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好きな洋服と、
天然の色についての
さっぱりした答え

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新しい服を買ったから、次の季節が来るのが待ち遠しい。

そんな気持ちにさせてくれるなら、それは間違いなく「いい服」だと、私は思います。

服を買うとき、つい頭で考えることが多くなってしまいますが、自分が本当に好きな服には理由なんかないような気がします。

今回紹介するのは宝島染工という、藍などの天然染料を使った服づくりをしている会社。アパレルからの依頼を受けて製品をつくるOEMと、シャツを中心としたオリジナルアイテムの企画・販売の2つの軸で運営しています。

「天然だから」を押し付けすぎることなく、本当に着たいと思える服をつくる。その姿勢はとてもさっぱりしていて気持ちがいいなと思いました。

今回は生産管理担当を募集します。まずは、染めの作業を兼任しながら現場を知るところから、仕事をはじめることになります。


宝島染工があるのは、久留米市に隣接する三潴(みずま)郡。最寄りは西鉄の「大溝」という駅らしい。

久留米から15分ほど電車に揺られ、駅に降り立つと、目の前にはのどかな田園風景が広がる。

駅から20分ほど歩いていくと、窓辺に藍染の生地が吊るされた古民家が見えた。工房はもう少し先のはずだけど、もしやここでは…と周辺をウロウロ。すると、「駅から歩いてきたんですか!?」と呼び止める人がいる。

声をかけてくれたのは、代表の大籠(おおごもり)千春さん。私が覗き込んでいた家は、商談や打ち合わせに使うためのショールームとして借りているのだそう。

ピアノや凝ったつくりの家具も置いてあって、ちょっとしたギャラリーのよう。

部屋のなかには、製品のサンプルや染めた生地がかけられている。にじみやぼかしの色調がきれいな模様のものもある。

「あれは板締めといって、絞り染めの歴史のなかでごく初期の技法なんです。プリントや薬品で抜く染め方は、ほかに上手い方がたくさんいるのでそっちにお任せして(笑)」

宝島染工のオリジナル製品もラックに並んでいる。コットンやシルクなど、素材によって風合いはさまざまだけど、色味はどれも濃紺や茶系などシンプルで抑えた雰囲気。

「誰でも、いつでも、何と合わせても着られるものにしたいんです。着古しても買い換えられるように、なるべくモデルチェンジもしないようにしておきたくて」

脇の部分が少し大きくつくられているので、サイズもフレキシブル。夫婦や親子で貸し借りすることもできるそう。

「着たいと思ったときに、天然染料の服がいつでも手に取れる。そういう環境をつくっておきたくて」

そう話す大籠さんの視点は、こだわりの強いつくり手としてではなく、服を着る人の気持ちに近いところにある気がする。

大籠さんはどんなふうに、服の楽しみと出会ったんだろう。

「このあたりはもともと久留米絣(かすり)っていう織物の産地で、夏になるとみんなワンピースとかにして着ているんですよ。だから、藍染はちっちゃいころから身近にありました」

「服を好きになったのは、中学生くらいのころ。DCブランド全盛期で、ちょうど『オリーブ』世代なんですよ。みんな洋服が大好きで、10代の子がご飯を削ってでもヴィヴィアンとかギャルソンの服を買うような。それくらいみんな気骨の入ったおしゃれをしてましたね」

ところが、学校を出て働くようになるころには、豊かだった景気もファッション業界も、少しずつ状況が変わりはじめていた。

染色の工場で働いた20代を経て、独立という道を選んだのが2001年。

ファストファッションやインクジェットプリントなど、ものづくりがデジタル化されスピーディに変化していく過渡期でもあった。

「私はその競合に加わるよりも、よりニッチな道を選ぶことにして。あまり人がやっていなくて、つくり方がまだそんなに明かされていないこと、それで自分がすごく面白いと感じられること。自分の中で大切にしたいことを絞り込んでいったら、ある意味必然的に『天然染料のOEM』になりました」

畑だった土地を譲り受け、藍甕(あいがめ)の設置から排水の処理機構まで、天然染料で中量生産ができる仕組みをたったひとりでゼロから整えてきた。

今手がけているのは、ほとんどが縫製したあとで染め加工をする「製品染め」。

今回募集する生産管理の仕事では、オリジナル製品をつくるために工場と直接やりとりする場面も多いので、縫製の知識がある人のほうがいいとのこと。

今では、社内に生産・管理・営業のそれぞれの部署ができて、オリジナルの製品をつくって形にする企画力や販路もある。それでも大籠さんは、今後もずっとOEMを続けていきたいという。

「お客さまの要望に応えるのって本当に難しいんですけど、オリジナルしかやらないと、ものづくりが下手になると思うんですよ」

デザイナーの抽象的なイメージを技術に落とし込んでいく難しさもあれば、洗濯基準や流通のことなど現代ならではの難しさもある。

「一点もののハイエンドな作品をつくるのも大変なんですけど、100枚同じものをつくるってすごくストイックで、技術のいることなんですよ。宝島染工はそっちを目指したくて」

天然染料というと、なんとなく有機的で量産しづらいものとして語られることも多いけど、化学染料と比べても遜色はないと大籠さんは言う。

お客さんからも、「そんなに早くできるんですね」とか、「そんなに色のブレがなくつくれるんですね」など、思ったよりハードルが低かったというリアクションが多いのだそう。

話を聞いていて感じたのですが、大籠さんはあまり「天然」を強調しないんですね。

「天然染料というストーリーに頼るのはすごくグレーなことだと思うんです。そういう精神論的なものを求めている人には、物足りないかもしれないですね。たしかに藍ほどきれいな青はないと思うけど、その服を着ると健康になるみたいなことは絶対にないし(笑)」

現在、宝島染工にはパートも含めた10人のスタッフがいる。

昔ながらの技法だと、数値化しにくい職人の世界というイメージもあるけれど、宝島染工では工程をきちんとデータ化しているので、未経験者でも現場に入っていきやすい。

「覚えるのに10年かかりますって言われると、結構なプレッシャーですよね。それが悪いとは思わないんですけど、うちは難しいこともやさしく説明して、みんなができるっていう仕組みを整えたいんですよ」

前の人のデータを頼りに、誰でも作業できる「システム」をつくる。

最初は一人ではじめた工房も、今では現場をスタッフに任せていられるので、大籠さんは1年近く、ほとんど染めの作業をしていないという。

「敷居は低く、換気よく。誰でも入りやすく、いつでも抜けやすく。今回の募集でも、前任者とは別の個性を持った人が来るでしょ。そうやって会社は新しい形に変わっていくものだから、『今いるメンバーで考える』っていうことを続けていきたいですね」

「最初はもちろんうちのやり方をお伝えしますし、工程の中で大切な作業とか、コストや納期のことは注意しますよ。ただ、私のやり方に合わない人は辞めてくださいみたいなことはないし、それはスタッフも理解してくれていると思います」


実際に、一緒に働くことになるスタッフにも話を聞いてみる。

営業の吉田さんは、イベントや展示会の運営などのアウトプットを担当している。納期や発注数のバランスを見ながら、生産管理と協働していくことになる。

吉田さんが着ているワンピースは、宝島染工のオリジナル製品。泥染めに藍を重ねて出した黒の深さが、シルクの入った生地の光沢によく合っている。

「今日はこの上に真っ赤なコートを合わせてきたんです。宝島染工の服は、ほかのブランドの服と合わせてもコーディネートしやすいんですよ」

「天然染料って聞くと、取り扱いが難しそうだと敬遠されてしまうことがあるんですけど、家庭で洗濯もできるし、少し手入れをすれば経年変化を楽しみながら長く育てていける。そういうところは、ちゃんと伝えていきたいですね」

吉田さんはもともと、久留米で印刷に関わる仕事に就いていた。

今は営業担当として、イベントや展示会などの運営が主な仕事ではあるけれど、忙しいときは現場に入って染めの作業を手伝うこともあるという。

つくる過程を知ることで、伝える言葉にも説得力が増すのだと思う。

染色については未経験だったという吉田さん。実際に素材に触れてみてどうでした?

「生地を藍の液につけたときは青緑なんですけど、空気に触れて酸化することで青くなっていくんですよ。そういう天然ならではの優しくて深い色合いの変化を現場で見られるのは、すごくいいなと思います」

宝島染工の工房は、話を聞いていたショールームから歩いて1分もかからないところにある、二階建ての建物。

1階が工房で、2階が事務所。つくり手と営業担当が、気軽にコミュニケーションを取り合いながら仕事を進められる。

売れ行きやイベントの予定に合わせた納期など、営業と生産管理が密に打ち合わせをしながら進行していく場面も多いという。

「生産管理はうちの司令塔のような立場だと思うんです。OEMのものもオリジナルのものもどちらも並行して見ていくので、全体をある程度俯瞰するような視点が必要かな」

工場とのやりとりや、社内の各部門との調整、現場の進行管理。

必要なことを必要なときに話し合って決められるように、連絡はほとんどショートメールで済ませ、あとは各自作業に集中する。みんなが集まるのは朝礼の15分だけだという。

「会議のための会議、みたいなのは時間がもったいないですよね。大籠さんはああいう裏表のない人ですし、その都度相談しながら臨機応変にやっている感じです」

子育て中の人もいれば、新卒で働く人もいる。それぞれが自分の仕事に集中して、効率よく。生活とのバランスをうまくとりながら働いているんだと思う。

「ここには、服が好きとか、染めが好きとか、現場でつくってみたいっていう人も、私みたいにそれを伝えてみたいっていう人もいる。いろんな可能性の中で、自分に合っているものや、やりたいことを見つけていけたらいいと思います」

服を着る楽しさや、きれいな色に出会う喜び。

余計な考えや無駄な作業を取り払っていくと、自分の好きなものへ向かう道筋がストレートに見えてくるような気がします。

(2019/2/25 取材 高橋佑香子)
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