コラム

人生をつくるきっかけって、
そこら中に転がっている

しあわせな転職ってどんなものだろう?

答えは人それぞれで、きっと正解はありません。

このコラムでは、日本仕事百貨の記事をきっかけに転職した人たちを紹介していきます。将来的には、コラムの一部をまとめた書籍も出版する予定です。

どんな想いで仕事を選んだのか、その後どんなふうに働いて、生きているのか。それぞれの選択を知ることで、自分にとっての「しあわせな転職」を考えるきっかけになればうれしいです。

株式会社KURKKU FIELDS 新井洸真さん

KURKKU FIELDSは、千葉県木更津市の広大な土地を開拓してつくった農場です。農業や酪農、養鶏などを行っていて、訪れた人は食事をしたり、アート作品を鑑賞したり、農業体験をしながら、いのちの循環について考える時間を過ごすことができます。6年前、音楽家の小林武史さんがはじめたこの場所に立ち上げから参加し、今では「Mr.KURKKU FIELDS」と呼ばれ頼られる存在になっているのが、新井洸真さんです。

今は新しく宿泊施設をつくったり、売店を建てたり、イベントの企画をしたり。新規事業の立ち上げから初期の運営までをみています。ほかにもリニューアルするウェブサイトの確認をしたり、新しいスタッフの進捗を確認したりとか。

明日はイベントのためにお弁当を600食用意するんですけど、炊飯器の調子が悪くなっちゃって。急遽新しいものを入れて、ガスをつなげ直してきたところです。毎日いろいろなことが起こるんですよ。

自然のなかで学ぶというのは、僕自身が小さいころ体験していたことなんです。地元は小谷村っていう、長野のなかでも雪深いところです。父親も母親も移住者で、小さなペンションをやっていました。

スキー場が近くにあって、12月から4月までのハイシーズンになるとバイトで若い人がやってくるんです。両親は休みなく働いていたので、冬になると「今年はどんなお兄ちゃんが遊んでくれるのかな」ってワクワクするみたいな。

春から秋は仕込みの時期で、山ぶどうを摘んできてジュースをつくったりしてました。僕も保育園くらいから、一緒に山に行っていた記憶があります。車で行けるところまで行ったら、あとは歩きで藪のなかに入って、木に登って山ぶどうを摘む。途中でおにぎりを食べながら1日中、どんどんカゴに入れて、車いっぱいに積んで帰るんです。ジュースを毎年楽しみに来てくれる常連さんとか、結婚式の引出物にしたいって人もいたんですよ。

高校で地元を離れて、長野市内の進学校に行きました。それまで「雪が降ったから今日の授業は雪合戦!」みたいな学校で育ってきたんですけど、高校はぜんぜん違う世界で。同級生は医者の息子で自分も医者になるとか、地元の新聞社に入るために勉強してるとか。割と将来を決めていて、そこに向かうステップとして今がある、みたいな感じで。別に悪いことじゃないんですけど、漠然と違和感があったんですよね。豊かな未来みたいなものを考えたとき、やっぱり教育が大事なんだろうなって思うようになったんです。

大学で教育学部に進学して、大学院では自然教育や自然体験について学びました。一般的に行われている教育について学んだり、年功序列や派閥みたいな社会のルールがあるってことを知るなかで、感じていた違和感が明確になっていって。なんていうのかな。既存のステップに沿って人生設計をするのは、自分の生き方じゃないっていうか。

大学でオルタナティブ教育とかを勉強するゼミに入ったのが、けっこうおもしろくて。教育っていっても、参考書が太宰治だったり夏目漱石だったり。ふとしたきっかけでなにかにのめり込んだり、堕落していったり、そういう人生の渦みたいなところに教育があるっていうことを教えてくれる先生だったんです。

僕自身、教科書に書いてあることよりも、自然のなかで過ごしたり、親の仕事を見てきたこと、出会ってきた大人たちが自分を構成する要素になっているんですよね。人生をつくるきっかけって、そこら中に転がっている。そういうことを体験してもらえる仕事につきたいと思うようになりました。

大学生のころから日本仕事百貨を見ていて。いわゆる就活とは違う、いろいろな人の物語を大切にしているのが好きで、当時開催していたしごとバーにもよく遊びに行きました。そのなかでピンと来たのが、KURKKU FIELDSだったんです。

世界各地で起きるテロ、戦争、あふれる難民。エネルギーや環境の変化、広がる経済格差。大量につくることが優先になった農業。

わたしたちがニュースを通して知る社会の課題は、途方もなくて、どこか現実味がないように感じることがある。

けれど普段わたしたちがなにを買って、なにを食べるのか。1つ1つの選択が、巡り巡ってこれらの課題につながっている。

それは、1人1人が未来を変えていくことができるということでもあると思う。

欲望、循環、未来』より

冒頭に書かれていたここを読んで、信念を持ってやっていく決意みたいなものを感じました。すでにある社会のルールのなかではなくて、もっと自由につくりだせるというか。ここに自分が入れば、社会に対してなにかできるんじゃないかって思ったんです。

面接で木更津に来てみたら、まだなにもない場所で。本当に1年後にはじまるのかな?っていうのが第一印象です。いろんな話をして、仕組みを考えて、土を掘って。結局3年かかって、2019年の秋にオープンしました。

農業を軸に、いのちの手触りや循環を体感できる場所。大きな方向性はありながらも、世の中の変化に柔軟に対応しながら、オープンした後もいろいろな事業を立ち上げてきました。タイニーハウスの宿泊ルールを考えたり、ビオトープに石を積んだり、アルバイトの採用をしたり。役割は決まっているようで決まってないというか。ここで起きることにはたいてい、何かしらのかたちで関わってきたんじゃないかと思います。

一緒に働くスタッフも、最初は10人くらいのチームだったのが、今では50人くらいになりました。大きなビジョンを社会に投げかけながら、まずやってみた3年間だったんです。それを続いていくものにしたいっていうのが、今、自分がやりたいことですね。

毎日太陽が繰り返し昇るのと同じような感覚で、毎日野菜を育てて、毎日料理して、毎日食べてもらう。毎日牛に餌をあげて、毎日うんちが出て、それを集めて堆肥にする。堆肥を畑に入れて、育った野菜をまた食べる。

僕らの考える循環って、たゆまなく続いていくことでしか見出だせない。小さく続けていくしかないんですよね。

無理なく実現していける仕組みをつくって、目の前のことにコツコツ取り組んでいく。それが結果として、社会を変える大きな循環につながってくんだっていう気がしています。

2022年10月6日 千葉県木更津市 KURKKU FIELDSにて
聞き手 ナカムラケンタ
書き手 中嶋希実

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