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朝、座ってコーヒーを飲んだ道端のベンチ。休日に子どもたちが遊んでいる公園のすべり台。はじめて訪れるまちで眺めた案内板。普段の生活で意識することは少ないけれど、公共空間のなかにはそれぞれの人の時間に寄り添うものがたくさんある。
今回紹介するのは、そんな風景の一部をつくる仕事です。
公園の遊具や街中のベンチ、駅前の案内板など、公共空間で使われるさまざまなものを生み出しているのが、株式会社コトブキ。
ストリートファニチャーや遊具などの商品を企画する開発担当と、マーケティング分析し、社内外へ発信する広報活動やカタログ・Webの制作などを行う広報担当を募集します。
梅雨が明け、夏らしい空がのぞく日。浜松町駅を出て、JRの高架沿いに5分ほど歩くとコトブキの本社ビルに到着。
インターホンを押し、広報の方に案内してもらって大きなスタジオのような部屋へ。入った瞬間、カラフルな遊具が目に飛び込んでくる。
これは「プレイポートワンダー」というシリーズの遊具。すべり台や階段の形にはいくつものバリエーションがあり、公園の雰囲気や設置場所の大きさによって柔軟にカスタマイズできるそう。
遊具になつかしさを感じながら、最初に話を聞いたのは代表の深澤さん。明るく気さくな雰囲気で話してくれる方。
コトブキは1916年に創業し、イスを中心としたメーカーとして成長してきた。
1925年に東京大学の安田講堂ができたときには、当時まだ珍しかった、鋳物と木を組み合わせたイスを開発して納入するなど、業界のなかでも最先端の技術を使ったものづくりをしてきたそう。
そのなかで大きな転機となったのが、1970年に開催された大阪万博。
当時の最先端素材だったFRP(繊維強化プラスチック)を使用したベンチやイスを万博会場に納入。また、その技術は太陽の塔正面の顔部分の制作にも活かされた。
「大阪万博では、約2万人分のベンチを納入しました。10年以上は使い続けることができる素材なので、万博が終わったあと、いろいろな場所に払い下げられて使われるようになって。その使い勝手が評価されたことで、ベンチの事業が広がっていったんです」
ベンチの事業の拡大をきっかけに、テーブルや車止めといった公共空間で使われるストリートファニチャーのほか、案内板や標識などのコミュニティサインも手がけるように。
イスから始まったものづくりは、公共空間を形成するさまざまなものづくりへと広がっていった。
「公共空間で使われるものを扱っているので、慈善事業みたいなイメージをコトブキに対して持たれることも多いんです。でもそうではなくて、ロマンとそろばんの帳尻を合わせることが大切だと思っていて」
ロマンとそろばん、ですか。
「社会で役立つものをつくるっていう満足感とか楽しさの部分は大事にしながら、どれだけコストを落として売り上げを見込めるのかっていう、数字の部分もシビアに求める。そのどちらも真剣に考えることで成長してきた会社なんです」
社会に求められる製品をつくるためには、インパクトのある企画力がいる一方で、新しい挑戦をするための経営基盤も必要になる。
技術だけでなく、経営感覚と遊びごころのバランスを保ってきたからこそ、コトブキは広く世の中に自社製品を送り出すことができている。
「満足できる製品をつくろうという意識も大事にしたいけど、数字の上での成果もガツガツ求めていこう、みたいな。健全にガツガツ仕事をしたいという人が、うちには合っているんじゃないかな」
楽しそうに、熱の込もった言葉で話す深澤さん。その想いは、実際にものづくりに関わっている人にも伝わっている。
次に話を聞いたのが、遊具全般をつくるプレイグラウンド事業部の事業部長を務めている北村さん。
「コトブキでつくっているものって、10年とか20年という長い期間、公園や街中で人の目に触れ続けるものなんですよ。だから年月が経ったときにも、『あれ私がつくったんだよ』ってみんなに自慢できるのがいいなと思って(笑)」
たしかに、まちの風景の一部をつくっていく仕事って、なんだか誇らしいですよね。
「そうそう。駅のホームにあるベンチとか、公園や商業施設にある遊具とか、その場所の顔になるようなものが多いんです。自分がつくった遊具で自分の子どもが遊んでくれたときとかなんかは、本当にうれしいし誇らしい気持ちになりますね」
小さいころから当たり前のように親しんできた公園の遊具。どんなふうにして生み出されているんだろう。
「まずは製品の起案から始まります。社会課題のような大きな枠から考えたり、全国の営業さんからの要望だったり。私たち自身の、『こういうのあったらおもしろいよね』っていうアイデアから始まることもありますね」
企画がまとまったら費用対効果を算出して、社内でプレゼンテーション。無事に通れば、晴れて開発がスタートする。
その後はデザインを詰め、設計担当者に図面を起こしてもらい、いよいよ試作へ。すべてを自社工場で製造しているわけではないので、コストや生産能力を検討して、協力会社のなかでどこに依頼するかを決めていく。
製品としてリリースできる見通しがついたら、広報担当と一緒にカタログ掲載の準備にも関わるそう。
今回は、その広報担当も同時に募集する。各事業部と連携しながらカタログのコンセプトを考えたり、一般の人にもコトブキを知ってもらう活動を企画したり。
どうすれば製品の魅力やデザイナーの思いが伝わるか、クリエイティブな視点を持って考えていく。
「実は、このカタログの写真に写っているのは、社員の子どもが多くて。私の子どもも写っているんです。それが社内のちょっとした楽しみだったりするんですよね(笑)」
子どもが楽しんで使ってくれるものをつくるというのは、すごくやりがいのある仕事だと思う。
一方で、遊具だからこその大変さもあると北村さんは言う。
「特に遊具はきびしい安全基準があるので、製作に時間がかかるんです。子どもって、大人が想像できない動きをするので、原寸大の試作品をつくってみて、しっかり検証することが大切になってきます」
そのうえで、安全性だけに寄りすぎないことも遊具にとっては大切なこと。どんなことをすると危険で、どこまで大丈夫なのか。子どもたち自身が、遊びのなかで判断する機会をつくることも、遊具の大切な役割のひとつだという。
「たとえば…」と北村さんが話してくれたのが、すぐ後ろに見本として設置してあったすべり台。
三又に分かれている形が特徴的なこのすべり台。子どもにとって遊びごたえのあるものにしたいと考えた製品だそう。
「途中で三つに分かれている部分に子どもが激突して危ないんじゃないかっていう意見が多かったんです。でも、自分がどこにすべり込むかを選べるっていうところが、子どもにとってはおもしろいんじゃないかと思って」
「登ってみてもらうと、その感覚が少しわかるかもしれません」と北村さん。階段を登って、上に座ってみる。
「右はちょっとカーブがきつそう…」とか、「真ん中が行きやすいかな」とか。どこにどうやってすべり込もうかと考える時間も楽しいですね。
「小学生くらいの子どもだと、直感的に選んですべっていきます。大人が『あぶない!』と気を回す以上に、子どもっていろいろなことをクリアしていくし、それを楽しんでいるんですよね」
子どもの素直な反応は、仕事のやりがいにもつながっている。
「遊具って、子どもが本気で歓声をあげてまっしぐらに向かっていくんですよ。ものすごい勢いで遊んでくれて、『ありがとう!』とか、『おもしろいよ!』って言ってくれたりして」
「仕事がいそがしいときはヘトヘトになることもありますけど、そんな子どもの声を聞いたら魂が浄化されるというか…。つらかったことがスカッと抜けて、しあわせな気持ちになる。そういう意味で、わかりやすくやりがいのある仕事ですね」
最後に話を聞いたのは、ベンチなどをつくるファニチャー事業部の上地(うえち)さん。コトブキに入社する前はゼネコンで建築の仕事をしていたそう。
もともと家具が好きだったこともあり、ものづくりもできるコトブキに入社。
ファニチャー事業部では、街中にあるベンチやシェルターなど、ストリートファニチャーと呼ばれる製品の企画に携わっている。
なんとJR東日本とJR東海の駅のホームにあるベンチにも、コトブキがつくったものがあるのだそう。
「JR以外にも、相鉄線のベンチの入れ替えもしました。今は東京オリンピックに向けて地下鉄ホームのベンチの入れ替えを進めています。遊具みたいに歓声があがるものではないですが、たくさんの人が使ってくれているのを見ると、この仕事をやっていてよかったなって思いますね」
すると、「そういえば…」と先ほどの北村さん。
「少し前に新大阪駅のベンチを補修するという話を営業担当から聞いたんです。そのベンチで覚えているのが、学生時代にコトブキの面接を受けに東京へ行った帰りのことで。新幹線のドアがプシューって開いたときに目の前にあったのが、コトブキのベンチだったんですよ」
「ああ、コトブキのベンチってこんなところにもあるんだ、って感慨深くて。20年くらい前に見たそのベンチが今もずっと使われているって、すごいことだと思うんです。まちの風景をつくる大切な要素になっているし、つくる側として絶対に妥協したデザインにはしたくないというのは、常に思っていますね」
多くの人が使うものだからこそ、いろいろな意見が出てくる。一つひとつを謙虚に受け止める素直さも、これでいくんだと決めるタフさも必要になる。
大変なこともあるけれど、自分が関わったものが世に出て、日常の風景に溶け込んでいくことが目に見える仕事って、すごくやりがいがあるだろうな。
100年以上にわたって、コトブキがその想いを実現し続けてこれたのは、コストや安全性などを多面的に考えられる経営体質があったから。
健全にガツガツと。
いつものまちの風景をつくってくれているのは、ロマンとそろばんを兼ね備え、いつまでも子どもの遊びごころを忘れない人たちでした。
(2019/7/26 取材 稲本琢仙)