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ご主人の温かい笑顔にほっとできる喫茶店、つい誰かにお土産を買っていきたくなるパティスリー。「今日は何がオススメですか?」と店員さんと立ち話がはじまる総菜店。人が集い、心地よいと感じる街には、個性豊かな繁盛店があります。
クロノバデザイン株式会社は、地域に根ざす個人経営の商店や飲食店などの“個店”を専門に、デザイン・設計・施工まで一貫して行うデザイン会社です。
美容室やパティスリー、飲食店など数多くのお店づくりを手がけてきました。
お店のブランディングから関わり、新たなカルチャーや人のつながりまで生み出す。街全体を変えていくような場のデザインを続けています。
土台にあるのは、感覚だけに頼らないロジカルなデザイン思考。
ここで空間デザイナーとして働く人を募集します。
一連の流れに携わることができるので、デザインをきちんと仕事にしていきたい人には良い経験が積める環境だと思います。
渋谷と原宿をつなぐ、キャットストリート。
カフェや雑貨店、ブランドの旗艦店を横目に歩いていくと、クロノバデザインのオフィスが入るビルが見えてきた。
エレベーターで6階に上がり、大きなテーブルのある打ち合わせスペースへ。
まずはプロデューサーの尾崎さんに話を伺う。
仕事をはじめたころは、床の張り替えや家具の入れ替えなど、お客さんの依頼にはなんでも応える会社だったという。
現在のスタイルに至る契機になったのは、尾崎さんが定期的に訪れるニューヨークでの出来事。
「NYでは、今はノリータ、次はブルックリンというように流行りの街が変わっていくんですね。なぜかというと、街の外れたところにいいお店ができ、そこに新しいお店がついてくるから」
点が面に広がって、一帯がお洒落なエリアに変わっていく。個店の存在を通して街が変わる姿を目の当たりにしたという。
「わざわざその街に行く意味をお店がつくりあげている。私たちも日本で、魅力的な個店をつくることで街の文化度を上げるような仕事に絞り込んでいこうと思ったんです」
チェーン店をたくさん担当したほうが効率的だし、ハイブランドの店舗を手がけるほうが箔がつくのに、と思う人もいるかもしれない。
けれども尾崎さんは、自分たちの力でビジネスを興し、継続させている“個店”にこそ、街を成長・発展させる可能性があると考えている。
「いい店とは、繁盛店になるということ。お客さんを惹きつけるような、魅力あるお店づくりのお手伝いをしていきます」
出店にはとてもお金がかかる。たとえば、東京にある雑居ビルの一角の小さなお店でも1500万円ほどは必要で、そのうち約7割は内装に充てることになる。
「よほどラッキーじゃない限り、とりあえずオープンさせたお店じゃうまくいきません。とくに内装は重要です。どんなお店にしたいのかじっくり想いを聞いて、コンセプトを見つけることからはじめます」
空間を形づくる前段階から関わり、魅力を最大限に引き出していく。
そのために、直感だけに頼ることはしないという。
「デザイナーの感性に任せてデザイン案をつくる会社がよくあります。お客さまも、複数案の中から好きか嫌いかでデザインを選ぶ。でも、店の生き死にを個人の感性に任せるわけにはいかないですよね」
「この場所で、どういうコンセプトとデザインならお客さんを呼べるのか。ロジカルに分析して、経営がうまくいくようなデザインにする。我々はそれを“デザインシンキング”と呼んでいます」
たとえば飲食店のデザイン。クロノバデザインでは、お客さんが入るスペースだけでなく厨房の中までデザインを行う。
厨房器具の並べ方やスムーズな導線の確保、火事になりにくい換気や空調の仕組みまで。相談しながら、オーナーの癖も考慮してもっとも使いやすいお店をつくる。
「そうすれば、普通は3人必要なお店が2人、暇なときは1人でまわせるかもしれません。オペレーションを小さくするためのデザインはすごく大事で、これは経営に直結しているんです。デザインと経営というのは私の大きなテーマですね」
自身も飲食店を経営している尾崎さん。
どんなに見た目が良くても、潰れてしまっては意味がない。きちんと収益をあげることと、お客さんの集まる魅力的な場所であること。その両立が必要だと、飲食店経営者としても強く感じているそう。
ロジカルという言葉からは客観的・論理的で無機質な印象も受けるけれど、その根底には、独りよがりではなく、相手が本当に喜ぶ仕事をしたいという想いがあるように思う。
具体的に、どんなふうに仕事を進めていくのか。チーフデザイナーの諏訪原さんにもお話を伺った。
「ディレクターとデザイナーとでコンセプトを固めたら、現地に赴き寸法を測ります。図面化し、オーナーさんの要望や意見を聞きながらレイアウトやデザインを詰めていく。無事契約に至れば、施工スタッフも加わり工事を進めていくというのが基本的な流れですね」
「僕らは常にチームで仕事を進めます。円滑に進められるように、さまざまな工夫をしているんですよ」
たとえば、打合せに参加していないスタッフでもオーナーの人柄や考えを掴めるよう資料にまとめたり、LINEグループで意見を出し合ったりする。着工後は、現場の写真が施工チームから毎日届く。
密な情報共有によって、短いスパンで案件を組み立てていくことができるのだそう。
諏訪原さんが先日担当したのは、とある高級焼鳥屋さん。
「出店地である六本木は、大使館や美術館、美味しいお店も集まる洗練された街。そんな立地を活かした、ここにしかないデザインを目指しました」
着目したのは、コの字型のカウンターと中に配置されたステンレスの厨房器具。店内でお客さんが囲炉裏を囲んでいるような風景を表現できないかと考えた。
「ステンレスはびかっと光るから嫌がって隠したがる人もいるけど、厨房の使い勝手を考えると残しておきたい。光の反射で、人が歩くたびに影がぼんやりと天井に映って動くんです。それをうまく利用して、囲炉裏から立ち上る煙のような、曖昧な様子を表現できたらと思って」
どのような方法で煙を表現するかチーム内で検討した結果、職人と4人がかりで壁に手描きすることに。交代で作業に入りながら、4日かけて完成させた。
光やお客さんの目線、厨房の動きを計算して生まれたデザインは、オーナーにもとても喜ばれたそう。
「論理的な思考にもとづいたデザインだけだとつまらないので、感覚的なところと行き来するように考えています。機能性と店内の魅せ方、居心地の良さは、どれか一つが欠けたらうまくいかないので」
「ぼくは料理するのが好きなので、仕事をしながらオーナーさんにおすすめの調味料や調理法を教えてもらうこともあって。教わったことがデザインに活きることもあるし、仕事を通じて新しい知識を得られるのも刺激になっていますね」
デザインにこだわりつつ、出来上がるまでのスピード感はとても早い。小さなお店で1〜2ヶ月程度、複数のフロアがある大きめのお店でも約半年。
少しでも早くオープンできるように迅速に作業を進めながら、オーナーとお店にとって最高の状態をつくり上げるにはどうすればいいか、常に考えを巡らせている。
そんな先輩の背中を追いかけながら、奮闘中なのがデザイナーの橋口さん。
専門学校で商業施設の設計建築を学び、クロノバデザインに入社したのは1年ほど前のこと。
「出身は埼玉なんです。池袋や渋谷に遊びに行っても、チェーン店ばかりの通りは地元と変わらなくて。『個店をつくることで、その街に行った意味を感じられるようにする』という考えに共感しました」
最初は先輩デザイナーのアシスタントとして、床材などのサンプル請求や資料集め、パースの作成からはじまったそう。
ただし、新人でもどんどん現場に出ていくのがクロノバデザインの特徴。橋口さんも打ち合わせや現場の採寸に同行しながら、大きな案件を担当することもあったそう。
「5つ星のペットホテル」をコンセプトに、地下1階から地上3階までのビル1棟のデザインを進めたときのこと。
「私が入ったときには、大まかな図面は出来上がっていたけれど、仕上げ材にどの製品を使用するか、色味はどうするかなど具体的なことは決まっていませんでした。やることが多くて最初はパニックになりそうでしたね」
さらに、現場では想定外のことが起きるもの。当初考えていた床材が使えなくなり、急遽タイル屋さんに特注したという。
「わからないなりに考えた苦肉の策で…白いタイルの四隅を落として、小さなタイルと組み合わせて貼り付けることにしたんです。対応可能か施工業者さんに交渉するところから、オーナーさんへの提案までやりました」
経験が浅くても、自分で判断しながら物事を進めていくことが求められるんですね。
「そうですね。人任せにしている人はいないです。コンセプトを決めていく段階で施工側もデザインについて指摘やアドバイスをくれるし、私たちも要望を伝えるし。意見はみんなで出し合う感じです」
「上下関係が厳しいのかなと思っていたら、意外とフランクで。会社が主催するクロノBarっていうイベントがあって、社内で飲んだりするんですよ」
風通しの良いチームだから、それぞれがお互いに足りない部分を補い合いながら動いていく。
橋口さん自身も、ときには現場に行き、工事の指示を出すことや、自身がDIYでつくった棚を店内に取り入れることもあるそう。
案件が重なったときは、終電近くまで働くこともしばしば。それでも「いろんなことを経験できるのが楽しいですよ」と笑う姿からは充実感が感じられた。
クロノバデザインは今年「商店をデザインする」というテーマを掲げ、個店を通したコミュニティのデザインにより積極的に関わっていこうとしています。
昔のように気さくに井戸端会議ができる雰囲気もありながら、年代を問わず利用したいと思える現代に合ったデザインとは何なのか。模索し続けているところ。
尾崎さんはこんなことを話していました。
「我々の仕事は本当に多様なんですよね。名誉ある評価を受けた鮨店から、流行のタピオカミルクティー屋さんまで幅広く依頼もきていますし、たくさんの人に関わっていただいてお店はできている。だからこそ、僕らはそんな多様性を活かすために、ロジカルでいないといけない」
「ロジカルに整理整頓されているから、みんなが情報を取り出しやすく、途中からでも入っていける。新しく仲間になってくれる人も、年齢も性別も国籍も問わないので、そこに個性とアイデアを貸してもらえたらと思います」
そうして生まれたデザインを通じて、街にはどんな風景が広がるんだろう。
歩いてみるのが今からとても楽しみです。
(2019/5/20 取材 並木仁美)