求人 NEW

ゆるやかに枠を超えて
恋する豚が
東京にまいります

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

千葉県香取市。

県北東部に位置するこのまちに、「恋する豚研究所」という一風変わった名前の場所があります。

一軒の契約農場で大切に育てた豚のみを扱う、食肉加工場と食堂が一体となった施設で、食堂ではおいしい豚肉料理を楽しむことができます。

遠方からここめがけてやってくるお客さんも多く、週末には2時間待ちの列ができることも。

この場所の運営母体は、千葉県内で特別養護老人ホームやデイサービスセンターなどを複数運営している、「福祉楽団」という社会福祉法人です。表立って“福祉”の看板を掲げてはいないものの、恋する豚研究所も就労支援施設であり、働いている人の約半数は障害や働きづらさを抱えた人なのだそう。

法人の理事長を務める飯田大輔さんは、もともと福祉とはまったく別の畑から、とあるきっかけでこの世界に関わることになった方。柔軟な発想で、新しいことに次々チャレンジしています。

今回は、4月3日に同施設内にオープンしたばかりのスチームハンバーグ屋さんや、来春にオープンする東京・下北沢のコンセプトストア、千葉・柏のコロッケカフェなど、新たな拠点を俯瞰してマネジメントできるスタッフを募集します。

最初は現場のオペレーションスタッフからはじめ、将来的にステップアップを目指したい人も歓迎とのこと。経験は問いません。

まずはこのユニークな取り組みについて知ってもらえたら、と思います。

 

火曜日の午前8:30。待ち合わせ場所は総武線・幕張本郷駅のロータリー。

眠い目をこすりながら少し待っていると、代表の飯田さんが近くの事務所から迎えに来てくれた。

ここから車で40分ほどかけて「恋する豚研究所」まで向かう。

飯田さんが理事長を務める社会福祉法人「福祉楽団」が設立されたのは、2001年のこと。突然の病でお母さまを亡くし、遺品の整理や相続の手続きをしていたところ、生前にお母さまが準備していた社会福祉法人立ち上げの書類だけが残ったそう。

家族会議の末、千葉県で養豚を営む伯父さまが理事長になり、飯田さんはゼロから福祉を学んで立ち上げに関わることに。

「特別養護老人ホームをやることは決まっていたので、まずはとにかく開設準備ですよね。全国各地の福祉施設を120ヶ所は回ったかな」

2003年に第一号となる特別養護老人ホーム「杜の家」を千葉県香取市に開設。その後は千葉県内を中心に、デイサービスやショートステイサービスの施設を各地に増やしていく。

ケアの現場に携わりながら手応えを感じる一方で、飯田さんはある課題と向き合うようになる。

「2007年の時点で、障害のある人の平均工賃って1万円ぐらいだったんですよ。言い換えれば、月給1万円。これが自分にとって結構ショックで」

「それに、福祉作業所でつくられた商品っておいしくなかったり、パッケージがダサかったりする。売るための努力を最大限しているなら仕方ないですけど、もっとできることがあるはずだと思ったんです」

障害のある人が月給10万円を稼げる仕事をつくろう。

そう思い立ち、5年の準備期間を経て2012年に「恋する豚研究所」を立ち上げた。

「当時理事長を務めていた伯父が養豚家だったので、その豚をうまくリブランディングすれば売れるんじゃないかと思って。豚肉を使った料理が楽しめる食堂と、食肉加工場が一体になった拠点をつくりました」

デザインワークは、デザイン会社「DRAFT」で仕事をしていたグラフィックデザイナーの福岡南央子さんに依頼。福岡さんの手がけた「世界のキッチンから」のパッケージを見て、この人にお願いしたいと決めたそうだ。

建築を依頼したアトリエ・ワンは、渋谷・宮下公園のリノベーションやJR尾道駅の新駅舎や店舗デザインの監修など、まちに開かれた建築を数々手がけてきた設計事務所。大きな窓に周囲の緑が映え、太陽の光が差し込む気持ちのいい空間ができあがった。

そうして生まれた食堂はみるみるうちに人気が出て、今や週末には2時間待ちの列ができるほど。豚肉やソーセージなどの加工品は、百貨店やスーパー、飲食店への卸販売も行なっている。

一昨年に伯父さまが亡くなり、理事長を引き継いだ飯田さん。福祉についてほとんど知らないところからスタートして、ここまで会社を成長させてきた。

「知らないのがよかったんだと思います。福祉業界の歴史的な背景も含めて知らなかったからこそ、好きなようにやってこれた部分はありますね」

現在は、障害のある人が半分くらいの割合で働いている。今後は依存症のある人や少年院から出てきた人など、さまざまな働きづらさを抱えた人たちを雇用していきたいと考えているそう。

一緒に働くかどうかという面接の場では、ある一点だけを見ているらしい。

「裏表がない人。それに尽きます。経験やスキルは大した問題じゃない。この人に任せても大丈夫だろうとか、信頼できると思えるかどうかが大事です」

今回は、これからオープンを控えているいくつかの拠点の企画・マネジメントを担える人を募集する。

まずは4月3日に恋する豚研究所内に生まれたばかりのスチームハンバーグ屋さん。従来は事務所だったスペースを改装して活用している。

「食堂でお出ししているしゃぶしゃぶや塩コショー焼きは、バラ肉とロース肉がメインです。モモ肉やウデ肉は使い切れずに流通過程で捨てられてしまうこともある。命のあるものですから、豚一頭をなるべく食べきりたいと考えて、ウデやモモもおいしく味わえるハンバーグ屋さんになりました」

また、来年4月には東京・下北沢にコンセプトストアをオープン予定。都内でははじめての直営店となる。

「下北沢は、再開発を経てこれから街が変わっていくと思うんですよね。もともと面白いカルチャーの根付いている街なので、コンセプトストアから新しい豚肉の食べ方を提案していきたいと考えています」

テイクアウトして街歩きしながら食べられる、サンドイッチのようなメニューも面白いかも知れない。

また、千葉県柏市には、サービス付高齢者向け住宅と併設する形でコロッケカフェをオープンする。

「そこに住んでいる高齢者がコロッケカフェで働いたり、近所の子育て世代がお茶をしにきたり、世代間の交流ができるような空間を提供したいと思っていて」

そうした店舗の企画や商品開発などから関わってほしいとのこと。

「全体を俯瞰して、サービスマネジメントできる人。食器はこうしたほうがいいんじゃない?とか、あそこが汚れているよねとか、お客さまの視点に立って改善や提案ができる人に来てほしいです」

「とはいえ、まずは現場のオペレーションを回せて、ゆくゆくマネジメント職へのステップアップを考えている人でもいいと思います。いきなり高いスキルや経験がなくても、裏表のない人であれば大丈夫です」

 

話をしている間に車は恋する豚研究所に到着。

開店前の食堂で、営業部部長の小泉裕(ゆたか)さんに続けて話を聞いた。

恋する豚研究所の立ち上げから関わってきた小泉さん。以前は化粧品や健康食品のメーカーに勤めていた。

「前の会社は上場企業で、やることも細分化されていたんです。それに比べてここは小さな会社なので、一人ひとりの役割の幅が大きいし、指示がなくてもどんどん動かなきゃいけない」

新たな取り組みが次々にはじまるこのタイミングだからこそ、自ら動いて事業を磨いていくような自主性が求められている。受け身の姿勢だと、スピード感についていけないかもしれない。

パッケージや食堂のデザイン性、ネーミングも含めたキャッチーさ。恋する豚研究所のファンになる人が多い理由のひとつには、それらの要素に加えて豚肉のおいしさがあると小泉さん。

「豚の品種は黒豚とかイベリコ豚というわけではなく、一般的な品種なんです。実は特徴的なのがエサと育て方で、パンの耳などを細かくして、乳酸菌や麹菌などを混ぜて発酵させた飼料を食べて育っています」

そうして腸内環境を整えることで、病気にも強くなり、食べたときにやさしい味わいになるのだそう。

食堂の営業時間になってから、しゃぶしゃぶをいただく。

くさみが少なくて、ほんのり甘い。

しゃぶしゃぶのあとに残ったお湯を何杯か掬い、特製のポン酢を垂らせばスープになる。ああ、これもおいしい。

理念への共感や、応援の気持ちを込めた買いものも悪くはないけれど、やっぱり「おいしい」「心地よい」というような感覚が根っこにあるものは強いと思う。

食堂の一角には、豚肉以外にも千葉県産の野菜やお土産、全国の福祉作業所でつくられた商品を並べたコーナーがある。それも「福祉でつくったから」という理由ではなく、一つひとつ「おいしい」と思ったものを仕入れて販売している。

この売り場づくりをはじめ、食堂のメニュー開発やオペレーションを手がけてきたのが、コンセプトストア・ロケーション開発部部長の佐藤智行さん。新しく入る人にとって、一歩先ゆく先輩のような立場にあたる方だ。

「最近は仕入れの仕事が停滞気味で。売り場はこれからより広がっていくので、その人の感性でもっといろんな商品を仕入れてもらえたらと思っています」

この仕事は、どんな人が向いていると思いますか。

「売り場を客観的に見ながらつくっていくような経験をしてきた人がいいかもしれません。たとえば、アパレルショップで働いていた人とか」

「あとは、お店のなかだけじゃなくて外に目を向けられる人。農家さんの畑に足を運ぶ機会があったり、地域の人と一緒に商品企画をしたりすることもできると思います。そういう意味ではフットワークの軽い人だといいかもしれません」

つい先日も、香取郡神崎町の酒蔵・寺田本家が主催する「お蔵フェスタ」に出店。同じ出店者同士で交流するなかでも、新たに仕入れる商品が決まっていくそう。

障害のある人とともに働くのは、ここに来てはじめての経験だったという佐藤さん。

マネジメントする立場として、何か心がけてきたことはありますか。

「障害の程度にも個人差があるので、できる/できないという判断は必要になります。ただ、最初はほとんどの作業に困難を感じていた人が、経験を積んで今じゃいないと困る存在になっていたりもするんです」

「そのあたりは、ここに入ると価値観が変わるかもしれない。障害があるからといって決めつけているのはこちら側で、実際にやればできるんですよ。一緒に成長していくような感じですね」

専門の指導員もいるので、相談しながらお店づくりを進めていける。福祉業界未経験でも安心して来てほしいとのこと。

 

取材を終えて、昼間いただいたしゃぶしゃぶの味が忘れられず、千葉県内にある実家へお土産として買って帰ることにしました。

取材のエピソードを交えながら鍋をつつくと、思わず頰がゆるみます。

福祉という世界のことや、命をいただくということ。もちろん、そこには真剣に向き合わなければならない課題もあるのだけど、こうして肩肘張らずに食を楽しんだり、会話したりするなかで、少しずつ身近に引き寄せていく時間も大切だと思います。

これから生まれる新しい拠点にも、そんなゆるやかな時間が流れていてほしいです。

(2019/3/19 取材 中川晃輔)

おすすめの記事