求人 NEW

染まらない、異端児であれ
自分にとっての正しさと
心を砕くおもてなし

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違和感を覚えても、見て見ぬふりをしていることがあると思います。

なんとなく社内の慣習に従うこと。しょうがないと、発言を断念すること。

今回の取材では、そんな違和感を諦めず、自分らしいあり方をつくってきた人に出会いました。旅館『八景』の女将、上塩(うわしお)さんです。

「女将さんっていうのは宿の数だけスタイルがあっていいと思うのに、みんな周りと違ったら焦りはるというか。でも私は、人と一緒っていうのが好きじゃない」

「世間体もあるし、自分の考え方を曲げていたこともあったよ。でもね、私は私だし、おかしいことはおかしいってちゃんと言う生き方をしたいの」

八景は岡山県の湯原温泉という温泉街にある旅館です。

昔ながらの高級旅館然とした佇まいとは裏腹に、やってきた人たちは帰り際に女将さんとハイタッチをするくらい、打ち解けて帰っていきます。

それは、業界の常識に囚われずに、自分で考え生み出したおもてなしがあるから。

ここで一緒に働く仲間を募集します。


羽田から岡山空港へ飛び、乗り合いタクシーに揺られること約2時間。たどり着いた湯原温泉は、古き良き温泉街という感じ。

無料の足湯や混浴の露天風呂を楽しむ人たちを横目に、街の一番奥へと歩いていく。

通りの角を曲がると目の前が開け、吊り橋と大きな旅館が見えてきた。

ここが八景。遠くから見ても、すごく迫力がある。

そんな緊張が吹き飛ぶくらいの明るさで「こんにちは!」と迎え入れてくれたのが、女将の上塩さんと愛犬のハナちゃん。

八景は、不動産会社を経営していた上塩さんのお父さんが見つけた宿。立地も建物もいいと興味を持っていたところ、旅館は競売物件になった。

上塩さんは突然、お父さんから「女将やらんか?」と声をかけられることになる。

「そのとき24歳で、東京で結婚もしていて。旦那さんにもキャリアがあったし、父とは揉めに揉めましたね」

「結局、父は心筋梗塞まで起こして。駆けつけたら、酸素マスクしながら『旅館してくれるか…』って言うの。もう根負けして『するわ』って言っちゃって。そこからスタートしたかな」

突然降ってきた女将という仕事。しかも、住んだこともない田舎の街。最初はそんな状況を受け入れられなかった、と上塩さんは振り返る。

「こんなところありえへん!って思ったよ。だって芦屋や駒沢に住んでいた頃は、郵便ポストの数くらいケーキ屋さんがあって、なんでも揃うナショナルスーパーがあって…ここには知り合いもいないし寂しすぎるでしょ」

内装もすべてお父さんの趣味で決められたものだったから、愛着もなかった。

「でも関わるうちにどんな旅館がやりたいのか見えてきて、どうせやるなら自分の好きな旅館をやりたいと思ったのね。父とはまた大喧嘩になりました」

お客さんにアンケートを書いてもらって改善点を見つけたり、どんな料理を提供しようか料理長と一緒に考えたり。最終的には宿の内装も自分の想いでつくりかえた。

ベースにあるのは、大学時代の経験。

上塩さんは大学時代にボランティアリーダーとして、幼児から中学生までの子どもたちを迎えるキャンプを企画から運営まで手がけていたそう。

「ひと夏に4つとか5つキャンプが入って。毎回本当にしんどいんですよ。でも子どもたちにとっては1度きりの一大イベント。こっちが疲れた顔を見せてどうするんや、心を整えろってよう言われていました」

今も、その経験は上塩さんのおもてなしの原点になっている。

旅館業の経験はなくとも、心を込めて目の前の人に向き合うことを一番に、サービスを考えてきた。

すると、業界では当たり前とされてきたことにも疑問が湧いてくる。たとえば、女将さんに欠かせない各部屋への挨拶まわりもそのひとつ。

「『ごゆっくりおくつろぎください』とか言いながら、女将が来ると足を崩してはったお客さんが正座して、居住まいを正す。これってどうなの?と思って」

果たして本当に、お客さんはそれを望んでいるのか。盛り上がっていた会話の腰を折ったり、くつろぎの邪魔にはなったりしてはいないだろうか。

そうして上塩さんは、世の中の常識とされる女将さん像を捨てて、自分らしい女将さんのあり方を考えることにした。

「着物を脱いで、エプロンをつけて。お料理はレストランで必ず自分が出すようにしたんです。料理の説明をしながら『お味どうですか?』『明日はどちらに行かれるんですか?』って自然と会話が生まれて。話しかけやすいわって言ってもらえるようになって」

小さなお子さんには手づくりの離乳食を用意して、女性や高齢の方も胃に負担をかけず気持ち良く完食できる調理法を考える。

館内で結婚披露宴や音楽ライブを開催することもあるし、ときには旅コンシェルジュのようにお客さんの旅の行程について、相談を受けることもある。

「この前は、ハワイで社員50人がごはんを食べられるレストランを明日の朝までに見つけてよって言われて。ハワイの友達に声をかけて、ビーチBBQを手配しました」

「No Travel,No Life.っていうのが私のポリシーで。ただパンフレットを渡すだけじゃなくて、ここの誰々を訪ねてと言えるつながりが私の宝物であり、今の宿のスタイルともリンクしているんだと思います」

上塩さんのサービスに、ここまでという垣根はない。

今では、年間の宿泊者数は15,000人。多い人はなんと200回以上も通っていて、香港やシンガポールなど海外からのお客さんも多いのだとか。

自分の頭で考えて、どんどん形にしていく上塩さん。なぜ、そこまで頑張れるんだろう。

「自分を犠牲にしているつもりはないの。自分の1日もお客さんの1日もどっちも大事だから、一緒に過ごしてよかったねってお互いに思いたい。だから自分も楽しくできる方法を考えるし、そこに計算も表も裏もないんですよ」


そんな上塩さんと一緒に、八景らしいおもてなしをつくっているのが料理長の正原さん。

お客さんの夕食を真剣に準備する様子から、気軽に声をかけることはためらわれたけれど、実際に向かい合うと気さくに話をしてくれる方です。

正原さんからみて、女将さんはどんな人ですか。

「経営者だけど、お金だけを追わない。お客さんに喜んでもらう、その一点だけでやっているように感じます」

「この旅館をリニューアルするとき、野菜中心の料理をつくってほしいと女将に言われて。それって一番手間がかかるんだけど、だからこそやりがいがあると思ったんです」

やりがい、ですか。

「たとえば野菜の炊き合わせは季節によって内容が変わるし、一つひとつ別で炊いてるんです。そういう技の効いた料理でお客さんに喜ばれるのが、僕ら料理人の筋やと思います」

岡山の地域性と季節感を大切にしながら食材を選び、手間を厭わずにつくられた料理は、八景の名物になっている。

正原さんは、丁寧に人と関わりながら、次々に新しい経験ができることが八景の面白さだという。

たとえば、先日はシンガポールから来たお客さんと一緒にだし巻き卵をつくったのだとか。

「日本食をつくってみたいということだったので。卵料理なら向こうに帰っても気軽につくれるだろうし。ここはすぐに行動に移せるのがいいかもしれないですね」

過去には八景としてハワイで10年以上レストランを経営したこともあるし、今後はタイのバンコクでレストランを経営する計画も動いている。

「タイには日本料理の店が1000店以上あって、日本食を学びたいという意識も強い。人材交流として本場のだしや桂剥きの技術を教えながら、僕らの仕事を手伝ってもらえたらなと。そういう仕組みがあったら各地の人手不足の旅館も助かると思うんですよ。世界中に弟子がいたら面白いしね」

「八景で学んだことを基本に、自分のやりたいことを広げていってくれたらいいですね」


具体的にはどんなふうに働いていくことになるんだろう。

教えてくれたのは、これから来る人と同じように、新しく宿に飛び込んだ征人(ゆきと)さん。

上塩さんの息子さんで、去年4月から働き始めた方。

宿は身近な存在だったものの、常にお客さんに気を遣わなければいけない気がして、働きたい場所ではなかったといいます。

大学卒業後、一度は大阪の企業に就職。けれどそこで違和感を感じたそう。

「先輩を見ていると、自分がこの会社でどうなるのかイメージできてしまって。一方で宿はこれからどうなっていくかわからない。旅館って、システムも働き方も一番変化に疎かった業界だと思うんです。でも八景は変わり始めていて、だからこそ面白いんちゃうかなと」

「甘いかもしれないけど、僕は人に『どんなことをやっているの?』って興味を持ってもらえるような人間でありたくて。八景ではそれを実現できそうだなって思ったんです」

最初はフロントに入った征人さん。不安に思っていたお客さんとの接し方も、自分ならどんな振る舞いで迎えてもらったら嬉しいだろうと考えるなかで、少しずつ慣れていったそう。

接客のマニュアルはなく、自分の頭で考えて動くことが求められる。

「良くも悪くも“人”がやっているっていうことを感じましたね。気は悪くないけど、イライラしたら他のスタッフに怒鳴ってしまうスタッフもいるし、失敗だってある。いろんな人がいて、試行錯誤しているから完璧な宿っていうわけじゃないんです」

「あと、女将さんはどんどん先に進んでいくから。昨日は宿にいたのに、今日からインド!?みたいなこともあるし(笑)、アイデアも更新されていく。だからびっくりする人もいるかもしれないですね」

そんな環境なので、淡々と作業したり、寮に引きこもって休日を過ごしたりすることはあまりおすすめしないそう。

反対に、外の環境に目を向けると、仕事や暮らしを豊かにしていくきっかけがたくさんある。

「僕はこっちで狩猟免許をとったんです。夏はスピアフィッシングを始めたり、休みの日は隣町まで足を伸ばしておいしいお店を探したり。そういう経験がお客さんと会話するときにも活きるんですよね」

宿の中で、自分の趣味を活かしたイベントを企画することも大歓迎。征人さんも、いずれは空き家を借りてゲストハウスやホステルを運営したいと考えているそう。

立ち上げから参加したい人、独立を目指している人には良い機会になると思う。


最後に、あらためて上塩さんにどんな人と働きたいか聞いてみました。

「釣りが大好きで川のそばで働きたいとか、韓流ドラマ見すぎて韓国語話せるようになったとか、なんでもいいの。変わっていると言われようが、私というものを持っている子がいいね」

「旅館には事務、接客、掃除といろんな仕事があるから、何の達人になれるのかは私が見つけてあげられると思うんですよ。田舎に閉じ込めようっていう気もないから、まずは1年だけの契約も歓迎です」

常識の枠をはずして自分らしさを貫くのは、簡単なことではありません。

だけどここには、自分を曲げずに腕を磨き、やりたいことを追求できる環境があるような気がします。まずはぜひ上塩さんと直接会って話してみてほしいです。

(2019/3/29 取材 並木仁美)
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