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好きなものに触れながら働くこと。相手の顔を見て、直接手渡すこと。
イスラエル発の革靴ブランド「NAOT」を取り扱う株式会社loop&loopは、そんな積み重ねを大事にしてきた会社です。
一度は日本への輸入がストップしたNAOTの靴を、自分たちの手でダンボール一箱だけ輸入・販売するところからはじまり、気づけばもうすぐ10年。音楽イベントやマルシェを企画したり、本を出版したりと、靴の販売にとどまらずスタッフ一人ひとりの「好き」を形にしてきました。
「まず第一に、お客さんに喜んでほしい。そのうえでぼくら自身がどうありたいかというと、1日のなかでいっぱい笑いたいなとか。そういうところに落ち着いてきてますね」
代表の宮川さんの言葉通り、loop&loopのみなさんはとにかくよく笑うし、よく話します。だから取材をしていても、こちらまでつられて笑顔になる。
NAOTの靴自体の魅力に加えて、お客さんはここで働く人たちに会いに行っているのかもしれない、とさえ思います。
今回募集するのは奈良の本店スタッフ。経験は問いません。
気持ちのいい人たちがいる奈良のまちへと向かいました。
京都駅から近鉄特急に乗り、35分ほどで近鉄奈良駅へ。
駅前の商店街には人通りも多く、外国人観光客の姿も目立つ。
賑わいのなかをまっすぐ南に向かって10分ほど歩くと、やがてならまちと呼ばれるエリアに。このあたりの落ち着いた雰囲気がぼくは好きだ。
細い路地を進んでいき、やがてNAOT NARAの看板が見えてきた。
NAOTの靴はもともと、この近くで服飾や雑貨を扱う姉妹店「風の栖」の人気商品だった。
1942年から70年以上続くブランドで、すべてイスラエルの職人の手によるもの。人間工学にもとづいて設計されており、ふかふかのインソールと天然皮革は、履けば履くほど足に馴染む。
経年変化を楽しむ、いわば「育てる靴」だ。
そんなNAOTの靴の輸入が、あるときぱったりと止まってしまった。その際に生産現場であるイスラエルまで足を運び、直接交渉をして再び輸入・販売につなげたのが、loop&loop代表の宮川敦さん。
「このあいだ接客してたら、お客さんにアルバイトさんですか?って聞かれて。そんなにオーラ出てない?うそやん?って。名刺渡したらのけぞってびっくりされました」
店頭に社長が立っているとは、ふつう思いませんよね(笑)。
「うちではデザインやWebなどざっくりとした担当分けはありますが、完全な分業はしません。接客はもちろん、商品の受発注や梱包もみんなでやります」
とくに大事にしているのが、フィッティング。
NAOTの靴はもともと馴染みやすい素材やつくりをしているものの、足の形は一人ひとり違う。履きはじめた瞬間から気持ちのいい状態を目指して、専用器具で革の締め付け具合などの調整をする。
とはいえ、スタッフの数は現在27名。
分業にしたほうが効率はよさそうだけれど、なぜあらゆる仕事を全員でやることにしているのだろう?
「ぼくは30歳のときに勤めていた会社をやめて、夫婦で4年ほど海外を放浪していました。1日1日がエキサイティングで、いつ死んでもいいかなってくらい楽しかった。でも、日本に帰ってからはやる気が起きなくて、しばらくフラフラしていたんです」
「時間だけはある。ただ誰にも必要とされない。その虚しさたるや半端ないんですよね。だから、この仕事を通じて直接『ありがとう』と言ってもらえたことが本当にうれしくて。それこそ働くことの根本なんじゃないかなって」
好きなものの魅力を自分の言葉で伝える。
すると、「ありがとう」の気持ちが返ってくる。
loop&loopでは、そんな関わりを“ありがとうの循環”と呼んで大切にしている。
「いい仕事をすれば、それがちゃんと戻ってくる。『この靴に出会えてよかった』と言ってもらえることもあれば、あとからお手紙をいただくこともよくあります」
そう言って1冊のノートを取り出した敦さん。パラパラめくるすべてのページに、びっしりと手紙が貼ってある。
メールやSNSでの反応だけでもうれしいのに、手書きの手紙がこんなにたくさん。
接客した本人だったら、なおさらうれしいと思う。
金・土の週2日のみオープンしていた東京店は、今年から週5日営業に。以前は奈良のスタッフが毎週交代で出張してお店を開けていたそう。
「ものを右から左に売るんじゃなく、この場所の空気も一緒に持ち帰ってもらいたい。これは、奈良の本店も東京店でも、共通して思っていることです」
全国8カ所を回る出張受注会「NAOTキャラバン」の発想も同じ。
NAOTの靴を愛用している人も、まだ知らない人にも、直接会って話したい。届けたい。
キャラバンの会場には、県外からわざわざ足を運ぶ人もいる。リアルな場で出会うからこそ、些細な疑問や興味について訊ねてくれる人もいて、購入後のアフターケアの機会にもなっているそうだ。
さらに好きなことを追求し続けるうち、loop&loopは徐々に“靴屋さん”の枠をはみ出していく。
たとえば、お店で音楽ライブや展示を開催したり、靴にまつわる旅のコラムやインタビュー記事をWebサイトに掲載したり。
今年は「ループ舎」という出版社を立ち上げ、本の出版もはじめた。
「まじめな企画も実験的なコーナーもあるし、いろいろです。スタッフ一人ひとりが個性的だから、人の幅の分だけ会社の振れ幅も広がる。そんなところを面白がってもらえたらいいですね」
そんな敦さんの話を隣で聞いているのが、奥さまの宮川美佐さん。loop&loopは、ここに美佐さんのお母さんを加えた3人で立ち上げた。
「ここで働くなら、受け身じゃない人のほうが楽しめるんだろうなと思っていて。社会人経験があるなしに関わらず好きなことを突き詰めている方とか、自分の発案で何か実現された経験のある方が合っているのかもしれません」
最近は3ヶ月に1回マルシェを開いているそう。
もとは食べるのが大好きなスタッフとお客さんの間で小さくはじめたもの。回を重ねるごとに熱が入り、今ではオリジナルのおにぎりやジンジャーシロップをつくって提供するまでに。
「今日も午前中、食好きなメンバーはお休みを使って落花生を掘りに行ってるんですよ。車で1時間ぐらいの名張まで、定期的に野菜を収穫に行かせていただいて。川で土を洗い落として茹でたら、まぁ~おいしいんです!」
みなさんとにかくフットワークが軽い。会社や仕事の枠組みありきというよりも、自分から仕事をつくり、事業の幅を広げているという感じ。
「大切にしていることは10年前から変わってないんです。目の前の人と楽しい時間を過ごしたいし、喜んでもらえたらお互いにうれしい。そうやって誰かの『好き』をスタッフ同士やお客さんとも共有しながら、たくさん笑っていられたらいいなって」
奈良の本店は店舗とオフィスの間仕切りがゆるやかで、お客さんもスタッフも、お互いに顔がよく見えるようなつくりになっている。
また、スタッフが社内のバーベキューや忘年会にパートナーや子どもを連れてくることもよくある。誰が決めたわけでもないのに、いつのまにかそんな雰囲気ができていたそうだ。
「わたしが個人的にうれしいのは、うちで働くなかで出産を経験した子は100%戻ってきてくれているんですね。わたしも含めたら4人かな?これから産休に入る子も、戻ってきたいと言ってくれていて」
「妊婦さんやお子さんのいるお客さんに対して話せることも、きっと出産前より出産後のほうが増えますよね。だから働き方も、自分が働きやすいように調整してもらえたらと思っています」
一緒に働いているのはどんな人なのだろう。
こちらは2年前に入社した牧志保さん。みんなからは「まきし」と呼ばれている。
NAOTキャラバンの企画運営や靴の修理に加え、ディスプレイづくりがまきしさんの主な担当。
「わたし植物がすごく好きで。家のベランダで観葉植物を育てて一人でニヤニヤしていたんですけど、それをスタッフに話したら、店頭を緑で飾ったらかわいいだろうからやってみなよってご指名いただきまして」
また、前職の先輩に教わった刺繍を活かして、会社の年賀状や年二回のニュースペーパーの背表紙にワンポイントのデザインを施したりもしている。
「この会社に入ってから、思いもよらない経験やスキルが活きていて。自分の得意分野とか“好き”を活かせる機会は必ずある環境だと思います」
もともと販売の仕事を5年間続けていたまきしさん。夜遅くまで続く仕事に体調を崩してしまい、自分のペースで働ける場所をあらためて探すことに。
当時好きだったお気に入りのWebサイトを一つひとつ見ていくと、あるページで思わず立ち止まった。
「たしか当時はまだNAOT NARAはなくて、風の栖のページだったと思うんですけど、お店の営業時間が11時〜サンセットと書いてあって。つまり、日が沈んだら閉まる。それがものすごく人間的に感じて、当時の自分の気持ちにも合っていたんです」
NAOT NARAも風の栖も、今でも日が沈んだら閉店を迎える。このまちのリズムに沿っているようで、なんだかいい。
「わたしにとっても、その点は大きかったですね」
そう話すのは、カタログの製作やデザインまわりをメインで担当している上野なつみさん。
まきしさんと同じく、前職は販売の仕事で百貨店に勤務。
売り場の近くに窓はなく、10月ごろからダウンのコートを着て店頭に立っていたので、季節感もない。そんな環境が当たり前だと思っていたそう。
「今は毎朝歩いて通勤してるんですけど、雨のにおいとか、秋めいてきた空の色とか。そういう変化を感じられることが自分にとって大切だったことに、やめてから気づかされましたね」
かといって、日々のリズムがゆったりしているわけでもない。一人ひとりがいろんな仕事を横断しながら、新しいことにもどんどん挑戦する。
そのバランスが上野さんにとってはちょうどいいみたいだ。
「常にアンテナは立てていると思います。デザインとかWebの企画だけじゃなくて、修理のやり方とかメールの送り方とか、ちょっとしたことでも変えたらよくなることってたくさんあるじゃないですか」
「小さな会社なので、悪いことがあればみんなで一緒に転がっちゃうし、一緒によくしていくこともできる。役職関わらずみんなが言い合っていろんなことが変わっていく会社だから、引っかかったことをそのままにしないで、拾い上げていくのは大事なことだなと思います」
どのスタッフの方に聞いても、楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
それと同時に感じるのは、みなさんすごくバイタリティにあふれているということ。
奈良のスタッフが持ち回りで毎週末の出張を続けた結果、東京店を週5営業することになったり、新しいイベントや企画をどんどん形にしたり。楽することと楽しいことは違うし、効率を度外視してでもこうしたい!これが好きだ!というパワーを感じました。
NAOTの育てる靴とともに、ずんずん歩いていってください。
(2018/10/16 取材 中川晃輔)