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東横線沿いの小さな街で
楽しい暮らしの種まきを

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

神奈川県横浜市に、妙蓮寺という駅があります。

渋谷から横浜へと伸びる東横線の沿線。駅前には小さいながら活気ある商店街が広がっていて、大きなお寺と住宅街がそれに続いている。

チェーンと個人店、賑やかさと静けさ、懐かしさと利便性。いろんな要素がゆるやかに共存する街です。

そんな街で59年間続くのが『住まいの松栄』。住宅の設計・施工、不動産の賃貸管理など住まいにまつわるあらゆることを手掛けてきた、まちの不動産建築屋さんです。

会社は3代目の若社長が入社してから、自ら地域へ仕掛けることをはじめました。

地域の古民家を改装して月に1度ご飯を持ち寄る場を開いたり、商店街の店主を呼んで1日バーを開いたり。そして今回、新たに街の人を取り上げるインタビューサイトを立ち上げようとしています。

社長の酒井洋輔さんは、こんなふうに話していました。

「ワクワクとビジネスの両方を考えたいと思っています。ちゃんと真面目に仕事をしながら、この街をもっと面白くしていけたらって」

今回は、広報スタッフを募集します。

主な仕事は、新しく立ち上げるサイトの取材編集と、HPの更新や広報物の作成といった広報活動。この地域にじっくり根を張ってゆくような仕事だと思います。



渋谷駅から東横線の特急と各停を乗り継いで25分。妙蓮寺駅に到着する。

この日の待ち合わせ場所は、駅のすぐそばの古民家。竹やぶの小道を抜けて、ツツジやバラの咲く広い庭を横切った先にあらわれる大きな一軒家だ。

挨拶をしながら使い込まれた扉をカラカラと引くと、奥から返事が聞こえてきた。

「どうもどうも、お久しぶりです。すぐに着けましたか?」

洋輔さんと、奥さんの裕子さん。お昼ご飯にと、近くのお弁当屋さんの手巻き寿司とお団子を用意してくれていた。

洋輔さんは、この街の不動産建築屋さん『住まいの松栄』の代表。昨年の募集で知り合ってから縁あって何度かお会いしている。

松栄は、洋輔さんのおじいさんが創業した会社。建築からはじまった仕事は、地域の人の相談に一つひとつ応えるうちに、不動産の仲介、管理と徐々に広がっていったそう。

「この古民家も、祖父の代からお付き合いのあるオーナーさんから管理を任せていただいているもので。59年間、地域に根付いてやってきた信頼のおかげですね」

そう話す洋輔さんは、もともと家を継ぐ気はまったくなかったそう。

「学生の頃から、強引な仕事を堂々とする業界の人をたくさん見てきたんです。うわっ、怖すぎると思って、大学卒業後はCGデザイナーになりました」

「ただ、母が体調を崩して家を手伝うようになって。強引な仕事はまったくやる気がなかったし、お客さまの立場に立って、かつ売り上げもきちんと立てられる方法を考えるほうが性に合っていると思ったんです」

洋輔さんはまず、宅建士や建築士、住宅診断士などさまざまな資格を取得。

接客では、メリットとデメリットをきちんと伝えて、最終的な判断はお客さんに任せる。細かな要望にもできるかぎり応えていく。

そうするうちに、確かな反響と売上が伴ってきた。

「言ってみれば当たり前のことで、すごくも何ともないんですよ」

「お客さまが喜ぶことを考えて、応え続けたら必ず仕事は回る。住まいにまつわるサービスなら大手さんにも負けないって気持ちじゃないと、成り立たないと思っています」

そして今、会社の方向性をあらためて考えているという。

「松栄のキャッチコピーを『ひととまちにしあわせのたねを』にしようかと思っているんです」

ひととまちに、ですか。

「ええ。僕らの仕事が、外に広がってきている感覚があるんですよね」

洋輔さんと裕子さんが、月に1度この古民家で開いている『もちより食堂』はその象徴だと思う。

地域の人たちが料理を一品ずつ持ち寄る場で、子どもからおばあちゃんまで毎回さまざまな人が集まっている。

さらに昨年8月は、古民家で映画の上映会を開催。夏休み中の子どもに向けて、ポップコーンや線香花火も用意して盛り上がったそう。

そもそも洋輔さんは、どうしてこの取り組みを始めたんだろう?

「おかげさまで松栄の仕事がだんだんうまくいって、資金に少し余裕が出るようになって。その資金をどんなことに使いたいかって考えたんですよね」

「それで、色んな人が集まってご飯を食べている姿っていいよなと思ってもちより食堂を始めて。それが楽しかったんです。結局僕は、自分たちが楽しく暮らしていくための街づくりをしたいんだなって気づいて」

そして今回、洋輔さんは新たなプロジェクトを立ち上げようとしている。

「この妙蓮寺と両隣の駅に絞って、狭く深い街サイトをつくろうと思っていて」

街の情報サイト、ってことですか?

「というよりも、街の人のインタビューサイトですね。たとえば妙蓮寺には老舗の呉服屋さんやうまいおでん屋さん、豆本協会の会長とか面白い人がたくさんいて。でもそういう情報ってマスメディアには載らずに埋もれている」

「僕は、そういう可視化されていないものに本当の価値があると思うんですよね」

街の担い手たちにインタビューした記事をアップすることで、街の面白さをより広めていける。地域の人たちも、この街への愛着をより深めてくれるんじゃないかと考えた。

「街のファンが増えれば街の価値も上がっていく。今までお世話になった地域の皆さんへの恩返しにもなると思っています」

その取材編集を担当するのが、今回募集する広報スタッフ。

まずは洋輔さんと一緒に取材に出かけて、写真や文章で街の人の魅力をまとめていくのが仕事になる。

「クオリティを保つために、今のところ松栄以外のスポンサーや広告枠は考えていません。最初はWordPressのテンプレートを使って、2週に1本くらいのペースで始めていこうと思っていて。早ければ採用から1〜2ヶ月でのローンチを考えています」

「街の皆も巻き込みたいので、たとえばここで誰でも参加可能な編集会議を開いても面白いかなって。最終的な責任は僕が取るので、自由にやってもらいたいです」

そしてもう一つ大切な仕事が、会社の広報。

主な仕事は、ホームページやSNSの情報更新や、チラシなどの広報物の作成、松栄が取り扱う物件の撮影など。どれも日々更新していきたいけど、今は忙しくてほぼ何もできていないそう。

「いい加減このままじゃまずいなって。でも、仕事を全部合わせても膨大な作業量にはならないと思いますし、僕たちもちゃんとサポートします」

「ちょうどホームページもリニューアル作業中で、僕のアシスタントの立場で制作会社とのやりとりもお願いできたらと。しっかり責任を持って働いてくれる方であれば、経験はなくても大丈夫ですよ」

新しいサイトと、会社の広報。この二つを任せたいのには理由がある。

「楽しそうなサイトをやっているね、で終わるのではなくて。地域の住まいを手掛ける松栄がいただいた資金をまちづくりに使う、という循環をしっかり理解してもらいたいんです」

基本的にはどれも地道な仕事。インタビューサイトだってPV数が伸びる保証はないし、読者がつくまでは不安に思うことも多いかもしれない。

それでもこの仕事には必ず意味があると洋輔さんは考えている。

「僕は、ワクワクとビジネスの両方を考えていたい。何よりこの街には面白い人たちがたくさんいるんですよ」



お昼ご飯を食べ終えたところで、妙蓮寺の街を案内してもらうことに。

まず向かったのは、商店街のゆるやかな坂道を下った先にある『石堂書店』。

「この書店は今年で70年目になります。祖父、父、そして僕で3代目です」

そう教えてくれたのは店主の石堂さん。

「ずっと街の本屋さんとしてやってきて、今が節目だと思っています。これからも続けていくためには色んなチャレンジをしないといけないなと」

「酒井さんとも相談するなかで、本が好きな人を広く巻き込んでみようって話になって。去年、一緒に本屋バーを開いてみました」

本屋バー?

「はい。下戸の僕がバーテンになって…(笑) 集まってくれた皆さんに、好きな本やこれからどんな本屋さんがあったら嬉しいかを聞いてみました。2回目は隣駅の菊名で出版社を営んでらっしゃる三輪舎の中岡さんもお招きして、また本の話をして」

すごく楽しかったです、と笑顔で話す石堂さん。本屋を愛する人は確かにいるという感触を得たそう。

そして先日、本好きな人や本に関わりたい人を募集して、DIYと場づくりを考えるプロジェクトを開始。近くの空き店舗を改装して、ゆったり読書できる空間をつくることも考えている。

「やっぱり不安はあります。ただ、大変な理由を挙げていたらきりがないので」

「選書の技術をちゃんと磨いて本を売ること、色んな人が関われる本屋にすること。これからはどちらも必要だと思っています」



新たな挑戦をこの街で始めようという人もいる。これから立ち飲み屋を開く予定の石井さんも、その一人。

地元は横浜。もともと料理が好きで、アルバイト先も就職先も飲食店を選んできた。

「休みの日も気になる店を巡って、海外旅行でも食器を選びに工場に行って。常にそんなふうに生きてきたので、いつか自分でお店を開きたいとずっと物件を探していました」

最初はみなとみらい付近で探していたものの、家賃相場が高くてとても参入できなかった。

「じゃあ自分の身の丈にあった、面白いことができそうな場所はどこかなって探すなかでこの街に行き着いて」

横浜の4駅手前で、人の乗り降りが多い静かな住宅街。飲食店が少ないから、地域の人も足を運んでくれるのではないかと考えた。

「酒井さんに出会ってすぐ、商店街のうまい蕎麦屋に連れて行ってもらって、店主さんと3人で夜中まで飲んで。物件、まだ決まっていないのに(笑)」

「自分がやりたいことって、ご飯を出して喜んでもらうだけでなく、街を活気づけることでもあるので。こうして地域とのご縁もできたし、ここなら一歩進めるんじゃないかって」

石井さんのやりたいこと。どんなことを考えているんですか?

「街の人と一緒にお店をつくりたいんですよね。立ち飲みならコミュニケーションも取りやすいし、イベントとかで住人同士が触れ合える機会もたくさんつくっていきたくて」

「ただ待つんじゃなくて、どんどん攻めます。このお店があるから妙蓮寺に行ってみよう、住んでみようって思ってもらえるくらいのお店にして。最終的には…妙蓮寺に特急が停まったらいいですよね(笑)」

一通り取材を終えて、洋輔さんとは駅前でお別れ。去り際にこんなことを話していた。

「この街には種を蒔いている人がたくさんいて。僕はその種を育てて、もっと魅力を知ってもらいたいんですよね」

街って、人が集まってできる空間なんだと思います。生き生きとしている人が集まる場所はきっといい街になるし、それを呼び水に色んな人が集まってくるかもしれない。

この人たちがいる街ならきっといい仕事ができるんじゃないかな。

妙蓮寺は、そんなことを感じさせてくれる街でした。

(2019/04/25 取材 遠藤 真利奈)

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