいけない部分もあって、さまざまな事情で空き家バンクへの掲載を断念するケースもあった。
現在空き家バンクに載っている物件は片手で数えられるほどだそう。
移住を考えている人からの問い合わせもあったものの、紹介できる物件が少ないことに、大竹さんももどかしさを感じていたという。
「バンクに載っている件数が少なすぎる、という町民の方の声もあって。CADで仕上げてから載せていた図面を、手描きでもすばやく載せるといった方法で、できる範囲でなんとかしようと話し合いました」
さらに只見町の空き家の特徴の一つが、40〜50年ほど前に建てられたものが多いこと。水回りが旧式だったり、住むには大きな改修が必要だったりするものもある。
移住を考えている人に空き家を紹介しても、現状を見て戸惑ってしまうケースもあったという。
「これからは、空き家をどう見せるのか、地域できちんと話し合うことが必要だと思います」
たとえば、希望すればすぐに住めるように水回りだけでも皆できれいにするのか、自分の好きなようにリノベーションできることを売りにするのか。
そもそも地域としてどんな人に来てほしいのかというところまで、しっかりと話し合う必要がある。
「ただなんとなく空き家を紹介するだけでは何も生まれないなって。空き家を見たいと連絡をくれる人は、町の暮らしに興味を持っている人です。空っぽのおうちだけを紹介しておしまいではないんですよね」
「町をこれからどうしていくのかを皆で考える、奥が深い仕事だと思いました」
そこで大竹さんが実践したのが『集落シート』。
家だけでなく、地域の情報も空き家バンクで紹介しようと考えた。
各区長に、地区のインフラや空き家の情報はもちろん、文化や雰囲気、どんな移住者が住んでいるのかを文章と写真で紹介してもらうようにお願いしたそう。
「お祭りでよく集まるとか、農家さんが多く住んでいるとか。具体的な情報があれば、『ここなら農業がはじめやすいかも』と想像しやすくなりますよね」
「もし移住者を受け入れることに不安があるのなら、それもきっちりと書いてもらって。誰でもいいから来てほしいというのは、かえって只見の価値を落とすことにもなってしまう気がします。これだけ自然も人も豊かな町なんだから、もっと強気になりましょうと」
あいにく退職の時期と重なってしまい、空き家バンクに掲載するには至らなかった。この大竹さんのアイデアを引き継いで形にすることから、空き家バンクをより充実したデータベースにしていくことができるかもしれない。
「とにかくまずは町を知ってもらうことが大事だと思っていて。町を体験してもらう場をつくることも、この仕事で大切になってくるはずです」
たとえば冬には町を閉ざす雪も、外からやって来た大竹さんには大きな魅力。
雪の時期に体験ツアーを開いて、雪まつりを見たり、かまくらでお酒を飲んだり、雪かきの経験をしてもらうことも面白いかもしれないと話す。
「実際に雪を体験して、これは暮らせないと判断してもらってもいいと思います。反対に町に惚れてもらったら、こっちのものですからね」
「まずはとにかく皆で話し合って、どういう町にしていきたいかを考えること。困ったときに頼れる方は必ずいるので、そこからはじめてみてほしいです」
はじめは地道な仕事が多いと思います。
まずはじっくりと腰を据えて、目の前の仕事と地域の人に向き合うこと。そうして地域に入り込んだ先で、新しいアイデアも形になっていくのかもしれません。
(2018/11/28 取材 遠藤真利奈)