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その人生経験、かいます
生まれ変わる旅館と
わたしの時間

私、実はおばあちゃん子で。

実は、地元が山奥で山菜や野草に詳しいんです。

実は、縁日の金魚をすごく大きく育てたことがあって…。

誰もが持っているけど、採用面接の第一声ではたぶん言わない「実は…」の部分。

そんな、その人ならではの人生経験にこそ注目したいと話すのは、喜代多旅館・女将の濱井憲子さん。

喜代多旅館は昭和24年に創業した富山の駅前旅館。この秋のリニューアルオープンにあたり、フロントなどの事務を中心に担当する人を募集します。

6時間勤務を基本としたシフトなので、介護や子育て、フリーランスなど、仕事以外に「自分の時間」を必要としている人でも働きやすい環境です。さまざまな人が訪れる旅館だからこそ、スタッフが「自分の時間」に経験してきたことが宿の運営にも活きてくる。

ちょっとおもしろい視点で人を見る、女将の濱井さん。ここで、その人となりを感じてみてください。



富山駅から市電に乗って10分ほど。「荒町」という停留所の周りには、証券会社のオフィスビルなどがある。一本筋を入ると、小料理屋やスナックが点在している。

なんとなく、夜の賑わいが想像できる町。

喜代多旅館の看板を見つけて近づいてみると、そこはまだ工事中だった。隣のビルにある工事準備室に移動して話を聞く。

まずは、3代目女将の濱井憲子さん。話す言葉は淡々としているのだけど、最初にお会いしたときからどことなく温かみを感じさせてくれる方。

以前は公務員として働いていた濱井さん。家業の旅館に関わることを決めたのは、お母さんが亡くなった10年ほど前のこと。

「最初は遺された父一人では大変だから、とりあえず行くっていう感じで。私も継ぐ気満々っていう感じではなかったんですよ」

「施設が古いっていうことに加えて、Webの予約システムがうまく生かせていないなど、営業面でも課題がたくさんあって。入ってしばらくはただクレームを減らすことに専念していました」

もともと濱井さんのおばあさんが、昭和24年に始めた喜代多旅館。

ビジネスホテルが普及する以前、喜代多旅館のような都市部の旅館はまちの商人宿と呼ばれ、出張のときに利用する会社ごとの定宿のような存在だった。

県外から営業マンが出張で泊まりに来たり、大広間では地元の企業が宴会をしていたり。富山のまちなかの旅館として賑わっていた。

「最近はビジネスホテルや安い居酒屋が増えて、どっちの需要も減っていた。旅館を継ぐって決めたときもみんなに止められましたね。でも私はこの旅館っていう業態が好きで。親戚みんなに本気なんだ!っていうことを見せたくて、仕事を辞めて女将になったんです」

子どものころから旅館の仕事を手伝いながら育ってきた濱井さん。

旅館で働く大変さは知っているはずなのに、なぜ今またこの仕事をやろうと思ったんだろう。

「旅館って楽しいんです。普段は全然縁のない海外の人とかでも、素の顔が見られたりしてね。パーティとか交流の場で会うのとは違うんですよ。たとえば…オレンジの皮の剥き方とか、ゆで卵の割り方とか普段わかんないじゃないですか」

たしかに旅館って、お風呂や食事場所などが共用だから、自分の部屋以外で過ごす時間も結構ある。

自販機の前にソファが置いてあって、何もない通路みたいな場所なのに長居してしまったりして。

「あるお客さんに『旅館はフラフラできるからいい』って言われたことがあって。ほかのお客さんと顔を合わせるのが嫌だっていう人もいると思うんですけど、私はいいと思う。だから今回のリニューアルでも共用の部分をなくしたくなかったんです」

今回入る人は、フロント業務や予約管理などいわゆる「帳場まわり」の業務を中心に担っていく。

チェックアウト後の定期清掃などは別の担当者を雇う予定だけど、シフト時間帯に簡単な清掃やお風呂のチェック、客室準備など、一部体を動かす業務も行うことになりそう。

大きなホテルと違って、業務管理システムが整っているわけではないので、ときにはExcelを使って補ったり、海外からの問い合わせに簡単な英文メールを返信したり、という作業もある。

だから、観光や宿泊業の経験よりも、中小企業での事務経験などのほうが役に立つかもしれないと濱井さんは言う。

「あとね、旅館ってゲストハウスとちょっと違うんですよ。交流が目的の場ではないから、あんまり『会話の達人』みたいな感じじゃなくていい。それより、お客さんがどんな情報を必要としているのか、ちゃんと見たり聞いたりできるほうが大切なんです」

たとえば、同じ目的地を目指す人でも、そこまでのルートや前後の予定が違えば最適な案内は変わってくる。

“観光目的のお客さん”としてマニュアルどおりに接するのではなく、一人ひとりの違いや様子に気付ける視点が必要なのかもしれない。

「昔の旅館って、廊下で仲居さんとすれ違うたびに『あそこがいいですよ』とか『夕食何時にしますか』とか声をかけられる。もちろんそれは仲居さんとしては優秀な仕事ぶりだけど、お客さんは休みたいのに、会うたびに質問されて大変じゃないですか。そういう今までの『いい接客』というのを一度置いてみたくて」

たまに実家に帰ったときのお母さんみたいですね。すごい予定を聞いてくるっていう。

「ふふふ。そうそう(笑)」

濱井さんと話していると、いつの間にか力が抜けて、私もつい冗談を言いたい気持ちになってくる。

「もちろん、観光のことも交通のことも、聞かれたらちゃんと答えられる用意や予習は大切なんですけどね。だから、いつも目配りだけはしておいて、お客さんに助けが必要になったときだけちゃんと関われるのがいいんです」

たとえば、高齢のお客さんだからといってすぐに介助に向かうのではなく、なるべくその人が自由に行動できるように見守りたい。

誰もが自分のペースで過ごせる空間にしたいと、今回のリニューアルではバリアフリーにこだわった。

「ただ、それを売りにしたくはなくて。たまに遠出をするのに、娘から『お母さん、高齢者向けの部屋とっといたよ』って言われたら嫌でしょう。私だったら『拒否!』ですね(笑)。むやみに高齢者扱いせず、一人ひとりを分け隔てなく尊重したいから」

今回、新しく入る人の勤務時間を1日6時間に設定しているのは、介護や子育てなどと両立しながら、仕事でもその経験を生かす機会にしてほしいという思いがあるから。

観光業界でのキャリアと同じくらい、私生活でのキャリアも買いたいと濱井さんは言う。

朝・夜どちらのシフトでも6時間勤務で、日中は自分の時間になる。フリーランスで別に仕事を持っている人、家でものづくりなどをしている人もよさそう。

「いいですねえ。この仕事は何が役に立つかわからないし、逆に一人の能力や経験では全部をカバーできないから、いろんな人がいたほうがいいんですよ」

「働くのが久しぶりだという主婦の人には、地元の通りやすい道を教えてほしいし、アニメが好きな子だったら、どんな聖地があるの?って聞いてみたい。スタッフの人生経験が沢山あると、旅館としての『準備』が細やかに整っていくと思うんです」



マニュアルだけでなく、その人の視点や経験が生きる宿。

今回のリニューアルプロジェクトをプロデュースしてきたグリーンノートレーベル株式会社の明石さんにも話を聞かせてもらった。

10年ほど前から、富山県西部を拠点にまちづくりに取り組んできた明石さん。濱井さんに初めて会ったのは3年ほど前のこと。

施設は当時、数百万規模の修繕が必要な状態だった。

手当てだけして運営するより、いっそ一から宿のあり方を見直したい。知人を介して紹介された濱井さんから、そんな相談を受けたのだそう。

「当初はとにかく大変そうだなという印象でしたね。資金調達の相談とかからはじめて、一時は新築に建て替えっていう話もあったんですけど、古い建物を生かすのがおもしろいんじゃないかっていう気持ちになってきて」

事務室から移動して、内装工事中の現場を見せてもらう。

ところどころ、古い部材が残っている。柱や欄間、扉などの一部はリニューアル後の内装に生かされるのだそう。

何気ない階段の手すりや、廊下の感じ、木工の細工、タイルの味わい。どこにでもありそうで、今はあまり見かけなくなった昭和のモダンな和室の雰囲気。建築が好きな人なら、きっと見どころを沢山発見できると思う。

「濱井さんも言うように、旅館って共用の部分が大事だと思っていて。廊下やロビーでちょっと立ち止まれるカウンターとかをつくろうと思っています」

「別に動的な交流を仕掛けるためではなくて、スマホを充電しながらお風呂あがりに誰かを待つ人が何人か一緒にいるみたいな。そこにいる理由をつくるっていう感じですね」

旅館ならではの時間と、空間のシェア意識。その味わいは残しながら、海外からのお客さんや今までとは違うスタイルでグループ旅行を楽しむ人など、新しいニーズにも対応出来るよう、24時間シャワーやユニバーサルルームなど、施設の間取りを考えてきた。



今回のリニューアルでは、旅館のなかに新しくレストランもできる。

今は射水市でビストロのシェフをしている林さんが、ここに拠点を移し、宿泊客や地元のお客さんに料理の腕をふるう。

「地元の方がランチやディナーを楽しめるお店であることはもちろん、旅館に関わるからには朝ごはんにも力を入れたいですね。宿泊して朝食を食べて、元気になって帰っていただけたらいいなと思っています」

もともとはホテルのレストランで、パンやデザートの担当として料理のキャリアをスタートした林さん。新しいキッチンにも、製菓製パンの専用スペースがあるのだそう。

パンの焼ける匂いが旅館の新しい朝の時間になっていくのかな。

つくりかけの空間を前に、“ここにテーブルを置いて、こっちが厨房で…”とみんなでシミュレーションをしてみる。

濱井さんは別れ際、こんな冗談を言っていた。

「どんな人が一緒に働くことになるんだろう。私がリーダーで、さらに個性がある人が来たら、なんか変な劇団みたいになりそうですね(笑)」

老朽化した旅館の再生というプロジェクト。私が想像するよりもずっと、濱井さんには大きな決意が必要だったと思うし、本当は社長として女将として引っ張っていくプレッシャーも感じているはず。

ただ、その飄々としたお人柄を見ていると、ワンマンな感じとかじゃなさそうだな…と、あらためて親しみを感じる。

またいつかお茶でも飲みながら、今度はもっとゆっくり身の上話を聞いてみたい。そう思わせてくれるような女将さんでした。

(2019/7/22 取材 高橋佑香子)

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