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海の向こう、
なんにもない島で
よく働き、よく遊ぶ

東京都・利島村(としまむら)。

伊豆諸島の中で一番小さなこの島には、300人が暮らしています。

雄大な自然に囲まれ、伊勢海老や特大サザエといった海の幸が豊富。島の8割を埋める椿の木は、冬になれば一斉に花を咲かせます。

住人の方は、この島のことをこんなふうに話していました。

「ここはきれいな砂浜もないし、コンビニも娯楽も何もない。リゾートじゃなくて、生活するための島なんです」

今回募集するのは、地域おこし協力隊として島の漁協で働く人です。まずはこの島と、ここに暮らす人たちを知るところからはじめてもらえたらと思います。



22時に東京湾を出航した船は、翌朝利島に到着する。

眠い目をこすりながら着岸を待っていると、陸から大きな声が聞こえてきた。

「はい、着きました!」「揺れるので、ゆっくり進んでくださいね!」

声の主は船場の職員さんや警察官の方。元気な声に、はっと目が覚める。

港を離れ、まずは予約していた民宿へと向かう。朝食と昼食をいただいてから、海辺の漁協に向かっていざ出発。

海を眺めながらしばらく歩くと、遠くうっすらと島影が見えはじめた。

島には集落が一つだけ。

端から端まで歩いても15分ほどで、商店や民宿、郵便局や診療所がコンパクトにまとまっている。

漁協があるのは集落の端。たどり着いた建物の前では男性が一人、空調機をいじっている。近づくと「ああ、取材ですよね。すみません、先に入っていてください」と一言。

通された応接間で待っていると、しばらくしてさっきの方が現れた。

「お待たせしました。設備が古くて、すごい音が出ちゃって」

「あ、漁協の川村と言います。一応、事務方のトップです」

それは気づかずに失礼しました…!

「まあ、汚いシャツ姿だし(笑) これ水です、どうぞ」

タオルで汗をぬぐいながらペットボトルをこちらに手渡し、パイプ椅子に腰掛ける川村さん。

「嘱託さん1人と正職員2人だけだから、何でも自分たちでやるしかないんですよ。最近は軽減税率の導入に向けて、簡単な販売管理のソフトをつくっています」

そんな小さな漁協でも、取り扱う海産物はビッグネーム。伊勢海老とサザエが、その筆頭だ。

「うちの伊勢海老は高級魚のイサキを食って育ったから、うまいですよ(笑)」

「サザエも他と比べて特大サイズ。オフシーズンにはトサカノリっていうピンク色の海藻や、タカベって魚がとれます。これもうまいけど、毎日食っていたら飽きるね(笑)」

こうした海産物を漁師さんから受け取り、市場に出荷するのが漁協の仕事。

海老やサザエはいけすに入れておいて、市場で高値がつくタイミングを見計らって出荷する。

一方で波が高い日には貨物船が島に来られないため、波と相場の両方を読みながら、どのタイミングで、どれくらいの量を出荷するかを判断してゆくのだそう。

「これはいける!って日には、朝から船の貨物を乗せる締切時間までずっと発泡スチロールの箱に詰める作業をして出荷する。多い日は、1日で800kg近く出荷することもありますね」

「うちは漁師さんが海でとってきてくれたものを効率よく売って、なるべく大きなリターンを返す。売れれば価値だし、売れなかったら無価値。常に気を張って、相場を張るような感覚で仕事しています。漁師さんとは、運命共同体みたいなものだから」

力強い海の仕事という印象だけれど、一方で細々とした業務も多いのだそう。

「出荷伝票の整理とか、漁師さんへの支払いとか。依頼があれば個人向けの小売もするし、信用事業の業務や保険業務もやっている。荒々しいようで、非常に繊細な仕事でもあるわけです」

仕事の幅が広いんですね。

「だから忙しいですよ。常に時間に追われているというか。少なくとも仕事に関しては、のんびり島暮らしではないですよね(笑)片手間に仕事していちゃ厳しいです。でも禁漁期間には、まとまった休みが取れるかな」

「禁漁期間は、伊勢海老が6〜8月、サザエが7〜8月。あと、旧暦の10日から20日は自主的に禁漁している。月の光が明るくて、海老が動かなくなっちゃうんだよね」

へえ、そんな理由があるんだ。自然とともに働いているんだな、と感じる。



川村さんとバトンタッチする形で、もう一人の正職員の櫻庭さんに話を聞く。

「去年の2月からここに住んでいます。利島に来たのは、本当にたまたまですね」

仙台で暮らしていた櫻庭さん。転職サイトを眺めていたとき、何気なくクリックした「その他団体」のページで、ここの求人を見つけたそう。

「その求人がなんだか気になっちゃって。もともと海や魚が好きなこともあって、読めば読むほど、自分に合っているような気がしたんですよね」

「こんな小さな島の漁協、応募するやつ僕ぐらいしかいないんじゃない?って(笑) 運命的な求人を見ちゃったと思いました」

ただ、当時の櫻庭さんは仙台に新しく家を買って、娘さんも小学校に入ったばかり。移住は現実的ではないかもしれない、と思いながら面接を受けにやってきた。

「朝に島について、面接を受けて。午後の船が出るまで島を一人で歩いていたら、高台に行きついて。そしたらわっと視界がひらけて、右手に大島が見えて、さらに左手には伊豆半島も見えて」

「なんていうのかな…その景色が、すごく安心感があったんです。ああ、こんなに近いんだなあって。ここならやっていける気がするって気持ちが芽生えたのかな。帰りの船の中で、この気持ちを書いたメールを写真と一緒に妻に送って。『面接がうまくいったら本気で考えたい』って伝えました」

ご家族は、どんな反応でしたか?

「妻も躊躇はなかったみたいです。『たしかに家は買ったけど、そこに固執してチャンスを逃すのは違うんじゃない?』って。親父もさすがに驚いていたけど、行くって決めたなら行けばいいって言ってくれましたね」

そうして利島で働き始めた櫻庭さん。全くの異業種からの転職だったため、一から実務を覚えていった。

朝8時頃に出勤したら、いけすで海老やサザエを発泡スチロールの箱に詰める。魚の水揚げがあればそれも詰める。

荷を乗せる船が出航するまで、時間に追われながら次々に箱をつくってゆく。ほぼ毎日、約3時間かけて重い箱を持ち運びする体力仕事だ。

午後は一転、事務作業。コンピュータ上で出荷状況を管理したり、信用事業や保険業務の手続きを進めたり。そして17時ごろに帰宅。

午前は体を使って、午後は頭を使って。メリハリがある生活だという。

「そんなに腕っぷしに自信があったわけじゃないけど、力も多少はついたかな。ただ全くの異業種だったので、最初はわからないことだらけだし、今までの経験も生かせない。自分なりに折り合いをつける必要はありました」

「でもペースを掴んだり、自分の役割が見えてきたりしたら、解消できたことです。自分が好きな海を仕事にしているんだから、もっと勉強しないといけないなって思っていますね」

事務所には、漁師さんもふらりと訪れる。「ちょっと目新しい魚がとれたから来てくれ」なんて誘いがあれば作業の手を止めて見に行くのだそう。

「漁師さんは厳しいながらも、あたたかい人たちです。漁業という仕事の特性なのか、結構オープンですね」

「それに大変なことがあっても、この景色を眺めながら仕事ができることは気持ちいいですよ」

島に来てから、お子さんたちの様子も変わったそう。

家で過ごすことが多かった娘さんは、放課後や休みの日は友だちと椿林を走り回るように。島の大人とも気軽に話すようになった。

実は利島は、櫻庭さんたち子育て世代の移住者が多いのが特徴。15歳以下の子どもも60人ほどいて、にぎやかな雰囲気なのだとか。

「島の人たちも娘たちを名前で呼んでくれていて。それがすごく嬉しいんですよね」

「家族で移住して1年半、少しずつ島に馴染めてきたかなって感じています」



櫻庭さんが島暮らしを充実させることができているのは、積極的に地域にとけ込もうとしてきたからかもしれない。

地域の集まりごとや飲み会に参加するのはもちろん、娘さんに教わって学校の校歌まで覚えたのだそう。そんな櫻庭さんの姿を、島の人も嬉しく思っているようだ。

「島の人たちの気質は、基本的に受け身なんですよ。でも飛び込んでくる人に対してはすごく返してくれる。自分から人の家にいきなり遊びに行けちゃうくらいの人のほうがいいと思います」

そう話すのは、役場の荻野(おぎの)さん。今回の取材を企画して、アテンドしてくれた方。

荻野さんも移住者の一人。島にやって来た当初は、ほぼ毎日、いろんな家に飲みに行っていたそう。

「最初はどうしても、お前は誰だ?って目で見られるので。だから誘われたときは必ず顔を出したし、受け入れてもらう以上それが務めだとも思っていたのかな。島の人には何回飯を食わせてもらったかわからないくらい、いまだにすごいお世話になっているし可愛がってもらっていて」

「だからこうして外から島に来てくれると、島の人への恩返しのチャンスをもらったと思うんです。ちゃんと島を楽しんでもらいたいし、紹介したい。それで『利島っていいよね』って思ってもらえたら、すごい嬉しいですよね」



取材を終えると、荻野さんが「ああ、明日の帰りの船、出ないみたいだね」と一言。どうやら嵐が来るようで、ジェット船が着岸できないという。

「せっかくだし、うちで飲みますか?」

えっ、いいんですか?

「うん、いいよ。そのほうが楽しいしね」

その晩、荻野さんの家にお邪魔すると、櫻庭さんたちが待っていてくれた。

島には飲み屋が1軒しかないので、こうして誰かの家で集まって飲むのが伝統なのだそう。

メンバーは全員移住者。島生活一年目の人も十年選手も、島の風習や思い出話を楽しそうに教えてくれる。ときおり真面目な仕事の話を挟みながら、たわいもない会話は続いてゆく。

0時を回ったころ、誰かの「明日の仕事に響くぞ〜」という声で、名残惜しくも解散。気づけば7時間近くおじゃましてしまった。

「取材時間より長くなっちゃいましたね」とワイワイ話しながら、静かな夜道を皆で歩く。

この島で暮らすって、きっとこういうことなんだろう。

娯楽は少ないし、仕事だって自由に選べるわけじゃない。けれど、何かあったときにすぐ駆けつけられる距離に皆が住んでいて、なんでもない日に集まって過ごせる仲間がいる。

何より大人になってからそんな関係性を築けるなんて、ちょっとうらやましい気もするな。そんなことを考えながら、宿の布団に潜り込んだ。



翌々日、天気は快晴。

島民の方に混じって、港でジェット船を待つ。

2泊3日の滞在も今日でおしまい。少し名残惜しい気持ちでいると、隣にいた荻野さんが「また来ればいいですよ」と一言。

たしかに、ジェット船でたった2時間半。来たいと思ったときに来ればいい。

7月から9月にかけては、毎日利島行きのジェット船が出ます。ちょうど釣りやドルフィンスイムの季節、海を眺めながらゆっくり過ごすだけでも気持ちいいはず。

よければ一度、訪ねてみてください。利島の人は、きっと喜んで迎えてくれると思います。

(2019/05/20〜22 取材 遠藤 真利奈)

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