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※多数のご応募をいただいたため、2019年8月21日を以って募集を終了させていただきます。(2019/8/21)「自分の仕事が、誰かの人生を変えていく。だからわたしはこの仕事を続けるんです」
たびたび登場したこの言葉が、何より印象的な取材でした。
富士市産業支援センターf-Biz(エフビズ)は、中小企業をサポートする産業支援拠点です。
特徴は、専任のアドバイザーが相談者の言葉にとことん耳を傾けて強みを見つけ出し、売上アップのための具体的な提案をすること。
相談料はとらず、企画書や決算書もいらない。お金をかけずに知恵で勝負する新しい形のコンサルティングは「Bizモデル」と呼ばれ、オープンから10年経った今では、全国20以上の市町村に広がっています。
今回募集するのは、バックオフィスで働く相談案件の管理スタッフです。すべての案件を把握し、アドバイザーと相談者をしっかりと支えていきます。
情熱を持った人に、ぜひチャレンジしてほしい仕事です。
東京駅から新幹線こだまに乗って1時間。新富士駅を出ると、富士山が大きくそびえ立っていた。
そのまま駅前のバスロータリーに向かって、市街地行きのバスに乗り込む。
車窓から見える煙は、製紙工場から上がるもの。水資源の豊富な富士市は、紙の生産がとても盛んなのだそう。
20分ほど揺られたところで、f-Bizの事務所がある図書館に到着した。
建物に入ってすぐ左手にf-Bizを見つけて、中に入る。
こちらでまず、センター長の小出さんに話を聞くことに。
週末をメインに、全国各地のBizセンターを訪問している小出さん。f-Bizにいる日は相談の予約でびっしり埋まっているそう。
「中小企業や小規模事業者一人ひとりを、ビジネス面から全力でサポートする。地域で頑張る元気なチャレンジャーを生み出して、地域を変えていくのがこのBizモデルで」
「その原点が、まさにここf-Bizなわけです」
2008年、中小企業や起業家の支援を目的に富士市が開設したf-Biz。
売上を上げたいけれど方法が分からないという中小企業や、個人事業主の人たちと同じ目線になって徹底的に考える。
そうして本人もまだ気付いていないセールスポイントを見つけ出し、お金をかけずに売上アップにつながる具体的な提案をするのがf-Biz流だ。
今では毎日およそ17件、月に370件もの相談が寄せられていて、 “行列のできる相談所”と呼ばれるまでになった。
具体的な事例をもとに、相談の一連の流れを教えてもらう。
「たとえば」と小出さんが挙げたのは、創業114年の老舗和洋菓子店「もちのき」。
競合店の台頭や、クオリティの高いコンビニスイーツの増加、さらにお取り寄せスイーツの普及で、全国の有名店まで競争相手となってしまった。厳しい経営状況をなんとかしたい、とやってきたのだそう。
まず小出さんたちアドバイザーは、じっくり話を聞いてポイントを整理していく。
「そもそも100年以上続くからには、味はおいしいに決まっているんです。問題は、そのおいしさが地域の消費者に伝わっていないことだけ。おいしさに気づいてもらえればお客さんは戻ってくると、こう考えたんですよ」
あるとき目をつけたのが、当時大きなトレンドとなっていたインスタ映え。
なかでもフルーツサンドは人気で、カットした断面がきれいでおいしそうだという“萌え断”という言葉も生まれていた。
「既存のお客さんだけを対象にすると、どうしても価格競争になる。でも、おいしくてインスタ映えする商品があったらどうでしょう。若い世代にアプローチできますよね」
インスタ映えで、何かできないだろうか。
そう小出さんが投げかけたところ、こんな返事が返ってきた。
「そういえば、地域のイベント限定で出している商品があると。どら焼きの皮を使ったクレープで、人気商品なんだよねとおっしゃるわけです」
「それはいいね!って。そうして提案したのが、和菓子と洋菓子、どちらも高い技術を持つもちのきさんならではのフルーツサンド。どら焼きの皮を使ったどらサンドです」
商品の完成後はIT分野に長けたマーケティングアドバイザーがSNSでの発信をサポート。f-Bizもニュースリリースを発表して、新聞やテレビなどで取り上げてもらった。
いざ商品が店頭に並ぶと、連日完売。さらに隣の静岡市の松坂屋百貨店に2日間限定で出品したところ、両日とも数時間で完売するなど、1年間で2万個を売り上げる人気商品となった。
「もちのきさん、こう言ってくれたんです。『百年以上看板商品がなかったけど、はじめてできた。どらサンドです』って」
「次は元号の変わり目を祝うケーキをつくるって、すぐに試作を持ってきてくれて。もう何が一番うれしいって、もちのきさんが『まだまだやれる、楽しい』って前のめりになったこと。チャレンジャーに生まれ変わったことだよね」
f-Bizが目指すのは事業の成功だけではない。相談を通じて、その人の人生を幸福にしたいと、小出さんは何度も繰り返す。
「ぼくらは、相談を受けたその瞬間に、その人の人生を預かっているんですよ」
「だからもう絶対に手を抜いてはいけないんです。そしてそれは、ぼくらアドバイザーだけでは絶対に達成できない。チームf-Bizだからこそできるんです」
チームf-Biz。
「そう。アドバイザーもバックオフィスも、ここに集まる全員ですよ。サッカーで言えば、全員攻撃、全員守備。チーム全員が同じ思いで走り切って、はじめて成果が出る。ぼくはそう確信しているんです」
そう言って小出さんが紹介してくれたのが、事務局長の津田さん。立ち上げから現在に至るまで、バックオフィスからf-Bizを支えてきた方です。
「ざっくりと言うと、わたしの仕事はf-Bizの裏方ですね。小出たちアドバイザーが、目の前の相談者さんに集中できるようにチームを運営しています」
バックオフィスの仕事は、相談対応以外のあらゆる業務。受付業務や電話対応はもちろん、相談内容の管理や日々の情報発信などを一手に担っている。
現在、バックオフィスで働くのは女性6人。
今後、よりきめ細やかなサポートをしていけるように、今回は相談案件を管理するスタッフを募集したいそう。
業務のメインは、アドバイザーが相談内容と提案をまとめた“カルテ”と呼ばれる紙の記録を読み込んで、重要なポイントを抜き出してまとめていく仕事。
ピックアップするデータは、「売上につながった」「新たな販路ができた」など、具体的な成果や結果に結びついたところ。
ときには、アドバイザーが呟いていた『ちょっと旦那さんが体調を崩しているらしい』といった些細だけれど気がかりな情報も残すようにしているという。
こうして端的なデータと文章にまとめることで、相談者の現状を正確に把握したり、f-Biz全体の成果を測ったりできる。
「単純なデータ入力の仕事だと思われることがよくあります。でもスタッフにはけっこう高度なことを求めていると思っていて」
どういうことでしょう?
「たとえば以前、小さなレストランの経営者さんが相談予約の電話をしてきました。近所の会社の社員さんがよく食べに来てくれていたけど、今度その会社が地域から撤退する。でも地域の人がそんなに来るような店ではないからどうしようって」
「これを聞いて何をイメージするか。『経営はどうなっちゃうんだろう』『アルバイトの子たちはどうするのかな』ってイメージできるかどうかで、仕事の密度は相当変わってくると思うんですよ」
仕事の密度。
「f-Bizにやってくるのは、様々な悩みをかかえた方たちです。へえ、大変だなってパパっと対応して終わるか、気になる案件があればアドバイザーに『このあとどう支援していきましょうか』と方針を確認したり、相談者さんに『その後、どうですか?』と電話を一本かけたりできるか」
「私たちの気づきやアクション一つで、フォローの質や相談者さんのモチベーション、ひいては結果が大きく変わってくるんです」
案件管理というと、平坦な事務作業を想像しがち。でも実際は、同じ相談内容は一つとしてないし、相談者が100人いたら100通りの対応がある。
日ごろの電話やカルテなどから相談者一人ひとりの置かれた状況をイメージして、自分なりに行動していく。そんな能動的な姿勢が、ここでは求められているのだと思う。
「案件の数は膨大です。でも、どの案件の後ろも、悩んだり頑張ったりしている人がいます。相手の状況をイメージできてはじめて、本当の意味で伴走できると思うんです」
現在、マネージャーとして案件管理を担当している勝亦(かつまた)さんは、まさにそんなふうに働いている方。
「この仕事はハローワークで知って。一般事務だと思って入ったんですけど、想像よりもっと深くて、広い仕事でした」
「ただデータ入力しておしまい、じゃなくて。カルテを一件ずつ読み込んで、過去のデータも見ながら自分なりに落とし込む。気づいたことがあればアドバイザーたちに積極的に働きかけていくんです」
この方は情報発信のアドバイスが続いているから、一度営業の仕方について提案できるアドバイザーに会ってもらうのはどうか。この会社は最近来ていなくて心配だから、一本電話をかけてもらおう。
案件管理スタッフは、一歩引いたところで全体像を冷静に見渡せる立場だからこそ、気づけることもあるのだと思う。
「個々のデータの統計をとって、f-Biz全体の傾向を掴むのも仕事です。アドバイザーのキャンセル待ちを希望する方のために受付管理の仕方を変えようとか、去年のこの時期より新商品開発の実現数が少ないから、アドバイザーにペースを上げてもらうとか」
今では、より多くの人にf-Bizを活用してもらうための相談企画も立てているのだとか。
たとえば昨年の秋には、市内の製造業者をターゲットに、アドバイザーが直接工場に出張して相談にのる企画を打ち出した。
「製造業の相談が一時期落ち込んでいたときに、アドバイザーと一緒に考えた案で。センター長に伝えたら『じゃあ、あなたがチラシつくってみなよ』と」
「そんなのつくったことない!なんて言いながらも自分なりに案を考えて。お昼休みの時間にアドバイザーたちに見てもらって、赤ペンで返されて…と繰り返して、なんとか完成させました」
企画に応募してくれた企業への訪問には、勝亦さんも同行。アドバイザーと相談者のやり取りを目の前で見ることができた。
「製造業は結果が出るまで長期戦だし、自分の会社には強みなんかないって考える方もいて。でもf-Bizがお手伝いできれば、絶対にその会社はいい方向に進めると思うんです」
「だから本当に、一人でも多くの人にここを使ってほしくて。そのために、自分にしかできないことがある気がする。わたしもちゃんとチームの一員なんだって、強く思えるんですよね」
f-Bizで経験を積むことは、その人自身の引き出しを増やすことになるだろうし、いつか次のステップを考える際にもきっと役立つと思う。
たとえ小さくとも必死で頑張る人たちのために、自分の力を使いたい。
そう真剣に考えられる人にとって、大きなきっかけになる場所だと思います。
(2019/3/27 取材、2019/8/1 更新 遠藤真利奈)